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花崗岩類のマイカ・黒雲母

花崗岩類は私が暮らす三重県北中部の鈴鹿山脈や布引山地に広く分布する岩ですが、花崗岩類と言っても石英と長石の白色鉱物が優勢な花崗岩から黒雲母や角閃石の優勢な閃緑岩まで幅が広く、その中間には花崗閃緑岩、トーナル岩、石英閃緑岩等鉱物組成の違いによって色んな分類名がありますが、素人の判断としては白っぽいものは花崗岩、黒味が強いものは閃緑岩程度の理解でも十分でしょう。

含まれる白色鉱物の比率による火成岩類の分類図。おもに中央部周辺が花崗岩類と呼ばれる

花崗岩類に普通に含まれる雲母類は黒雲母です。白雲母を含むものもありますが優白色の鉱物が優勢な花崗岩類では白雲母は目立たず見落としがちになります。鈴鹿や布引の山を源流とする河川で花崗岩類の中にある黒い鉱物の多くは黒雲母と見ても間違いありません。閃緑岩が優勢な地域では、黒色の鉱物に大量の角閃石が混じりますが、白色系鉱物の優勢な花崗岩・花崗閃緑岩・トーナル岩等の中に含まれる有色鉱物は黒雲母が主体です。

次に、この辺りで普通に見られる花崗岩類を幾つか上げてみます。先ずサンプルA 滋賀県側の野洲川支流で拾ったものです。ピンクのカリ長石がよく目立つ石で、鈴鹿山脈では水沢峠に至る尾根筋の沢で似たような花崗岩が見られます

サンプルA 中央部分の拡大写真。サイズはおよそ横50mm✕ 縦33mmです。黒雲母は小径ですが良く分かります

この石は典型的な花崗岩で、紫かかった石英、白色の斜長石、ピンク(下の拡大写真では黄色っぽく写っている)がかったカリ長石及び黒雲母からなります。黒色の鉱物はほとんどが黒雲母ですが、鉱物種不明の不透明鉱物も混じります。この花崗岩には角閃石は存在しません。

サンプルB 次はもっと細粒の花崗岩で関町を流れる鈴鹿川の転石です。上の石より白色鉱物の比率が高くて殆ど石英とカリ長石と斜長石からなり、僅かな黒点は黒雲母です。このように優白色で有色鉱物をほとんど含まない岩石をアプライトと呼ぶそうです。

サンプルB 有色鉱物の少ないアプライト質花崗岩の中央部拡大写真。サイズはおよそ横50mm✕ 縦33mmです

結晶粒は大きいものでも2~3mm前後、ことに黒雲母の結晶は2mm以下のものがほとんどで石英と斜長石とカリ長石の結晶の粒間に黒雲母が点在します。細い線状の黒雲母が見えていますが、薄いシート状の結晶を横から見たものです。僅かに白雲母も含みますが拡大写真でもよく分かりません。

サンプルC 安濃川上流部の転石です。加太花崗岩ー加太花崗閃緑岩と呼ばれる石の仲間で、A・Bの石と大きく違うのは長石の殆どが斜長石だということです。これは地質図幅 津西部の記載を見るとよくわかりますが、実際の石でカリ長石と斜長石を見分けるのは難しいものです。

サンプルC この石は加太花崗閃緑岩の仲間と思いますが、有色鉱物はほとんどが黒雲母で角閃石は見当たりません。地質図幅にあるKf :角閃石を含まない岩相のようです

カリ長石は変質して色づきやすい傾向にあるようで、着色して透明感が下がりAのように斜長石とはっきりと色の差で区別できる場合もありますがどちらも白い色をしていると目視で見分けるのは難しいものです。また黒雲母の鉄分が多いと錆が浮きだして白色鉱物を染色するため紛らわしくなります。

斜長石のほうが晶出温度が高く自形の綺麗な結晶を取りやすいのですが、石の表面を見るだけでは、なかなか分かるものではありません。薬品によってカリ長石を染める技術があるようですが簡単にできるものでもなさそうです。

やはりもっとも一般的なのは薄片にして、その干渉色を確かめることのようです。斜長石の場合、アルバイト双晶と呼ぶ独特のストライブが現れることが多く、カリ長石も多くの場合はパーサイトと呼ぶ模様が現れます。

サンプルC 以下8枚の偏光顕微鏡写真は最初がPPL、後がXPL。視野は約6mm✕4mmです。石英や長石は干渉が低く、XPLでも無色に近い明暗を示しますが以下の写真では光源の関係で青みを帯びて写ります。

