雲母

小学6年の初夏、学校図書館で見た鉱物の図鑑に感動して、しばらく石に興味を持ったことがありました。その時最初に覚えた鉱物が雲母でした。雲母をネットでしらべてみると次のようなものです。

「六角板状の結晶をなす珪酸塩(けいさんえん)鉱物。花崗岩(かこうがん)などに含まれ、薄くはがれやすい。弾性に富み、耐火性が強く、真珠光沢がある。白雲母・黒雲母など数種ある。マイカ。きらら。うんぼ。 デジタル大辞泉」

「雲母(うんも)は、ケイ酸塩鉱物のグループ名。きらら、きら とも呼ばれる。特に電気関係の用途では、英語に由来するマイカの名前で呼ばれる事も多い。英語のmicaはラテン語でmicare(輝くの意)を由来とする。 Wikpedia」

「マイカ,きららとも。弾性に富んだ六角板状のアルミニウムケイ酸塩鉱物で,最も普通の造岩鉱物。単斜晶系または斜方晶系。Al,Kのほか,ときにMg,Fe,Li,Na,Mn,Fなどを含み,化学成分の差により白雲母族(白雲母,絹雲母,チンワルド雲母,リシア雲母,クロム白雲母など)と黒雲母族(黒雲母,金雲母,鉄雲母)の2群に分けられる。構造的にはフィロ型のケイ酸塩鉱物で,へき開は最も完全で底面に平行に紙より薄くはがすことができ,へき開面には真珠光沢,ガラス光沢があり特有な打像が出る。電気絶縁体として利用。工業用材料にフッ素を含んだ雲母が合成されている。 マイペディア」

これらの説明にも有るように、私の子供時代、白雲母は入手が容易で安価な割に高い耐火性を持ち、薄いシート状に剥がれて加工もたやすいことから、トースターや半田ゴテなど高温が必要な平板状ヒーターのほとんどに使用されていました。今日でも、雲母を使用したマイカヒーターはたくさん存在しますが、これらはみな、鉱山から採集されたマイカ(雲母)を原料として合成された二次製品のマイカ板を使用しており、鉱山から採集されたままの鉱物の雲母ではありません。

しかし当時のマイカヒーターは、鉱山で採集された白雲母の板を適当な薄さに剥がして型を整え、その上にニクロム線を巻き付けたうえ、両面に同じ大きさの白雲母版を貼り付けて絶縁したものでしたから、ポップアップ式のトースターを上から覗き込めばその周囲に貼られたマイカヒーターを日常的に目にする機会がありました。

耐火性と絶縁性に優れた白雲母は今も多くの産業製品に使われる。左は半導体絶縁用の白雲母板。右はトースターに組み込まれた合成マイカ板。鉄分を含む黒雲母は絶縁劣化しやすく絶縁材には使われない

また当時、私が電気工作に使っていた半田ゴテにもマイカ絶縁されたヒーターが入っていていました。稀にヒーターのニクロム線が切れると、ヒーターを分解して、マイカ板を剥がし、切れた線をよじってつなげて無理やり修理したものでした。これらのことから当時の私は鉱物としての雲母を知る以前に、製品に組み込まれたマイカ(白雲母)の方に親しみがあったわけです。

雲母類で最も普通に目にするのは黒雲母で花崗岩類の有色鉱物の多くは黒雲母です。呼び名の通り真っ黒な色の雲母ですが黒雲母は独立した種ではなく、マグネシウムMgを含む金雲母と鉄Feを含む鉄雲母の固溶体です。おもな雲母類の化学式は次のようなものです。

金雲母: KMg3AlSi3O10(OH,F)2

鉄雲母:KFe3AlSi3O10(OH,F)2

黒雲母:K(Mg,Fe)3AlSi3O10(OH,F)2(金雲母と鉄雲母の固溶体)

白雲母:KAl2AlSi3O10(OH)2

ソーダ雲母:NaAl2AlSi3O10(OH)2

それぞれの雲母の結晶構造は、二次元平面上に結びついたアルミノ珪酸塩の基本的な構造は同じで、この層間にK.Mg.Fe.Na等の金属原子が挟まって層を結びつけ層状に成長するようです。平面状に展開する珪酸相互の結合力に比べて層間のイオン結合は弱いので簡単に薄く剥がれます。

鉱物としての雲母は多くの火成岩・変成岩・堆積岩の中に普通に見られ、石英、長石とともに岩石を構成する主要な造岩鉱物ですが、ことに花崗岩や閃緑岩中には極めて普通に見られる鉱物になっています。ネットで雲母の写真を検索してみますと、その多くは大きくて綺麗な形をした結晶が現れます。

ウエブサイトの画像検索に登場する雲母の画像。右上の一枚を除いてみな立派な結晶をしている

しかし、私達が普段目にすることのできる石ころの中の雲母の結晶は、これら見栄えのする写真に比べれば遥かに小さくて、形もいびつなものが多く、ルーペで拡大してようやくその細部がわかるといったものがほとんどです。時にはペグマタイト質の岩脈中で大きく成長した雲母を見かけることもありますが、一般的なものではありません。ましてやネットの鉱物写真にあるような立派で美しい姿をした結晶は鉱山等特殊な環境でしかまずお目にかかれないと思います。

火成岩中に含まれる鉱物は、地下のマグマが冷却する過程で、マグマに含まれる様々な原子や分子が鉱物として集合し結晶化して生まれます。鉱物の結晶化はマグマ内部で晶出温度の高いカンラン石や輝石、斜長石から始まり角閃石、黒雲母、石英、カリ長石、白雲母と続きますが、晶出温度はマグマの組成や圧力等によっても左右され幅があるため、何種類もの鉱物がほぼ同じ様な条件で競合し合いながら結晶化します。また同じ鉱物間でも多数の異なった粒が結晶として同時に成長します。

このため普通は一種類の鉱物の結晶、例えば石英(水晶)や黒雲母といった特定の鉱物の単結晶が大きく育つには周囲の鉱物がじゃまになって先ずうまくゆきません。特定の鉱物が大きく成長するためには、それが可能になる様々な特別の条件や環境が必要で、そんな条件にあった特殊な場所は、鉱山として鉱物の採掘が行われたりします。今日ミネラルショップで目にする様々な鉱物の立派な結晶の多くは、世界中の特別な場所から寄せ集められたものす。

私達が普段最も手軽に岩石や鉱物を見ることのできる場所は河川の中流から下流部の河原で、そこには河川源流域・分水嶺以降の地質帯が浸食・削剥され大小様々な転石となって集まってきます。河川の上流水系の地質が複雑で変化に富んでいるほど、中・下流の転石も変化に富むものが多くなります。

