以前、岩石薄片の製作工程 ( 岩石薄片の製作 ) のことを書いたのですが、その中にある薄片切断研磨器について少し詳しく知りたいとの方が見えたので、自作の切断研磨装置について改めて書いてみました。
上は以前に作った岩石薄片製作のタイトルページ。製作方法はこのサイトを見てください。写真をクリックするとサイトへ飛びます
この岩石切断研磨器に限らず、素人が自力で何らかのものづくりを行うためには、部材を加工したり組み付けたりするために必要最小限、電動ドリルやディスクグラインダーなどある程度の家庭用電動器具や作業工具の取り扱いに習熟していることが前提となりますから留意してください。
素人の薄片製作において最も厄介な工程が、岩石を切り出してその表面を平滑にする岩石の切り出し研磨工程で、私の場合標本は45mmX35mmのガラス板に貼り付けますから、標本とする石もほぼこれに近い大きさで切り出す必要があります。
上左は薄片用に切り出した岩石片。右は表面研磨し標本用ガラスへ貼り付けたもの。この後貼り付けた石を削って行き0.03mm厚となるように切断研磨する
切り出した石は表面をガラスに密着するように表面研磨してエポキシ接着剤でガラスに貼り付け、接着剤が硬化したら、貼り付けた反対側の面から電動器具で石を薄く切断・研磨して行きます。
上は昨年に作った薄片。素人の研磨ではガラス面一杯に標本を貼り付けても研磨の過程で片減りしたり、ガラスに微妙な凹凸があって均一に厚みが出なかったりするから貼り付けた標本の50%程度は失われることが多い。
石の厚みが0.3~0.5mm程度まで落ちたら、あとは手作業で標本を研磨し厚みが0.03mmに近くなるように整えます。
私は今も300枚ほど薄片を所持しているが切断研磨の過程で破損したりガラスから剥離して破棄するものが何割か出るので、私の制作方法はかなり効率の悪いものだと思う
しかし固結の悪い近世の凝灰岩や堆積岩であれば石を四角く切り出し、その平面を平滑に研ぎ出すのもさほどの苦労もなく行えるのですが、一般に岩石は硬度の高い鉱物結晶の緻密な集まりで簡単に切ったり削ったりできる素材ではありません。
我々が石を切断したり平滑に研ぎ出したりするには、ダイヤモンドやカーボランダムの超硬研磨剤を埋め込んだ切断ディスクや研磨ディスクを用いなければとても素人の手に負えるものではありません。
私が石材の切断研磨用に使用している石材用ディスク。切断用ディスクも研磨用ディスクもそのタイプに応じて一長一短があり石材の種類や用途で使い分ける
このための手っ取り早い方法としては岩石薄片の制作工程で書いたように、ディスクグラインダーに石材砥石を装着して手持ち作業で石を切り出し研磨する事である程度可能ですが、ガラス板に貼り付けた標本の表面を研削・研磨して0.03mmの標本厚みまで研ぎ落とすには無理があり、熟練してもせいぜい0.5~1mm辺りが限界ではないかと思われます。
最後の研磨は手作業に頼る。私の場合研磨剤はもっぱら耐水ペーパー、金剛砂を使うのも良い
そこからは手作業で研磨を行い標本厚みを0.03mmになるまで研ぎ出しますが、手作業では厚みを0.1mm落とすのも結構な手間と時間を要するため、1mm近い標本面を0.03mmまでに仕上げるにはうんざりする程の労力が必要となります。
このため手持ち作業に頼っていた電動器具を据え置きとし、硬い標本も安全、正確に削り出せるよう作業治具を工夫して少なくとも0.2~0.3mmの暑さまで電動器具で削り込み、可能な限り手作業までの研磨作業を助ける工夫が必要となります。
ガラスに接着した石の標本面を手作業で研磨しやすい厚みまで研削するため切断研磨装置を使う
私にとっては石材の切断研磨装置は最終研磨に移るまでの工程を助けるための道具であり、あくまでも最後の研磨は手作業となります。レンズ研磨機のように仕上げ工程まで機械研磨してくれるものではありません。
