西伊豆の石 から- 輝石

西伊豆・堂ヶ島海岸の石

先日下の子が西伊豆へ遊びに行って、石ころの好きな私に堂ヶ島海岸の転石を拾ってきてくれました。波打ち際で円磨され、全体に丸みを帯びた大小合わせて30個程の小石は、灰・緑・黄・黒とその色も様々で、手にとって眺めているだけでもそれなりに風情があって楽しいものですが、三重に住む私にとっては、遠隔の地の石は殊に興味を引きます。

西伊豆 堂ヶ島の海岸の転石。玄武岩・安山岩・流紋岩・凝灰岩・砂泥質変成岩・石灰岩・ガラス片と様々

見た目で大雑把に分けて一番多いのは、下の写真の区分でAに当たる灰色や褐色の石基中に白っぽい鉱物の斑晶と黒っぽい鉱物の斑晶が沢山見られる石で、白い斑晶の大きいものは5mm程、黒っぽい斑晶はそれよりは小さくて全体に細長いものが多く、円磨した端面が楕円に近い柱状結晶の断面を見せるものも沢山あります。

西伊豆の転石は大きく5つのグループに分かれた。中でもAとBははっきり火山岩だと分かる

Bの石も同じように表面に斑晶が認められますが、こちらは全体に緑がかっておりAの仲間とは違います。どうも自宅近くの採石場でよく見られる凝灰岩に近い感じです。Cは黒色で緻密な石で鈴鹿の領家帯にみられる砂泥質岩・砂泥質変成岩とそっくりです。

eは硬質でカッターの刃より遥かに固くすべすべした感じ、チャートの様な石英塊でしょうか。最後のdはカッターで傷が入る柔らかさで、石灰岩の様な感じですが後の地質図でも分かるように堂ヶ島海岸の後背地には石灰岩はありませんから、白浜層群もしくは湯ヶ島層群に属する凝灰岩でしょうか。

Aグループの石の大きな特徴は、磁石を近づけると良く磁化して磁石にくっつくことです。ことに茶色っぽい石は磁化が強く磁石で石を釣り上げることが出来ます。多分石の色が褐色なのも石基に含まれている鉄分の酸化によるものと思います。

Aの仲間の石はよく磁石につく

石によっては磁石で釣ることが出来る

これ等Aの石は、岩石の種類で呼ぶとたぶん安山岩から玄武岩。富士箱根伊豆火山帯が生み出した火山岩(溶岩)だと思います。岩相区分では非アルカリ苦鉄質火山岩類です。非アルカリ岩はケイ素Siに富む岩石のことで、日本の殆どの岩石が非アルカリ岩に入るそうです。苦鉄質岩はマグネシウムと鉄に富む鉱物(カンラン石・輝石・角閃石・黒雲母等)を多く含む岩石のことです。

地質図をみると堂ヶ島海岸の後背地一帯の岩相区分の詳細がわかります。これによると後背地には安山岩・玄武岩質の苦鉄質岩類と閃緑岩・花崗岩質の珪長質岩類が共に大量に存在します。Aの石の場合多数の輝石結晶を含んでいますから苦鉄質岩の仲間かと思われます。地質図YaあるいはSpに属する安山岩・玄武岩でしょうか。

苦鉄質岩なら良く磁石に反応するかと言えば、そうとばかりも言えません。私が暮らす津市西部にはは苦鉄質深成岩の斑レイ岩の岩体が点在しますが、これ等の石は見た目真っ黒でいかにも磁石に良くくっつきそうなのにやってみると、どうにか磁石と反応する程度で西伊豆の安山岩には遠く及びません。鉄分よりはマグネシウム分が多いのでしょうか。

苦鉄質分・マグネシウムと鉄の比率が更に高くなるとより黒っぽい玄武岩になります。Aの仲間にも2個だけこの玄武岩が含まれていましたが、その表面をルーペで拡大して見てみると、その内の一つに、この辺りではまずお目にかかることのない黄緑色をしたカンラン石の新鮮な斑晶が幾つも確認できます。これは想像外だったので大変嬉しい出来事でした。