三重県北中部の安楽川中流域。背後は後背地の仙ヶ岳から雲母峰にいたる鈴鹿山脈南部の山並

河川の後背地が急峻な山地で平野が少ない地域では、大海に面した海岸線にも大量の転石が集まります。三重県では熊野の七里御浜が有名で、太平洋に面して絶えず荒波のうちよせる海岸では綺麗に磨き上げられ、碁石のようにすべすべした転石を見ることができます。

熊野灘に面した七里御浜には紀伊半島南東部の山地から石が運ばれてくる

私が生活する三重県北中部の河川は、鈴鹿山脈と布引山地を上流水系とし、これら山岳部の地質帯は鈴鹿花崗岩類や領家花崗岩類、領家変成岩類とその源岩となる古期付加体です。これらのうちでも雲母の仲間を良く見ることができるのは、花崗岩や安山岩などの火成岩類と砂岩や泥岩を起源とする変成岩類でしょう。この様な石の幾つかについて雲母を含むものを取り上げてみました。構成は次の通りです。

花崗岩類のマイカ・黒雲母

花崗岩類のマイカ・黒雲母は錆びる

火山岩類のマイカ・六角板状結晶

花崗岩類のマイカ・白雲母

変成岩類のマイカ

混成岩のマイカ

花崗岩類のマイカ・黒雲母

花崗岩類は私が暮らす三重県北中部の鈴鹿山脈や布引山地に広く分布する岩ですが、花崗岩類と言っても石英と長石の白色鉱物が優勢な花崗岩から黒雲母や角閃石の優勢な閃緑岩まで幅が広く、その中間には花崗閃緑岩、トーナル岩、石英閃緑岩等鉱物組成の違いによって色んな分類名がありますが、素人の判断としては白っぽいものは花崗岩、黒味が強いものは閃緑岩程度の理解でも十分でしょう。

含まれる白色鉱物の比率による火成岩類の分類図。おもに中央部周辺が花崗岩類と呼ばれる

花崗岩類に普通に含まれる雲母類は黒雲母です。白雲母を含むものもありますが優白色の鉱物が優勢な花崗岩類では白雲母は目立たず見落としがちになります。鈴鹿や布引の山を源流とする河川で花崗岩類の中にある黒い鉱物の多くは黒雲母と見ても間違いありません。閃緑岩が優勢な地域では、黒色の鉱物に大量の角閃石が混じりますが、白色系鉱物の優勢な花崗岩・花崗閃緑岩・トーナル岩等の中に含まれる有色鉱物は黒雲母が主体です。

次に、この辺りで普通に見られる黒雲母を含む花崗岩類を幾つか上げてみます。

サンプルA

滋賀県側の野洲川支流で拾ったものです。ピンクのカリ長石がよく目立つ石で、鈴鹿山脈では水沢峠に至る尾根筋の沢で似たような花崗岩が見られます

サンプルA 中央部分の拡大写真。サイズはおよそ横50mm✕ 縦33mmです。黒雲母は小径ですが良く分かります

この石は典型的な花崗岩で、紫かかった石英、白色の斜長石、ピンク(下の拡大写真では黄色っぽく写っている)がかったカリ長石及び黒雲母からなります。黒色の鉱物はほとんどが黒雲母ですが、鉱物種不明の不透明鉱物も混じります。この花崗岩には角閃石は存在しません。

サンプルB

次はもっと細粒の花崗岩で関町を流れる鈴鹿川の転石です。上の石より白色鉱物の比率が高くて殆ど石英とカリ長石と斜長石からなり、僅かな黒点は黒雲母です。このように優白色で有色鉱物をほとんど含まない岩石をアプライトと呼ぶそうです。

サンプルB 有色鉱物の少ないアプライト質花崗岩の中央部拡大写真。サイズはおよそ横50mm✕ 縦33mmです

結晶粒は大きいものでも2~3mm前後、ことに黒雲母の結晶は2mm以下のものがほとんどで石英と斜長石とカリ長石の結晶の粒間に黒雲母が点在します。細い線状の黒雲母が見えていますが、薄いシート状の結晶を横から見たものです。僅かに白雲母も含みますが拡大写真でもよく分かりません。


サンプルC

安濃川上流部の転石です。加太花崗岩ー加太花崗閃緑岩と呼ばれる石の仲間で、A・Bの石と大きく違うのは長石の殆どが斜長石だということです。これは地質図幅 津西部の記載を見るとよくわかりますが、実際の石でカリ長石と斜長石を見分けるのは難しいものです。

サンプルC この石は加太花崗閃緑岩の仲間と思いますが、有色鉱物はほとんどが黒雲母で角閃石は見当たりません。地質図幅にあるKf :角閃石を含まない岩相のようです

カリ長石は変質して色づきやすい傾向にあるようで、着色して透明感が下がりAのように斜長石とはっきりと色の差で区別できる場合もありますがどちらも白い色をしていると目視で見分けるのは難しいものです。また黒雲母の鉄分が多いと錆が浮きだして白色鉱物を染色するため紛らわしくなります。

斜長石のほうが晶出温度が高く自形の綺麗な結晶を取りやすいのですが、石の表面を見るだけでは、なかなか分かるものではありません。薬品によってカリ長石を染める技術があるようですが簡単にできるものでもなさそうです。

やはりもっとも一般的なのは薄片にして、その干渉色を確かめることのようです。斜長石の場合、アルバイト双晶と呼ぶ独特のストライブが現れることが多く、カリ長石も多くの場合はパーサイトと呼ぶ模様が現れます。

サンプルC 以下4枚の偏光顕微鏡写真は最初がXPL、後がPPL。視野は約6mm✕4mmです。石英や長石は干渉が低く、XPLでも無色に近い明暗を示しますが以下の写真では光源の関係で青みを帯びて写ります。

サンプルC 雲母類は細かい劈開線とその干渉色によって、他の鉱物よりは簡単に識別できます。XPLで色彩の鮮やかな干渉を示しているのは全て黒雲母です。雲母類は柔らかく劈開線のたわみも特徴の1つです

サンプルC この石の雲母類はPPLで薄茶色~褐色の干渉色を示します。色の差は主に結晶軸に対する薄片の切断角によって変化し、多くの場合多色性を示して、標本のステージを回転させると色が変化します。

薄片標本の範囲ではカリ長石は殆ど見つかりません。石英は白色鉱物の20%ほどでXPLでは長石より明るくモヤモヤした消光を見せるものが多いです。白色鉱物の多くはXPLで白黒の縞模様を見せる斜長石です。先の花崗岩類の分類ではトーナル岩になります。有色鉱物は不透明鉱物を除くとほぼ全て黒雲母です。雲母は鏡下では細かな劈開線が特徴で、XPLで見ると色の変化が鮮やかで直消光します。

