3:白雲母

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花崗岩類のマイカ・白雲母

これまでは専ら黒雲母を見てきましたが、次は花崗岩類に含まれる白雲母を取り上げてみます。白雲母はその晶出温度が低いのでアルカリ長石と共生することが多く、晶出温度の高い斜長石が多い閃緑岩類にはあまり含まれていません。このため加太花崗閃緑岩が主体の安濃川水系の転石中にはあまり見られないのですが、中には白雲母を含むものも存在します。

サンプルI 同じく安濃川源流部・笹子川上流、経ヶ峰登山道下のごく一部の範囲にみられた転石です。加太花崗閃緑岩の分布域ですが岩質が閃緑岩系とはことなりペグマタイト質の石です。笹子川源流部の山地は数十年前からあまり意味のわからない林道工事が続けられて山が切り崩されているので工事に伴う転石と思われます。


サンプルI この石の特徴は加太花崗閃緑岩では先ずお目にかかれない灰青色の長石巨晶を含み、点在する黒雲母に混じって部分的に大量の白雲母結晶を伴うことです。長石の一部は非常に薄いシート状の積層構造をしているものがあり、白雲母の結晶と見間違える程です。細粒の柘榴石の晶出も見られます。


サンプルI 長石や石英の結晶中には黒雲母・白雲母と共に紅色の細粒柘榴石結晶が見られます。灰青色長石はアルカリ長石、白色長石は斜長石(灰長石)とみられます。どちらも大変に新鮮で劈開面は白雲母のように光を反射します。長石の粒間には石英が存在しますが長石の20~30%程度です。

一般にマグマの冷却過程で閃緑岩や花崗閃緑岩中にマグマから直接晶出した斜長石は柱形や矩形の粒状構造を取り、この石に見られるような葉片状・鱗片状で積層構造を取るものは先ず見つかりません。柘榴石や白雲母の晶出と合わせて、本来のマグマ組成とは異なった異質岩との接触により熱水反応を通じて形成された変成岩と見るべきかもしれませんが、ペグマタイトや晶洞の形成にはその様な要素が多かれ少なかれ存在しますのであえて花崗岩類のマイカとしました。


サンプルI 白雲母は粒間に散在するものと、細・中粒の結晶が縞状に配列してまとまった集合で小さな面を埋めるものがある。光が当たるとキラキラ銀色に輝くが、この石では長石や石英の端面も同様の光を返す。

サンプルI この石も薄片を作ってみましたが、有色鉱物や白雲母は薄い面状に集中して分布している様子で、石の内部を適当に切り出すと白色鉱物ばかりで他の鉱物があまり含まれていません。


サンプルI 白色鉱物の比率はこのサンプルでは灰青色のカリ長石が最も多く、次が透過性の良い石英、最後が白色の曹長石の順で5:4:1程かと見積られます。カリ長石の比率が高いのはマグマが固結する最後にあたり、主に低温晶出する鉱物が凝集したためと見られます。柘榴石の晶出などもがありますから白雲母も炭酸塩を含む熱水反応で晶出したものと思われます。

サンプルI 以後4枚の写真の視野は約10mm✕6.7mm、偏光顕微鏡下で最初がPPL 後の写真がXPLです。


このサンプル内には肝心の白雲母が殆ど存在せず、長石と石英ばかりの写真になってしまいました。標本を少し厚くしているので石英はXPLで黄色味がかって写りますが、不純物が少なく結晶の透過性が高いのでPPLでも良く分かります。

XPLで灰色(写真ではブルーがかって映る)に見える長石はPPLでは汚れた感じに見えます。斜長石は双晶が多数のストライブ柄となって現れるので区別できますがこのサンプル内ではあまり多くありません。

サンプルI 白雲母の結晶が小さいため少し拡大し以下6枚の写真の視野は約6mm✕4mm、偏光顕微鏡下で最初がPPL 後の写真がXPLです。


サンプルI 写真上XPLにて中央及び右端で高い干渉色を見せている部分が白雲母です。透明ですから当然PPLでは白く抜けます


上の四枚は最大面積を占めるカリ長石の表面写真です。先の2枚では結晶に歪みが生じて盛り上がったような構造をしています。固溶体を形成している正長石と曹長石が分離する(離溶といいます)過程で生じたものでしょうか?

後の写真では単斜晶系をとるカリ長石の結晶面の直交する面角がうっすらと現れています。

サンプルJ 白雲母のサンプルIがどうにもショボイためもう一個薄片を作りました。こちらはなるべく白色鉱物以外の異種鉱物が多い部分を切り取ってあります。


研磨面を見るとこのサンプルでは灰青色のカリ長石比率がとても高く色が暗い石英と白色の斜長石は少量です。その分雲母類を主体とする有色鉱物が増えた感じです。

サンプルJ 以下8枚の写真の視野は約6mm✕4mm、偏光顕微鏡下で最初がPPL 後の写真がXPLです。


サンプルJ 上4枚の写真XPLで桃色・水色・緑等鮮やかな干渉色を示す鉱物はどれも白雲母、PPLでは透明です。PPLで緑、XPLで青く写るのは緑泥石です


サンプルJ 上2枚の写真はカリ長石のパーサイトで固溶体の端成分である曹長石が、冷却固結する過程で固溶体から分離して不規則な縞状に晶出したものだそうです。

サンプルJ 上の写真は石英バンドとその周囲の斜長石・カリ長石の接触部分に虫食い状の石英と長石の複合体(ミルメカイト)が見うけられます。熱水の存在下に形成されるそうで、マグマと上盤地殻との接触境界での生成であることが伺えます。

サンプルK1 白雲母の最後のサンプルは、内部川上流・宮妻峡キャンプ場先の転石です。宮妻林道の山側には鈴鹿花崗岩が古期の砂泥質岩に貫入した接触境界に発達する小規模のペグマタイト質鉱床やスカルン鉱床が点在してますが、中でも宮妻林道入口近くの晶洞は黄玉が出たことでよく知られ戦前には雲母類から希土類を得るため採掘が行われていました。このズリが内部川の手前まで排出されて過去には様々な鉱物を見ることができ、この転石はそこで拾ったものです。


サンプルK1 長石中に放射状に成長した石英に共生する白雲母の集合です。僅かに黒雲母(金雲母)を含みますが雲母類の殆どは白雲母です。

サンプルK1 以下4枚の写真の視野は約6mm✕4mm、偏光顕微鏡下で最初がPPL 後の写真がXPLです。

サンプルK1 鮮やかな干渉色を見せるのは石英中に共生する白雲母の集合です。中央左には石英中に取り込まれた僅かな斜長石結晶が見えます。

次のページではこの石に含まれる金雲母について取り上げてみます。

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