西伊豆の石に入っていた玄武岩と、その表面に点在するカンラン石の斑晶。地質図では白浜層群Sp2区分の玄武岩質安山岩中に橄欖石を含むのであるいはSpの石か・・

Aのグループの石に戻ってもう少しルーペで調べてみました。苦鉄質分の主要鉱物はカンラン石・輝石・角閃石・黒雲母ですからこの岩相を持つた石にはカンラン石や輝石・角閃石等が多く含まれているはずです。ただし鉱物によって液状のマグマから固体の鉱物結晶として晶出する温度には差があり、この差が同じマグマを源とする火山岩でも含まれる斑晶の種類が異なる原因になります。

色は褐色・淡黄・淡紫・灰色と様々だがどれも斜長石と輝石の斑晶が目立つ安山岩

苦鉄質の有色鉱物を晶出温度の高い順に並べるとカンラン石→輝石→角閃石→黒雲母となりますから、より高温の状態て噴出した火山岩は角閃石や輝石の斑晶が主体となりより低温になるに従って角閃石や黒雲母が斑晶中に現れるようになります。無色鉱物では斜長石→石英→カリ長石の順だと云われます。たたし結晶の晶出は、圧力(深度)やマグマの組成が異なったり含水量によって変化するので例外も多く見られるようです。

Aグループの石の場合、素直に考えるとカンラン石を含む玄武岩が噴出時のマグマ温度が最も高く、斜長石と輝石の斑晶を多く含む安山岩がそれに次ぐことになります。安山岩をルーペで見ると無色鉱物は主に斜長石、有色鉱物は輝石以外の鉱物も含まれている様な感じですが今ひとつ分かりません。

カメラで接写して拡大してみたのが以下の写真です。玄武岩質の石は脱気したり結晶が脱落した穴が沢山見受けられ感じが違います。結晶の構成も石基の色の違いに応じて変化している様子です。有色鉱物の多くが黒色~褐色若しくは暗緑色~淡緑色をした透明感の有る柱状結晶で輝石と思われます。中には石炭の様に真っ黒な粒や金属光沢を持つ不透明鉱物も見られます。

石の表面には多数の有色鉱物が見つかる。中にはガラス光沢をもつ長柱状の新鮮な結晶も多い

予備知識として伊豆や箱根の溶岩には両輝石(斜方輝石と単斜輝石)を含むものが多く中にはカンラン石を含むものもあるとのことですから、透明感の有る結晶はたぶん輝石と見ても良いでしょう。褐色系が斜方輝石、緑色系が単斜輝石かと思いたいところですがそう単純にも行かないようです。また角閃石や黒雲母が混じっている可能性も否定はできません。

ルーペで見ると輝石は黒色~暗緑色に見える。周囲の明色鉱物は斜長石

岩石に含まれる鉱物の同定は目視やルーペによる拡大像のみの判断では難しく、ことに経験が乏しいとお手上げ状態です。たとえば近くの鈴鹿山脈には角閃石を含む石が豊富にあり、私も様々なパターンの角閃石を含む花崗岩類を見てきましたが、中には輝石と大変紛らわしい型状・光沢・色を見せるものがあり、私には未だに目視での満足な識別ができません。

この様な場合、少々手間がかかっても岩石薄片を作って偏光顕微鏡で覗いてみると同定の困難はある程度解消します。偏光板をクロスさせたり抜いたりして鏡下で観察すると、光が透過する鉱物は、その屈折率や複屈折の差によつて見え方が異なり微妙な結晶構造の差が鮮やかな色彩変化になって現れるため、目視での観察よりは遥かに多くの情報が得られて、慣れると輝石と角閃石は割りと簡単に見分けられるからです。