石英は長石より複屈折が高いので、XPLでは長石より明るく見えます。薄片厚が0.03mm以上有ると黄色味を帯びてきます。石英を判別しやすくするため少し厚みを残して仕上げることもよくやります。

サンプルD

同じく安濃川上流部の転石で加太花崗岩ー加太花崗閃緑岩と呼ばれる石の仲間です。Cと違う点はこちらは有色鉱物に角閃石をたくさん含んでおり地質図幅では角閃石を含む相khで区別されている石です。「角閃石」のサイトでも書きましたが小さい結晶中に黒雲母と角閃石が同居しているとルーペ等を使って眼視で両者を見分けるには結構経験が必要です。1つの集団中にお互いが混在していることが多く単体の結晶を識別するよりもずっと厄介です。上記の角閃石サイトにも、両者の識別の仕方がを書いておきましたので、必要なら見てください。

サンプルD 角閃石含有黒雲母花崗閃緑岩kh相の拡大写真。この研磨面では角閃石が灰色味に写っている

肉眼で見ただけでは、有色鉱物の比率が多いだけでCの石と変わらないように見えるのですが、こちらの石は有色鉱物として角閃石をたくさん含んでいます。両者を見分けるポイントは黒雲母は結晶の端面が薄いシート状の集合体であるのに対して、角閃石は小さい階段状のブロックの積み重ねのように見える点ですがなれないと難しいです。

黒雲母の結晶表面の拡大写真2枚を以下に示します。黒雲母はどちらも安濃川・加太花崗閃緑岩のものです

下の2枚は角閃石結晶の端面の拡大写真です。サンプルは南長野桂畑の角閃石斑糲岩です

この南長野・桂畑の角閃石結晶は大きいので端面が綺麗に出ていますが、サンプルDのように細粒で黒雲母と共生していると見分けにくいです。

ただし雲母の硬度は2.5~3.5と柔らかいのに対して、角閃石は5~6.5あります。結晶がある程度の大きさであれば鉄釘の硬度は5前後ですから先の細い釘で引っ掻いてみて簡単に傷が入れば雲母と見分けられます。硬度の値に幅があるのは結晶の成長方向によって鉱物元素の結合状態が異なり硬度に差が出るからです。

結晶が小さくともサンプルを薄片にして偏光顕微鏡の力を借りると、両者は簡単に区別することができます。薄く削ってゆくと、双方の透過色の違い(多色性といいます)がはっきり現れることが多いですし、雲母は複屈折が大きいので鮮やかな干渉色です。またクロスニコルでみて非透過になる位置が結晶軸(結晶の成長方向)と平行な直消光を示し、角閃石の斜消光とは異なります。

サンプルD 以下4枚の偏光顕微鏡写真は最初がXPL、後がPPL。視野は約6mm✕4mmです

サンプルD PPLでみるとこのサンプルでは黒雲母は薄茶色、角閃石は薄緑色とはっきり色が異なる。XPLで見ると黒雲母は黄・赤・紫・青等鮮やかな干渉色を見せる。

安濃川上流部に分布する加太花崗閃緑岩は、先に上げたCの角閃石を含まない相とDの角閃石を含む相以外にも、斑状相Kpと区別されたものがあり、細かく見てゆくと様々な岩相変化を示します。以下に安濃川上流の転石で黒雲母を含む幾つかのサンプルを上げてみます。

花崗岩類のマイカ・黒雲母は錆びる

サンプルE

安濃川上流我賀浦川・加太花崗閃緑岩で角閃石を含まないkfのエリアのものです。岩質は次のFの斑状の石に近いようです。有色鉱物は黒雲母主体で角閃石は殆ど見られません。白色鉱物の一部が鉄錆色をしており面白いのでサンプルとしました。

先にカリ長石の鉄分が酸化して長石に色がつくことを書きましたが、この石の場合、風化によって黒雲母(鉄雲母)の鉄分が錆出て白色鉱物に着色したものです。よく見ると長石よりは石英に対して選択的に赤錆色が染み付いています。黒雲母の比率が高い石では普通に見られる現象で露頭の岩全体が赤く錆色に染まります。

サンプルE 鉄雲母の鉄分が雨水によって錆び周辺の白色鉱物を錆色に染める。石英のほうがよく色づくようです。

サンプルE 石の表面は雨水によって酸化し錆色に変わるが、水が浸透しにくい石の内部までは錆びない。

サンプルF

同じく我賀浦川上流の加太花崗閃緑岩の転石で大きく成長した自形の長石斑晶と優勢な黒雲母が特徴です。加太花崗閃緑岩には斑状相kpとして区別されたものがあります。kp相はkf相やkh相中に脈状に割り込んで分布していますが、この石はkp相ではなく岩脈G・珪長質岩脈と記載された地域ものです。

地質図幅 津西部の岩脈Gの岩石記載は次のようなものです「斑状黒雲母花崗岩 (GSJ R61403,場所:芸濃町我賀浦川上流) 斑晶:石英は他形で径 1 – 4 mm,斜長石は長径 2-4mmであるが,結晶の周囲の境界部では石基の鉱物により切られる.カリ長石は他形で径 4-6 mm.黒雲母は自形 - 半自形で軸色はY=Z=褐色である.石基:径 0.1-0.4 mm の他形,粒状の石英とカリ長石よりなる. 副成分鉱物:ジルコン・燐灰石・不透明鉱物」

サンプルF Gエリアで岩脈状に分布する巨晶長石斑晶を含む花崗閃緑岩。林道山側露頭ではホルンフェルスと接する

上の記載を見るとサンプルFとはなにか異なります。Fは長石の巨大な斑晶を含み完晶質で石基はありません。Fの採取地点は地質図中にGと記されたエリアで我賀浦川が西に屈曲する地点で川の岩盤露頭及び林道脇の露頭でFと同種の石が岩脈状に砂質岩のホルンフェルスに貫入していますからGエリアの石に間違いありませんが地質図幅記載の岩脈サンプルとは少し異なったもののようです。

サンプルF 黒雲母と定向配列する大きな長石斑晶が特徴的な我賀浦川の加太花崗岩。有色鉱物の量からみると閃緑岩~斑糲岩に近い

この石が分布する岩脈Gは、サンプル採集した辺りでは中粒~粗粒の黒雲母花崗閃緑岩相で部分的に大きく成長した長石斑晶が見られるものです。一部の斑晶は長軸方向に定向配列する傾向があり、大きいものでは4~5cmあります。有色鉱物は黒雲母主体で角閃石も所々に見受けられますが眼視での識別は難かしいものです。岩種は有色鉱物の多さからみて部分的には塩基性岩とみてもよいほどです。