最初期の装置は20年以上も前に作ったもので、丸鋸を逆さにしてアルミテーブルを取り付け、可動ガイド板を立てただけの簡単なものでしたが、石の切断には手持ちのグラインダーよりも役に立ちました。
上は後に作った初号機の改造版。テーブルを鋼板とし丸鋸のカバーも撤去、刃の交換を容易にしてある
テーブルの裏面。木材を切断したため木工用の刃が装着してあるが石材用ディスクを装着すれば石材切断器となる
切断ガイド板はバーニャ駆動のものに入れ替えると簡便な薄片切断器となる。この構造であれば自作も割と簡単に行える。
初号機の構造は、丸鋸テーブルの刃を石材用ディスクに交換しただけの簡単なものですから自作を試みられる方は、まずこのタイプをお勧めします。
ガイド板にマイクロメーターを取り付け、切断の厚みが微調整できるようにしてやればガラスに貼り付けた標本を0.5mmほどの厚みに切り出すことも可能です。
微調整用のマイクロメーターを取り付けた稼働ガイド板。0.01mm単位で切断厚み調整ができる
上のようなマイクロメーターを用いた可動テーブルは産業用の機材として市販されていますからそれらを利用するか、上写真右のようにアルミ部材にリニアレールを取り付けてスライドテーブルとしマイクロメーターのバーニャを取り外して取り付けても自作できます。
私が岩石切断器を初めて組んだ頃は、これらの機材はシグマ光機など国産メーカー品しか手に入らず少なからず高価な商品でしたが、近年では中華通販でかなり安価に入手できるようになりましたから中華製品を買い入れるのが得策でしょうか。
上はAliExpressで売っている40mmのスライドテーブル。かなり高価だが国産品よりは遥かに安いか・・
ただしマイクロメーターの精度が1/100 mmあっても、実際の切断厚みがこの精度で切り出せる訳ではなく、切断精度は良くても0.3~0.2mmになるので最低でも0.3mm程の切り出し余裕を持って厚み設定をせねばなりません。
ガイド板にガラス面を押し付けて石を削って行くが、このとき刃先が僅かに反り返る
精度が出せない最大の理由は切断に用いるディスクのブレ ( 反り ) で、回転軸の前後ブレは技術的に抑えることができますが、ディスクの反りは如何ともしがたく、厚み数mm程度の切断ディスクでは、負荷がかかればディスクの刃先は0.1mm程度なら簡単に左右に振ってしまいます。
その他にも石の材質に依って削り込み量が違うことや、稼働ガイド板にもブレが生じるので思うような精度は出せず、標本厚みを0.4mm前後に落とし込むにはそれなりの経験と勘が必要となります。
次の問題は切断に使用する石材用ディスクです。私が始めた頃とは違い現在では様々な石材用ディスクを通販等で買うことができますが、値段やサイズや刃の形状もまちまちなおびただしい種類が選択肢にあってどれが良いものか大変に迷うところです。
上は中華通販で買い入れた石材切断ディスク。左端のように超硬の微細砥粒をブレード部分に電着したものから、ブレード部分の形状に様々な形をつけたものと様々で、種類によって切断性能や耐久性が異なる
私の乏しい経験では、切断砥粒が細かいディスクほど石に与える負担が少なく綺麗に切断でき、刃の構造が荒いものほど切断時の石にかかる負担が大きくなります。
ディスクの寿命はこの反対で刃の荒いものほど耐久性があり、葉の細かいものほど耐久性は乏しいようです。
上は240グリッドのダイヤモンドディスクでカメラ用43mmPLフィルターを25mmに減径しているところ。この様な刃を用いるとガラス程度の柔らかい鉱物は紙のように切れる
上の写真のディスクでは綺麗にガラス板を切り出していますが、この刃で石材をガンガン切り出したとすれば、多分たちまちに電着粒子が剥がれて切れなくなってしまうと思われます。
一枚何万円もするような高価な刃を用いれば耐久性は確保できるのかもしれませんが、私のようにささやかな趣味の一つとして薄片製作を行っている者にとっては数百円から数千円の程度で買える中華製ディスクが手近な商品となっており、なるべく耐久性と切断性能共に確保できる安価なディスクを選ぶこととなります。