今回も石を一個だけ薄片にしてみました。見た目にも変質の度合いが少なそうで暗色・長柱状の輝石と思しい結晶が多く入った石を選びました。

岩石薄片は研磨して約30μの厚みにするが、この厚みでは黒く見えた有色鉱物も淡緑色かほぼ透明になる

実際に西伊豆の石を薄片にしたのが上の写真です。これを偏光板を装置した偏光顕微鏡で見ると鉱物の結晶方向や結晶構造の差異が色彩変化として現れます。

偏光板を交差させたクロスニコルでは黄色つぽい(複屈折が低い)斜方輝石と、より鮮やかな緑色や青色を見せる単斜輝石がはっきりと見分けられます。輝石以外には偏光板をオープンにしても真っ黒な不透明鉱物が結構たくさん入っています。

上は西伊豆安山岩中の斜方輝石。薄片厚(30μ)が正確に出ていると左のクロスニコルでは黄色く写る

西伊豆安山岩中の単斜輝石 。単斜輝石は斜方輝石よりクロスニコルで鮮やかな色合で写る

単斜輝石の集合体。この集合体ではXPLで見て無色の鉱物も単斜輝石。PPLでも光を通さない不透明鉱物もある。偏光顕微鏡による岩石観察は、その鉱物が示す色彩変化によって鉱物種同定の決め手とするが結晶軸に対する標本の切り出し角によって同定指標となる色が変化してしまい困難も多い

カンラン石がないものか探してみましたが、作った標本中には見つけられませんでした。無色鉱物はほとんど全てが斜長石かと思います。斜長石では結晶の成長方向に複数の異なった単結晶が成長して接合し、XPLでは綺麗な縦縞を見せるものが多く鉱物判定の指標になっています

上は西伊豆安山岩中の白と青の縞模様を見せる斜長石の双晶。鉱物の同定は質感・干渉色・軸色・光軸角・特徴的構造などを総合的に勘案して行う。その色だけでは判断できない

斜長石は双晶がはっきりと出ますが、大きい斑晶では成長途中でマグマの環境が刻々変化して、結晶中心部から外周部にかけて結晶構造も微妙に変化して、幾つもの同心円状の色の変化(累帯構造と言います)をみせます。

斜長石は双晶による明暗変化と結晶の成長過程での環境変化を反映し顕著な累帯構造を示す

累帯構造が顕著であることは、その結晶が成長する際に結晶周辺のマグマの温度や成分等環境が大きく変化していたことを意味しています。

斜方輝石と単斜輝石

斜方輝石とは斜方晶系の結晶をとる輝石類のことで、鉱物名では頑火輝石と鉄珪輝石があり自然界では両者の固溶体として存在します。

斜方輝石類でも頑火輝石となるとその名が示すように耐火性が強く融点は1400℃にもなります。マグマ温度の高い玄武岩質マグマでも1200℃前後とのことですから一般のマグマ中では早々と結晶分化してしまい存在するのも難しそうです。

斜方輝石はそんな頑火輝石の固溶体ですから、単斜輝石よりもむろん高い融点を持ちます。岩石中に斜方輝石が多く存在することはその岩石の生まれた環境が高温であった証拠でもあります。

黄色い干渉色を見せる西伊豆安山岩中の斜方輝石。噴火の衝撃で大きな結晶は破壊している

この標本では干渉色の綺麗な双晶をみせる単斜輝石が多い。下中央透明な鉱物も単斜輝石

単斜輝石は単斜晶系の輝石類のことで、普通輝石・透輝石・灰鉄輝石・ヒスイ輝石等多くの種類がありますが、こちらも自然界では複数の輝石の固溶体として存在します。

斜方輝石に比べると形成温度が低いため、単斜輝石と斜方輝石の晶出状態からその火山岩が噴出した際のマグマ温度がある程度推定できるようです。

低温で晶出するので形成温度の低い花崗岩や変成岩に含まれる輝石の多くが単斜輝石です。今回薄片にした火山岩では単斜輝石より斜方輝石の割合が多少多いのではないかと思えます。結晶の大きさも斜方輝石のほうがやや大きいものが多いようです。