サンプルF 上2枚の写真はどちらも中央部に角閃石の結晶があるのですが周囲の黒雲母と区別できますか

サンプルF 上2枚は有色鉱物ほぼ全てが黒雲母ばかりです。黒雲母の鏡のような平滑面は角閃石には見られません

この石についても薄片を作ってみました。巨晶部分は大きすぎて入れていませんが、同種とみられる長石が多数サンプル中に存在します

サンプルF 上左は薄片を反射光、右は透過光で写したもので、白色鉱物でも透明感の高い石英は反射光で暗く透過光で明るくなります。

不純物が多く変質もしやすい長石は光の透過率が低く、逆に光を反射するので反射光で明・透過光で暗となります。研磨面と薄片を見比べると鉄分の錆が石英部分を選択的に着色している様子が分かります。

サンプルF 以下8枚の偏光顕微鏡写真は最初がXPL、後がPPL。視野は約6mm✕4mmです

サンプルF 上の四枚の有色鉱物はほとんどが黒雲母です。角閃石は最初の2枚では左下隅に、あとの2枚では中央左下に黒っぽく写っていますが見分けにくいです。

サンプルF 角閃石を含む部分を拡大したのが次の四枚です。どちらも角閃石の持つ劈開線が写っていますが最後の二枚では変質部分が剥離した様子で黒く抜けてしまっています。

これらの写真から、この石は斜長石・石英・黒雲母が主体で僅かに角閃石を含むことが分かります。岩種はトーナル岩でしょうか。私にはカリ長石は認識できず斜長石はこの写真の範囲でも自形の粗粒結晶が幾つもありますから、岩にみられる大きな斑晶も斜長石と見て間違いないと思います。

石英は長石より干渉が大きくこの薄片ではXPLで僅かに黄色く色づいて写ります。黒雲母は皆新鮮で、薄緑~褐色の多色性を示し軸色は殆ど不透明鉱物と見紛うほどに暗いものもあります。最後の4枚の写真には緑ぽい軸色の角閃石が下側に写っていますが、黒雲母に比べると角閃石はどれも虫食い状態で変質が進んでいます。

サンプルG

同じく安濃川上流部我賀浦川・加太花崗閃緑岩の転石です。全体に色が黒く異質な深成岩です。見た目は斑糲岩のような感じを受けるのですが、よく見てみると白色鉱物の粒間に存在する黒雲母が石全体の色調を決めている様子で透明度の高い石英が多いため、内部の黒雲母の色が石英を透して表面まで透けているのではないかと思われます。

サンプルG 黒い表面の割には透明感がある石で、石英と黒雲母の多さが普通の花崗岩や閃緑岩にはない色調を出している様子。上の写真では白雲母を含んでいるように見えるが白雲母は存在しない

サンプルG 上四枚の拡大写真で見ても石英結晶の部分が黒く沈んだ色調で石全体のトーンを決めている。長石は白色だが透明度が低いため内部の黒雲母の色をあまり反映しない。

この石でも薄片を作ってみました。薄片化すると標本面の部分だけにせよ石英・長石・雲母の量比がある程度わかります。

サンプルG 上左は薄片を反射光、右は透過光で写したもので、白色鉱物でも透明感の高い石英(反射光で暗・透過光で明)の比率は30% 長石40%と黒雲母が30%程度か。当初予想したほど石英比率は高くない。

サンプルG 以下4枚の偏光顕微鏡写真は最初がPPL、後がXPL。視野は約6mm✕4mmです。黒雲母は茶色の軸色がとても濃くてPPLでもほとんど光を通さないものがある。このためXPLで見ても元の茶色が強く出てサンプルFにみるような多彩な色合いは出ない。

薄片観察によると長石の多くは斜長石ですが正長石や微斜長石も有る様子です。角閃石は含まれず有色鉱物は極めて色の濃い黒雲母が全てです。透明鉱物中に存在する色の濃い黒雲母が石全体の色調を決めている様子です。

面白いのは石の表情は全く違うのに偏光顕微鏡でみるとサンプルCの黒雲母花崗閃緑岩と鉱物の構成比率はさほど変わらないようです。斑糲岩風の外観からはなかなか想像できないことでした。

火山岩類のマイカ・六角板状結晶

深成岩の中に含まれる雲母は、結晶が成長する過程で、どうしても周りの他の鉱物結晶に邪魔されて綺麗な自形結晶として成長するのが難しくなります。これに対して火山岩の場合は、マグマの漿液中で成長した結晶(斑晶)が火山活動によって一気に地表近くに上昇して急冷すると石基中に斑晶が閉じ込められた形で固結するため、晶出条件が合えば自形の綺麗な形をした結晶が見つかります。

サンプルH

国道1号線の鈴鹿峠を越え滋賀県側に少し走ると猪ノ鼻集落に出ます。この辺り一帯には猪ノ鼻トーナル斑岩と呼ぶ火山岩脈が幅数百m、南北1.5km程の範囲に分布しています。岩相は場所によって異なり、明確な斑晶と石基を持つ安山岩風のものからほぼ完晶質で半深成岩風のものまで変化しますが、どちらも黒雲母が2-7mm程の六角板状で綺麗な斑晶持つのが特徴です。

サンプルH 猪ノ鼻トーナル斑岩・安山岩質で石基中に斜長石と石英の斑晶に混じって多数の黒雲母六角板状結晶が見られる

ただ火山岩でもこの様な整った形の斑晶が見られるものは稀で、私の手元には方々の地域の火山岩サンプルがありますが黒雲母の綺麗な斑晶を見られるのはこの地域の石だけです。ことに流紋岩質の火山岩は、石英と長石の斑晶ばかりで有色鉱物が殆ど見つからないものも多いです。

花崗岩類のマイカ・白雲母

これまでは専ら黒雲母を見てきましたが、次は花崗岩類に含まれる白雲母を取り上げてみます。白雲母はその晶出温度が低いのでアルカリ長石と共生することが多く、晶出温度の高い斜長石が多い閃緑岩類にはあまり含まれていません。このため加太花崗閃緑岩が主体の安濃川水系の転石中にはあまり見られないのですが、中には白雲母を含むものも存在します。

サンプルI

同じく安濃川源流部・笹子川上流、経ヶ峰登山道下のごく一部の範囲にみられた転石です。加太花崗閃緑岩の分布域ですが岩質が閃緑岩系とはことなりペグマタイト質の石です。笹子川源流部の山地は数十年前からあまり意味のわからない林道工事が続けられて山が切り崩されているので工事に伴う転石と思われます。

サンプルI この石の特徴は加太花崗閃緑岩では先ずお目にかかれない灰青色の長石巨晶を含み、点在する黒雲母に混じって部分的に大量の白雲母結晶を伴うことです。長石の一部は非常に薄いシート状の積層構造をしているものがあり、白雲母の結晶と見間違える程です。細粒の柘榴石の晶出も見られます。

