たか

下の子がまだ中学の頃、川向うの坂道でフクロウを見たと騒いだことがあった。ずんぐりした白っぽい大きな鳥で、飛んでいる姿がフクロウを思わせる。学校の行き帰りにもう何度も見たという。

このあたりには、もうフクロウはいないし、万一いたとしても昼間は山奥の木の梢で居眠りしているだろう。

子供が見たのはノスリだった。この鳥は川原一帯によく見られ、ことにその年は人慣れしたノスリが家の近辺に住み着いて、そばを通ると道端の木から飛び立ったり、電柱から滑空して離れてゆく姿を頻繁に見ることができた。

たしかに彼らは他の猛禽類に比べる丸みがあってゆったりしており幅広羽の白っぽい個体はハリーポッターに出で来るフクロウを思わせる。

毎年いろんな個体が見られるが、トビに近い大きさのものからカラスとさほどの小さな個体まで、羽毛の色も白いものから茶色いものまで色々で 雌雄や成長の度合いで体型や羽色にかなり変化があるようだ。

週末に犬を連れて散歩していると、頻繁に姿を見かける。彼らは見晴らしの利く場所の木の梢に止まっていて、人が近づくとこちらが気づく前に飛び立ってゆく。まれに木に止まっているのに気づく時もあるが、このような時はかなり近寄っても飛び立たない場合が多いので、人を用心して逃げ去ってしまうのではないようだ。

飛び去ってゆく時も、いかにもわずらわしげで厄介者が来たわいといった風情で飛んでゆくから、見晴らしの利く場所に位置して眼下の田野を見張り、獲物の小動物を待ち受けていたのが、人間の出現でダメになったため、仕方なしに自分から場所替えして行くのだろう。

猛禽類ではあと一種類、トビがこのあたりに住んでいる。トビはノスリを見かける場所よりは西の山寄りに生息しており、私の家は彼らの生活圏の東のはずれに当たっているようである。大空を旋回している姿を見るのは、大抵我が家の西に開けた水田の彼方であることが多い。

上昇気流を捉えるのが巧みで、中空でゆったりと旋回していたと思うと、いつの間にか気流に乗ってどんどん高度をあげ、ほとんど姿を確認するのが難しいほどの高みへ遠ざかって行ってしまう。子供の頃、真夏の青空の中へ吸い込まれてゆく彼らの姿を何時までも眺めては、自分も鳥となって積乱雲のかなたまで昇りつめる夢をみたものだ。

トビ以外には、ハイタカ、オオタカを時折見かけることもあるが、これはたまたまこのあたりに立ち寄ったと云う程度で、自宅近辺を縄張りにしているのはノスリとトビの二種類だ。

この二種は時折番らしい二羽を同時に見かけることもあるから、どこかで繁殖さえしているのだろうが一体彼らは毎日何を食べているのだろう。私は過去30年間川原の自然と接してきたが、残念ながらこれまで一度も彼らが餌を捕まえるところを見たことがない。

子供の頃はトビが蛇や魚を捉えて巣に持ち帰るのをよく見かけたけれど、最近では餌の蛙が減ったせいか蛇もめっきり数が減り、散歩していてもなかなか出会えない。ネットの図鑑を引くと、ノスリの餌は小鳥や小型哺乳類特にモグラキラーとして知られているとあるのだけれど、生き物の多くが消えてしまう冬場と来ては鳥以外はノネズミ、モグラなどの小型哺乳類くらいしか餌となる生物はいないだろうに、ネズミなど過去30年間に私はほとんど目撃した記憶がないのだ。

幸い鷺やハトやヒヨドリ、ムクドリなどは結構生息しているから、ノスリは鳥を主に捕まえているのだろうと想像しているけれど直接狩りの場面を見たわけでなし、確かなことは分からない。

