雪の朝

今日(2011.1.16)日曜日は昨晩遅くからの雪で、朝起きると周囲の田畑は一面雪景色となった。雪降りの後は早起きして歩き回ると普段は目にするのが難しい野生の獣の動きを捉えることができる。ことに、数年前から気になっていたことがあったから、デジカメ一台さげて雪が上がって晴れ間が覗きかけた野外に出かけた。

雪の朝は野生の足跡と会える。橋の隅をキツネが通る。1998.1.25

まず確かめたかったのは、川向うの明小の裏手に続く坂道の周りで、ウサギの足跡が見られるかどうかだった。ここ2年ほど、雪の日に出てみてもウサギの足跡に出会えることがあまりなかったからだ。

Y字形はノウサギの足跡。右はタヌキの足跡 1998.1.25

小学校に続く坂道の周囲には山合いの田圃や廃田が続いており、下の子の小さいころには、雪降り後に子供と散歩すると、道や田圃のそこかしこに野兎や狐の足跡を見ることができた。

ことに明小裏の林と下水処理場とに挟まれた小さな草地には、常に多数の野兎の足跡を見かけたものだ。

それがここ2年ほど前から見られる足跡がめっきり減ってしまったのだ。

以前は牛谷の坂道の周りにもウサギの足跡をよく見かけた。2006.1.8

今日はどうかと思い、ペロをお供に道の周囲を散々歩き回ったが、もはや今年はどこにもウサギの足跡を確認することができなかった。

たぶん、明小と中ノ川に挟まれた里山には、もう野兎が住んでいないのではないか。悲しい気分で引き返して、家の裏手から楠原へと連なる高台に足を向けた。この高台の中心部には楠原の農家が栽培する茶畑が広がり、その外れに自宅周辺の人家が在るのだが、この境には放置された桑畑が多く点在している。

茶畑の中にも放置されて荒れているところがあり、一面野草と低木に覆われて小型の獣が潜むには里山よりもこちらの方が暮らしやすそうだ。

そうした環境のせいか、この一帯には今もキツネが住み着いていて雨の後に柔らかな土の上に残された足跡を良く見ることができる。

この日も茶畑の中をよぎる小道の手前から狐の足跡が確認できた。新雪はまだ誰も踏まれておらず、狐の足跡だけが道から畑に再び道にと延延続いている。

狐の足跡。写真中はウサギを追う跡。写真右でウサギが左の藪に飛び込み狐の足跡も続く。

跡を辿って行けば、普段には伺うことの叶わない彼らの生活の一端を覗き見ることができるのだ。狐について、しばらく小道や茶畑の中を歩きまわったがこの狐以外にはなぜか足跡に出会わない。途中足跡が二匹になった小道に出たけれど、調べてみると同じ個体がくりかえして通った跡だった。

上は多分タヌキ。下はイタチ 2011.1.16

結局500m四方ほどを歩きまわり、この狐とタヌキ1匹、イタチ1匹の足跡を見つけたがこちらでも野ウサギの足跡は何処にも見られなかった。一体彼らは何処へ隠れてしまったのか。もうこの辺り一体には生活していないのだろうか。

私はちょうど13年前、雪の後の小道や田畑で、下の子と一緒に野生の生き物たちの足跡を追いかけながらビデオを写したことを思い出した。今それを見てみると、すでに自宅前の道路からキツネの足跡が続き、橋向こうの乾田には、あちこちにウサギやキツネ、タヌキの足跡が残されている。ハンミョウ山の前の田圃では、ジクザクにジャンプして逃げる野ウサギを同じくジクザクに猛追するキツネの真新しい足跡がみられた。

ウサギを追う狐。ウサギは狐の何倍もの歩幅でジグザグにジャンプして追跡をかわす。足跡の周りの雪の飛散が猛追の迫力を感じさせるが、ビデオから起こした絵のため今ひとつはっきりしない。1998.1.25

これは私たちにとっては、雪降りの後にしか覗くことのできない世界だけれど、彼らにはそれが日々の生活なのだろう。足跡はやぶの中に消え、キツネが獲物をしとめられたのかは分らなかったけれど、まだこの頃には我が家の周りに厳しい獣たちの野生の生活が残されていたのだ。

しかし近頃でも通勤途中で、時折路上にタヌキが轢かれて転がっていることがある。普段は殆ど姿を見かけないけれど、自宅よりもう少し下手野あたりにはまだ彼らが暮らしているようである。それに嫌われ者のニホンザルなら、今でもよく近くまで畑の作物を荒らしにやって来る。思えば彼らも野生の一員だし、あざとい人間共にも負けずにこの地で頑張っているのだ。まだまだこの辺りの自然も、捨てたものではないのかもしれない。