中華製ディスクを買い入れる際問題となるのは軸穴の径で、中華製の工作機器はヨーロッパ同様にインチ規格で(電源も220Vもしくは動力380V規格)で作られていますから国産のJIS規格の軸径には合わないことが多いです。
軸径にディスクの穴径を合わすための色んなアダプタリングと抑えワッシャ
ディスクのメーカーが数種類のアダプタリングを同梱してくれることもあり、問題なしに取り付けられることも多いですが時には自分でアダプタリングを作る事が必要な場合も生じます。
13.2mmの軸に22.23mmの軸穴の7インチ石材ディスクを装着するためボス径22.2mmのアタッチメントをフライス加工しているところ。
上のようにフライスや旋盤加工が必要になるとまず一般には難しいですから、その辺りは問題が生じないかディスクを買い入れる前に十分に考えておく必要があります。
切断時のディスク回転数は標本に与えるストレスに影響しますからモーターには調速装置を取り付けるのが望まれます。グラインダーや丸鋸に使われている交流整流子モーターは基本的に直流機と変わりませんからサイリスタによるPWM制御器で電機子電圧を変えてやると回転数を変えることができます。
上写真 黒ダイヤルの部品がPWMの調速制御器。中華通販では1000Wのものが数百円で買える
ただ電動丸ノコのように安全性のためブレーキ機構を内蔵しているモーターでは丸鋸のトリガスイッチに回生ブレーキ用のコイル動作が連動しているので調速器でモーターの電圧を下げてしまうとブレーキが満足に働かなくなります。このためモーターの運転停止を外部回路で行う場合は、リレーを用いてモーター巻線の配線切り替えを行ってやる必要があります。
電気回路が読める方のために外部の押しボタンで運転停止させる回路を示します。AリレーはAC100V用の小型リレーがなかったためDC24Vのミニチュアリレーで間に合わせたものです。
調速制御器で電圧を変えるとある程度は回生制動のブレーキ動作に影響が出ますが、電磁ブレーキ付モーターのように印加電圧でブレーキの開放を行う訳ではないので、まあ使っている限り問題なく動作します。
電気回路をいじれない方は、丸鋸のトリガスイッチを機械的にON状態で固定して、100V電源回路を直接入り切りするスイッチを取り付けても構いません。この状態では停止時のブレーキは働きませんが好きな場所にON・OFFスイッチを付けられます。
ただしこの状態で電源を切ると、コイル内の電流の逃げ場がなくなってしまうので、丸鋸と並列にバリスタ電圧200V程度のZNRを取り付けておけば安心です。
もう一つの問題は切断時に発生する粉塵です。石材の研磨紛は金属の研磨剤ですからモーターの内部に吸引されて回転摺動部分に混入すると部品の摩耗を引き起こしますから、モーターの吸気部から研磨紛が吸い込まれないような工夫が必要です。
以上のような問題がクリアできるのであれば、小型の丸鋸盤を買い入れるなり、丸鋸に独自にテーブルを制作するなりして、必要な装備を施せば割合簡単にこのタイプ装置は実現できると思います。
ただ初号機では、ガラスに貼り付けた標本の切断に精度が出なかったため、その後、可動部を大幅に改善して、切断精度を高めた下の岩石切断器に変更しました。
両頭グラインダーを用いた薄片切断器。切断用のディスクを装着してディスクの振れを補正しているところ。石の種類にも依るが、この様な刃の荒いディスクでも0.5mm前後までならなんとか切断できた。
テーブルは微調ネジで前後させテーブル上に取り付けたガラス板のホルダーに固定した標本を切断する
このグラインダーは、単相2極コンデンサモーターでモーター直軸の右ヘッドは3600rpm 左ヘッドには1/2減速ギャボックスが装置されていて1800rpmで回転します。