サンプルI 青味を帯びた長石とシート状の積層構造をした長石が存在する

サンプルI 長石や石英の粒間には黒雲母・白雲母と共に紅色の細粒柘榴石結晶がある

この石の灰青色長石はアルカリ長石、白色長石は斜長石(灰長石)とみられます。どちらも大変に新鮮で劈開面は白雲母のように光を反射します。長石の粒間には石英が存在しますが長石の20~30%程度です。

サンプルI 白雲母は粒間に散在するものと、細・中粒の結晶が縞状に配列してまとまった集合で小さな面を埋めるものがある。光が当たるとキラキラ銀色に輝くが、この石では長石や石英の端面も同様の光を返す。

一般にマグマの冷却過程で閃緑岩や花崗閃緑岩中にマグマから直接晶出した斜長石は柱形や矩形の粒状構造を取り、この石に見られるような葉片状・鱗片状で積層構造を取るものは先ず見つかりません。柘榴石や白雲母の晶出と合わせて、本来のマグマ組成とは異なった異質岩との接触により熱水反応を通じて形成された変成岩と見るべきかもしれませんが、ペグマタイトや晶洞の形成にはその様な要素が多かれ少なかれ存在しますのであえて花崗岩類のマイカとしました。

この石も薄片を作ってみましたが、有色鉱物や白雲母は薄い面状に集中して分布している様子で、石の内部を適当に切り出すと白色鉱物ばかりで他の鉱物があまり含まれていません。

サンプルI 白色鉱物の比率はこのサンプルでは灰青色のカリ長石が最も多く、次が透過性の良い石英、最後が白色の曹長石の順で5:4:1程か

カリ長石の比率が高いのはマグマが固結する最後にあたり、主に低温晶出する鉱物が凝集したためと見られます。柘榴石の晶出などもがありますから白雲母も炭酸塩を含む熱水反応で晶出したものと思われます。

サンプルI 以後4枚の写真の視野は約10mm✕6.7mm、偏光顕微鏡下で最初がXPL 後の写真がPPL

このサンプル内には肝心の白雲母が殆ど存在せず、長石と石英ばかりの写真になってしまいました。標本を少し厚くしているので石英はXPLで黄色味がかって写りますが、不純物が少なく結晶の透過性が高いのでPPLでも良く分かります。

XPLで灰色(写真ではブルーがかって映る)に見える長石はPPLでは汚れた感じに見えます。斜長石は双晶が多数のストライブ柄となって現れるので区別できますがこのサンプル内ではあまり多くありません。

サンプルI 白雲母の結晶が小さいため少し拡大し以下6枚の写真の視野は約6mm✕4mm、偏光顕微鏡下で最初がXPL 後の写真がPPL

サンプルI 写真上XPLにて中央及び右端で高い干渉色を見せている部分が白雲母です。透明ですから当然PPLでは白く抜けます

サンプルI 上の二枚は最大面積を占めるカリ長石の表面写真で結晶に歪みが生じて盛り上がったような構造をしています。固溶体を形成している正長石と曹長石が分離する(離溶といいます)過程で生じたものでしょうか?

サンプルI 上の写真では単斜晶系をとるカリ長石の結晶面の直交する面角がうっすらと現れています。

サンプルJ 白雲母のサンプルIがどうにもショボイためもう一個薄片を作りました。こちらはなるべく白色鉱物以外の異種鉱物が多い部分を切り取ってあります。

研磨面を見るとこのサンプルでは灰青色のカリ長石比率がとても高く色が暗い石英と白色の斜長石は少量です。その分雲母類を主体とする有色鉱物が増えた感じです。

サンプルJ 以下8枚の写真の視野は約6mm✕4mm、偏光顕微鏡下で最初がXPL 後の写真がPPL

サンプルJ 上4枚の写真XPLで桃色・水色・緑等鮮やかな干渉色を示す鉱物はどれも白雲母、PPLでは透明。PPLで緑、XPLで青く写るのは緑泥石

この標本では白雲母がきれいに出ました。白雲母はは透明で黒雲母のように濃い色を持たないため高い干渉色がそのまま現れるので大変に明るく華やかに映ります。

サンプルJ 上2枚の写真はカリ長石のパーサイトで固溶体の端成分である曹長石が、冷却固結する過程で固溶体から分離して不規則な縞状に晶出した。

このサンプルはよく観ると面白い構造が幾つか認められます。下の写真は石英バンドとその周囲の斜長石・カリ長石の接触部分に白黒虫食い状の石英と長石の複合体(ミルメカイト)が見うけられます。熱水の存在下に形成されるそうで、マグマと上盤地殻との接触境界での生成であることが伺えます。

サンプルK1

白雲母の最後のサンプルは、内部川上流・宮妻峡キャンプ場先の転石です。宮妻林道の山側には鈴鹿花崗岩が古期の砂泥質岩に貫入した接触境界に発達する小規模のペグマタイト質鉱床やスカルン鉱床が点在してますが、中でも宮妻林道入口近くの晶洞は黄玉が出たことでよく知られ戦前には雲母類から希土類を得るため採掘が行われていました。このズリが内部川の手前まで排出されて過去には様々な鉱物を見ることができ、この転石はそこで拾ったものです。

サンプルK1 ペグマタイト質の長石中に放射状に成長した石英に共生する白雲母の集合体です。僅かに黒雲母(金雲母)を含むが雲母類の殆どは白雲母のようです。

サンプルK1 以下4枚の写真の視野は約6mm✕4mm、偏光顕微鏡下で最初がXPL 後の写真がPPL

サンプルK1 鮮やかな干渉色を見せるのは石英中に共生する白雲母の集合。中央左には石英中に取り込まれた僅かな斜長石結晶が見える。

水晶や黃を産した晶洞からの転石だけあって鉱物が単結晶として大きく成長していて、ベースとなった石英は画面全域で白もしくは黒の均一な干渉色をとり単結晶であるとわかります。

花崗岩類のマイカ・金雲母

サンプルK2  この石の雲母には白雲母以外に黒雲母も共生しますが端成分の金雲母に近いものが多いようで、部分的に層の厚い部分は茶色、薄い部分では時に光の角度によってシート全体が黄色~黄金色に輝きます。雲母の別名キララの由来となる色です。

サンプルK2 白雲母と共生する金雲母。白雲母と相まって、その名のように光を反射して金色に輝く。

サンプルL 金雲母 津市美里町南長野の桂畑川の転石です。桂畑川は布引山地南部・笠取山を源流域とし転石には領家変成岩が大量にみられます。サンプルは中・細粒花崗岩質の生地のなかに3cm程の金雲母の結晶が含まれています。