目視で輝石の種別を判定するのは大層難しいものですが、偏光顕微鏡では、斜方輝石と単斜輝石はその色(複屈折量)の違いや消光角の違いによって目視に頼るよりは遥かに楽に識別できます。

上写真、左は鉱物が最も明るく写る対角位にある斜方輝石。左は標本を約45°回転させ消光位にしたもの。今度は周囲の単斜輝石が対角位で明るく写り斜方輝石は光を透過せず黒く写る

上写真、左は鉱物が最も明るく写る対角位にある単斜輝石。左は標本を約45°回転させ消光位にしたもの。単斜輝石は結晶の成長方向と並行の位置で明るく写るが先の斜方輝石は直消光するので並行位置で暗くなる

上の写真で分かるように直消光の斜方輝石は上の写真のように偏光板をクロスさせたとき結晶の光が消える消光位が結晶の軸方向に平行になりますが、斜消光の単斜輝石では斜めの位置になります。

もっとも結晶が対角位にあるとき複屈折で生じる干渉色は、複屈折量と切片厚によって一義的に定まるわけではなく結晶軸に対する切片の切り出し角度に依存して変化し、結晶軸方向では複屈折量は0となって干渉色も失われます。

切り出し方向によっては、複屈折が高いはずの輝石が複屈折の低い長石や石英と同じ色の変化になってしまうこともあるわけで、残念ながら偏光顕微鏡を使えば簡単に鉱物が同定できると云うものではありません。

ネットで各地の苦鉄質火山岩を検索してみると、岩石名に大抵「輝石」が含まれていますから斑晶に輝石を含む火山岩が圧倒的に多いことが分かります。苦鉄質岩だから当然といえますが、一般に噴火する際の苦鉄質マグマの温度が高いことが原因です。

高温で結晶化した斜長石と輝石が斑晶の殆どを占める西伊豆の転石 両輝石安山岩

輝石の晶出温度は斜長石(灰長石)やカンラン石に次いで1000℃以上と高く、地下のマグマが火道をゆっくり上昇する過程で徐々にマグマの温度が下がるとマグマ中にこれ等の結晶が晶出し始めますが、角閃石や黒雲母の晶出温度はもっと低いので未だ晶出が始まりません。この状態で、マグマが一気に噴火すると冷え固まったマグマの中にカンラン石や輝石が斑晶として姿をみせる訳です。

火山噴火と火山岩

マグマが時間をかけてゆっくり冷え固まると、マグマの成分と温度・圧力に応じて結晶化が可能な鉱物が次々に生まれてマグマ中に結晶となって晶出して行きます。

温度が下がるに従って結晶となる鉱物はどんどん増え、最後にはマグマの中に最も低温で晶出する鉱物が残って様々の鉱物結晶からなる岩石(深成岩)が誕生します。安山岩質のマグマがゆっくり冷え固まると閃緑岩となります。

一方火山噴火の様にマグマが一気に気中に噴出してしまうと、未だ結晶に成長せずマグマに残っていたた物質は結晶が晶出して成長する時間を与えられずに冷え固まってしまい、顕微鏡で拡大しなければわからない程の微細な鉱物結晶の雑多な集合体の石基なったり、火山岩によってはガラス質で非結晶の石基になります。ガラス質の石基は珪長質の流紋岩に多く見られ黒曜石等はガラス塊そのものです。

