6:変成岩の雲母

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変成岩類のマイカ

変成岩はその成因によって高圧型と高温型に別れます。高圧型は沈み込み帯で地下深部(地下100km以上も沈み込むようです)に持ち込まれた岩石が高温高圧下で源岩組成・構造が組み替えられた末、構造運動によって再び地表にもたらされたものです。超高圧と応力変形によって著しい片理をともなった結晶片岩となるのが一般的で、その代表は中央構造線以南に分布する三波川変成岩です。


高圧下でシート状に圧縮・変形した三波川帯の結晶片岩。源岩組成の違いにより緑・黒・赤等様々な色になる

結晶片岩はその色合いや模様が好まれ古くから建材や庭石に重用される。上は緑色片岩の踏石の片理面


緑色片岩の薄片写真。写真の視野は約6mm✕4mm 中央部では雲母類・角閃石・緑泥石等の片理がはっきりと現れています

もう一方の高温型は、マグマの上昇によって上盤側の岩石が長期間高温・高圧下におかれて組成や構造が変化するもので、領家花崗岩を熱源とし布引山地一体に広がる領家変成岩がその代表です。領家変成作用をもたらした白亜紀花崗岩は、国内だけでなく中国南部にまで大陸縁に沿って数千キロに渡り弧状に分布していますから領家変成岩と同質の岩石も等しく広範囲に分布します。

領家変成帯の縞状片麻岩。三波川結晶片岩のような著しい片理はないが優白部と優黒部がほぼ完全に分離した高度の変成相にあります。津市南長野桂畑川


片麻岩の優黒部は主に数ミリ以下の黒雲母が再結晶して集合している。優白部は再結晶石英

当時日本の地殻の多くは中国大陸そのものでしたから当然ですが、このように広範囲に等質な分布を示す変成岩を広域変成岩と呼びます。先の三波川変成岩は高圧低温型の広域変成岩です。これに対して変成圧力が低い領家変成岩は高温低圧型の広域変成岩です。

局所的な火山活動によって一部の岩石が熱変成を受けた場合は、特に接触変成作用を強調して接触変成岩と呼びます。領家変成岩のような広域変成岩も当然接触変成岩ですが、生じるときの深度が深く変成を受ける期間も長くて地質年代Maのオーダーになります。

岩石がある温度・圧力・力学構造下に変成作用を受けると源岩の組成や構造が作り変えられて変成岩となります。この時源岩の中に含まれていた鉱物は、その組成まで別のものに組み替えられる場合と、鉱物種は変化しませんが同種の鉱物が寄り集まって再結晶し、粒子の配列や粒径が変化する場合とがあります。一般に温度・圧力条件が高いほど高度の変成作用が生じ組成や構造の変化も大きくなります。

安濃川上流部で見られる砂泥質岩起源の領家変成岩。縞状の優黒部の多くは黒雲母の微小集合

この辺りで普通に見られる領家変成岩では、砂泥質岩を源岩とする変成岩において雲母類が顕著に認められます。低い変成度では雲母類の定向配列が目立ち始め、さらに変成度が上がると再結晶化が進んで雲母や石英の粗粒の結晶が分化して縞状に配列する縞状片麻岩となります。

鈴鹿山脈南部宮妻峡キャンプ場北の雲母谷泥質岩露頭。この辺りでは変成作用は弱く石は黒色の塊状をしている

一般に鈴鹿・布引の山地では南に下るほど変成の程度が高まる傾向にあります。例えば鈴鹿山脈南部を源とする内部川には上流域の宮妻峡キャンプ場周辺で沢山の泥岩が見られますが、変成が弱く一部には菫青石を晶出して斑になっているものもありますが眼視では結晶の晶出を認めにくい黒色塊状のものが多いです。


宮妻峡の泥質岩(粘板岩)転石。花崗岩脈に近いものは変成が進み菫青石や黒雲母が晶出して紫ぽい色になっている

これに対して布引山地の安濃川以南では先の写真でも分かるように、多くの石は完全に再結晶化が進み鉱物も白色鉱物と有色鉱物がはっきりと分離した縞状を見せます。斑状に菫青石や珪線石を晶出しているものも斑晶の周囲には白雲母や再結晶した石英がよく目立ち、日に当てると全体がキラキラと微細な結晶片で構成されていると分かります。

