輝石

自然界に産し、ほぼ一定の化学組成と構造をもつ均質な物質を鉱物と呼びます。現在までに知られている鉱物は数千種に上りますが、そのなかで地球上の岩石を構成する主なな鉱物は数十種にすぎず、これらは造岩鉱物と呼ばれています。

造岩鉱物のうちでも多くの岩石に含まれるものは石英と長石の白色系珪酸鉱物と、橄欖石・輝石・角閃石・黒雲母の有色系苦鉄質鉱物の6種類と云われます。そのうち石英以外は単独の鉱物種ではなく同系統の複数の鉱物からなるグループ名です。

主要な造岩鉱物6種 上列左より石英・長石(カリ長石)・黒雲母(黒雲母花崗岩) 下列左より角閃石(角閃岩)・輝石(輝岩)・かんらん石

主要な6種類の造岩鉱物のなかでも、この辺りの鈴鹿・布引山地の岩石に含まれるものは、そのほとんどが石英・長石・雲母・角閃石・輝石の5種類ではないかと思います。 最初の橄欖石は上部マントルを構成する主要な鉱物と考えられており地下には大量に存在しますが、本来は極めて高い温度と圧力で安定な物質ですから、何らかの形で地表に上昇してきても上昇する過程で化学平衡が成立しておれば低温低圧で安定な別の鉱物に変わってしまいます。

このため橄欖石は、高温のマグマが地表に吹き出して急激に固まった玄武岩や安山岩のなかに斑晶として存在するか、大陸衝突によって短期間にマントル境界から上位の地殻が地表に突き上げたオフィオライトなど特殊な環境でしか地表には存在しません。

カンラン石・olivine の検索画面にはオリーブ色の綺麗な結晶が登場する。しかし私達日本の自然環境でこのような美しい石にお目にかかることはまずない

伊豆・箱根や九州の火山地帯など玄武岩質溶岩が多い地域では斑晶中に橄欖石を持つ溶岩がたくさん見つかりますが火山のない三重県では無理です。また県下でも黒瀬川構造帯の有る鳥羽から五ヶ所にかけてはオフィオライトが存在しますが、橄欖岩(橄欖石を主体とする石)はほとんどが上昇過程で蛇紋岩化しています。

かんらん石は上昇過程で加水して蛇紋石、タルク、緑泥石、輝石等に変質してしまう

なお一部の橄欖石(苦土橄欖石、モンチセリ橄欖石)は苦灰岩や石灰岩の変成岩(スカルン)中でも見られるようですがその存在はごく僅かで、いずれにしても橄欖石を三重県内で手軽に目にすることは難しいと思います。

残る5つのうち、石英・長石・雲母の3つは花崗岩や閃緑岩中にはごく普通に見られますから領家花崗岩類や鈴鹿花崗岩類が多く分布する三重県北中部の山地では極めて一般的です。

鈴鹿花崗岩の表面写真。灰色がかったのは石英、白色は斜長石、ピンクがかったのはカリ長石、黒色は殆どが黒雲母です。

続く角閃石も閃緑岩や安山岩があれば、その多くに含まれており見つけるのにそれほど苦労はしません(三重県中勢部の角閃石については、冒頭に上げた「角閃石」のサイトで少し書きましたので興味があれば見てください)

