鈴鹿山脈東部・鈴鹿花崗岩

2015.05.23  御在所山山頂遊歩道よりの鎌ヶ岳北面。全山花崗岩の山で山頂部の南面と北面では山肌の崩落が激しい

鈴鹿山脈東部・鈴鹿花崗岩

鈴鹿山脈の中でも竜ヶ岳の南面から、三池岳、釈迦ヶ岳、御在所山、鎌ヶ岳、仙ヶ岳、高畑山、油日岳へと続く主稜線の山々には地表に花崗岩が露出して表層を覆い現在も隆起を続けています。

一般に花崗岩は付加体を形成する硬質の砂泥岩やチャート、海洋底玄武岩、石灰岩などよりも結晶粒が荒く、間隙水の凍結膨張による風化を強く受けます。さらに隆起速度が速いこともあいまって山腹は崩落が絶えず、方々の山で山頂から山腹にかけて風化して崩れ落ちた花崗岩が露出し花崗岩地形をつくっています。

2009.06.13  花崗岩の鋭鋒 鎌ヶ岳の南西面の大ガレ。無数の節理が入った岩塊は浸透水の凍結膨張の繰り返しによって母岩から切り離され徐々に崩落して行く

鎌ヶ岳・南西面下のニゴリ谷源頭部は崩落した花崗岩塊で埋まっている

鎌ヶ岳北面・三ツ口谷へと崩落する大ガレ。ガレは登山道のある県境尾根まで達し、上部は鎌ヶ岳山頂部より風化崩壊が始まっている

このような光景は鎌ヶ岳・御在所山・釈迦ヶ岳など県境尾根を形作る花崗岩の山では日常的な眺めで、白色の花崗岩露頭や崩落地と木々に覆われた周囲の山肌とのコントラストは時にカメラの良い被写体となってくれます。

2020.11.11腰越谷へと崩落する祓戸の北西斜面。秋色濃い祓戸南面と白く浮き立った花崗岩の岩壁は美しい対比をみせる。 腰越峠より

2012.05.30 新葉に覆われた初夏の鎌尾根。尾根を歩くとこの季節は石楠花の美しい花と出会えるが花崗岩の風化地帯にも方々で出会う

2011.12.14  鎌尾根・1028mピークの先より見た衝立岩。急峻な花崗岩地形で背後に鎌ヶ岳のピークが覗く

一般に花崗岩地形は風化浸食の程度が早いため、隆起の中心部と見られる県境尾根部分でも隆起した端から東西両面より河川の浸食をうけ、分水嶺となる尾根筋の両側に深い谷を持つ山が普通です。鎌ヶ岳から南に延びる鎌尾根や仙ヶ岳・南尾根などはそのよい例でしょう。

2014.04.13 まだ冬枯れの鎌ヶ岳と南に延びる鎌尾根。白く抜けているのは花崗岩の露頭

2022.05.29  国見岳から遠望する釈迦ヶ岳。山腹の方々が崩落して剥き出しになったマサと花崗岩露頭とが白く抜けている

2020.11.11 祓戸山頂よりの釈迦ヶ岳 山腹は秋色の色濃く山頂部は既に落葉して冬枯れの山は花崗岩の白との対比が目立つ

中峠からの釈迦ヶ岳 庵座谷上部の花崗岩の大崩落によって遠くからでもこの山は良く分かる

好酸性植物・ツツジ科の世界

このような花崗岩地帯の土壌は石質に富み弱酸性で貧栄養なので一般に植物の生育には向きませんが、その反面酸性土壌を好み岩場にも強いアセビ、アカヤシオ・シロヤシオ・ミツバツツジ・ヤマツツジ・ホンシャクナゲ・サラサドウダン・ベニドウダン・ツリガネツツジなどのツツジ科の植物が多く分布します。

ヤシオの春 

2014.05.10 巨岩とアカヤシオの御在所山・北谷南東斜面  

御在所山のアカヤシオ群落

ピンクのアカヤシオと淡い紫のミツバツツジは鈴鹿の山では馬酔木についでコブシなどとともに最も早く開するツツジの仲間です。ほぼ同時期に同じ様な環境で花開くため、遠目には違いがわからないことがあります。

ゴールデンウイークを挟む4月後半から5月にかけて、御在所山周辺の山腹はアカヤシオを筆頭にツツジ科の植物が次々と花開き、鈴鹿の山々は最も瑞々しい美しさに包まれます。ことにアカヤシオやシロヤシオは御在所山や国見岳、釈迦ヶ岳、竜ヶ岳などの県境尾根や山腹に群落をつくり鈴鹿の春を美しく彩ります。

