マサ・花崗岩風化土壌

マサ・花崗岩風化土壌

花崗岩の山でよく出会うのは、マサと呼ぶ花崗岩が風化した土壌です。花崗岩の主要鉱物である長石・雲母が風化によってばらばらになり、粘土鉱物と硬質な石英粒子のざらざらした砂に変わって行きます。風化の初期には長石や石英の白色が目立つ綺麗な砂ですが、風化が進むと鉱物粒子が選別されて雲母の鉄分が酸化して赤茶色の粘土質の細粒土壌と石英粒主体の石英砂に分かれます。

花崗岩が風化したマサ。白色は風化した長石。石英粒子はやや灰色ががる。鎌ヶ岳・長石尾根登山道

山岳寺から鎌ヶ岳への馬の背尾根を覆うマサ。白色の尾根筋は美しく長い道のりも気持ちが和らぐ

マサ土は弱酸性で石質に富み貧栄養なので植物の生育には向きませんが、このような土壌にはアカヤシオ・シロヤシオ・ミツバツツジ・ホンシャクナゲ・サラサドウダン・ベニドウダン・ツリガネツツジなどのツツジ科の植物が多く分布します

鎌ヶ岳・馬の背尾根の風化地帯にアカヤシオの彩りが映える

登山道などで山の表層を覆う草木が失われるとその部分から風化が進行しマサ化した土壌はどんどん削られて行き下手をすると斜面崩壊につながる。鎌ヶ岳・カズラ谷登山道

入道ヶ岳・宮妻林道の路肩を覆うマサ。このような地質の山腹に道を開いてもたちまちに崩壊して埋まってしまう

粗粒で色の白いマサは見た目にも美しく、寺社の庭などに撒かれたりしますが、普通は鉄分の酸化によって赤土色になっているものが殆どです。鈴鹿の山では多くの登山道でマサ土に出会いますが、ざらついて滑りやすく、痩せ尾根のナイフリッジや急こう配の斜面がマサで覆われていると滑落する危険の高い恐ろしい場所となります。

水沢岳北面のキノコ岩大ザレ。風化花崗岩が薄気味の悪い造形を造り、あまり気持ちの良い場所ではない

過去には何か所もそのような恐ろしい尾根道を歩いた記憶がありますが、近年では登山者の増加に伴って危険な尾根道は整備されたり巻き道が切られて以前ほどの恐怖を感じるルートはなくなったように思えます。

上から見下ろした水沢岳北面のキノコ岩大ザレ。マサで覆われた急こう配の登り・下りは滑りやすく下手をすると大ケガにつながる

表土がマサ化しても上手く植物が根づいて表面を覆えば表土の崩壊は食い止められるのですが、元来栄養分に乏しく草木の生育が悪いうえに登山道が切られたり、雨水の通り道になったりするとそこからどんどん崩壊が進行して止まることがなくなります。

マサ化が進むには、岩質、位置環境、気候、時間など様々な条件が複合して働くため、稜線上などでは同じ場所にあっても手で触ればバラバラと崩れ落ちそうな石から、風化の影響が少なく強固な石迄様々な岩石が既に崩壊したマサと混在するのが普通です。

鎌尾根の取り付きから見た晩秋の鎌ヶ岳。鋭い山体には多数の節理が入り岩片が下のニゴリ谷へと崩壊している。中央右手に岳峠がみえる

鈴鹿の山でも方々で、もはや手の付けられないほどの山腹の崩壊が見られますが、山はこのような崩壊を繰り返して徐々に傾斜を緩やかにし、最後は平原状の台地となるのが自然の摂理とあればそれも仕方のないことでしょうか。

鎌ヶ岳から鎌尾根や仙ヶ岳の南尾根などの歩きは、その絶景により、このような花崗岩地形特有の変化に溢れ、地形の厳しさや歩きの辛さを忘れさせる

しかしマサ化は治山事業にとっては誠に厄介な代物ですが、山歩きを楽しむ者にとっては岩の絶景を生み出したり、登山道に様々な変化を与え山歩きの面白さを増してくれる要素ともなります。

羽鳥峰峠の南面では登山道に沿って表土を覆う草木が剥がされ山腹の崩壊が始まっている。登山道の切られた尾根では方々で見かける光景だが、人に踏み均され植生を失ったマサ土は止めどなく崩落し植生が回復することはまず見られない。このような場所では登山者が山を壊して行く元凶ともなる

しかし植生の薄い尾根道を多数の登山者が踏み歩けば表土を剥がし、マサの崩壊を招いて山を壊して行く訳で、山を愛して山歩きを楽しむものが同時に山を壊して行くとはまことに皮肉な話です。

或いはいつかはこのような傾向に歯止めをかけるため、崩れる可能性の高い山については登山禁止の措置が取られる日が来るかもしれません。