我賀浦川の閃緑岩(左上)中の有色鉱物はほとんどすべて角閃石。右上は中ノ川の角閃石斑糲岩で黒色の角閃石が50%以上を占める

しかし最後の輝石が曲者でこの辺りではなかなか目にする機会の少ない造岩鉱物となっています。 ネットによると輝石の記事は次のようなものです。

Wikipediaの解説

輝石(きせき、pyroxene)は、ケイ酸塩鉱物の一種。多くの火成岩や変成岩に含まれる代表的な造岩鉱物。色は無色・緑色・褐色・黒色などで、ガラス光沢を持つ。自形結晶は短柱状。二方向の劈開が顕著。角閃石によく似るが、劈開の交わる角度(約90°)により区別される。 基本的な化学組成は XY(Si,Al)2O6 (ただし、X はCa、Na、Fe2+、Zn、Mn、Mg、Li、Y はCr、Al、Fe3+、Mg、Mn、Sc、Ti、V、Fe2+)で表される。 結晶系により、直方(斜方)輝石(ちょくほうきせき、orthopyroxene、直方晶系(斜方輝石))および単斜輝石(たんしゃきせき、clinopyroxene、単斜晶系)の2つに分類され、さらに上記の化学組成により細かく分類される。1988年、国際鉱物学連合(IMA)の輝石命名の小委員会により、輝石の分類と命名が整理された。20種が輝石の独立種とされ、そのうち13種が固溶体の端成分として用いられる。これらのうち、普通に見られるのは、Ca-Mg-Fe輝石8種(1-5、8-10)、Ca-NaおよびNa輝石4種(14-17)である。

日本大百科全書の解説

重要な造岩鉱物の一群で、現在まで23種類知られている。・・・中性ないし塩基性の火成岩、超塩基性岩中、また接触変成岩や広域変成岩中、花崗(かこう)岩ペグマタイト、隕石(いんせき)中にも産する。輝石はしばしば分解して、角閃石、緑泥石、雲母(うんも)、蛇紋石鉱物などに変化している。輝石のうち、ひすい輝石の緻密(ちみつ)な塊、淡紅あるいは緑色透明なリチア輝石の結晶は宝石用に、またリチア輝石そのものはリチウムの原料として採掘の対象となっている。・・・[松原 聰]

ブリタニカ国際大百科事典の解説

単斜晶系または斜方晶系に属する柱状結晶をなす重要な造岩鉱物の一つ。・・・硬度5~6.5,比重 3.1~3.9。塩基性岩ないし超塩基性火成岩に多く,中性岩にも含まれる。形成時の化学的,物理的条件によって,次のような種類がある。 (1) マグネシウム,鉄(II),カルシウムを特徴とするもので紫蘇輝石,普通輝石など。 (2) ナトリウム,鉄(III)を特徴とするもので,エジリン輝石など。 (3) ナトリウム,アルミニウムを特徴とするもの。

以上の解説によると、輝石は結晶形の違いにより斜方輝石と単斜輝石に大別され、さらに化学組成の違いによって20の独立した種が存在すること、またその多くが固溶体として複数の種の混合物として存在することがわかります。

塩基性岩(閃緑岩、斑糲岩、安山岩や玄武岩等)に多く含まれるとありますが、これは伊豆・箱根や別府、阿蘇等の安山岩・玄武岩質の多い溶岩地帯ではまさにその通りで、これらの地域で溶岩と思しき石を拾い上げるとその多くはマグマから直接晶出した輝石の斑晶を含む石のようです。 (西伊豆の溶岩中に見られる輝石については以前西伊豆の石に少し書きましたので、興味があれば見てください)

西伊豆の火山岩転石の多くが輝石安山岩。有色鉱物の多くは輝石です

西伊豆の両輝石安山岩の薄片写真。輝石は斜方輝石、単斜輝石の双方が含まれる。先のXPLで白く見えるのは斜長石

ところが私が暮らす三重県の北中部、鈴鹿・布引の山地には花崗岩質の石が多く、なかには閃緑岩や斑糲岩等の塩基性岩も見られますが、どの石も角閃石はたくさん含んでいても輝石を含むものはわずかです。斑糲岩の殆どが角閃石斑糲岩で輝石は含まず、地質図でノーライトと記載された地域でも輝石は角閃石や雲母に交代していて不明瞭なものです。

また鈴鹿山脈の中部~北部にかけては、古生代・中生代の付加体起源の玄武岩(古代の海洋底)が存在するのですが、数億年の歳月によってさまざまな変成を受けて緑色岩化しており簡単に輝石の結晶を確認ができるようなものではありません。

