雲出川・領家変成岩

雲出川・長野川・榊原川・桂畑川

安濃川から更に南に下ると、青山高原のる布引山地の主部から更に南部の高見山地の北東部を水源とする一級河川雲出川水系となります。その支流の長野川・榊原川・桂畑川などはどれも青山高原・笠取山の東麓を水源としますが、この辺りは美濃丹波帯のジュラ紀付加体が領家花崗岩類の広域接触変成をうけた領家変成岩類が地表露出していて高度の熱変成によって有色鉱物と白色鉱物が岩石の内部で分離し美しい縞模様の石に変わった縞状片麻岩が広範囲に分布します。

砂泥質岩源変成岩に領家花崗岩が接触部分溶解した縞状片麻岩。最近では溶解浸透作用を重く見て変成岩と花崗岩の混在岩・ミグマタイトと書かれている

長野川の代表的な転石・縞状片麻岩。古・中生代付加体の砂泥質岩が領家花崗岩による接触変成により、白色鉱物と有色鉱物が分離・再結晶して縞状に配列した

有色鉱物と白色鉱物が集中して結晶化した部位には様々な鉱物の凝集が生じています。優白部は花崗岩質になりますが、通常の花崗岩よりも含まれる鉱物の種類が多く花崗岩帯ではあまり見かけることのない鉱物の組み合わせが生じます。

このような広域変成帯の転石はその種類も模様も実に様々で、鈴鹿山脈の鈴鹿花崗岩よりも遥かに変化に富んでいますから面白い模様・色合い・形を持った石を見つける楽しみも倍加します。

領家変成岩のオブジェと台石。片麻岩化した石は鉱物の分離・再結晶によって優白部と優黒部のコントラストが際立ち、石の表面に様々な面白い模様を見せてくれる。

この辺りの領家変成岩( 片麻岩 )はある程度の深度で領家花崗岩のマグマによる強い熱変成を受けたため、高温と中程度の圧力で主に主に黒雲母の微細結晶が層理面に沿って薄く凝集した優黒部とその間に挟まれるように石英と長石からなる優白部が分離して再結晶化した片麻状組織とよばれる層状構造が形成されました。

また布引山地の南部に行くに従って変成の度合いが高まり、変成鉱物の組み合わせが変化して菫青石・珪線石・電気石・柘榴石などが出現・消滅します。これらの様子は何人もの学者によって研究され、鉱物の出現・消滅線 アイソグラットが明らかにされています。

上は砂泥質岩を原岩とする縞状片麻岩の片状構造( 片理 ) 堆積した層理面に沿って平板状の黒雲母が層状に重なって配列し、その間を石英( 淡い茶色 )と長石( 白色 )の再結晶バンドが走る。石英や長石もある程度層状に配列しているが高圧変成岩ではないため粒状の結晶にはあまり圧力によって押しつぶされた感じはない。 

また近年では片麻岩の記述より、片麻状構造以上に溶解・再結晶化した部分が多いと見て変成岩と深成岩の混在に伴うミグマタイトとの記述がなされる様です。確かに上や下の写真を見ましても、黒色の片状構造帯の層理に沿って割り込んでいる優白鉱物のバンドは粒状組織の鉱物の集合で圧力変型していませんし、最初に片理をもつ広域変成岩が形成されその後から接触した深成岩マグマによって変成岩が部分溶融し変成岩の片理に沿って溶解部分に熱水が浸透して再結晶して固結したと見るべきなのでしょう。

ミグマタイトの溶解再結晶部分には、様々な鉱物が濃縮されて晶出する。上の優白部には角閃石( 緑 ) 電気石( 黒 ) 白雲母等が入っている。下の台石には赤褐色の柘榴石が見えている。

ミグマタイトの優白部は一見深成岩として成長した花崗岩と同じ様な組成や色合いの外観を持ち両者は見分けづらいものですが、鈴鹿花崗岩などと比べると含まれる鉱物種が豊富で下の転石では、優白部は石英、カリ長石、斜長石( 曹長石 )をほぼ同量、有色鉱物には黒雲母、電気石、角閃石、柘榴石等を含んでいます。

この石は電気石を大量に含み、漆黒の鉱物の大半は電気石。優白部は淡褐色を帯びた石英、白色の斜長石、青っぽいカリ長石が判別できる

鈴鹿山脈の鈴鹿花崗岩ではあまり目にすることのない青味を帯びたカリ長石が鈴鹿峠以南では良く目につきますから、一度固結した珪長質岩が熱変成作用によって再結晶した領家変成岩に多く見られるのではないかと思われます。

砂泥質岩との境界付近で大量の黒色電気石を含むミグマタイトの台石。角閃石か黒雲母のような外観を持つ

この辺りの転石の中には変成初期段階の石も交じります。下は砂泥質岩の広域変成岩で黒雲母の結晶面によって決まる片理方向に白色の珪線石結晶が大量に生成されています。珪線石は左写真の様に片理側面では引き延ばされた楕円状ですが、右写真の様に片理面を上から眺めると、片理面に沿って丸く煎餅状に成長した扁平な結晶であることが分かります。

多分地下深部の初期広域変成で上下からの強い圧力を受けながらが再結晶化が片理面に沿って進行したと見られますが、先の電気石を含んだ石では結晶の成長方向にあまり方向性は感じらず、先に広域変成を受けて片理の発達した変成岩が、その後に弱い圧力下で部分溶解し鉱物の再結晶化が進んだと思えます。

上のような広域変成を受けた原岩に更にマグマが接近して来ると、接触境界ではマグマ側から高温・高圧の熱水が間隙水となって大量に被接触岩へ浸透し、そこの鉱物はイオン化して熱水中に溶け込み大量にマグマ側へと移動・凝集するようです。

下の石は台座部分の黒雲母片岩に対して上からマグマの接触が生じた接触境界のような感じで、花崗岩質の境界上部との間隙に大量の黒雲母が凝集しています。花崗岩質部分には最早黒雲母に片理を生じる応力はかかっておらず、結晶面の成長方向には何ら規則性が見られません。

上は被変成岩の黒雲母片岩と熱源となった花崗岩との接触境界のような石。転石下部の片岩側は片裏面に沿ってほぼ平面で割れているが、上部の花崗岩質側は破断面にも方向性がなく摩耗して丸くなっている。この種の石は安濃川の方が多く見つかる。

上の石では、黒雲母の層理面中にやや青味帯びた白い眼球状の鉱物があちこちに晶出しています。果たしてこれは何なのか?石英か、長石かそれとも珪線石のような鉱物なのか・・・とまあ石を眺めていても楽しみは尽きないわけです。