サンプルM 安濃川上流我賀浦川転石の砂泥質岩を源岩とする領家変成岩。布引山地側では、変成iによって新たな鉱物が斑状に晶出して変成のの影響がはっきりと分かる石が多く見られます。

サンプルM 安濃川上流我賀浦川の砂泥質岩源変成岩。菫青石・紅柱石が斑状晶出していますが斑晶は白雲母等と交代してます。全体に石英・雲母の再結晶化が進み石の表面は微細な輝きが有る


サンプルM 以下6枚の写真の視野は約6mm✕4mm、偏光顕微鏡下で最初がPPL 後の写真がXPLです。


サンプルM 上の写真は石基部分に晶出した黒雲母と白雲母の結晶。白雲母はPPLで透明、干渉色も黒雲母より鮮やか


サンプルM 上の写真・黄色の干渉色は珪線石の斑晶。周辺は白雲母に交代している


サンプルM 上の写真の楕円形斑晶は晶出した菫青石だが殆ど雲母類や緑泥石に置き換わっている。どの写真でも石基部の雲母類の結晶晶出に多少の方向性が見られますが全体にバラバラな感じです。

サンプルN1 美里町南長野の桂畑川の転石です。桂畑川の領家変成岩転石は安濃川に比べて変成の程度の変化が大きくいろいろと変化に富んだ変成岩を見つけることができます。安濃川サンプルMと同じく泥質岩を源岩とするもので、縞状の構造が見て取れます。


サンプルN1 このサンプルは細粒の黒雲母と白雲母が縞状配列にあり、特に白雲母類が良く目立ちますが、石英の再結晶化は顕著ではありません。優黒部主体のようです。一部に白雲母と紛らわしい珪線石の小さな繊維状斑晶が現れています。

サンプルN2 同じく美里町南長野の桂畑川の泥質岩起源変成岩転石です。変成の程度が大きく珪線石の斑状結晶が多数晶出しています。層理面ではほぼ円形ですが、層理の横面では楕円形に長く引き伸ばされた形をしています。安濃川ではこのような石はあまり目にしません。斑晶の周囲には黒雲母と白雲母が多く見られます。


サンプルN3 同じく美里町南長野の桂畑川の泥質岩起源変成岩転石です。N2の石を横から見た形で、層理の方向に鉱物が直線的に配列しています。白い斑晶は珪線石と思いますがかなり白雲母や粘土鉱物に交代している様子です。


サンプルN3 このサンプルは細粒の黒雲母と白雲母が縞状配列にあり、特に白雲母類が良く目立ちますが、肉眼では石英の再結晶化は顕著ではありません。優黒部主体のようです。層間には白雲母と紛らわしい珪線石の小さな繊維状斑晶がたくさん現れています。

サンプルN3 N3の石については薄片にして鏡下観察することにしました。削り出してみると黒雲母の鉄分が錆出て石の内部まで結構染色している様子です。特定の層理面に沿って錆が侵入してゆくのは結晶粒子の間隙が特定の層理面で大きいため、間隙水の侵入が容易になって水分による酸化が進行する模様です。


サンプルN3 以下8枚の写真の視野は約6mm✕4mm、偏光顕微鏡下で最初がPPL 後の写真がXPLです。


サンプルN3 先に掲げた安濃川の泥質岩源変成岩Mでは鉱物の晶出に方向性が乏しく接触変成を受けたような感じでしたが、このサンプルでは石英・黒雲母・白雲母とすべてが綺麗に定向配列しています。

細粒結晶の配列に割り込む形で珪線石(全体に薄い黄色に見える)の繊維状結晶が成長していますが、多くは周辺部分から白雲母・セリサイトなどに置き換わっている様子です。小さい写真では分かりづらいので以下6枚は拡大しました。

