広角撮影

広角レンズで写す風景

望遠撮影の対極にあるのが広角レンズを用いた広角撮影です。レンズの基準は通常銀塩カメラ時代の焦点距離と画角( フルサイズのセンサーに対応 )を持って評価され 35mmを標準レンズとしてそれよりも短い焦点距離が広角レンズと呼び慣わしています。

一般的な広角レンズは24mmでカメラの標準ズームレンズもその短焦点側は24mmからズームできるものが多いようです。以下に24mm( マイクロフォーサーズでは12mm )のスタンダードな広角レンズによる撮影を上げます。この程度の広角レンズは画角が広い割に画面の歪みも少なく、人の見た目にも近い写真が撮れるので最も使い勝手のよいものです。

広い画角を持つ広角レンズは広がりのある空間を一枚の写真に収めてしまうので、多くの対象物を同時に捉えることが出来る

遠近感が把握できる構図や対象を選んで撮影すると空間に広がりと奥行きを感じさせる写真になる

広角レンズは都市の巨大な構造物を写すのには最適だ。標準レンズでははみ出してしまう建物も一枚の写真に収められる

文字通り広い範囲を一枚の写真に写し込めるので、巨大な広がりと変化を持った山の撮影にも欠かせない

焦点距離が短いほど被写界深度が深くなり、近いものから遠いものにまで鮮明にフォーカスを決めることが出来る

見栄えのする写真にするには、近景から遠景に至るまで上手く撮影対象が配置される構図を見つけることが大切

以上は全てOlympus E-M1Mark2 、E-M10Mark2 及びE-M5Mark2 12mm( フルサイズ換算24mm )のスタンダードなズームレンズ( Olympus ED 12-40mm F2.8 及び ED 12-50 F3.5-6.3 )広角側で撮影。この程度の画角は標準ズームレンズの焦点距離下限値にもなっていて手頃で広角でも人の見た目に近い撮影ができる

カメラに添付されている標準的なズームレンズでは、一般的に24mmを広角の始まりにしています。また近年では安価なスマホのカメラにも28mm前後の広角レンズが搭載され、中にはiPhoneやSony、Samsung等の高性能スマホではさらに画角の広い超広角を搭載している商品も見られます。

現今ではカメラとレンズを揃えればこれら高性能スマホよりも遥かに高くつきますから、手軽なスマホで撮影すれば今更手持ちカメラに広角レンズを装着して撮影することもないわけですが、手持ちカメラにはスマホにはないそれなりのメリットもあって私も時々は広角レンズを持ち出して撮影することがあります。

広角レンズの特徴

私の場合、旅行などに持ち歩くカメラは手軽な標準ズームレンズを装着して撮影すしますから、特に意識しなくともズームの短焦点側では自然に広角レンズで写真撮影している訳で、とりたてて書くこともないのですが、広角レンズの撮影には標準レンズや望遠レンズとはまた違った特質と問題点がありますからこれらを少し書いて見ようと思い立ちました。

手持ちのマイクロフォーサ用広角レンズ。左からLEICA DG VARIO-ELMARIT 8-18mm/F2.8-4.0 ASPHとLAOWA 7.5mm F2 MFT。35mm換算で16-36mm及び15mmの焦点距離となる。LAOWAはマニュアルフォーカスだがレンズが明るく解像度が高いので気に入っている

上の2つのレンズは超広角と呼ばれる範疇のものです。この種のレンズの特徴は7.5mmや8mmで撮影すれば何より焦点距離が短いので画角が極端に広く、標準レンズの4倍近い視野で極めて広範囲の対象を撮影範囲に収めることが出来ます。

E-M1 Mark2 7.5mm f5.6にて撮影。絞り込めば近距離から遠距離の対象を同時にシャープなフォーカスで写し込める

E-M1 Mark2 8mm f8にて撮影。撮影画像では距離の遠・近によって同じ大きさのものでも極端に大きさが異なって写るため見た目とはかなり異なった印象を与える

また短焦点のため、絞りを少し絞ってやれば深い被写界深度が得られるので、高速シャッターでも近景から遠景までシャープなフォーカスが得られます。逆に云うと絞りを十分開いておかなければ特定の対象のみをシャープなフォーカスで捉えることが困難で、標準レンズなら適度にボケてくれる背景もクリアに映り込みますから、逆にその特性を利用して深い奥行きのある写真が撮れるわけです。