薄片標本の範囲ではカリ長石は殆ど見つかりません。石英は白色鉱物の20%ほどでXPLでは長石より明るくモヤモヤした消光を見せるものが多いです。白色鉱物の多くはXPLで白黒の縞模様を見せる斜長石です。先の花崗岩類の分類ではトーナル岩になります。有色鉱物は不透明鉱物を除くとほぼ全て黒雲母です。雲母は鏡下では細かな劈開線が特徴で、XPLで見ると色の変化が鮮やかで直消光します。

サンプルC 雲母類は細かい劈開線とその干渉色によって、他の鉱物よりは簡単に識別できます。XPLで色彩の鮮やかな干渉を示しているのは全て黒雲母です。雲母類は柔らかく劈開線のたわみも特徴の1つです

サンプルC この石の雲母類はPPLで薄茶色~褐色の干渉色を示します。色の差は主に結晶軸に対する薄片の切断角によって変化し、多くの場合多色性を示して、標本のステージを回転させると色が変化します。

石英は長石より複屈折が高いので、XPLでは長石より明るく見えます。薄片厚が0.03mm以上有ると黄色味を帯びてきます。石英を判別しやすくするため少し厚みを残して仕上げることもよくやります。

サンプルD 同じく安濃川上流部の転石で加太花崗岩ー加太花崗閃緑岩と呼ばれる石の仲間です。Cと違う点はこちらは有色鉱物に角閃石をたくさん含んでおり地質図幅では角閃石を含む相khで区別されている石です。「角閃石」のサイトでも書きましたが小さい結晶中に黒雲母と角閃石が同居しているとルーペ等を使って眼視で両者を見分けるには結構経験が必要です。1つの集団中にお互いが混在していることが多く単体の結晶を識別するよりもずっと厄介です。上記の角閃石サイトにも、両者の識別の仕方がを書いておきましたので、必要なら見てください。

サンプルD 角閃石含有黒雲母花崗閃緑岩kh相の拡大写真。この研磨面では角閃石が灰色味に写っている

肉眼で見ただけでは、有色鉱物の比率が多いだけでCの石と変わらないように見えるのですが、こちらの石は有色鉱物として角閃石をたくさん含んでいます。両者を見分けるポイントは黒雲母は結晶の端面が薄いシート状の集合体であるのに対して、角閃石は小さい階段状のブロックの積み重ねのように見える点ですがなれないと難しいです。

黒雲母の結晶表面の拡大写真2枚を以下に示します。黒雲母はどちらも安濃川・加太花崗閃緑岩のものです


下の2枚は角閃石結晶の端面の拡大写真です。サンプルは南長野桂畑の角閃石斑糲岩です


この角閃石結晶は大きいので端面が綺麗に出ていますが、細粒で黒雲母と共生していると見分けにくいです。ただし雲母の硬度は2.5~3.5と柔らかいのに対して、角閃石は5~6.5あります。鉄釘の硬度は5前後ですから先の細い釘で引っ掻いてみて簡単に傷が入れば雲母と見分けられます。硬度の値に幅があるのは結晶の成長方向によって鉱物元素の結合状態が異なり硬度に差が出るからです。

この場合もサンプルを薄片にして偏光顕微鏡の力を借りると、両者は簡単に区別することができます。薄く削ってゆくと、双方の透過色の違い(多色性といいます)がはっきり現れることが多いですし、雲母は複屈折が大きいので鮮やかな干渉色です。またクロスニコルでみて非透過になる位置が結晶軸(結晶の成長方向)と平行な直消光を示し、角閃石の斜消光とは異なります。

サンプルD 以下4枚の偏光顕微鏡写真は最初がPPL、後がXPL。視野は約6mm✕4mmです

サンプルD PPLでみるとこのサンプルでは黒雲母は薄茶色、角閃石は薄緑色とはっきり色が異なる。XPLで見ると黒雲母は黄・赤・紫・青等鮮やかな干渉色を見せる。

安濃川上流部に分布する加太花崗閃緑岩は、先に上げたCの角閃石を含まない相とDの角閃石を含む相以外にも、斑状相Kpと区別されたものがあり、細かく見てゆくと様々な岩相変化を示します。次のページでは安濃川上流の転石で黒雲母を含む幾つかのサンプルを見てみます。

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