上は竜ヶ岳南面のシロヤシオ。下の写真は竜ヶ岳北面のシロヤシオの群落。竜ヶ岳の山頂部以北にはもはや鈴鹿花崗岩の露出はなく古生代の付加体が表層に露出していますが、美しいシロヤシオの群落を見ることができる。

以下は猫岳から釈迦ヶ岳にかけてのシロヤシオ群落。県境稜線沿いの登山道周辺に群生するヤシオの盛期には無数の白花が咲き乱れる

山頂稜線部の貧栄養土壌にも適合して群生し、美しい花を咲かせるシロヤシオも私達人間が山頂部に踏み入って踏み跡を刻むとそこから土壌が失われ草木の衰退が始まります。山を愛する人間が同時に山の自然を少しづつ破壊して行くのはなんとも皮肉で悲しいことです。

ヤマツツジ

ヤシオに比べると群れることが少ない赤いヤマツツジ。花の少ない山中の登山道でヤマツツジの鮮やかな花に出会うと、心も和み孤独なこの花のありがたさが分かります。

ドウダンツツジ

御在所山や国見岳の山頂部分には登山道の周辺に多くのドウダンツツジが見られます。ドウダンツツジの仲間は花が小さくヤシオやシャクナゲに比べると花の豪華さはないけれど釣鐘状の小花が連なって咲く姿には独特の美しさがあります。

シャクナゲ咲く

ツツジ科の中でも豪華な花をつけるシャクナゲも、山の稜線や山腹ではその花の華麗さが災いして風雨に打たれて傷みやすいので、美しく開花した株に出会えるとひときわ喜びが募ります。

下は釈迦ヶ岳山腹に咲くシャクナゲ  2023. 5. 10

以下は八風中峠周辺に咲くシャクナゲ  2021. 5. 9

鎌ヶ岳から南へと伸びる県境尾根 (鎌尾根) の周辺にはシャクナゲが点在する。きついコースに辟易しながらも目に飛び込んでくるシャクナゲの華やかな姿はなによりの励ましに思える  2012. 5. 30

花崗岩帯・奇岩の山々

結晶粒度の大きい花崗岩は間隙水の浸透凍結による破砕を受けやすく岩体の亀裂による崩落が絶えません。しかし花崗岩の結晶粒度や鉱物組成には地域差が大きく風化の耐性が異なるため、御在所山の東面や国見岳の山腹には風化に対して抵抗力のある細粒・中粒の花崗岩が崩壊を免れて切り立った崖や巨岩の露頭を形成し独特の風景を見せています。

2021.05.30 国見岳から見た初夏の御在所山山頂部  晴天下、やや逆行気味のアングルから撮影しているため藤内壁のある北谷側の山腹は影が多い。御在所山東面は北側の北谷、南側の本谷が刻む切り立った花崗岩の岩場で覆われている

2014.05.10 御在所山・北谷より見上げる藤内壁。沢をたどるクライマーが小さく見える

2014.05.10 アカヤシオ咲くクライミングで有名な藤内壁。風化にある程度耐性のある細・中粒花崗岩の巨大な露頭

2022.05.29 御在所北谷より見上げる南東陵の地蔵岩と立岩 

2009.05.09 御在所山 一の谷新道より見上げる大黒岩。この面にも鷹見岩や恵比須岩など奇岩が多い

2022.05.29  国見尾根・天狗岩  県境尾根の花崗岩帯には奇岩・奇石が多くそれぞれに面白い名前がある

2014.05.19 仙ヶ岳・南尾根  両面を矢原川・不動谷と安楽川・白谷に開析され尾根上には花崗岩ピークが連続する

2014.05.19 仙ヶ岳・南尾根  不動の祠から仙の石へと続く尾根筋は、高度を上げるにしたがって次々に新たな展望が開けて鈴鹿の山の醍醐味を満喫できる

2014.05.19 仙ヶ岳・南尾根  右端ピークの仙の石中央部に第2峰、その背後に第1峰が見え隠れする

こうして見ると鈴鹿山脈の花崗岩帯は、岩塊とそれを取り巻く森林帯との鮮やかな対比によって見事な景観を生み出していることが分かります。

花崗岩の固結深度の違いや鉱物組成の違いが場所によって風化の程度に大きな差を生み、マサの崩壊土壌から強固な巨石群と様々な姿をとって存在し、心に和む風景から目を見張る絶景までを創造してくれた自然の力に感動するばかりです。

また春の開花期には、足元の岩場にはイワカガミやイワウチワなどの可憐な花々の姿も見られ山歩きの愉しさは尽きません。このように変化に富んだ花崗岩の山々が近くにあることに深く感謝するばかりです。