愛知川支流・佐目子谷の緑色玄武岩。古生代の海洋底が付加したもので数億年の時間を経て今日に至る。

緑色玄武岩は付加された玄武岩がその後の変成作用により変質したもので、古生代起源の石ではその変成作用も複数回に及んだと思われます。

一般に緑色岩では源岩の鉱物は角閃石、緑泥石、パンペリー石、葡萄石その他様々な鉱物に変質しています。

このため、この地域で輝石を見ることのできる石の多くは、接触変成岩や広域変成岩となります。変成岩では源岩の中には輝石が含まれていなくとも、変成の過程で源岩の鉱物中から輝石が変成されます。

変成岩は変成を受ける際の温度と圧力の組み合わせに応じて、様々な変成相が定義されていますが、輝石を生じうる変成相と源岩の組み合わせは限られていて、鈴鹿や布引の領家変成岩や接触変成岩の形成条件下ではおおむね次のような組み合わせによるものです。

a)石灰岩や苦灰岩等の炭酸塩岩が緑色片岩相から角閃岩相、角閃石ホルンフェルス相、輝石ホルンフェルス相などの変成を受けた場合でどの場合も単斜輝石がつくられる。

b)玄武岩・斑糲岩などの苦鉄質岩が角閃岩相、角閃石ホルンフェルス相の変成を受けると単斜輝石がつくられる。輝石ホルンフェルス相では斜方輝石及び単斜輝石がつくられる。源岩が、かんらん岩(蛇紋岩)等の超苦鉄質岩では緑色片岩相から角閃岩相で単斜輝石がつくられる。輝石ホルンフェルス相では斜方輝石がつくられる。

[炭酸塩岩とは炭酸塩鉱物が重量比50%以上を占める岩石.炭酸塩鉱物は主として calcite(方解石)・agonite(アラレ石)・dolomite(ドロマイト)]

すなわち炭酸塩岩の場合は、低温から高温、低圧から高圧のどのような変成条件においても単斜輝石(透輝石から灰鉄輝石)が生成されます。

苦鉄質岩では角閃岩相以上の高温条件下で単斜輝石が、より高温の輝石ホルンフェルス相では単斜輝石と斜方輝石の両方がつくられます。 源岩が橄欖岩等超苦鉄質岩の場合は低温条件でも単斜輝石ができますが高温になるに連れて斜方輝石へと変わってゆきます。

変成温度と圧力(深度)による変成相の変化 「Wikpedia mineral faciesより」

布引山地の領家帯では場所によって緑色片岩相から輝石ホルンフェルス相に至るまでの温度圧力条件が得られたようで、aの炭酸塩岩起源の単斜輝石(スカルン中に存在することが多い)及びbの塩基性岩起源の斜方輝石・単斜輝石共に見ることができます。

また鈴鹿山脈側でも接触変成によるスカルンは方々に存在しますので、これらの中でaの単斜輝石を確認することができます。鈴鹿山脈側でのbの変成条件について私自身は確認していないので何とも言えませんが、中・古生代地殻の下位に鈴鹿花崗岩が定位しますから接触境界においては500℃以上の高温による接触変成相の存在は当然と思われます。

ただし変成岩の場合、源岩の存在と、変成に適した変成相の温度圧力条件が満たされないと目指す鉱物が形成されないのでその存在範囲がかなり狭まります。

これらの石を効率よく探すには、変成岩を上流域に持つ河川の砂防ダムや屈曲部に発達した河原の転石を調べるのが手近な方法です。 自宅近くでaの条件が得られる河川は、鈴鹿山脈南部を水源とする内部川・御幣川・安楽川・鈴鹿川及び布引山地南部を水源とする安濃川・長野川・榊原川・服部川などです。