誘導モーターですからインバーターを用いないと回転数を可変できません。しかし堅牢な密閉式モーターで軸の防水性能が高く、標本の水切りが可能でしたからディスクを何度も取り替え10年近く使いました。
この工具も現在では薄片作業からは退いて本来の金属加工研磨用として使用している。左右のヘッドにネジ軸で前後調整できるテーブルが装備されていて標本の切断に威力を発揮したが、今日ではこのような工具を入手することは不可能だろう
マキタの両頭グラインダーを改造して拵えましたが、初号機の際同様に、当時はネットも未成熟で殆どこの手の記事はありませんでしたから、切断器の構想から研削用のデイスクの選定まで手探りの状態で始めたものです。
上はガラスに貼り付けた標本を切断する様子。ディスクのカバー下部に水を満たして水切りします
この装置の最大の特徴は、標本をアルミ製のカセットホルダーに装置して背後から真空吸引しておき、グラインダーに装備されていたネジ軸で前後する可動テーブルによって微動送りで標本の切断が可能でした。
このグラインダーは戦後高度成長時期の商品で現在の入手は不可能ですから、これと同型の装置を作るなら、両頭グラインダーに高精度のリニアステージを取り付け、そこに標本吸着用のカセットホルダーを装着する構成になるかと思います。
ディスクに対して平行な切断用テーブル送りは、手で持って前後させればボールねじ等の微調構造は特に必要ないので上にあるような安価なリニアレールを用いるのが得策かと思います。
上の商品はレールを半分に切断しても100mm程の長さが確保できるので送りテーブルの振れを抑えるため2列配置にして使用できます。
並行にした2個のスライドブロック上にマイクロメーターを装置した可動テーブルを乗せ、その上に標本吸着用のカセットホルダーを取り付けます。カセットについては、吸引法等、最後の装置のところに少し詳しく書きますからそちらも見てください。
標本吸着用カセット。吸着面に密着性を高めるための厚手の緩衝防止テープを張り替えているところ。カセットはアルミの部材を組み合わせて作ってある。
このあたりの工作は動作中に0.1mmのブレが生じても標本の切断厚みに影響が出るので、できる限り堅牢に作ることが必要です。
切断ディスクの径が小さいと、切断時のカセットを前後させる空間を確保するのが難しいのでなるべく外径の大きなディスクを装着できる工具が望ましいですが、製品にも限りがあるのでこの辺は手に入る商品に合わす以外にありません。
必要ならディスクのカバーを取り外してサイズの大きいディスクを装着することになります。
後は手に入るパーツに合わせて、自分なりに構想を練り、どの様な形で組み上げてゆくか考える以外にありません。ものづくりの醍醐味は、他人の模倣ではなく、己の手に届く範囲で目的にあったものを考え、試行錯誤しながら組み上げてゆくことにあるのですから。
この切断機も前後可動テーブルのストロークが短いこともあって、結局新しいものへ更新しましたが、最も多くの標本を作り出した装置でもあり今も懐かしく思えます。
この装置は過去に作った切断機で問題となった箇所をなるべく改善するべく制作したもので、15mmの通し軸の左右に切断専用のディスクと研磨専用のディスクを装置してあり、切断側ディスクでは水切りも行えるような構造としたものです。
かなり無骨な形をしていますが、色々考えた末にこの様な形に落ち着いたものです。切断テーブルの上に微動ガイド板を乗せるとガラスに貼り付けた標本の荒い切断にも使えます。
何か新しいモノ作りを始める際には、まず目的に合う実体を色々と構想してラフスケッチし、その中でものになりそうなものについて、より細部を詰めた作図を行います。
今回は誘導モーターをインバーター駆動する心づもりでしたが、三相モーターは中古の手持ちがあるものの家庭用の単相100V電源で働かせたいので、インバーター駆動の場合は単相電源駆動のインバーターが必要となり0.2kWのものでも25.000円以上の予算が必要となり出費に苦慮していました
