顕微鏡撮影

顕微鏡撮影

マクロ撮影の極みは顕微鏡による接写です。普通の光学式顕微鏡でも良質の接眼レンズを選び対象に即した照明を用いると百倍以上の拡大率でも綺麗な写真を取ることが可能です。

顕微鏡撮影の基本システム。低倍率で無理やり岩石の鉱物観察をしている。結晶の大きさを測るためハーフミラーで目盛りゲージを対象に投影しているが、右のようなX-Yテーブルの移動量を測るほうが楽だ


ただし被写界深度が著しく狭いため、わずかでも奥行きのある対象を鮮明に撮影するには焦点を僅かずつずらせて撮影した画像をソフト的に合成するより方法がなく、合成ソフトを使わずにPhotoshopなどでやる場合は根気と時間が必要になります。


岩石薄片の撮影

私は地質学上の興味から岩石の採集をよく行い、そこに含まれる鉱物を同定するために岩石の薄片標本を作って偏光顕微鏡で観察しますが当然それを記録するために薄片撮影を行います。

岩石薄片の偏光観察は、岩石に含まれる鉱物の分子配列に基づく微細構造を色彩の変化によって観察することを可能にする技術で、単に鉱物学的観察以前に、鉱物分子の幾何学配列が示す美しさから私たち素人の観賞用としても素晴らしい世界を見せてくれます。

下部照明の前と対物レンズローレットの上部に偏光板を組み込んだ改造偏光顕微鏡

上部の偏光板は差し込み式でPPLとXPLを切り替え光路に挿入する


偏光顕微鏡はNikonの双眼顕微鏡にカメラ用の偏光板を組み込んだだけのもので正確な観察には向きませんが趣味で楽しむには十分な機能があります。撮影するには接眼鏡筒とは独立した撮影用の鏡筒にカメラを取付けて行います。

岩石の薄片観察は、岩石中に含まれる結晶の光学的構造の微妙な差異を光の偏光色の違いによって観察するもので、偏光色は鉱物の種類に応じで決まったパターンを持っているため、見かけからは判別が困難な鉱物の同定に用いるものです。


数センチ四方に切り出したの岩石片を0.03mmの厚み迄研磨する岩石薄片の製作は手間と技能の必要な作業で失敗も多いのですが私は現在300枚ほどの岩石薄片を製作し所持しています。

様々な色彩が出るXPL(直交させた偏光板による観察)の岩石薄片の写真を何例か上げておきます。

以上2枚は砂泥質岩源の変成岩。源岩中の鉱物が変成作用によって再結晶化している

以上3枚は石灰質岩源変成岩 スカルン化作用は方解石・硅灰石・輝石・角閃石・ベスブ石等様々な鉱物を生む

上の枚も石灰質岩源変成岩 殆ど方解石からなる部分で現代アートを思わせる

石灰質岩源変成岩 方解石・硅灰石・柘榴石など。鉱物の結晶構造が作り出す繊細な幾何学的構図は壁画やステンドグラスにも負けない

当然岩石の種類が変わればその中に含まれる鉱物も一変し、その結晶構造も大きく変化します。以下は塩基性岩源変成岩で、これらの石はどれも近所の河川の河原で拾ってきたありふれたものです。

塩基性岩(多分玄武岩)源変成岩で緑色岩と呼ばれるもの。再結晶した緑泥石・斜長石・角閃石の集合

塩基性岩(多分玄武岩)源変成岩・緑色岩。中央は角閃石、ほかに斜長石・楔石など

塩基性岩(多分玄武岩)源変成岩中の緑簾石集合部分

生物の生体組織の様な網状構造を示す蛇紋岩薄片

両雲母花崗岩。雲母の大半は白雲母で美しい干渉色を見せる、花崗岩が強い熱変成を受けて再構成されたような石

黒雲母花崗岩。ゆっくりと固まった石で結晶が大きく、この部分はほとんどが黒雲母

斑状トーナル岩。花崗岩の仲間だが長石は殆どが縦縞模様の斜長石。優黒鉱物は黒雲母と少しの角閃石

黒雲母花崗閃緑岩 岩石の名前は、その中に含まれる鉱物の種類と量比によって命名されるのだけれど、私の場合は大抵、採集地点の地質図に記載された名前をなぞっているから時にはかなり実体と合わないこともある


これらの標本の源岩から切片、薄片に至る過程は次のようなものです。右上が源岩でその下が切り出した切片 左上がスライドに張り付けて0.03mmに研磨した薄片.その下が偏光写真となります。

鈴鹿花崗閃緑岩の薄片に至る過程

こちらも鈴鹿花崗閃緑岩の薄片に至る過程。結晶の粒度が大きく変成作用が強そう


薄片撮影は薄片自体が0.03mmの厚みしかありませんので顕微鏡で接写しても画面全体に正確にフォーカスを決めることができます。

しかし通常の顕微鏡撮影の際には画角一杯でも数mmにしかならないので対象に僅かでも凹凸があると画面全体に正確にフォーカスすることが困難になります。