鈴鹿川・斑岩

岩脈・斑岩類

小野川の分流点より上流では転石の火成岩にしめる斑糲岩の割合はかなり下がり黒っぽい火成岩として暗緑色~褐色の石基中に白く長石斑晶が目立つ斑岩類が見つかります。

斑岩は斑晶のサイズや形に色々変化があって磨いてやると面白いオブジェになる。転石では青っぽく見える石基も磨くと黒光りのする石に変わる

鈴鹿川水系の地質図には記載がないのでどの辺りに原岩が存在するものか不明です。鈴鹿峠の土山側には湖東流紋岩由来の猪ノ鼻トーナル斑岩と呼ぶ火山岩が分布しますが岩相はかなり異なるようです。

上は勧進橋上流で見られる斑岩類。組成は花崗閃緑岩に近いのではないかと思うが詳しくは不明。長石の斑晶が良く目立つ。下は亀山大橋下流の転石で、青味を帯びた石基と茶色っぽい石基のものがある

鈴鹿山系には花崗岩中に貫入した脈岩類が所々に見られるので原岩はそれらに由来すると思われますが、これらの貫入岩脈はあまり粗粒結晶を含まない塩基性岩脈の緑色岩が多いのにたいして、こちらは斑晶が大きく石基も珪長質のような感じです。

石を割った表面を拡大してみると、透明鉱物の多くは白色の長石(たぶん斜長石)ですがやや茶色味を帯びた石英も見られます。石基は風化した面では緑味を帯びて見えますが、新鮮な断面ではやや青味を帯びた暗灰色で塩基性岩によく見られる色合いです。

勧進橋上流の斑岩転石の表面拡大写真。眼視では有色鉱物の斑晶は確認できないが、下写真のように拡大してみると有色鉱物らしい部分も確認できる。写真左の左隅でやや赤みを帯びるのは石英、右上の白色鉱物は斜長石で長径は約5mm。結晶がコロコロした感じで貝殻状の断口面の石英と長形で少しだが劈開の断口を見せる長石との違いが分かる。

これらの斑岩の源岩位置は不明ですが、加太花崗閃緑岩のマグマが岩脈状に地表近くに上昇して急冷固結したものであろうと思われますが、湖東流紋岩由来の火山噴出物かもしれません。ただ湖東流紋岩類は鈴鹿山脈の滋賀県側には分布がありますが三重県側では岩盤は確認されていません。花崗岩や閃緑岩に比べると転石の密度が極めて低いため、地表露出している部分も僅かなものでしょう。

斑岩のように石基と結晶が別れている石は磨いてやると地味な石基中にいろんな結晶粒が浮き出して思いの外美しくなる。上は勧進橋の脈岩の箸置き

これらの脈岩と思われる転石の中には、下写真の右端の石のように斑晶の小さい、緑色岩に近いものもあります。これらが皆同じ場所の原岩によるものなのかそれぞれ異なった場所に原岩を持つものかは不明ですが中々変化に飛んで面白いものです。

鉱物の確認を行うため、斑晶の小さい石を薄片化してみました。端面を見ると斑晶の無色鉱物はすべて斜長石で石基も玄武岩の緑色岩によく似ていて石英を含む斑岩とは異なりどう見ても玄武岩質で先の斑岩とは原岩の場所も異なったものだと思われます。

薄片にしてみると一目瞭然で、斑晶の斜長石とともに輝石の斑晶も多数確認できます。石基には針状の微細な斜長石と輝石が確認でき、玄武岩質の火山岩か脈岩と見られます。

上・下とも微斑晶の転石の薄片写真。厚みが出ていないため斜長石が石英のように黄色っぽく写っている。鮮やかな偏光色は輝石。オープン二コルで黒く写っているのは変質した斜長石のよう

鈴鹿山脈や布引山地では火成岩はおおむね珪長質で、このように綺麗な自形の輝石結晶を含む石は稀です。小岐須や宮妻峡に見られる脈岩の緑色岩も、私の手元にある薄片では輝石はあらかた角閃石や雲母その他の変成鉱物に置き換わっていますから、この転石の源岩が何処にあるのか知りたいところです。

これも先の箸置きと同じ種類の斑岩だが照明の具合で写した色合いが全く違ってしまう・・斑晶はもう少し色合いの変化に富むがこの写真では皆白っぽくなってしまった。