アマゾンで売られているFRENIC Mini単相電源入力。三相入力のC2S-2Jに比べると倍圧整流で高圧直流電源を作るため大型コンデンサが必要となって奥行きがかなり広い
三菱からはもっとシンプルでな使いやすそうな単相駆動の三相インバーターが販売されていたが今日では廃番になっている。以下の機種構成100Vクラスが単相100V電源駆動。
幸いにもケースの壊れたジャンク品の丸鋸が手に入ったので回転制御の楽な丸鋸モーターに改めました。サイリスタ調速機なら1000円未満で買えるので大いに助かります。
しかし、手持ちで扱う器具をしっかり固定させるためには、汎用モーターにはないそれなりの苦労も必要となり、骨組みの構造が少し面倒になりました。
丸鋸の固定は3本のディスクカバーとハウジング固定ネジで行う
ディスク駆動はディスクの撓みを抑えるため15mmの通し軸とし左右に180mmの切断ディスクと125mm研削ディスクを取り付けます。
研磨ディスクは軸にネジ切りして固定できますが、切断ディスクは軸にブレなく取り付けるためにそれなりのアタッチメントの製作が必要となります。
DT DIATOOLの7” 180mm切断ディスクと5" 125mm研削ディスク。7”デイスクのボアは22.23mmのため15mm軸に固定するには22.23mmでボス加工したアタッチメントがいる
私は自宅で小型の旋盤やフライスが使えるのでこの辺の加工にも問題は生じませんが、軸やアタッチメントには高精度の段付き加工やボス加工が必要となるので、一般には少しハードルが高いかもしれません。
あくまでも自身の手持ち工具や自身の工作能力で実現できる範囲で構想を立て、加工の難しい部分も他人の力が借りれるなら助けを得て自分の望むものを少しづつ作り上げてゆくことがモノ作りの楽しみだと言えます。
軸の支持は4個の深溝丸玉軸受を用いてアキシャル方向(軸方向)の軸ズレを抑えます。本来ならアンギュラ玉軸受を2個対面で用いれば良いのですがピロブロックに組み込まれたものは見当たらないので安価な丸玉軸受のピロブロックを4個使います。
7” 切断ディスクの固定は軸を13.5mmに減径、ボア13.5mm 22.23mmのボスをつけたアタッチメントでディスクを挟み込み段付き部に固定する。
5" 研削ディスクのネジ径は5/8” 11THREAD 外径15.8mmと15mmの軸に対してはかなり細いのだが山が2.3mmあるのでねじ切りしてやればネジはしっかりかかる。
軸駆動はタイミングベルトを用います。この辺りの機械部品には安価に入手できる中華通販を利用するのも良いでしょう。国産品に比べて精度が出ないきらいはありますがコストパフォーマンスが抜群です。
水切りも視野に入れているので、水の軸方向の侵入を阻止するためピロブロックの手前にオイルシールを取り付けます。
オイルシールの固定は塩ビ材でハウジングをつくり取り付ける
オイルシールの意味は、水切りを行うと回転軸に付着した水が表面張力で軸に張り付いて軸方向に広がり、ベアリングに侵入して転輪やベアリング玉の腐食を招くのでベアリングの手前で阻止するのが目的です。
軸が水没する場合はラビリンス等の併用も必要となりますがこの設備ではそこまでの必要性はありません。
研磨ディスクの前面にはマイクロメーターの微動テーブルを取り付けますが、テーブルの横行はリニアレールを2本並行にしてテーブルのブレを抑えます。
この辺り、移動に精度を求められる部品は市販品に頼らざるを得ない。
40X40mmの可動テーブルの上には標本保持カセットを垂直に取り付けます。標本保持カセットはアルミ材よりフライス加工しましたが、先に両頭グラインダー研削器で使ったようにアルミ部材の組み合わせでも作ることができます。
アルミ材を標本ガラスの厚み1/2程が埋まるように平面研削しガラスの背面から真空吸着させるように吸引口を設けておく。
標本研削装置の心臓部。カセットは正確に垂直平面が出るよう、取り付けにはライナー(シム)を噛ませて位置調整をする。