同じ流紋岩質の火山岩でも噴火の条件の違いや溶岩流の場所の違いで全く異なった色や形となる

大きなカリ長石と石英の斑晶を伴うものから、全体がガラス質の石基で殆ど非結晶のものまで様々

三重県北中部の輝石

小中学校で習う理科の教科書にも岩石を構成する代表的な有色鉱物として輝石・角閃石・黒雲母が上げられていますから輝石はごく普通の造岩鉱物だといえます。ところがこの有りふれたはずの輝石が、近くの鈴鹿山脈の様な花崗岩主体の山ではなかなか見ることが出来ません。

安山岩は融点の高い斜長石や輝石等の鉱物の一部がマグマ内部で晶出を始めた状態で噴火したため、既に晶出していた斜長石や輝石等の鉱物が、非結晶(若しくは微細結晶が集合した)の残存物質の石基中に斑晶となったものです。

この安山岩質マグマが地下でゆっくり冷えて固まると閃緑岩となり、さらに苦鉄質分の多い玄武岩質のマグマの場合は斑レイ岩となります。

鈴鹿山脈や布引山地を形成する花崗岩類には閃緑岩が含まれていますし、津市北部・鈴鹿山脈と布引山地の境界あたりは閃緑岩・石英閃緑岩等の苦鉄質岩脈が多数貫入していますから、西伊豆の石のように安山岩の中に普通に存在する輝石が閃緑岩中に存在するのではないかと思わせます。

芸濃町錫杖湖周辺の花崗閃緑岩Kfに貫入する苦鉄質岩脈Qd 石英閃緑岩主体だが斑糲岩と呼べる部分もある

では、これらの石を調べれば安山岩の様な輝石の結晶を見つけられるかと言えば、これがそうでもありません。黒色の鉱物はほとんど皆角閃石もしくは黒雲母です。

晶出温度の高い斜長石は無色鉱物としてたくさん含まれているのに同程度の晶出温度を持つ輝石はまず見られません。なぜなのでしょう・・

石英閃緑岩の露頭 有色鉱物は殆ど角閃石と黒雲母で輝石を含む部分はない

閃緑岩中の苦鉄質鉱物は主に角閃石。 細かい柱状結晶を取る石(左)や大きな粒状結晶が集合する石など様々

この辺の閃緑岩の有色鉱物は殆どが角閃石か黒雲母 。無色鉱物は集片双晶を見せる斜長石中にカリ長石と石英が混じる。輝石はまずない

鈴鹿山脈の主部は花崗岩や花崗閃緑岩の様に石英や長石を多く含み二酸化ケイ素SiO2に富んだ珪長質の深成岩から出来ているため苦鉄質分が乏しいのは分かります。

珪長質マグマの温度は低く、そこから晶出する石英やカリ長石の晶出温度は600~800℃前後です。この温度では融点が1000℃を超える輝石やカンラン石の成分は、たとえマグマ内にその成分が存在したとしても先に結晶化して比重が重いためマグマの底に沈下してしまいます。この結果マグマの上下で結晶分化が生じ、地表に近い上部のマグマには輝石やカンラン石の成分に乏しい珪長質マグマしか存在し得なくなります。

三滝川北谷より見た鈴鹿山脈中部の主峰御在所山 中粒-粗粒の角閃石と黒雲母を含む花崗岩で形成されている

鈴鹿花崗岩の有色鉱物は黒雲母が主体で角閃石も含む。輝石はまず見られない

鈴鹿山脈のように大陸縁の沈み込み帯に弧状に発達した白亜紀花崗岩は、マグマが形成される過程ですでに苦鉄質分に乏しいため、専ら珪長質マグマから生まれた鈴鹿山脈一円の火成岩は、転石に入っている有色鉱物を調べても、大抵が角閃石か黒雲母で輝石の結晶を含むことが少ないのです。

しかし先に上げた鈴鹿・布引境界に分布する苦鉄質分に富んだ深成岩中にほとんど輝石が見つからないのはなぜなのでしょう。私の自宅の近くには斑糲岩を産する岩体が何箇所かありますがどれも角閃石斑糲岩で輝石はまず含みません。