河原で目指す転石が見つかれば、その上流域には転石の元となったより大きな石が存在する。これは赤緑白の三色が特徴的な石灰スカルン。緑部分が単斜輝石

鈴鹿山脈南部の諸河川は、どれもその上流域に僅かですが石灰質岩が存在し、炭酸塩岩起源のスカルンがでますから、河川の上流域をよく探せば単斜輝石を含むスカルンが見つかる可能性があります。

bの苦鉄質岩起源の輝石ホルンフェルス相の石は、布引山地南部を水源とする服部川・馬野川・長野川などの上流域に見られますがaのスカルンと比べると僅かな量です。次にこれら輝石を含む石を幾つかのサンプルによって見てみることにします。

玄武岩や安山岩に見られる輝石の結晶は、石基中に小さな斑晶として含まれていて、分かりやすいですが、変成岩中の輝石は、通常は小さな結晶が集まったかなり大きな塊状で見られ、他の変成鉱物と共生していますから、輝石を探すと言うより共生鉱物をともに探すことになります。

赤緑白三色の石灰スカルン岩。緑部分が単斜輝石

スカルン岩の場合、主に方解石(石灰岩)・硅灰石・べブス石・柘榴石・輝石などが共生します。これらは先の写真にもあるように赤(柘榴石・べブス石)・白(方解石・硅灰石)・緑(輝石)の三色が混合された石として見つかることが多いため、探す際はこれらの色を目安にすると見つけやすいです。

サンプル1

内部川上流の宮妻峡の転石です。宮妻峡キャンプ場の雲母峰側山腹からキャンプ場北部上流域にかけて、地質図には出ていませんが小規模な石灰岩脈が点在するようで、内部川やその支流でスカルンの転石が拾えます。この石はキャンプ場の下流で拾ったもので、周囲には方解石・硅灰石が目立つスカルン転石が点在していました。

白色の方解石と層状にやや茶色味を帯びた硅灰石が共生し、淡いグリーンの単斜輝石がそれらの内部に派生しています

スカルンによらず、形成条件が限られた石は、一個転石が見つかれば大抵その周辺には同じ源岩に由来する同種の石がいくつも見つかるもので、この場合も谷の狭い範囲で集めたものです。

白色の表面をよく見ると、光沢のある放射状に硅灰石の結晶が成長し単斜輝石がそこに混じっている。

転石の表面には、線状・長柱状の硅灰石結晶が目視でも良くわかり、淡緑色の輝石が層状にこれらの結晶に入り込んでいて、一見すると淡い緑の染料で硅灰石や方解石の一部を染色したような感じです。

輝石を含む部分の拡大写真は次のようです。流石に拡大してみると緑色帯が白色部とは異種の鉱物であることが良くわかります。

単斜輝石はカルシウム輝石(灰鉄輝石CaFe2Si2O6と透輝石CaMgSi2O6の固溶体)です。鉄分の多い灰鉄輝石に近くなるほど暗緑色となる傾向があるようで、この場合は透輝石に近いと思われます。

氷砂糖状の結晶は方解石、その手前で柱状に成長している部分は硅灰石です。わずかに点状の柘榴石も見られます。

安山岩など火成岩中に見られる単斜輝石は普通輝石か透輝石ですが変成岩中には普通輝石はほとんど見ることができないそうです。スカルン中に存在するのは主に灰鉄輝石と透輝石で固溶体をとります。

薄片にして偏光顕微鏡で確認した写真は次の様です。以後8枚の写真の視野は約10mm✕6.7mm、偏光顕微鏡下で最初がXPL 後の写真がPPLです。

長柱状の結晶は硅灰石・干渉色は低くて長石や石英同様、灰色~無色(光源の関係で青く見える)です。鮮やかな干渉色を示す単斜輝石の微晶が珪灰石中に散在していて、正に硅灰石を輝石の色素で染色したような感じです。上の写真では単斜輝石と硅灰石以外の結晶は確認できません。

こちらはほとんどが輝石の結晶からなる部分で、脈状に高干渉の方解石が入り込んでいます。光学的性質に差がないため単斜輝石が端分の灰鉄輝石CaFe2Si2O6寄りなのか透輝石CaMgSi2O6)寄りなのかは偏光鏡ではわかりません。