サンプルL この石では雲母類以外は大きく成長した結晶が見当たりません。黒雲母の細粒の中にぽっんと金色の雲母があるのは面白いものです。

黒雲母は金雲母と鉄雲母を端成分とする固溶体ですから、その成分中には多かれ少なかれMg分を含み金雲母の性質を持っていて、風化してもその表面が鈍い金色を呈するようになります。雲母は黒雲母の風化が進んだ状態かもしれません。

海岸の渚に集まった黒雲母。風化して金色に輝くが、もちろん金雲母の成分も持っている

山地の岩より破砕され風化して河川を下った鉱物粒子が最後にたどり着く海の海岸線には、当然無数の雲母類も存在します。波打ち際でも特に緩やかな水流のできる場所では、鉱物粒子が比重や形状によって選鉱されるので雲母類が大量に集まる場所ができます。風化された黒雲母は金色に輝くのでよく見るとなかなか美しいものです。

変成岩類のマイカ

変成岩はその成因によって高圧型と高温型に別れます。高圧型は沈み込み帯で地下深部(地下100km以上も沈み込むようです)に持ち込まれた岩石が高温高圧下で源岩組成・構造が組み替えられた末、構造運動によって再び地表にもたらされたものです。超高圧と応力変形によって著しい片理をともなった結晶片岩となるのが一般的で、その代表は中央構造線以南に分布する三波川変成岩です。

高圧下でシート状に圧縮・変形した三波川帯の結晶片岩。源岩組成の違いにより緑・黒・赤等様々な色になる

三重県下では松坂以南の勢和・多気IC辺りまで下り、中央構造線を越えると岩質が見事に変化して露頭の石がパラパラとシート状に剥離する結晶片岩地帯に変わります。圧力変形による褶曲の様子や岩片が剥がれやすい様がよくわかります。

上は勢和・多気インター付近の露頭で拾ったもので片理面に無数の微細な白雲母が晶出してキラキラ輝く白雲母結晶片岩です。

結晶片岩はその色合いや模様が好まれ古くから建材や庭石に重用される。上は緑色片岩の踏石の片理面

もう一方の高温型は、マグマの上昇によって上盤側の岩石が長期間高温・高圧下におかれて組成や構造が変化するもので、領家花崗岩を熱源とし布引山地一体に広がる領家変成岩がその代表です。領家変成作用をもたらした白亜紀花崗岩は、国内だけでなく中国南部にまで大陸縁に沿って数千キロに渡り弧状に分布していますから領家変成岩と同質の岩石も等しく広範囲に分布します。

領家帯黒雲母片岩の薄片写真。中央部では雲母類・角閃石・緑泥石等の片理がはっきりと現れています

もう一方の高温型は、マグマの上昇によって上盤側の岩石が長期間高温・高圧下におかれて組成や構造が変化するもので、領家花崗岩を熱源とし布引山地一体に広がる領家変成岩がその代表です。領家変成作用をもたらした白亜紀花崗岩は、国内だけでなく中国南部にまで大陸縁に沿って数千キロに渡り弧状に分布していますから領家変成岩と同質の岩石も等しく広範囲に分布します。

領家変成帯の縞状片麻岩。三波川結晶片岩のような著しい片理はないが優白部と優黒部がほぼ完全に分離した高度の変成相にあります。津市南長野桂畑川

片麻岩の優黒部は主に数ミリ以下の黒雲母が再結晶して集合している。優白部は再結晶石英

当時日本の地殻の多くは中国大陸そのものでしたから当然ですが、このように広範囲に等質な分布を示す変成岩を広域変成岩と呼びます。先の三波川変成岩は高圧低温型の広域変成岩です。これに対して変成圧力が低い領家変成岩は高温低圧型の広域変成岩です。

局所的な火山活動によって一部の岩石が熱変成を受けた場合は、特に接触変成作用を強調して接触変成岩と呼びます。領家変成岩のような広域変成岩も当然接触変成岩ですが、生じるときの深度が深く変成を受ける期間も長くて地質年代Maのオーダーになります。

岩石がある温度・圧力・力学構造下に変成作用を受けると源岩の組成や構造が作り変えられて変成岩となります。この時源岩の中に含まれていた鉱物は、その組成まで別のものに組み替えられる場合と、鉱物種は変化しませんが同種の鉱物が寄り集まって再結晶し、粒子の配列や粒径が変化する場合とがあります。一般に温度・圧力条件が高いほど高度の変成作用が生じ組成や構造の変化も大きくなります。

安濃川上流部で見られる砂泥質岩起源の領家変成岩。縞状の優黒部の多くは黒雲母の微小集合

この辺りで普通に見られる領家変成岩では、砂泥質岩を源岩とする変成岩において雲母類が顕著に認められます。低い変成度では雲母類の定向配列が目立ち始め、さらに変成度が上がると再結晶化が進んで雲母や石英の粗粒の結晶が分化して縞状に配列する縞状片麻岩となります。

鈴鹿山脈南部宮妻峡キャンプ場北の雲母谷泥質岩露頭。この辺りでは変成作用は弱く石は黒色の塊状をしている

一般に鈴鹿・布引の山地では南に下るほど変成の程度が高まる傾向にあります。例えば鈴鹿山脈南部を源とする内部川には上流域の宮妻峡キャンプ場周辺で沢山の泥岩が見られますが、変成が弱く一部には菫青石を晶出して斑になっているものもありますが眼視では結晶の晶出を認めにくい黒色塊状のものが多いです。

宮妻峡の泥質岩(粘板岩)転石。花崗岩脈に近いものは変成が進み菫青石や黒雲母が晶出して紫ぽい色になっている

これに対して布引山地の安濃川以南では先の写真でも分かるように、多くの石は完全に再結晶化が進み鉱物も白色鉱物と有色鉱物がはっきりと分離した縞状を見せます。斑状に菫青石や珪線石を晶出しているものも斑晶の周囲には白雲母や再結晶した石英がよく目立ち、日に当てると全体がキラキラと微細な結晶片で構成されていると分かります。

サンプルM

安濃川上流の砂泥質岩を源岩とする領家変成岩です。中生代の付加体が白亜紀から古第三紀に上昇してきた花崗岩帯によって大規模な熱変成を受けたものです。

布引山地側では、変成によって新たな鉱物が斑状に晶出して変成の影響がはっきりと分かる石が多く見られます。

サンプルM 菫青石・紅柱石が斑状晶出していますが斑晶は白雲母等と交代してます。全体に石英・雲母の再結晶化が進み石の表面は微細な輝きが有る

この石は面白そうなので薄片にしました。

サンプルM 以下6枚の写真の視野は約6mm✕4mm、偏光顕微鏡下で最初がXPL 後の写真がPPL

サンプルM 上の写真は石基部分に晶出した黒雲母と白雲母の結晶。白雲母はPPLで透明、干渉色も黒雲母より鮮やか

サンプルM 上の写真・黄色の干渉色は珪線石の斑晶。周辺は白雲母に交代している

サンプルM 上の写真の楕円形斑晶は晶出した菫青石だが殆ど雲母類や緑泥石に置き換わっている。

どの写真でも石基部の雲母類の結晶晶出に多少の方向性が見られますが全体にバラバラな感じです。石基は完晶質で微細な石英・長石・黒雲母・白雲母・珪線石などの鉱物斑晶で埋まっています。