人間が自然志向だから、普通なら人が見向きもしないような田野にも、結構興味と注意を持って観察するのだが、昼間に乾田や休耕田の茂みの中にネズミの類を見つけることなどまずないからいかに猛禽類の目が鋭く、高所に陣取って目を凝らしているからと云って、私が過去三十年もの間ほとんど目にしたことのないネズミの類を毎日やすやすと見つけ出し捕らえる事が出来るのだろうか。

もっとも、我が家の飼い猫はねずみとりが趣味で、毎日4~5時間は屋外に出で周囲の草叢をうろつき、ネズミの物音を聴くと草叢の手前に陣取ってネズミが動くのを待ち受ける。捕獲の確率は低そうだが数日に1匹程度の割合でとらえているようだから、遠目が聴く猛禽類なら草叢で動く僅かなねずみの気配をも察知してネズミも捕まえられるのかもしれない。

モグラにしたって、確かにモグラ穴はそこかしこにあるが、頻繁に地表近くに現れて簡単に捉えられると云うものでもはないだろう。(我が家の犬もモグラを捉えたことがあるが8年以上散歩に連れ出してきて、その間にわずか1回だ。

ノウサギにしても、糞は見られるけれども活動するのはもっぱら夜。私も昼間に何度か出会い姿をカメラに収めたこともあるが、絶えず野原をうろついているわけでもなし、鷹やノスリがウサギを簡単に捕えているとは到底思えない。

冬場に見かける生き物で残るは野鳥の類くらいだ。ヒヨドリなどは年々個体数が増加しているようだけれど、ハヤブサのような敏捷さがなければ、すばしこい小鳥は簡単に捕まらないだろう。カラスあたりなら捕まえられる可能性もあるが、私の見るところ、ここいらではタカよりもカラスのほうが圧倒的に強く、タカが止まっているのを見つけると、数羽で矢継ぎ早に攻撃をしかけ、さんざん追いかけまわしてつつきまわした揚句何処かへ追いやってしまう。

これは相手がトビであろうとノスリであろうとハイタカやハヤブサであろうと同じで、むやみにカラスが騒ぎ立てている場合はまず猛禽類を攻撃しているとみてもよいくらいだ。

私はこれまでカラスが負けたのを目にしたことがないから、カラスなど到底彼らの餌にはなりそうにもない。

こんな風に考えてゆくと、たぶん猛禽類にしても餌をとるのは大変なあるいは必死の作業なのではないか。

悠々と空を舞い、気流にのって見る見るうちに雲の高みまで上昇するその姿を見ていると、まこと優雅にまた気高く思えてくるのだが、彼らの食生活を想像するとその生活は人が思うほどには楽ではないのだろうと思う。

数年前から冬場に、家のすぐ近くで小型の鷹を良く見かける様になった。 11月頃は、小学校へ続く坂道を犬と散歩していると、林の上を二羽で連立って飛んでいるのを三度ほど見た。

大みそか前に犬の散歩から帰る途中、自宅前道路の電線に止まっている小型の鷹を目にして以来、正月休みにも下の子と散歩に出たおり電線にいるのを見たのだが、コンパクトカメラでは遠くて写らなかった。

その後しばらく姿を見せず何処かへ移動したのかと思っていたら今日、電柱の頂上に止まっているのを見つけた。400mmを下げていたから早速近寄って写す。近くで見るとチョウゲンボウのようだ。

何枚か連射したら西の里山の方へ飛び立ったが、たちまち数羽のカラスに攻撃を仕掛けられて鬱陶しそうに視界から消えて言った。カラスの縄張りで生活するのも楽ではないのだ。

彼は冬場にこの辺りの乾田を生活の場にしたようで、毎年冬場になると姿が見られるようになった。12月ころまではイナゴなどの昆虫を餌に出来るだろうが、真冬には何を獲物にしているのだろうか。これまで真冬の狩りの場面に行き合ったことは一度もないので、私には彼らがどんな生活をしているのか良くわからない。