我が家の周りの里山には、昔からキツネが住んでいる。彼らが餌にしているはずの蛙や鼠や兎も近頃はめっきり数が減り、さぞかし住みづらいと思うのだが、それでも何とか人から身を隠して影のように生活している。

実際にキツネの姿を目撃できるのは極めて稀で、年に数度もあればいいほうなのだが、彼らの生活の痕跡は、雨上がりの畑に残された足跡や、雪降りの後の田畑や道路に残された足跡によってはっきりと見て取ることができる。今年は同時に大小二つの足跡が見られることから推測すると、現在家の周りを徘徊しているキツネは最低2匹以上である。

実際にキツネの姿を目撃できるのは極めて稀で、年に数度もあればいいほうなのだが、彼らの生活の痕跡は、雨上がりの畑に残された足跡や、雪降りの後の田畑や道路に残された足跡によってはっきりと見て取ることができる。今年は同時に大小二つの足跡が見られることから推測すると、現在家の周りを徘徊しているキツネは最低2匹以上である。

私の散歩道 雪の後は普段気付かない獣の息吹に触れることができる。

3年前の冬に、次女と小学校プールからハンミョウ山に通じる小道を散歩していて、同時に2匹のキツネに出会ったことがある。彼らが単独でいたら、たぶん彼らの方が先に私たちを発見して、姿を見られる前に隠れてしまっただろう。しかしこのときは2匹いたおかげで、たぶん彼らが私たちに気付くのが遅れ、姿をみられてしまったようだ。

山道の真中で30m程の距離を鋏んでその一匹と目が合ったのだが、彼は暫くこちらと目を合わせたまま逃げようとはしなかった。私が子供に合図して少し体を動かした隙をついて、彼は「厄介な連中にぶっかった、ひとまず逃げるか」といかにも不愉快そうな視線を残して森の中に消えていった。

私がその後を追いかけようとしたとき、右手の山の斜面にもう一匹のキツネが居るのに気付いた。こちらはもうずっと前から私たちの方を伺っていたらしく、やっと気付いたのかい、とでもいいたげに、私たちの目の前を堂々と横切って、先のキツネが消えた後をたどって、森に消えていった。同時に2匹のキツネに出会ったのは此れが初めてで、子供と二人で大いに興奮し感動したものだ。

たぶん彼らはキツネの夫婦で、このときは、どちらもその大きさに大差が無いように感じたが、あるいはこのキツネたちがまだ頑張っているのかもしれない。

昼間に、キツネの姿を見るのは、よほど幸運に恵まれないと難しいが、幸い彼らは夜間に頻繁に活動して、足跡を残す。足跡を確認するのに最適な場所は、耕したばかりの畑に雨が降り、土が柔らかいふかふかの状態になったときである。こんな畑はキツネだけでなく、ノウサギ、狸はてはイタチのような可愛い動物の足跡までもくっきりと残してくれる。冬場なら夜間に雪が降り積もった時で、人間に踏み荒らされる前に早起きして見回れば、田畑、道路を問わず雪の降り積もった全ての場所で、野生動物の夜間の活動の痕跡を鮮やかに記録してくれる。

雪道のキツネの足跡 左側は奥から手前へ、右側は往復した足跡

デルスウザーラのように数日前に残された生き物の足跡からでも、その動物がそのとき其処で何をやろうとしたのか理解できるような感覚をもてたらどんなにいいだろうと思うのだが、時には私にも彼らの動きが理解できることがある。

まだ次女か゛小学校低学年の頃の事だが、二月の大雪後の乾田にキツネとノウサギの足跡を見つけて子供と後をつけたことがある。このときキツネはノウサギの足跡をたどっていたのだが、突然ウサギの足跡が、全速のジャンピングに変わり、田の中ほどで、著しい鋭角を描いて右斜め後方に飛び跳ねていた。キツネの足跡も一気に歩幅を広げ、ウサギが急ターンした辺りでウサギに躍りかかって捕らえ損ねた後が雪の上にくっきりと残っている。ウサギは信じられないほどの跳躍力で右手の田の斜面を駆け上がって杉の森に駆け込んでいた。もちろんキツネもその跡を追っていたが、私にたどれるのは森の手前までで、それ以降のことはどうなったのか判らない。

森に逃げ込んでも、相手は野生のキツネである。あるいは彼のほうがブッシュの中の狩は得意かもしれない。ノウサギは果たして上手く逃げおおせたのだろうか。

冬場は蛙やトカゲも冬眠し食糧難の季節だから、ウサギの足跡の多い場所にはたいていキツネの足跡も見られる。あるいはまたキツネの狩の瞬間の痕跡に出会えないかと、雪降りの朝は早起きして周辺を歩き回るのだが、あの時以来残念ながらキツネの狩の現場に出会えたことはまだ無い。

それでも一度キツネと、真直に出会ったことがある。昨年の2月11日のことで、この日は前日からサルの群れが前の山に来て騒いでいた。朝から猿の若者組が、中ノ川の牛谷橋を越えて人家を伺い、私はサルの写真を撮るために、カメラを担いで川向こうの猿の群れに近づいていた。

厄介物のサルの群れ 里で作物が実ると待ち構えて荒らしにやってくる。

前の杉林の中に50頭近い群れがおり、子ザルを連れた母ザルが何頭も山と田の堺をうろついて餌(籾の残りがまだあるのだろうか)を探している。頭数が多いせいか、メスや子ザル達は私が近くに接近しても、あまり怖がらず、右手山肌の杉の木々に陣取った雄猿どもに人間の威嚇を任して悠々と餌を漁っている。

その手前に居る一回り大きなオスが、時折鋭い目付きでこちらをにらみつけ、人間など相手にする価値も無いわ、といった態度で悠然と振舞っているが、こいつがボスなのだ。

その態度の裏に少なからぬ緊張があることが伺えるが、メスや子供にはその余裕が安心感を与えるのだろう。子ザルどもを写してやろうと道の脇に膝を立ててカメラを構えだしたとき、20m程離れた段々田の上に獣が居るのに気付いた。

上段の休耕田に生えた枯草が体を隠してよく見えないのだが、少し位置を変えると、そいつがキツネであることがわかった。キツネは後方にいる雌ザルの群れとその周りで騒いでいる子ザル達に注意を集中し、私が居ることに気付かないのだ。

猿の群れにしても、毒にも薬にもならない人間などよりも、自分たちの群れの至近距離で子ザル達を伺っている野生のキツネの方が遥かに要注意なのだろう。

何はともあれ、キツネをこれほど近くで見れることなどめったに無い。、カメラを構えて、彼がはっきり捉えられるところまで身を低くして前進しシャッターを押した瞬間に彼も私に気付いた。姿勢を変えるとその隙を突いて逃げることは此れまでの経験で判っていたから、そのままの姿勢で連写する。

私に気付いた。どことなく悲しげで、彼らの生きる悲哀を象徴しているようだ。

キツネは私に気付いてからもまだ子ザルたちに未練があるらしく、チラッとそちらを伺ったが、すぐに身を翻してサルの群れの中を突き切り、杉林の奥に消えた。

このときに写したのが、私の持つ僅かなキツネの写真の一枚である。もう一つ、自宅の2階から前の田を横切るキツネをDVビデオで取ったムービーがある。秋の田の中で、カエルかネズミを捕まえようとしている可愛いキツネの姿が写っている。

DVビデオ画像から切り取ったキツネの写真。距離は約200mある。

普段なかなかキツネの姿が見れないだけに、どちらも私には懐かしく楽しい写真である。