安楽川・石灰質岩、斑糲岩

安楽川・御幣川

ここからは鈴鹿川の支流を幾つか取り上げます。まず鈴鹿川の北東部で石水渓の一帯を水系とする安楽川とその支流で小岐須渓谷一帯を水系とする御幣川です。安楽川は明星ヶ岳から仙ヶ岳に至る鈴鹿山脈の東面から野登山の南・東面がその上流部に、御幣川は野登山・仙ヶ岳・宮指路岳・入道ヶ岳がその上流部に含まれます。

上は亀山市川崎町 安楽橋下流の御幣川合流点。左奥が安楽川、中央より右手奥が御幣川。中央の背後には水源の仙ヶ岳、野登山、入道ヶ岳が望める

石灰岩・大理石

この水系に特徴的なことは野登山と入道ヶ岳に挟まれた一帯のジュラ紀付加体・混在岩の中に石灰岩が含まれていることです。これは伊吹山や霊仙山、藤原岳などの石灰岩地帯を産んだ古生代・石炭紀から中生代・三畳紀の環礁性島弧がジュラ紀に付加した赤坂石灰岩の一部です。

石灰岩( 方解石 )に薄紫の石英が層状に入り込んで再結晶した転石。わずかに濃緑の輝石も晶出している。

当然河川には上流域の山地から石灰岩を含む転石が流れ込みますが、石灰岩は水に溶けやすいので転石として河川を流下しているうちにどんどん小さくなって安楽川が鈴鹿川に合流する辺りまで下ると殆なくなってしまいます。


上の地質図で分かるように野登山と入道ヶ岳の間の付加体には石灰岩が帯状に含まれていて小岐須林道の屏風岩周辺には大理石が露出している

石灰岩の多くは後世の熱変成を受けて結晶化し美しい純白の大理石に変わっています。小岐須林道の路肩にも方々に露頭がありますが石の表面が黒く汚れているため気づかないことが多いようです。

上は小岐須渓谷の屏風岩。御幣川が石灰岩の地盤にほぼ垂直の深い谷を掘り下げた。下は野登山登山口より少し登った一の谷の石灰岩露頭。断層部分が谷によって深くほれ込んだ様子で周囲の壁は西に向かって傾斜している

安楽川・御幣川の転石の様子は、上流の基盤岩が鈴鹿川と大差ないので鈴鹿花崗岩、新領家花崗岩類( 花崗閃緑岩 )、泥岩、砂岩、砂・泥質変成岩、緑色岩等ほぼ似たような種類の石が見つかりますが、石灰岩は鈴鹿川に比べて圧倒的に多く存在します。

ただし柔らかい石灰岩は上流の谷では破断面の角張った巨大な岩塊も1.5kmも下った安楽川との合流点に着く辺りではすっかり円磨されて泥岩や花崗岩など他種の転石に比べると一際小さい石に変わってしまいます。

上は安楽川合流点の転石。よく目立つ白色のものは大理石化した石灰岩転石。硬度が低く河川で摩耗しやすいので他の石に比べてサイズの大きいものは見つからない。

周囲の花崗岩類や泥岩と比べると白い石灰岩の転石は一回りも二回りも小さいものばかりだ。

川水で表面を洗われているので真っ白な大理石の肌を見せるものが多く、なかには不純物の存在によるものと思いますが、灰色や暗青色や褐色の淡い縞模様が入る石もあってなかなか面白いものです。

花崗岩やチャート、ホルンフェルスなど硬い石に比べて石灰岩は柔らかいので削ってやると簡単に形を整えられる

色の付いた部分を薄片にして調べてみても純白の部分と何ら変わることのない方解石の結晶が見えるばかりですから、色を与えている異物の濃度は極めて薄いものと思います。

御幣川上流部  野登山一ノ谷登山口の小岐須渓谷の河原には谷から押し出された巨石に混じって白い石灰岩の転石が目につく

御幣川の上流部、小岐須渓谷まで足を伸ばすとより大きな転石が見られます。石灰岩の密度が高いので石の形も豊富で、周囲の沢から押し出されたような石灰岩はまだ十分に円磨されておらず水流で複雑に丸みを帯びた石灰岩独特の形状を保っているものがあります。

小岐須山の家から屏風岩の上流辺りまで御幣川の周囲には石灰岩盤が広がり、一部はスカルン化しているため転石にもスカルンを含む石が見つかることもあります。

石灰岩と泥岩の互層部分が熱変成を受けたような石。有色帯の中央にはわずかに輝石が存在する

石灰岩帯のスカルンは方解石の白色、柘榴石・ベスブ石の赤色、輝石の緑色の3色で特徴づけられますが御幣川の水系で見られる転石のものは、方解石( 大理石 )に狭在した泥岩等異質岩が熱変成したと思われる模様が美しいものですが、私には安濃川で目にする3色スカルンは探せませんでした。

上は安濃川の三色スカルン。柘榴石・ベスブ石、方解石、輝石の赤・白・緑ですぐに分かる

安楽川の中流では石灰質岩が熱変成をうけたのではないかと思える面白い石も拾えます。白色の石基に有色鉱物が黒斑状に晶出しているもので、花崗岩帯ではまず見かけないものです。

石基も斑晶部分も結晶質の様子ですが結晶が微細で私には鉱物を特定できません。斑晶部分は菫青石や黒雲母、石基部分はゾイサイトのように思われますが確証はありません。いずれにせよ面白い石です。

安楽川・前田川

安楽川の支流の一つ前田川は鈴鹿山脈南部東麓の明星ヶ岳一帯を水源とします。この山には優勢な角閃石斑糲岩の岩脈が走っており前田川の転石の多くは斑糲岩もしくは閃緑岩です。

先に書いたように鈴鹿川支流小野川も明星ヶ岳の南部を水系にしており、斑糲岩の転石が見つかりますが前田川の場合は鈴鹿川よりも遥かに濃い割合で様々な粒径の角閃石結晶をもつ斑糲岩~閃緑岩が見つかります。

斑糲岩はオブジェにするため磨いても全体に黒っぽい石になって今ひとつ面白味がない。角閃石結晶の破断面を残したりしてみるがなかなか気に入ったものが出来ない。 

写真では光沢が出ないが上の台石のように細粒斑状の角閃石結晶を持つような石が磨いてやると結晶面がキラキラ光って美しい。