広角レンズは被写界深度が深いので遠近感が強調されると言われますが、それはあくまでも遠近感を感じさせる対象や構図を取った場合のことで、遠近感を与えるボケの要素、撮影対象にはシャープにホーカスし、近景や遠景はぼかして対象の存在を強調させることが苦手なため、撮影対象によっては近景から遠景までゴテゴテ映り込んだ見どころのない殺風景な絵になります。

7.5mmで写した上の二枚の作例では、広範囲の対象を捉えていますが、対象が遠景と中景にのみ存在してどれもが同じような表情しか持たないため絵が平面的で奥行きに乏しく見栄えのしないものになっています。

広範囲にあらゆるものを写し込んでしまう超広角レンズの特性は時に捉えどころのない殺伐とした印象を与える。上下の二枚はそんな特性を生かして、自宅の西に近年とみに広がり始めた廃田の荒廃したさまを表現したもの どちらもLAOWA 7.5mm f8.0

また広範囲の空間が映り込むからと言って、実空間の広がりが捉えられるわけではありません。下の写真は7.5mmの超広角レンズで賢島・大王崎灯台の遊歩道から海の広大なさまを捉えようとしたものですが、エメラルドブルーの海の美しさは感じられますが、全体に海の表情が単調で広々とした空間の広がりはあまり感じ取れません。

一方、下の写真は大王崎灯台の最上階からやはり7.5mmで異なる方向の海を写したものです。こちらは逆光の海面反射と風の波立ち、島の周りに立つ白波が海の表情に変化を与え、先の写真に比べると海の広がりを感じさせる写真になりました。

さらに下の写真は灯台の下の階から7.5mmで同じ場所を写したものです。地面に近づいた分、映り込む範囲は狭まりましたが海面の波立ちがより大きく捉えられて海の表情に変化が増しました。構図や対象の持つ様々な変化に留意しなければ撮影範囲が広いからと言って実空間を見る目のような空間的な広がりを表現できるわけでもないのです。

上の例でも分かる通り、広角レンズは利点でも有ると同時に欠点ともなります。撮影対象や撮影方法を選ばないと一枚の絵の中に多数の対象が小さな点景となって映り込むばかりで絵が平面的なのっぺりした殺伐としたものになり、写真は見た目とは全く異なった印象を与えるものになってしまいます。また距離によ対象の大きさに極端な差が出るため対象が歪んで見えたりします。

これは当然と言えば当然のことでなにも広角撮影に限ったことでは有りません。写真撮影は透視投影による三次元体の二次元平面への転写ですから、直線は直線に写像されますが円は中心で写像しない限り楕円に写像されます。特に超広角では撮影範囲が広い分、同じ大きさのものでも僅かな距離の差で極端に大きさに差が出ますから歪に感じる割合も高くなります。

8mm広角による撮影。BOARDの幅は左のNSPから27" (68.6cm) ,Naish Hokua 24.8" (63cm) ,BillFoote 27" (68.6cm),Starboard Spice 25.5" (64.8cm).右端のNAISH Mad Dog 27.5" (70cm)

対象の歪み具合は、上のように同じ様な大きさのものを並べて写してみるとよくわかります。これは私のSUP boardを8mm( フルサイズ16mm )の広角で写したものです。

その幅は左のNSPから68.6cm ,Naish Hokua 63cm ,BillFoote 68.6cm,Starboard Spice 64.8cm.右端のNAISH Mad Dogが最も幅が広く70cmなのですが、撮影距離の最も近い27インチのNSP DC-SURF Xは他の板の2倍近い幅を感じさせ、最も幅の広い右端のMad Dogは、少し距離が遠いのと視点がやや斜めになるためSURF Xの半分程度の幅の実物とはかけ離れた鋭いフォルムに見えます。

12mm広角による撮影。BOARDの幅は左のNSPから27" (68.6cm) ,Naish Hokua 24.8" (63cm) ,BillFoote 27" (68.6cm),Starboard Spice 25.5" (64.8cm).右端のNAISH Mad Dog 27.5" (70cm)

上は12mm広角でほぼ同じ視点で少し下がって(下がらないと対象が入らない) 写したもので、距離が伸びた分ボードの幅が実際に近くなりましたがまだ実物と写真との差はかなり感じられます。

