予期せぬ成功は、自らの事業と技術と市場の定義について、いかなる変更が必要かを自らに問うことを強いる。それらの問いに答えたときに始めて、予期せぬ成功が最もリスクが小さく、しかも最も成果が大きいイノベーションの機会となってくれる。
デュポンは130年間自らを火薬メーカーと規定していた。しかし1920年代の初頭、始めて他の分野に進出すべく組織的な開発研究に取り組むこととした。その一つに第一次世界大戦中にドイツが突破口を開いたポリマーの開発があった。だがデュポンは何年もの間いっこうにに成果を上げることができなかった。
しかし1928年のある週末、研究助手の一人がバーナーの火を消し忘れたところ、翌週月曜の朝、化学者ウォレス・H・カロザースが繊維状に凝結したポリマーを見つけた。デュポンがナイロンの製造方法を発表したのはその10年後だった。
この話のポイントは、ドイツの大手化学品メーカでもこれと同じ出来事が既に何度も起こっていたというところにある。彼らはデュポンより１０年早くポリマーとともに科学産業界のトップの地位を手にすることができたはずだった。
しかし開発研究を組織的に進めていなかった彼らは、たまたま繊維状に凝結したものを洗い流し、初めから実験をやり直すことを繰り返していた。(p26)
デュポンのケースで「予期せぬ成功」は、ポリマーを見つけたところです。ドラッカーが注目したのは、この話のポイントとして触れられているように、ドイツのメーカでも同じ実験をしていて何度も同じ現象を目にしていたのに、成功だと気がつかなかったことです。
ドラッカーには不思議でもないので取り上げていないのでしょうが、私は時間軸の長さに驚きました。
組織的な研究を始めてから偶然の発見（予期せぬ成功）にいたるまでに数年を要し、その予期せぬ成功からイノベーションを起こすまでさらに１０年という年月が流れています。
イノベーションというとあっという間に世の中の常識を変えてしまうというイメージがあるので、もっと時間のかかる息の長い活動に支えられてできるものなんだという認識もしておくべきなのだと思います。
It forces us to ask, What basic changes are now appropriate for this organization in the way it defines its business? Its technology? Its markets? If these questions are faced up to, then the unexpected success is likely to open up the most rewarding and least risky of all innovative opportunities.
DuPont, for 130 years, had confined itself to making munitions and explosives. In the mid-1920s it then organized its first research efforts in other areas, one of them the brand-new field of polymer chemistry, which the Germans had pioneered during World War I. For several years there were no results at all.
Then, in 1928, an assistant left a burner on over the weekend. On Monday morning, Wallace H. Carothers, the chemist in charge, found that the stuff in the kettle had congealed into fibers. It took another ten years before DuPont found out how to make Nylon intentionally.
The point of the story is, however, that the same accident had occurred several times in the laboratories of the big German chemical companies with the same results, and much earlier. The Germans were, of course, looking for a polymerized fiber—and they could have had it, along with world leadership in the chemical industry, ten years before DuPont had Nylon.
But because they had not planned the experiment, they dismissed its results, poured out the accidentally produced fibers, and started all over again.
2014/2/25