萱原溶結凝灰岩

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萱原溶結凝灰岩

萱原溶結凝灰岩は主岩体の中でも、最も広く分布している岩相で鈴鹿山脈と近江盆地に挟まれた形で分布し南北16km、東西13kmのまとまった分布を示します。その南限は永源寺南方の和南川あたりで絶たれますが、永源寺の南を流れる愛知川やその支流は本層を貫通しているため、これらの川の河川敷では大量の萱原溶結凝灰岩を見ることが出来ます。

近江盆地側では新生代の堆積岩がそれにとって代わりますが、五万分の一地質図幅によると新生代の分布域を1km程入った場所にある近江温泉のボーリングデーターによって、近江盆地を覆う新生代地殻の下位にも500m以上の厚みで萱原溶結凝灰岩層の分布が有るとのことですから、近江盆地の新生代堆積層の下位を広く覆っているのかもしれません。

この層の特徴は、五万分の一地質図幅 御在所山によれば「 本層は主に灰緑色を示す流紋デイサイト質の緻密な溶結凝灰岩からなり,2-4mm程度の粗い結晶片を多く含んでいる.結晶片の量比は,斜長石≧石英>カリ長石であり(第21図),少量の緑泥石化した有色鉱物(黒雲母・角閃石・輝石?)が含まれる.本質レンズや石質岩片を含み,全体に再結晶化が進んで不均質な見掛けを呈することが多い・・・・・石質岩片はほとんどが径2cm未満の泥岩で,チャートも含まれる.これらの石質岩片は角ばっていて,ほとんど円磨を受けていない.

本層分布域の南端,和南の東600 m 付近の犬上花崗斑岩脈に近接した部分には,石質岩片(泥岩・砂岩・凝灰岩・石灰岩・チャートなど)が際立って多く含まれ,径数mに達するものも含まれる」とあります。

私がこの層の石を採集した最初の地点は永源寺の境内で、永源寺の参道の山側には萱原溶結凝灰岩の露頭に彫られた仏像群が多く見受けられ、永源寺を取りまく山全体が本層からなっていることが窺えます。

永源寺参道脇の萱原溶結凝灰岩露頭に彫られた十六羅漢像

永源寺の参道より山側に伸びる歩道の周囲には風化して岩盤から剥離した萱原溶結凝灰岩の転石が大量に落ちています。大半は風化によって表面が灰褐色に変化していますが、よく探すとある程度新鮮な灰緑色の端面を示すものが存在します。風化によるものか良くは分かりませんが、永源寺からすぐ南の愛知川右岸では、はっきりと色調の異なる岩相を見せる露頭を見ることが出来ます。

左右ではっきり色調の異なる萱原溶結凝灰岩層?左側明褐色の部分は永源寺境内で見る風化層に似る

A:永源寺境内の萱原溶結凝灰岩の転石。表面は全体に風化が進んで淡褐色だが灰緑色の断面を持つものもある

なるべく新鮮そうな石の端面を標本にしてみますと、研磨面は暗青色~青灰色となり薄片では淡い緑灰色となります。薄片写真を見る限り斑晶は粗粒の石英が圧倒的に多く見られ地質図幅記載のような石英と等量の長石は確認できません。長石の多くが粘土鉱物等に交代している様子ですが場所により鉱物の量比にも差が出るのでしょう。