輝石の一部に、偏光板がどの角度でも暗黒にみえる鉱物が右上から左下にかけて帯状に点在します。灰鉄柘榴石~灰礬柘榴石(固溶体で存在)と思われます。

スカルンはその独特の色彩のため産地が上流にあれば割と簡単に転石を見つけられます。方解石・硅灰石・単斜輝石・柘榴石・ベスブ石・角閃石・緑簾石・灰簾石など色々な鉱物を含むため見つけるのが楽しみな石でもあります。

サンプル2

安濃川上流の河内谷の転石です。安濃ダムに注ぐ安濃川支流には宝並川・笹子川・南垣内川・我賀浦川などいくつもの谷がありますがどの谷にもスカルンが点在するようで谷の下流にはスカルンの転石が見つかります。

安濃川上流域のスカルン。方解石は風化が激しいためかスカルンの転石には緑と赤の物が多い。方解石の多くは単独の岩塊となって見られる。

スカルンを探す場合、その母体となる炭酸塩岩の存在が不可欠です。炭酸塩岩はスカルン化の過程で熱変性を受けて方解石に変わっていますから、その谷に白い方解石の転石があればスカルンの転石が見つかる可能性も高いと言えます。

安濃川上流の谷で拾った方解石の転石。結晶の粒度も緻密なものから数センチあるものまで様々。暗色の帯は方解石中に存在した異物が集まったもの。

輝石を含む部分の転石の拡大写真を以下に示します。写真によってマクロ撮影の条件が異なりますが、だいたい30mm✕20mm程度の視野です。

この石では緑色の輝石の周辺に方解石とともに赤色の柘榴石やベスブ石が共生しています。

この部分では宮妻峡の石同様に輝石の周囲には硅灰石の放射状結晶が発達し、その一部は鉄バスタム石になっているようです。茶色い部分はベスブ石と思います。

輝石の綺麗な自形結晶を見ることは稀ですが、隣接して共生していた方解石が風化侵食を受けてなくなってしまうと自形結晶が残されることがあります。暗緑色の部分は単斜輝石(灰鉄輝石と思います)の結晶

薄片にして偏光鏡で確認した写真は次の様です。以後8枚の写真の視野は約10mm✕6.7mm、偏光顕微鏡下で最初がXPL 後の写真がPPLです。

高い干渉色を示しているのが単斜輝石の結晶です。画面右上から左下にかけて方解石のバンドが入っています。XPLで黒く映る部分の大半は干渉色が出ない柘榴石です。

左上部はほとんど輝石の結晶からなり右部には柘榴石が入り込んでいます。一般に変成岩中の輝石の結晶は微-細粒のコロコロした結晶集合であることが多く結晶軸の向きもまちまちですから干渉色も様々な色彩を示します。

上4枚の写真は、下端の硅灰石(黄色~灰色の干渉色)と上部の輝石の間に石英が入り込んでいます。高干渉を示す方解石も存在しますが、写真でははっきり色が出ずに分かりづらいです。珪灰石は長柱状の単結晶として成長しているので結晶軸がそろうと広い面積が同時に暗色(消光位)となります。

上4枚の画面はほとんどが方解石です。幾何学的模様の複雑な干渉色を示し非常に高い干渉色をとるため結晶方向の僅かな変化でも多彩な色彩変化を見せます。

細粒の方解石が主体のところは、とても複雑で美しい干渉色を見せるので思わず見とれてしまいます。方解石の粒間に微細な輝石や硅灰石の結晶が存在しますが、殆どは方解石の結晶です。

方解石と共に白色の結晶となる珪灰石は、硬度が4.5と方解石よりは固く(方解石:3)繊維状や放射状の結晶形を取るものが多いので区別できます。偏光顕微鏡で見ると黄色から灰色の干渉色を示しますが、繊維状結晶は薄片に研磨する過程で剥離しやすいので研磨が甘くなり、厚みが出せずにより高い干渉色を取ることも多くなります。

