門松

60年近く前私が生まれ育った津市栄町の一帯は、国道23号線ぞいに商店の建ち並ぶ市街地だったから、正月間近になると門松つくりの職人が竹や菰、縄、松、梅、葉ボタン、砂その他一式リヤカーに積みこんで現れ、門構えの立派な商家や旅館などを訪れてはその門前に手際よく門松を築いた。

その時期には当然幼稚園も小学校も冬休みに入っているから、近所の旅館が門松をしつらえ始めると、好奇心からその様子を何度ものぞきに走った。近所で最も立派な門松が設えられたのは、塔世橋の下手に在った橋亀と云う老舗旅館で、母親の話では戦前には大層なにぎわての立派な旅館であったという。

不幸なことに戦争で後継ぎを奪われ、戦後は経営を思うに任せなかったようで、私が小学校に上がったころには最早そういった面影はなかった。それでもいつも門松の設えは大層立派なもので私を感動させた。

数人の職人が、太い孟宗を斜切りにして砂をつめた菰に手際よく立て、松梅に笹を植えこんで収め、縄できっちり巻き上げて子供の背丈よりもはるかに高い門松がたちまち出来上がってゆくのを眺めているのは、間じかに迫った正月のうきうきした気分を盛り上げてくれる楽しい時間だった。

こんな昔のことなどを思い出し、私も十年ほど前から正月には我が家の玄関の両脇に小さな門松を立てるようにしている。門松と云ってもせいぜい50cm程のコンパクトなものだが、材料の竹は家の前を流れる中之川の河川敷に自生しているので、手間さえ惜しまなければ好みのものを作ることができる。

当時の職人の仕事に似せたくても、私には菰や縄まで作れないから、彼らの大型の門松を真似ることは無理な話。ようは中之川から切り出した孟宗を利用して南天や近くの里山で集めた羊歯、春ラン、藪コウジ、ジャノヒゲなど寄せ集めの花木を植えこみコケと白砂で化粧して、適当に40から50cmの小型の門松らしきものにまとめ上げるのだ。

丈が低いから立てる竹も直径5cm以下の部分を選んで切り出す。菰や荒縄がないから、替わりに根巻の部分には孟宗を何本も縦割りにして巻きつけ、樽のように銅線で締め付けるようにしている。ここの部分には可能な限り太い竹を伐り出して3cm程に割ったときなるべく平らにそろえる。

寄せ植えは、有り合わせでその年に利用できる花木を用いる。松、南天、春ラン、羊歯、実生をつけた藪コウジやジャノヒゲ、葉ボタンと色々だが、あんまり細かいことを考えずその時々で利用できる材を寄せ集めてきて適当に組み合わせて植えこんでしまう。

昨今では正月飾りならスーパーやDIY店でしめ縄から鏡餅まで簡単に手に入るし、門松にしても松竹梅植え込んだコンパクトで見栄えの好いものが色々売られている。なにも、お正月前に手間をかけて門松を作ることもないのだろうけれど、ものづくりはそれなりの楽しみがあり毎年利用する花木が変わって出来栄えが違うので出てみるまでどんなものに仕上がるか分からない点も楽しみの一つになっている。

我が家では正月前に梅は咲かないので松竹梅が揃うことはないのだが、手作りの良さは孟宗以外すべて根付きの生きのいい花木を寄せ合わせるので生気があつていかにもお正月にそぐわしいのではなかろうかとうぬぼれている。

これからも中之川の河辺林で竹が切れる間は続けてゆきたいものだ。