風景を撮る・鈴鹿の山の魅力


時間と空間の記録

常日頃カメラを持ち歩くことが趣味の人間にとって、その被写体の多くが身の回りの風景となるのはごく自然のことです。毎日見慣れている景色でも、時間と共に少しずつ変化して行きますから、何気ない日常の風景を捉えた写真であっても、月日が経てばその時、その場所の唯一の貴重な記録写真となります。

2012.10.30 御在所山 大黒岩よりの一の谷・北面の大岩壁の紅葉

2012.10.30 御在所山 中道のある御在所山・東陵 おばれ岩や地蔵岩など花崗岩の奇観が多い

私は毎年、春と秋には知人と連れ立って鈴鹿の山へ出かけ新緑と紅葉を楽しむことが季節の行事となっていますので、自然とその山歩きの記録を写真に残しています。一度の山行きで300~ 400枚の写真を撮るのが普通ですから今ではその数も馬鹿になりません。

そこで、これらの写真の中から気の利いたものを抜き出して鈴鹿山脈の四季折々の姿を自分なりに捉えてみました。自然の風景は場所により、季節により、天候により様々な形をとりますから、同じ場所の同じ構図の写真あっても、時には全く異なった姿で見る者を楽しませてくれます。


2013.05.04 水沢峠より見た入道ヶ岳とイワクラ尾根 薄曇り、先の御在所山頂と同じくやや逆光で撮影。空全体の柔らかな光で風景も落ち着いている

2013.09.29 雨乞岳より見た御在所山と鎌ヶ岳 大気が光を散乱するので遠景ほど色が霞み明るく写る

山の景色と言っても場所によっても山容は異なるし、天候にも左右され、四季折々で山腹、谷間、山頂では全く異なった姿を見せますから、街頭の光景を写すのと同様にその被写体も構図も色も様々に異なり多種多彩な世界です。

下の三枚は青岳の東にあるキノコ岩で写したもので、写真のタイムスタンプは2022.11.03 2020.11.11 2013.05.26 と初めの二枚が秋、三枚目が初夏のものです。季節と天候の違い、カメラの立ち位置とレンズのF値の相違などによって、それぞれ印象の異なる写真になっています

最初の写真は最も鈴鹿山系の奥行きを感じさせる一枚で、僅かな俯角をつけて全景のキノコ岩と人物を捉えることで背景の山並みの広がりをも同時に画面に収めています。

下の二枚は人物とキノコ岩中心の写真で、背景は添え物のような扱いです。殊に下の写真では遠景が霧でかすみ場所を感じさせる力を失っているのですが、その分、岩と人物が引き立っています。

悪天候を押して迄山へ登ることは少ないのですが、朝の晴れ間に気を良くして出発しても徐々に天候が悪化して晴れていたら見える景色も楽しめず、陰気な山歩きになると残念な思いを隠せないものです。しかしカメラを携えておればその時の天候にあった被写体や構図を見つけて記録することで、ある程度は落ち込みがちな気分を高めることもできます。

山中で霧や雨に見舞われると数m先の景色さえもかすんでしまって色彩の失せた灰色の世界になる。しかし普段には出会えない世界だと見直してみるとそれなりに楽しみ方も生まれる

霧や雲を効果の一つと見て、面白い風景を捉えることもできますし、背景が霞むことによって引き立てられる被写体を選ぶことも撮影の楽しみとなります。ただガスの掛かった風景では光量が乏しいうえ、光の散乱でガスや雲ばかり明るく写ってしまい、周囲の景色は暗く沈んでしまいます。

近景を明るく写そうと思うと空や背景が白飛びしてしまいどうしても風景は光が乏しく暗くなる