硅灰石は淡黄色から灰色の干渉色を示しますが、標本の厚みが出せないと鮮やかな色がでてしまう。これは薄片作成の際の宿命で、剥離が激しい等の原因で研磨が甘いとどの鉱物も輝石や橄欖石同様の高干渉を示してしまう

硅灰石は輝石に近い直交(84°)する劈開を見せます。青い干渉色を取る部分は柱状結晶を輪切りにした状態で綺麗な劈開が確認できます。

スカルン中の主要な鉱物は柘榴石・ベスブ石・輝石・方解石・硅灰石・緑簾石などですが、角閃石も共生することがあるようです。おもに透閃石・鉄へスティング閃石など硅灰石のように放射状結晶をとる種が多く、形状は硅灰石に類似しますが硬度が高いので判別できます。また干渉色が硅灰石よりも遥かに高いので偏光鏡によっても識別できます。

柘榴石と共生する角閃石(透閃石かと思います)見かけは硅灰石によくにていますが硬度が高く釘では傷が付きません

サンプル3

次はbの角閃石ホルンフェルス相~輝石ホルンフェルス相に当たる石で津市美里町の桂畑川上流の転石です。エクロジャイト相やグラニュライト相など地下深部の高温高圧下において一般に輝石が形成されるようですが、低圧下でも700~800℃の高温条件が達成されると、接触変成岩や領家帯の広域変成岩中にも輝石を含む変成岩が見つかります。

ただ私の知る範囲では、この辺りで角閃石~輝石ホルンフェルス相がスカルン帯に見られるような明白な輝石の集合体となることは少ない様子で、輝石は細粒で斜長石や角閃石の粒間を埋めるように存在していて、偏光顕微鏡でサンプルを調べてみないと輝石の存在が良くわかりません。

サンプル3:桂畑川上流の転石で、角閃石ホルンフェルス相に属すと思います。ガラス質の細粒緻密硬質な岩塊で、私には見た目では含まれる鉱物種の判定が困難でした。源岩は石灰質砂岩でしょうか

拡大写真と研磨面の拡大写真を見ると白色の鉱物との鉱物が不規則に混じり合っているのがわかりますが、それらの鉱物の結晶粒はとても細かく見た目での判断はできません。

当初はその色合いから石灰質砂泥岩の高度変成岩とも見えたのですが、極めて硬質でガラス質の緑色部はこの当たりにみられる角閃石斑糲岩とも違うし、緑色の角閃石を晶出する角閃岩相の変成岩とも違います。石灰質の砂泥質岩中の炭酸カルシュウムが輝石に変化した様子で、薄片にして見てみると微細な角閃石と単斜輝石の結晶を含む塩基性岩でした。

薄片にして偏光鏡で確認した写真は次の様です。以後4枚の写真の視野は約10mm✕6.7mm、偏光顕微鏡下で最初がXPL 後の写真がPPLです。

比較的大きい石英結晶と1~2mm前後の斜長石と石英結晶の間隙に1~2mmほどの角閃石と1mm以下の単斜輝石の細粒が不規則に分散しています。


サンプル4

同じくbの輝石ホルンフェルス相に当たる石で亀山市関町の鈴鹿川の転石です。源岩は石灰質砂泥質岩と塩基性岩のメランジュであったようで、双方の変成岩が部分的に混在しています。

拡大写真の暗色部分は黒雲母の結晶が優勢で砂泥質岩起源の変成部ではないかと思います。輝石は灰緑色を帯びた部分を中心に見られます。

偏光顕微鏡による薄片写真は次の様です。以後の写真の視野は約10mm✕6.7mm、偏光顕微鏡下で最初がXPL 後の写真がPPLです。

上写真右 上から左下に配列する石英と斜長石の間に高屈折で輪郭のきつい単斜輝石が層状に並んでいます。単斜輝石の配列中には中央右に桃色の干渉色を見せる楔石が混在しています