15mm広角による撮影。BOARDの幅は左のNSPから27" (68.6cm) ,Naish Hokua 24.8" (63cm) ,BillFoote 27" (68.6cm),Starboard Spice 25.5" (64.8cm).右端のNAISH Mad Dog 27.5" (70cm)

撮影位置を右にずらして15mmで写したのが上の写真で、今度は右端のMadDog 27.5" が最も幅広に写りやや実物に近くなりました。黄色いHokua Kodyは24.8"と最も幅が狭いのですがこのあたりも実物に近くなっています。この様な例からも分かるように広角レンズでは、焦点距離や対象に対する視点を上手く選ばないと対象が著しく歪んでしまうことも起こります。

ちなみにそれぞれのボードの長さはNSP 7'8"-233.7cm  Hokua 7'6"-228.6cm  BillFoote 7'4"-223.5cm  Spice 6'9"-205.7cm  MadDog 7'6"-228.6cmで左端のNSP SurfXが最も長く、ブルーのStarboard Spiceが最も短いのですが前斜め視点でもあり長さも実物とはかなり異なったものに写っています。

透視投影の歪効果

我々動物の目も透視投影ですから遠くのものは小さく見えているのですが、脳の補正能力が高いためさほど歪には感じません。しかし写真に撮るとそれがはっきりするので超広角の写真では特にデフォルメされたと感じます。逆に写真の効果としてはそれなりに面白いので場合によっては積極的に用いられます。

広角レンズは標準レンズでは対象全体にフォーカスを決めにくい近距離からでも絞りを開いて対象全体に明るいシャープなフォーカスを決めることが出来る。ただし余りに短い焦点距離では透視投影による遠近差が極端に現れて対象が著しく歪んで見えるので現実味が薄れてしまう

また広角写真は人間の目のように、広範な対象物の中から見たいものだけに視点を集中して捉えることが苦手です。望遠レンズであれば写したい対象にフォーカスを据えるので写真の主題がはっきりしますが、超広角になると遠景から近景に至るまでの極めて広範囲な実空間を僅かな範囲の平面に転写してしまうので写真の主題がぼけてしまい、写し方によっては写真が実際の風景の印象とはまるで異なったものになっても少しの不思議もないわけです。

広角レンズに適した撮影対象

壮大な空間を建物の中に持ち、内部に様々な意匠の構造物が配置された中世~近世ヨーロッパの教会や宮殿建築は広角レンズの好対象となる

これまで述べた広角レンズのこの様な特性は、写真の例でも分かるように壮大な建築の内部や巨大な建造物を手早く撮影する場合には好都合です。広範囲の空間を一枚の写真に収めてしまえるので対象の配置が良く分かりますし、適当に写しても建物の構造上、収束点に向かって近距離から遠距離のものが配列し遠近感を与えます。

多くの対象を写し込める広角レンズもその撮影の基本は、対象になるべく接近することです。巨大な建物の内部に入り込んだり、大鉄橋の橋脚下で橋を見上げての撮影などに広角の効果が発揮されますが、いかに巨大建造物であっても十分接近しなければ、広角レンズでは対象が巨大さとは裏腹のちっぽけな存在に写ってしまいます。

上の写真は安濃ダムの堰堤直下の進入禁止ゲート手前にあるダム管理用の橋からダムを12mm( フルサイズ24mm )で写したものです。この辺りまで近づくと人の感覚ではダム堰堤は巨大な構造物として眼の前に迫っていますが12mmの写真では人が感じるほどの迫力は伝わりません。更に下の7.5mmの写真ではダムが小さな丘の間に掛かった橋程度の印象しか与えません。

広角でダムの実在感を得るには、ダム堰堤に一杯まで接近して初めてその巨大な存在感を感じ取れるようになります。上の写真の撮影位置からでは標準レンズによる撮影( 下写真20mmで撮影 )のほうが遥かにその実在感を捉えることが出来ます。

撮影による印象の変化

広角レンズの特性は以下の写真の様に、天を突くような巨大な建物も、楽に一枚の写真に収めてしまいますが、しかしこのことが同時に大建築の持つ壮麗さや重厚感を失わせる働きをすることも事実です。特に建物の収束点が画面の中にあるような場合、建物はその収束点に向かって急激に幅を減じてゆきますから、およそ建物の持つ重量感とはかけ離れた寸詰まりの矮小な印象に変わってしまったりします。