小魚が遊泳してるような表面の斑紋もなかなか可愛く、私の好きな石の一つです。

サンプルN1

美里町南長野の桂畑川の転石です。桂畑川の領家変成岩転石は安濃川に比べて変成の程度の変化が大きくいろいろと変化に富んだ変成岩を見つけることができます。安濃川サンプルMと同じく砂泥質岩を源岩とするもので、縞状の構造が見て取れます。

サンプルN1 このサンプルは細粒の黒雲母と白雲母が弱い縞状配列にあり原岩の堆積構造を残している。特に白雲母類が良く目立ちますが、石英の再結晶化も顕著ではありません。

拡大してみても結晶粒が定方向に並んでいる様子は見られず変成時に高圧変成岩のような強い応力を受けていないのがわかります。一部に白雲母と紛らわしい珪線石の小さな繊維状斑晶が現れています。

サンプルN2

同じく美里町南長野の桂畑川の泥質岩起源変成岩転石です。変成の程度が大きく珪線石の斑状結晶が多数晶出しています。層理面ではほぼ円形ですが、層理の横面では楕円形に長く引き伸ばされた形をしています。安濃川ではこのような石はあまり目にしません。斑晶の周囲には黒雲母と白雲母が多く見られます。


サンプルN3

同じく美里町南長野の桂畑川の泥質岩起源変成岩転石です。N2の石を横から見た形で、層理の方向に鉱物が直線的に配列しています。白い斑晶は珪線石と思いますがかなり白雲母や粘土鉱物に交代している様子です。

サンプルN3 このサンプルは細粒の黒雲母と白雲母が縞状配列にあり、特に白雲母類が良く目立ちますが、肉眼では石英の再結晶化は顕著ではありません。優黒部主体のようです。一部に白雲母と紛らわしい珪線石の小さな繊維状斑晶が現れています。

サンプルN3 N3の石については薄片にして鏡下観察することにしました。削り出してみると黒雲母の鉄分が錆出て石の内部まで結構染色している様子です。特定の層理面に沿って錆が侵入してゆくのは結晶粒子の間隙が特定の層理面で大きいため、間隙水の侵入が容易になって水分による酸化が進行する模様です。

サンプルN3 以下8枚の写真の視野は約6mm✕4mm、偏光顕微鏡下で最初がXPL 後の写真がPPL

サンプルN3 先に掲げた砂泥質岩源変成岩N1では鉱物の晶出に方向性が乏しく接触変成を受けたような感じでしたが、このサンプルでは石英・黒雲母・白雲母とすべてに定向配列が見受けられます。

細粒結晶の配列に割り込む形で珪線石(全体に薄い黄色に見える)の繊維状結晶が成長していますが、多くは周辺部分から白雲母・セリサイトなどに置き換わっている様子です。見やすくするため以下6枚は拡大しました。

サンプルN3 これらの写真では珪線石の細かい繊維状結晶の周囲から明るい干渉色の白雲母が置換している様子が見て取れます。

サンプルN3 このサンプルの珪線石は繊維状で青~赤~黄に至る干渉色を示しますが、高次の干渉色を持つ白雲母も同じような色や構造を見せ、珪線石、白雲母とも直消光ですから結構紛らわしいものです。最後の写真では黄緑から水色の干渉色を見せる白雲母の配列がよく出でいます。

砂泥質岩の変成度が高まると白色鉱物と有色鉱物がはっきりと分離した縞状構造を取るようになります。隣接する結晶は層理に沿って定向配列し互いに結合して再結晶化が進み大きく成長します。

サンプルO1

安濃川上流笹子川の転石です。再結晶した石英が主体の優白部と黒雲母主体の優黒部が分離して交互に並ぶ縞状片麻岩です。変成時の圧力やズレ応力は高圧変成岩ほど大きくないので片理はそれほど強いものではありません。源岩は砂泥質岩と思われます

サンプルO1 安濃川上流部の縞状片麻岩。眼視でも黒雲母や石英の結晶粒は確認できますが1mm以下の細粒のものがほとんどです。

拡大率を上げると石英粒は個々の粒子を確認できる。雲母類は黒雲母に混じって白雲母も認められるが写真では、はっきり映りません。

サンプルO2

M同様に安濃川上流笹子川の縞状片麻岩の転石ですがMよりは優黒部にとみ有色鉱物の凝集が多い部分です。こちらも優黒部の多くは黒雲母が占めていて砂泥質岩を源岩とする雲母片岩です

ササンプルO2 優黒部は微細な黒雲母の結晶が密集して層を形成していて、結晶も層の広がり方向に定向配列しています。このため雲母の剥がれやすい性質が影響して、黒雲母の集中する層では石に少し力を加えると片理面で剥がれて2つに割れてしまいます。この種の石に、扁平な面を持っものが多いのはそのためです。

サンプルO3

O1.O2同様に安濃川上流笹子川の縞状片麻岩の転石ですが顕微鏡標本にするため優白部と優黒部の間隔がより緻密な石を選んでいます。層理面を縦に切る形で貫入岩脈が走っていてミグマタイトに近い石ではないでしょうか。やはり源岩は砂泥質岩と思われます。

サンプルO3 安濃川上流笹子川の縞状片麻岩。結晶は微細で1mm以下の細粒のものがほとんどです。この種の石は雲母層で剥離性があり切断の際にも一部が優黒部の層理面ではがれました。

サンプルO3 以下の写真の視野は約6mm✕4mm、偏光顕微鏡下で最初がXPL 後の写真がPPL

サンプルO3 雲母類はその殆どが黒雲母で層状に定向配列しています。白色鉱物は0.5mm以下の細粒結晶が多く石英主体ですが一部結晶粒の大きい部分では長石の存在も確認できます。

サンプルO3 優白部では1mm近い結晶も確認できます。このように晶粒の大きい部分では下写真のように長石の存在が良く分かります。石英の再結晶化は進んでいますが高圧変成岩に見られるような片理面に対して押しつぶされたような変形は認められません。

鉱物の配列が層状に組み替えられることは、当然岩石の内部で鉱物の移動が生じて同種の鉱物の集中化が進むわけで、溶解しているわけでもないのにどうしてそのようなことが可能なのか不思議に思えます。石英など大気中での融点は1600℃以上もありますからせいぜい1000℃止まりの変成温度ではとても溶け出すことはなさそうです。