これらを取り付ける筐体は鋼材を溶接して作りましたが、その気になれば木工でも組むことは可能でしょう。
組み立ての過程でどんどん重くなってゆくため、足回りやステージの部材を細くしすぎてステージの強度がかなり下がってしまいました。カセットホルダーに軸方向の強い力を加えるとテーブルがたわみ、わずかにディスクとの距離が変わりますが0.1mm程度のブレなので今回はこのままで組むことにしました。
強度を上げるために鋼材を太くすると装置重量が一気に上がり、持ち運びに不便をきたす。
骨組みを塗装したら部品をすべて組付け、水切り用のステン薄板を貼り付けてポリ板のカバーを取り付ければほぼ完成。
ステン板を張り付けたら軸の水切り用にオイルシールを取り付けます。
オイルシールの取付ケースとステン板の間にはコーキング材を塗布して張り付けた隙間から水が浸入しないようにしておきます。
水切りした場合に備えて、軸の引き出し口両面に軸内部への軸内部への水の侵入を阻止するためオイルシールを取り付けておく。
最後は筐体中央下部にモーターの制御回路と真空引きのポンプを取り付ければ完成します。
標本カセットは研削中に標本ガラスが脱落しないよう、DC12V駆動の小型吸引ポンプによって標本の裏面ガラスを真空吸着してして保持します。
全体の制御回路は以下の通りです。回生ブレーキを働かすため丸鋸のトリガスイッチ部分を継電器で置き換えています。この辺りの回路は最初の切断機で述べたものと同じです。
操作スイッチの配置を下に示します。右端のスイッチとランプが真空引ポンプのものです。
この装置を組んでから10組ほど標本を作りましたが使い勝手はまずまずでしょうか。まだ装置の癖を十分につかみきっていないので削り込みのミスが出ますが、数をこなして慣れることが必要かと思います。
最後はガラスに貼り付けて研削した標本をカセット保持して回転させながら研磨する研磨器で、最終工程のガラス標本を0.03mmに近づける研磨作業の前半を代替えさせたいと思い作り始めたものです。
残念ながら、この装置はかなり前から弄っているのですが未だに満足な動作が実現できずにいますが、最近の装置の構成は以下の様です。
上写真の装置は小型のステッピングモーターを用いていますが、初期の構想は手元にあったPANAの小型ギャドモーターを低速回転させて行うものでした。
もっぱらノミの研磨に使っていた刃研ぎ器が遊んでいるため、砥石をインバーターで低速回転させてき、その上でカセットホルダーにはめ込んだ標本を一定の押圧のもとで回転させて時間をかけて標本表面を研磨するものです。
Panaの200V 6W 単相200V コンデンサモーター 。主巻線と補助巻線が独立して引き出されている
モーターは銘板にある様に単相200Vのコンデンサモーターですから、回転速度を調整するためには、進相コンデンサを取り去り、主巻線と補助巻線に90度位相差の有る交流を通電し (sinθ+jcosθで回転磁界となる ) 周波数を可変する必要があります。
単相コンデンサモーターの主巻線と補助巻線に三菱の小型インバーターより三相交流を掛けて調速運転している。このモーターはコイルの向きを入れ替えて逆転させるために、主巻線、補助巻線それぞれ2本づつ独立して4本の配線が引き出されている。
但し市販されているインバーターは全て三相モーター仕様ですから、インバーター出力の相間位相差は120度になるため、真円の回転磁界とはならず楕円となりますが、進相コンデンサによる電流自体90度の位相差は実現できず楕円磁界で回りますから三相インバーターを繋いでやれば問題なく回ります。
但しモーター構造が違うため、V/Fモードでのフリ―ランとなり、滑り保証や電流ベクトル制御など三相インバーターでは当たり前の制御は望めません。
当初の計画は、上のラフスケッチの様にギャヘッドの取付穴4本にスライド軸を通し、この軸に沿ってギャドモーターをスライドさせてその自重で砥石面に圧力をかけて研磨する構想でした。