上は14mmのレンズでスカイツリーを無理やり画角の中に収めたものだが、この写真からは構造材の持つ機能美は感じられるが建築の大きさや重量感はあまり感じ取れない

ヨーロッパの中世建築のように建物の構造が複雑な場合には、画面の中に幾つもアクセントをつける対象が存在するため、建物の見栄えが上がり見た目の矮小化を抑えてくれるのですが、あまり変化のない建物では下の例の様に何処か箱庭的な印象を与える写真になったりします。

広角レンズが時に対象を矮小化して、どことなく箱庭的な印象を与えるのは江戸城の大手門を写した上の写真でも感じられます。門の背後にあるのはどれも20階以上も有る丸の内の巨大なビル群なのですが、この写真からは現地を歩いていて感じられる都心のビル群の圧倒的な威圧感などまるで感じられなくなっています。

都市の景観撮影

しかし広角レンズは巨大な建物がひしめく都市の景観を撮影する場合に好都合なことも事実です。適当にカメラを向けて写しても、広範囲の視野の中には大きい建造物や面白い対象物が幾つも映り込み強いアクセントを与えるので画面に変化が出て単調になるのを避けることが出来ます。

四角いビルが一般的な日本の都市には、ヨーロッパの伝統的な都市の持つ建物の多彩な変化はあまり感じられませんが、近年では耐震設計が進んで100mをこえる超巨大な建築が増え、高所から撮影するとこれらの巨大建造物が強いアクセントとして働いて広角レンズの恰好の被写体となり素晴らしい写真が撮れるようになりました。

上は東京タワーからビル群の背後に浮かぶ富士を写したものですが、距離が遠すぎてさすがの富士も目立たない点景になってしまいました。この方角には人目を引き付ける超高層建築が少ないことは、富士に幸いしているのですがさすがに12mmでは視野が広すぎるようです。

の写真は25mm( フルサイズ50mm )で捉えたもので広角レンズではありませんが、こちらの方が富士を主題とした写真としては勝っているでしょう。構図をむやみに拡大しても、周囲のビル群の美しさが削がれてしまうのでこの辺りの画角が最も良いように思われます。

博物館

明るい広角レンズは暗所にも強く、少ない手ブレで一枚の写真の中に広範囲の対象を写し込めるので、狭い範囲に大きな剥製や標本が展示された博物館内の撮影などにも必需品です。

以上は国立科学博物館での展示品撮影。フラッシュを使わなければ自由に撮影が許されているのも有り難いことです。

以上は三重県立博物館の展示品。博物館の展示は学芸員の熱意が感じられるものが多く風景の撮影とはまた違った楽しみがある

展示品の撮影

最後は広角レンズが最も得意とする接写による商品や料理の撮影です。接近撮影では広角レンズと言えども被写界深度が限られますから、ある程度の明るい絞りであれば自然にボケが発生して対象を際立たせてくれます。f2.0程の明るさであれば超広角であってもフォーカスはシャープになり、ピンポイントでのフォーカスも可能になります。

LEICA 8-18mm F2.8-4.0  8mm f2.8にて撮影。下は更に接近してラクダの目にピンポイントフォーカスしたもの。レンズ前面からの接写距離は数cmでここまで寄ると周りの対象は全てボケる

料理など特にそうですが、撮影の仕方によって実物とは異なる印象になることが良くあります。写真撮影は如何に実物に近い表現をするかが基本ですが、プロの商品撮影では品物を如何に実物以上に見せるかもまた重要なテクニックです。撮影のやり方次第で写真は実物に近い表現になったり、実物から隔たった印象を与えたりします。

どの様な印象の写真にするかは撮影者の心次第であり、正直、なかなか思い通りの写真は撮れないものです。もし高い確率で思い通りの写真表現が出来るようであれば、あなたはアマチュアであっても高い撮影技術を身につけていると言えるでしょう。

以上で広角撮影のメニューもお終いです。私と娘が撮影した写真のストックの中から広角レンズの特性が良く出ているものを幾つか選んで載せてみましたが、正直写した写真の枚数は膨大なので写真を選ぶのには何時も苦労します。

広角撮影が引き立つ都市の風景は国内・国外問わず方々に旅行に出ている娘の撮影によるものが殆どすべてになってしまいました。広角撮影については下の写真の様に独特の面白い印象を与えるものなどもあって奥は深いのですが、限がないのでこの辺で止めておきます。