ただし高圧下では隣接する石英結晶間で圧接した双方の結晶面で結晶構造の組み替えが起こり1つの単結晶として再結晶化することができるそうです。しかし最大の要因は岩石内部に浸透している間隙水で、この水の存在によって鉱物の化学平衡が成り立ち、鉱物を構成する成分が水に溶け込んで移動することが可能となるようです。


混成岩のマイカ・黒雲母

変成岩が熱源の火成岩と接する境界あたりでは更に変成が進み、接触する双方の岩石が溶解して混じりあってミグマタイト(混成岩)と呼ぶ独特の岩相を作る場合があります。ミグマタイトでは白色鉱物と有色鉱物が完全に分離して結晶化が進み優白部と優黒部が入り混じった不思議な模様を作り出します。

上に掲げた写真は安濃川上流域笹子川と我賀浦川における加太花崗閃緑岩と差泥質岩境界部における混成岩の産状です。最初の2枚では変成岩が熱源となった火成岩の周辺で部分溶解し混成岩相・ミグマタイトとなっています。最後の写真は変成岩がアプライト質火成岩脈に取り込まれたように見えますが、その一部は溶解して火成岩と一体化しています。

他の地域の石については分かりかねますが、この地域ではミグマタイトの優黒部を構成する鉱物の主体は黒雲母です。微細な結晶が集合する場合が多いですが、時には部分的に大きく成長した優勢な黒雲母の集合を持った転石を目にすることがあります。

混成岩相の一部に凝集した黒雲母粗粒結晶。安濃川上流の転石

サンプルP

安濃川上流部笹子川の加太花崗閃緑岩・角閃石を含まないkfエリアの転石です。花崗閃緑岩と砂泥質岩との接触部に有色鉱物が集中して固結した様で有色鉱物はほとんど黒雲母で角閃石は見られません。接触面を境に花崗岩質の薄い優白部を挟んで黒雲母を主体とした優黒部が晶出しています。下部の砂泥質岩も縞状に優黒部と優白部に分離していますが、接触部分では変成岩の溶融がみられ混成岩の一種とみなせるようです。


サンプルQ1

これ以降は美里町南長野の桂畑川の転石です。桂畑川では高度変成を受けた領家変成岩を色々目にすることができます。この石では優白部と優白部の一部が溶融し、縞が部分的に混濁しています。混濁部分は全体に粗粒となり雲母類、特に白雲母が成長しています。

サンプルQ1 このサンプルでは優白部にキラキラした白雲母の結晶がよく目立つ。また細粒の石英、黒雲母、白雲母からなる優黒部には黒色で艶のある電気石の結晶が点在します。


サンプルQ2

美里町南長野の桂畑川の転石です。高度変成を受け優白部と優黒部に別れたミグマタイトの境界部分のような石です。主に優白部は石英・カリ長石・斜長石からなり、その中にかなり大きい黒雲母が点在します。優黒部は再結晶石英と黒雲母が主体で白雲母、長石、柘榴石等を含みます

サンプルQ2 このサンプルでは細粒の石英、黒雲母、白雲母からなる優黒部に5mm程の柘榴石が点在しています。写真では雲母類の存在がはっきりしませんが細粒部はこの石の優白部は、安濃川の転石で白雲母サンプルIとして上げたものとよく似た感じです。多分Iの源岩もこの種の変成境界に発達した混成岩だと思います。

サンプルQ3

同じく美里町南長野の桂畑川の転石です。Q2と異るのは、優白部に接しているのが高度に変成を受けた縞状片麻岩であることです。優白部の一部が片麻岩中に溶融して片麻岩の優白部と一体化しています。

サンプルQ3 この石の優白部には黒雲母類とともにかなり大きい白雲母の結晶も点在しています。一部には緑泥石化した角閃石も認められます。

サンプルQ4

同じく美里町南長野の桂畑川の転石です。縞状の構造を持つ泥質岩起源変成岩に優白部が岩脈状に割り込んだような形です。細粒の縞状部は主に石英・黒雲母・白雲母からなりますが優白部及びその境界部に存在する濃い黒色斑晶の一部は電気石です。電気石は桂畑川上流部の青山高原周辺では石墨とともによくみられる鉱物で、その結晶は角閃石などよりも艶のある濃い黒色をしています

サンプルQ4 このサンプルも細粒の石英、黒雲母、白雲母からなる優黒部に5mm程の柘榴石が点在しています。写真では雲母類の存在がはっきりしませんが細粒部は肉眼でも多数の雲母類を確認できます。

サンプルQ5

同じく美里町南長野の桂畑川の転石です。靴のトレイと同じくらいの大きさがあり、縞状配列を見せる泥質変成岩部と電気石を含む優白部のミグマタイトで、石英・斜長石。カリ長石からなる優白部には柘榴石の結晶も含まれまれています。

サンプルQ5 この石の優白部には電気石が晶出していますが、雲母類も存在します。境を接する縞状片麻岩の側では黒雲母と白雲母の配列が普通に見られますが、境を越えると全く別の鉱物組成に変わります。混成岩の所以でしょうか

サンプルQ5 優白部に晶出する柘榴石。柘榴石の結晶は鉄分が変質していて滲んだように見える。僅かですが白雲母も見られます。生地は灰色の石英、白色の斜長石およびカリ長石ですがカリ長石は上の写真には写っていません。

サンプルQ5 上二枚は優白部に僅かに存在する雲母類。ただし黒い部分には電気石も存在するので紛らわしい。

以上雲母類を含む石について、いくつか取り上げてみましたがこれでお終いにします。我が家の近くを流れる安濃川や雲出川(桂畑川の下流域河川)の上流部は布引山地の北部に当たり、古期付加体が領家花崗岩類との接触によって低圧高温型の広域変成作用を受けた領家変成岩が大量に露出しています。

安濃川上流域の多くでは熱源となった下位の領家花崗岩類がすでに地表に現れていますが、一部には古期付加体の砂泥質岩やチャート、石灰岩等が残されている部分があり、このような場所ではすぐ近くに熱源が存在するため、顕著な変成作用が観察できます。

以上に紹介した石の殆どが、このような環境下に生まれた谷や河川周辺の転石ばかりですから、雲母を含む石のサンプルとしてはかなり偏ったものであることは否めませんが、自宅周辺で手近に目にすることのできる雲母類としてはそれなりにまとめられたのではないかと思っています。

何よりも、好日に楽に行き帰りして楽しめる身近な山河を歩き回り、興味深い転石を手にすることは何の道具も必要としませんし、誰に遠慮する必要もありませんから、今後も時間と体が許す限り続けてゆきたいものです。

最初に戻る