しかし、やってみると4本の軸の取付精度が出せないのか、モーターのスライドが思うようにはスムーズに行かず、モーターを回すと標本が噛み込んだりして良くありません。
また動作電源も単相100Vで駆動できるインバーターの手持ちがなかったため、3相動力駆動のインバーターを使うなど取り扱いが不便であったため、この構想はとん挫しました。
しかし近年、中華通販で3Dプリンター用やCNC彫刻機用としてステッピングモーターとドライバーが手軽に買えるようになったため、これを用いてよりコンパクトな装置をつくることにしました。
上は中華通販で売られている小型ステッピングモーターやドライバー。低価格・高性能で本当に助かる。私は20年程前、在職中に社内のフライスや旋盤の操作の一部を電子化したことがあるが、テーブル駆動に用いた国産のスイッピングモーターやドライバーが結構高額であったのを記憶している。もちろん駆動トルクは遥かに大きいものだが、それを差し引いても大変なコストパフォーマンスだろう。
私は17HS8401 ( Holding Torque 52N.cm ) なる機種を用いましたがドライバーTB6600込で2300円弱でした。
作動用パルスを発生するコントローラーを作る必要がありますが、とりあえずパルス発生用のIC NE555を用いて回転用のパルスと正逆転用のパルス二種を作ってドライバーに入力して動かします。
正規のコントローラーと違い、ソフトスタートがないので運転停止が一瞬で生じ下手をすると標本を噛み込ませる可能性があります。
プログラムによる自動運転を行うためにはPLCやラズパイやArduino、その他ARMマイコンなどのワンボードコンピューターでソフトスタート、ソフトストップの変調パルスを生成してモーター制御を行い、標本の回転と砥石の回転をすべてプログラム化する必要がありますがとりあえずは、このままで動作評価します。
このモーターによる最初の構想は以上のラフスケッチによるものです。標本ホルダーは砥石の上に乗せるだけとし、ホルダーの重しを固定する四本のピンのうち二本にモーターに取り付けたアームを引っ掛けて回転させる構造にしました。
アルミ製のカセットホルダーと重しにする5mm厚鉄板と鉄板を止める3.8Φのピン。
対角にある2本のピンをモーター軸のアームに引っ掛けてカセットを回転させる構想
モーターの取り付けは2mm厚の鉄板を加工して行う。カセットは自重で砥石と接触するのでモーター軸の取り付けにはあまり気を使わなかった
構造がシンプルなため簡単に出来上がりましたが試しに回してみると接触面の僅かな抵抗変化で回転軸のバランスが崩れて標本ガラスの噛み込みが起こります。
先の四軸支持のギャドモーターの場合と似た現象で低速で回してもあまり変わらず、しばらく放置しておくとガラスがカセットから脱落している有り様。
ガラスの研磨面を見てみても周辺部に偏っており中心は削れず、ガラスと砥石面の接触が傾いてしまっている様子。
回転軸の水平はほぼ出ているのでどうもこの研磨方式に問題がありそうです。思うと構造がいかにもガタツキそうな感じでどうも安易に作りすぎました。
そこで再度、標本カセットに8Φの軸を取り付け、この軸とモーター軸を同心のスライド構造にして標本カセットを軸に通したスプリングで砥石に押し付ける構造を考えました。
同軸構造で標本を回転させてバネで砥石に押し付けることにしてみた。
軸は内径8mmのベアリング628ZZで受け軸径をペーパー研磨して8mmより僅かに細くしてベアリング内輪をスムーズに移動できるようにします。
12mm半ねじボルトを8mmに研削し、ベアリングがガタつかずスライドできる程度にペーパーで軸を研磨する。モーター軸嵌合部の加工はこの後で行う
厄介なのはモーター軸が刺さる部分で、自由にスライドでき、なおかつ軸同士が噛み合うようにキー溝に合うような加工が必要となります。