苦鉄質深成岩の形成過程に原因があるようで、もっともらしい説明は、安山岩質のマグマが深成岩として上昇・固結する過程で、早期に結晶化したカンラン石や輝石は残存するマグマより比重が大きいため沈降したり周囲の岩石に付着し、結晶分化した残存マグマから低温晶出した角閃石・黒雲母に富む深成岩が造られて現在地表に現れたためだと結晶分化作用で説明できますが、現実にそうであったのかどうか私には全く分かりません。

三重県中部の苦鉄質岩

三重中部地域の斑レイ岩について。しかしそこに含まれる有色鉱物も角閃石や黒雲母が結構多く輝石は思ったほど多く有りません。

津市西部笹子川の転石の角閃石斑レイ岩 有色鉱物の比率は35-50%程度で角閃石が多い。見た目は暗褐色の塊

同上斑レイ岩写真 鉱物は斜長石 ・角閃石 他に黒雲母・不透明鉱物も多い。クロスニコルの写真 中央部分の結晶は角閃石の斜行する劈開線が良く出ている

これは斑レイ岩がカンラン石と輝石を主体とし角閃石や黒雲母は二次的な鉱物だとの認識から外れるものですが、形成時の条件によっては、カンラン石と角閃石が卓越する岩相もあるようですから、析出する鉱物組み合わせは,条件に応じて変化し単純にカンラン石と輝石とはならないようです。

また岩石が生まれたのは気も遠くなるほど大昔の白亜紀-古第三紀なので、今日に至るまでの間に輝石が交代変成作用を受けて角閃石や黒雲母その他の鉱物に遷移したこともあります。風化の激しい転石ではなく斑レイ岩の岩体から切り出した石でも、輝石の多くが他の変成鉱物に交代していたりします。

その他、津市西部安濃川上流部と南長野川の転石から作った何種類かの斑レイ岩のクロスニコルの写真を示します。輝石の結晶を含むものはわずかで角閃石と黒雲母主体、伊豆の安山岩に見られるような新鮮な結晶はまず見つかりません。

私の知る限り輝石は変質がひどい。特に最後の写真はほとんど全て角閃石・雲母・緑泥石等の変成鉱物に交代している

5万分の1地質図幅 津西部には南長野川沿いに単斜輝石ノーライトの露頭の記載があります。ノーライトは斜方輝石 (主紫蘇輝石) を主とする斑糲岩のことで、この辺ではまずお目にかかれない石です

上はその薄片写真で斜長石結晶と競合して成長したような感じで斜長石の粒間を埋めるがその多くが変質している様子

こちらも残念ながら西伊豆の石に見られるような自形のきれいな結晶ではありません。

一方、西伊豆の安山岩中の輝石の結晶の写真を抜き出してみますと、この違いがはっきり分かります。西伊豆の安山岩中の輝石は、噴火した衝撃で結晶が砕けたりはしているものの、輝石の結晶形を明確に保っていて等質で殆ど変成もみられません。

双晶を見せる西伊豆の安山岩中の単斜輝石。双晶を伴い内包物は多いが結晶形ははっきりしている

噴火の衝撃で砕けたと思われる斜方輝石の長柱状結晶

先に取り上げた西伊豆の石がどこの岩体に由来するものか定かでは有りませんが、シームレス地質図では西伊豆海岸の後背地に中新世・鮮新世・更新世と様々な時期に生まれた苦鉄質火山岩体が方々に見られます。古いものでは2000万年前後・新しいものでは数十万年前のものです。

一方三重県で見られる苦鉄質岩は6000万年以前の白亜紀起源であり西伊豆の石に比べると圧倒的に古く、形成されてから今日に至るまで目もくらむような時の流れと様々な地球史上の変遷をへて今日に至ったことを考えれば、西伊豆の石が新鮮なのも当然でしょうか。

以上 西伊豆の火山岩に含まれる輝石をきっかけにして三重県で見られる輝石についても考えてみました。

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