上写真 細粒の輝石結晶にも画面斜めの弱い配列が見られます。結晶形は他形とも自形ともはっきりせず、周囲の石英や長石と同時に成長したようです。

この部分では輝石の結晶に混じって角閃石と黒雲母の結晶が見られますが、その割合は極めて小さいものです。

有色鉱物の輝石と角閃石・黒雲母の生成は源岩の組成に応じたものと思われる明確な差別化が見られます。表面写真で黒く写っている部分は黒雲母の微結晶が集中しており、表面のルーペ観察でもキラキラした多数の黒雲母の結晶が確認できます。この部分の薄片写真は以下の様です。

鮮やかな干渉色で左上から右下に向かう劈開線の細粒鉱物はすべて黒雲母でPPLでは茶色く写ります。大面積の緑っぽい結晶は角閃石ですがその多くは雲母に交代しています。黒雲母の優勢な部分には輝石の結晶は存在しません。

岩石中に輝石が多くを占める石を輝岩と呼びますが、サンプル3・4などは岩石中に輝石が存在すると言うだけで、およそ輝岩と呼べるようなものではありません。スカルン帯ではほぼ輝石ばかりからなる岩塊を見ることも稀ではありませんが、この地域の領家変成岩や接触変成岩で苦鉄質岩を起源とする輝岩を見出すのは難しいようです。

安濃川上流の転石で、内部はほとんどすべて単斜輝石(灰鉄輝石と思います)からなります。橄欖岩のように表面は鉄分が酸化して鉄さび色をしていますが、割ってみると内部の新鮮な部分は暗緑色の輝石塊です。湿気のある場所に放置しておくと、周囲からどんどん酸化してボロボロになってしまいます。

上はスカルン起源とみられる輝岩の転石で現岩は30cm程の茶色い岩塊でした。鉄雲母の多い火成岩は時に酸化して全体がさび色になるものですが、あまりにも錆び色が強いので不審に思って割ってみたら内部は輝石の塊でした。

上の写真は割り取ってから10年以上経っているため、すでに端面もさび色で覆われています。

新鮮な部分の表面写真は次のようです。

内部にも劈開の亀裂面に沿って水分が浸透するので錆が出ていますが研磨すると表面は綺麗な濃緑~淡緑色となりますこの部分の偏光顕微鏡による薄片写真は次の様です。以後の写真の視野は約10mm✕6.7mm、偏光顕微鏡下で最初がXPL 後の写真がPPLです。

ただ、このような石は慣れないと輝石であるとはまず分からないと思います。布引山地には角閃石が過半を占める角閃岩(角閃岩相の変成岩)が存在して灰緑色~暗緑色の輝石に似た結晶の集合をとりますから角閃岩と見誤る場合もあります。

こちらも同じく安濃川上流の転石だか、内部はほとんどすべて角閃石からなりる角閃岩相の変成岩。この辺りでは斑糲岩や閃緑岩中の角閃石はみな漆黒の色をしていますが、変成岩中の角閃石は大半が緑がかっている。

こうして見てきますと、玄武岩や安山岩など塩基性火山岩に含まれる輝石に比べて、この辺りで得られる輝石は、雲母や角閃石に比べてあまり一般的なものではなくむしろ鉱物としては少数派ではなかろうかと思えてきます。

これは火山の多い日本にとっては火山活動に伴う火成岩がごく普通に存在し、当然火成岩中に斑晶として含まれる輝石も一般的であるのに対して、三重北部の鈴鹿や布引など変成作用による輝石が多い地域では、現岩の組成と変成条件が合致しないと目的とする鉱物が形成されず、産出がどうしても局所的になりやすいからでしょう。

しかし岩石や鉱物の楽しみは、そのような環境条件の変化に応じてさまざまに異なった種類の石や鉱物が見つかることにあるわけですから、見つかりにくいこともまた楽しみの一つであるといえるかもしれません。

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