サンプルN3 上の四枚の写真では珪線石の細かい繊維状結晶の周囲から明るい黄色の干渉色の白雲母が置換している様子が見て取れます。

サンプルN3 このサンプルの珪線石は繊維状で青~赤~黄に至る干渉色を示しますが、高次の干渉色を持つ白雲母も同じような色を出しますし、珪線石、白雲母とも直消光ですから結構紛らわしいものです。最後の写真では黄緑から水色の干渉色を見せる白雲母の配列がよく出でいます。

砂泥質岩の変成度が高まると白色鉱物と有色鉱物がはっきりと分離した縞状構造を取るようになります。隣接する結晶は層理に沿って定向配列し互いに結合して再結晶化が進み大きく成長します。

サンプルO1 安濃川上流笹子川の転石です。再結晶した石英が主体の優白部と黒雲母主体の優黒部が分離して交互に並ぶ縞状片麻岩です。変成時の圧力やズレ応力は高圧変成岩ほど大きくないので片理はそれほど強いものではありません。源岩は砂泥質岩と思われます

サンプルO1 安濃川上流部の縞状片麻岩。眼視でも黒雲母や石英の結晶粒は確認できますが1mm以下の細粒のものがほとんどです。

拡大率を上げると石英粒は個々の粒子を確認できる。雲母類は黒雲母に混じって白雲母も認められるが写真では、はっきり映りません。


サンプルO2 M同様に安濃川上流笹子川の縞状片麻岩の転石ですがMよりは優黒部にとみ有色鉱物の凝集が多い部分です。こちらも優黒部の多くは黒雲母が占めています。やはり源岩は砂泥質岩と思われます

ササンプルO2 優黒部は微細な黒雲母の結晶が密集して層を形成していて、結晶も層の広がり方向に定向配列しています。このため雲母の剥がれやすい性質が影響して、黒雲母の集中する層では石に少し力を加えると層理面で剥がれて2つに割れてしまいます。この種の石に、扁平な面を持っものが多いのはそのためです。


サンプルO3 O1.O2同様に安濃川上流笹子川の縞状片麻岩の転石ですが顕微鏡標本にするため優白部と優黒部の間隔がより緻密な石を選んでいます。層理面を縦に切る形で貫入岩脈状に別の片麻岩状脈が走っていてミグマタイトに近い石ではないでしょうか。やはり源岩は砂泥質岩と思われます。

サンプルO3 安濃川上流笹子川の縞状片麻岩の薄片です。結晶は微細で1mm以下の細粒のものがほとんどです。この種の石は剥離性があり切断の際にも一部が優黒部の層理面ではがれました。

サンプルO3 以下4枚の写真の視野は約6mm✕4mm、偏光顕微鏡下で最初がPPL 後の写真がXPLです。

サンプルO3 雲母類はその殆どが黒雲母で層状に定向配列しています。白色鉱物は0.5mm以下の細粒結晶が多く石英主体ですが一部結晶粒の大きい部分では長石の存在も確認できます。

サンプルO3 優白部では1mm近い結晶も確認できます。このように晶粒の大きい部分では長石の存在が良く分かります。石英の再結晶化は進んでいますが高圧変成岩に見られるような片理面に対して押しつぶされたような変形はまだ認められません。

サンプルO3 鉱物の配列が層状に組み替えられることは、当然岩石の内部で鉱物の移動が生じて同種の鉱物の集中化が進むわけで、溶解しているわけでもないのにどうしてそのようなことが可能なのか不思議に思えます。石英など大気中での融点は1600℃以上もありますから高圧のうえ、せいぜい1000℃止まりの変成温度ではとても溶け出すことはなさそうです。

ただし高圧下では隣接する石英結晶間で圧接した双方の結晶面で結晶構造の組み替えが起こり1つの単結晶として再結晶化することができるそうです。しかし最大の要因は岩石内部に浸透している間隙水で、この水の存在によって鉱物の化学平衡が成り立ち、鉱物を構成する成分が水に溶け込んで移動することが可能となるようです。

次のページでは混成岩に含まれる雲母について取り上げてみます。

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