モーター軸のキー溝に合うようにキーを噛ませる。噛み合いが強いと軸がスライドできないし、噛み合いが弱いと軸が掛からず回転が伝わらない。
情けない話、ここに至ってこの構造では、モーターのステン軸がキーを叩いて直にキーが摩耗して標本が回転しなくなるだろうと気づきましたが止むなく組み上げます。
軸は20mm程スムーズにスライドしてスプリングの押圧が砥石に伝わるようにするが、この構造では耐久性がなさそうだ・・・
モーターのステン軸とスムーズにスライドする位置にキーを叩き込み瞬間接着剤で固定してからその上にアルミスリーブを被せてキーの浮き上がりを抑えます。
キーが浮き上がらないようにアルミのスリーブを被せる。キーの強度を見て1mm程軸から飛び出すのでスリーブには1mmのキー溝を切る
一応思い通りのものは出来ました。少しモーター軸に力が加わるとキーが浮き上がったり摩耗したりして回転が伝わらなくなりそうですが、とりあえずこれで試してみる・・・
後はベアリングを取り付けるステージを作り、モーター台に固定して軸を組みます。
ベアリングケースは簡便に大口径の下水管の古から切りだした塩ビ板で削り出す。
モーター取り付け台はそのまま使い、その下部に4本の柱でベアリング固定板を取り付けます。
すべてを組み立てると次のようになります。
モーター駆動の部分だけならかなりコンパクトに組み込めたが、性能の検証はまだ十分に行われていない
刃研ぎ器に装置したところ。刃研ぎ器の回転はインバーターで調速する。
砥石に装置して回転させてみました。回転軸が固定されているため、先に作った装置よりは安定して回りますが、急に止めたりすると力が偏って標本が外れることがあります。
標本ガラスのカセットホルダーに対する固定はなされていないので、ガラスのブレに依ってカセットとガラスの当たり面が摩耗する可能性も高く、このあたりも改善の余地が大いにあると見られます。
自動で研磨させるには正逆転の交互運転行いたいのでソフトスタートの組み込みは必須のようです。砥石の回転も同様に三相インバーターで速度を落として性逆交互運転をかける予定ですから、表面研磨が全面にわたってほぼ平滑に行える目処が立てば、マイコンをプログラムして自動運転化することを進めようかと思っていますが何時実現できるか・・・
下は研磨ディスクを中華製の200Φダイヤモンドディスクに置き換えたもの。砥石によって研磨の性能が大きく左右されるのでどのような砥石を用いるは難しいところ
もう一点、改善が必要と思われるのは、モーター軸とのスライドジョイント部分で、細いモーター軸にスライド軸を挿入するのではなく、噛み合う部分は摩耗を避けるため、MCナイロン等別部材で大きく作り噛み合わすことが必要かと思われます。
ジョイントはモーター軸に固定して、摩耗を避けるために当たり部分の面積を多くする
なお、この刃砥ぎ器のモーターは単相100Vコンデンサモーターですから、モーター電圧の絶縁定格も100V、尖頭値141Vを想定して設計されています。
これに対して三相インバーターの出力電圧は200Vの整流値300V程のピーク値を持つパルス列です。インバーターの出力電圧設定でその平均値は100V以下にも設定できますが、パルスのピークは常に300V近い値を取るので100Vモーターの絶縁定格を大きく超えています。
もちろん、100V単相モーターを200V三相出力のインバーターにつなぐことそのものが製品の想定外で、それによって生じる事故等すべての責任は使用者の責任となります。
私は電気工事や機械設備保全技能等設備取り扱いの資格を有していますから、このような製品の安全基準を無視した使用法を他人に進めるのはもってのほかですが、やってみようと思う方はそれぞれ独自の判断で自己責任で進めてください。
この記事が同じように石に興味を持った方々の何らかの参考になれば幸いです。
ご意見があれば以下のメールアドレスまで御願いします maogoro@gmail.com