標本A

A:以後6枚の写真の視野は約10mm✕6.7mm、最初がPPL 後の写真がXPL

A:PPLでは多くの不透明鉱物が確認できるがその多くは、長石や有色鉱物の変質交代で生じたもののよう.透明感の高い石英斑晶がよく目立つ

上の写真では斜め方向に堆積時の層理が認められ再結晶化した石英バンドもこの層理と並行に観察できます。

広視野の写真では小さくて分かりづらいので更に拡大すると、交代作用による鉱物変質の様子が良く分かります。

A:以下の写真の視野は約3.3mm✕2.2mm 最初がPPL 後の写真がXPL

A:上写真 視野の多くに変質した長石が認められます。中央左上は有色鉱物がタルクやセリサイト等に交代し高い干渉色をだしている

A:上写真 中央は粘土鉱物に交代する長石。周囲の変質を受けていない石英がいかに丈夫かよく分かります

A:上写真 石英の割れ目に異種鉱物が成長している。小さくてよくわからないがタルクか

A:上写真 中央右上は双晶を示すカリ長石?パーサイト構造のようだがラメラの部分は雲母鉱物

これらの薄片写真を見ると萱原溶結凝灰岩より下位にあたる佐目溶結凝灰岩の標本のほうが変質の度合いがずっと少ないように思えます。永源寺境内の石はその色を見ても風化の度合いが大きいため、より新鮮な端面を見せる永源寺の東部の愛知川右岸道路の山側露頭よりの転石を新たに標本にしました。

標本 B

永源寺ダム公園から永源寺へと続く愛知川右岸道路の山側斜面の脇では山側の岩盤から崩落した萱原溶結凝灰岩の転石が拾えます。

B:愛知川右岸道路脇で採集した転石。永源寺境内のものよりは新鮮な端面を見せてくれます。研磨面を見ても、有色鉱物がある程度残っていそうな印象を与えます。

B:上の薄片写真の視野は約30mm✕20mm 左が透過光、右が反射光で撮影。透明鉱物は反射光で黒く写ります

この写真で見ると、透過光で白く写り反射光で黒く写る石英に対して、変質している長石は非透過のため透過光で黒く反射光で白く写りますから、石英と長石の量比は2:1程度に見積られます。五万分の一地質図幅の記述では斜長石と石英の量比がほぼ等量とありますがこのサンプルでは石英比率が高異様に見えます。

B:以後の写真の視野は約10mm✕6.7mm、最初がPPL 後の写真がXPL

B:拡大すると石英の粒間に存在する鉱物の多くがまだ透明感の有る変質した長石だと分かります

B:PPLで黒く非透過な鉱物も多くは長石が粘土鉱物に変化している様子。一部緑泥石化した有色鉱物も

BもA同様石英以外の鉱物の大半は変質が進み元の鉱物の識別も難しい状態です。また石英の一部は溶融しており

広視野では全体の傾向がよくわかりますが、細部の確認が難しいのでこれ以降はM-PLAN5xの標準対物レンズで撮影します。

B:視野は約3.3mm✕2.2mm 最初がPPL 後の写真がXPL

B:写真上 中央はアルバイト双晶を見せる斜長石の断片。佐目溶結凝灰岩に有る多数の異質岩片は標本の中では見当たらない

B:写真上 標本中には僅かにPPLで緑色を示す鉱物がある。多くは緑泥石・白雲母・セリサイト等粘土鉱物に変わっているが元は角閃石や黒雲母等有色鉱物?

B:写真上 石英斑晶が溶解して内部に穴が空きそこに石基が充填している。晶出以降に融解温度まで昇温した様子

写真上 中央やや右下には明瞭な自形を示す単斜輝石と見られる綺麗な結晶が存在します。有色鉱物がほとんど変質している中で不思議な気がします。下は拡大写真です。

B:写真上 中央部の小さい緑色は消光角からみて多分角閃石。有色鉱物も極僅か原型を保っていそうなものが見られます

B:写真上 中央は変質した長石中に虫食い状に石英が入り込んでいる様子です。どの様な経緯でこうなるのでしょうか

これらの薄片写真A、Bともによく目立つ石英の斑晶と変質の進んだ長石、原型を留めない程に変質した有色鉱物が特徴で、緑泥石・白雲母・セリサイト等が取って代わっています。私が石を拾った永源寺の周囲では、佐目溶結凝灰岩に多く見られた異質岩片は殆ど確認できませんでした。

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