7:混成岩の雲母

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混成岩のマイカ・黒雲母

変成岩が熱源の火成岩と接する境界あたりでは更に変成が進み、接触する双方の岩石が溶解して混じりあってミグマタイト(混成岩)と呼ぶ独特の岩相を作る場合があります。ミグマタイトでは白色鉱物と有色鉱物が完全に分離して結晶化が進み優白部と優黒部が入り混じった不思議な模様を作り出します。

上に掲げた写真は安濃川上流域笹子川と我賀浦川における加太花崗閃緑岩と差泥質岩境界部における混成岩の産状です。最初の2枚では変成岩が熱源となった火成岩の周辺で部分溶解し混成岩相・ミグマタイトとなっています。最後の写真は変成岩がアプライト質火成岩脈に取り込まれたように見えますが、その一部は溶解して火成岩と一体化しています。

他の地域の石については分かりかねますが、この地域ではミグマタイトの優黒部を構成する鉱物の主体は黒雲母です。微細な結晶が集合する場合が多いですが、時には部分的に大きく成長した優勢な黒雲母の集合を持った転石を目にすることがあります。

混成岩相の一部に凝集した黒雲母粗粒結晶。安濃川上流・笹子川の転石

サンプルP1 安濃川上流部笹子川の加太花崗閃緑岩・角閃石を含まないkfエリアの転石です。花崗閃緑岩と砂泥質岩との接触部に有色鉱物が集中して固結した様で有色鉱物はほとんど黒雲母で角閃石は見られません。接触面を境に花崗岩質の薄い優白部を挟んで黒雲母を主体とした優黒部が晶出しています。下部の砂泥質岩も縞状に優黒部と優白部に分離していますが、接触部分では変成岩の溶融がみられ混成岩の一種とみなせるようです。


サンプルQ1 これ以降は美里町南長野の桂畑川の転石です。桂畑川では高度変成を受けた領家変成岩を色々目にすることができます。この石では優白部と優白部の一部が溶融し、縞が部分的に混濁しています。混濁部分は全体に粗粒となり雲母類、特に白雲母が成長しています。


サンプルQ1 このサンプルでは優白部にキラキラした白雲母の結晶がよく目立つ。また細粒の石英、黒雲母、白雲母からなる優黒部には黒色で艶のある電気石の結晶が点在します。

サンプルQ2 美里町南長野の桂畑川の転石です。高度変成を受け優白部と優黒部に別れたミグマタイトの境界部分のような石です。主に優白部は石英・カリ長石・斜長石からなり、その中にかなり大きい黒雲母が点在します。優黒部は再結晶石英と黒雲母が主体で白雲母、長石、柘榴石等を含みます


サンプルQ2 このサンプルでは細粒の石英、黒雲母、白雲母からなる優黒部に5mm程の柘榴石が点在しています。この石の優白部は、安濃川の転石で白雲母サンプルIとして上げたものとよく似た感じです。多分Iの源岩もこの種の変成境界に発達した混成岩だと思います。

サンプルQ3 同じく美里町南長野の桂畑川の転石です。Q2と異るのは、優白部に接しているのが高度に変成を受けた縞状片麻岩であることです。優白部の一部が片麻岩中に溶融して片麻岩の優白部と一体化しています。


サンプルQ3 この石の優白部には黒雲母類とともにかなり大きい白雲母の結晶も点在しています。一部には緑泥石化した角閃石も認められます。

サンプルQ4 同じく美里町南長野の桂畑川の転石です。Q2に似て縞状の構造を持つ泥質岩起源変成岩に優白部が岩脈状に割り込んだような形です。細粒の縞状部は主に石英・黒雲母・白雲母からなりますが優白部及びその境界部に存在する濃い黒色斑晶はすべて電気石です。電気石は桂畑川上流部の青山高原周辺では石墨とともによくみられる鉱物で、その結晶は角閃石などよりも艶のある濃い黒色をしています


サンプルQ4 このサンプルもQ2同様細粒の石英、黒雲母、白雲母からなる優黒部に5mm程の柘榴石が点在しています。写真では雲母類の存在がはっきりしませんが細粒部は肉眼でも多数の雲母類を確認できます。

サンプルQ5 同じく美里町南長野の桂畑川の転石です。靴のトレイと同じくらいの大きさがあり、縞状配列を見せる泥質変成岩部と多数の黒色電気石を含む優白部のミグマタイトで、石英・斜長石。カリ長石からなる優白部には柘榴石の結晶も含まれまれています。


サンプルQ5 この石の優白部には大量の電気石が晶出していますが、雲母類はごくわずかしか存在しません。境を接する縞状片麻岩の側では黒雲母と白雲母の配列が普通に見られますが、境を越えると全く別の鉱物組成に変わります。混成岩の所以でしょうか

サンプルQ5 優白部の黒色電気石と共生する柘榴石。僅かですが白雲母も見られます。生地は灰色の石英、白色の斜長石およびカリ長石ですがカリ長石は上の写真には写っていません。


サンプルQ5 上二枚は優白部に僅かに存在する雲母類。ただし黒い部分は皆電気石で雲母類の量比はほぼゼロに近いほどの量です。

以上雲母類を含む石について、いくつか取り上げてみましたがこれでお終いにします。我が家の近くを流れる安濃川や雲出川(桂畑川の下流域河川)の上流部は布引山地の北部に当たり、古期付加体が領家花崗岩類との接触によって低圧高温型の広域変成作用を受けた領家変成岩が大量に露出しています。

安濃川上流域の多くでは熱源となった下位の領家花崗岩類がすでに地表に現れていますが、一部には古期付加体の砂泥質岩やチャート、石灰岩等が残されている部分があり、このような場所ではすぐ近くに熱源が存在するため、顕著な変成作用が観察できます。

以上に紹介した石の殆どが、このような環境下に生まれた谷や河川周辺の転石ばかりですから、雲母を含む石のサンプルとしてはかなり偏ったものであることは否めませんが、自宅周辺で手近に目にすることのできる雲母類としてはそれなりにまとめられたのではないかと思っています。

何よりも、好日に楽に行き帰りして楽しめる身近な山河を歩き回り、興味深い転石を手にすることは何の道具も必要としませんし、誰に遠慮する必要もありませんから、今後も時間と体が許す限り続けてゆきたいものです。

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