超高倍率ズームカメラ

超高倍率ズームのコンパクトカメラへ

2010年頃より、各メーカーが競って性能向上を図っていた超高倍率ズームを持ったコンパクトカメラが十分実用になることが分かってきました

当時主要なカメラメーカーは皆この分野に最新機種を投入しておりましたが、人に訪ねたり試してみたりして結局FUJIFILMが出していたFinepix S1と云う50倍ズームの機種を購入しました。

FUJIFILM渾身の高倍率ズーム Finepix S1 望遠側の画質の良さは驚異に思えた。現在は同機の2台目(左)だがすでに市販されておらずカメラ市場が縮小して後継機もない

センサーはコンパクトカメラの1/2.3型と小さいが、標準換算24mm-1200mm f2.8-5.6のFUJINON LENSを搭載し、広角から望遠端まで驚嘆すべき明るさを持ちながらEOS kissよりも小振りな筐体で正直使ってみるまでその真価がわかりませんでした。

ネットでキタムラから送られてきた次の日に持って出てあちこち歩き回り目につくものを撮影して自宅のPCで画像を確認しその画質の良いことに惚れ惚れしてしまいました。


ことに望遠側の絵は、片手で持てる一眼レフサイズの機体ながら発色も解像感も私の予想以上に上質のものでした。

EF 100-400mm f4.5-5.6 とS1の大きさ比較。S1の実焦点距離はf=4.3-215mmだから画像センサーの結像は400mmのほうが2倍近く大きくなるが、撮り比べてみると解像感はあまり変わらない


EOS KissX4にアルミ筐体の重たいEF 100-400mm f4.5-5.6 を装着して撮影してもなかなか此処まで解像感の在る写真は取れないのではないか。何よりコンパクトで広角から超望遠までこなしてしまいます。

FinePix S1による望遠端の撮像能力を見るためEF 100-400mmとLEICA DG VARIO-ELMAR 100-400mmの三者で撮影画像を比較してみました。撮影条件はほぼ同じ、カメラの画質はJPEG最高画像です。

撮影日時は2月7日7時45分前後、カメラは手持ちでベランダの手すりに乗せて固定して撮影。それぞれ8枚撮影してPCで確認の上最も細部の再現性がよさそうな1枚を選んでいます。

2km以上遠方の対象を狙っているため、早朝でも気流の擾乱の影響が出て撮影条件を等しくすることが難しいため、あくまで目安として撮影しています。

まずFinePix S1による望遠端1200mm相当撮影画像で、googleのPicasa 3で100%等倍表示させたものを画面上で同じサイズで切り抜いています。S1の撮影画像サイズは4608X3456pixel

上はFinepix S1 による撮影画像の等倍拡大画像。望遠端1200mm相当でS1ではTVアンテナの素子まで解像している


次はCANON EF 100-400mm 4.5-5.6 LISをEOS Kiss X4に装着して撮影したもの。400mm望遠端では35mm換算640mmです。X4の撮影画像サイズは5184X3456pixelです。

上はEF100-400mm+EOS kissX4iによる等倍拡大画像。センサーサイズと焦点距離の相違によりフルサイズ換算では640mm相当となる


最後はOLIMPUS OM-D EM5 MK2とLEICA DG VARIO-ELMAR 100-400mmによる望遠端800mm相当の撮影画像です。撮影画像サイズは4608X3456pixelです

LEICA DG VARIO-ELMAR 100-400mmによる望遠端800mm相当の撮影画像。望遠効果が高い分EF100-400よりもアンテナ細部の解像感が高い。S1とほぼ同じ程度の解像感か


センサーサイズ22.4x15.0mmのAPS-Cに対してS1では5.9x4.4mmの1/2.3型でEOS Kissの1/4ほどの大きさしか無いから画素が小さい分暗所撮影には弱いけれど、上の写真比較でも分かるように昼間の光で撮せば望遠効果が大きい分高価な400mm望遠よりもS1のほうが細部の解像感も得られます。

望遠撮影における分解能だけを比較するならS1は価格が4倍ほどもする高額の望遠レンズにも負けません。そのコンパクトなサイズを考えれば手持ち撮影のアドバンテージは明白です。

D80Sfにマイクロフォーサーズ機をつけるとS1と同等の1200mm望遠となるがf7.5と暗いうえ機動性はゼロだ

なにより軽量で機動性に富み片手で持ち歩けます。私はこれ以降、外出の折りには散歩や登山問わず、生物の生態写真が写せる可能性があればまずこのカメラを携帯するようになり、一眼の超望遠レンズを持ち歩くのはごく限られたケースとなりました

S1を5年以上使い倒した挙げ句に時折トラブルが発生しだしたので、現在は同型機種を新しく買い足して使用しています。S1の撮影画像を凌駕する機種は私の知る限り同スペックの超望遠では存在しないでしょう。 以下にFinepix S1による撮影例をあげます

光学絞りがF11までなので、朝日や夕日などコントラストが極端にきつい条件では絞りきれずに絵が破綻してしまうケースが生じますが、レンズ交換式カメラ並みの機能を求めるのは酷な要求なのでしょう。ちなみに最後に書いたLUMIX DC-FZ85 20mm-1200mm f2.8-5.9ではF8迄です

以上FinePix S1による撮影。マクロから望遠まで光量が十分であれば素晴らしい写真が撮れる。散歩や登山の携帯用には最高のカメラだ

撮影例を見ればわかりますが、望遠端でも日射のある明るい条件であれば素晴らしく鮮明で解像度の高い写真を撮影することができます。

絞り開放で、近接撮影すればマクロレンズ並のボケが生じて遠近の表現もこなせますし、なにより開放でも解像感が良い。このカメラサイズで標準換算24mm-1200mm f2.8-5.6のレンズスペックは誠に驚異的で一眼レフのレンズ群に慣れた私には俄かに信じがたいものでした。

広角側のアドバンテージに惹かれてLUMIX DC-FZ85 20mm-1200mm f2.8-5.9 も買いましたが流石に望遠側の描写性能はS1には遠く及ばず、もっぱら広角から中望遠の手軽な撮影や動画撮影用。

確かに撮像素子が大きく、その分レンズサイズが大きくなるフルサイズカメラは星夜の撮影など光量が物を言う分野では圧倒的なアドバンテージを見せますが高価な上、昼光での撮影であればよほど画質に拘らない限り撮影画像に大差はなく機能面の優劣を考えればS1の優位は明らかです。


いかにカメラ業界が斜陽とはいえ重くて高価で取り回しに不便なフルサイズ機ばかり販売に力を注ぎ、これほど高性能のカメラでありながらさして販売が振るわず、その後の後継機もなく廃番になってしまうというのは、世界一のカメラ王国を誇るこの国のカメラ文化もはなはだ底の浅い怪しげなものだと思えてしまう昨今です。