焦点距離・F値・構図

昨今のカメラの進歩は素晴らしく、高性能スマホ搭載のカメラなどを見ていると、もはやデジタルカメラそのものがガラパゴス化する日も近いと思わざるを得ないのですが、デジカメ登場以来長らくカメラに親しんできた者としては、AIが対象や撮り手の意志を判断して自動的に最適な写真を写してくれるカメラなんぞ面白くもなんともないと言う訳で、改めてカメラの設定について考えてみました。

撮像素子とカメラ

私のようなアマチュアが使うカメラは、用いられる撮像素子( イメージセンサー )の大きさによって主にの表のように7種類に分けられます。これ以外にもフルサイズの上には中半サイズと呼ぶ業務用の機種も有りますし、デジカメの黎明期には外にも様々なサイズの撮像素子が造られましたが中でも2/3型( 8.8mmX6.6mm )のCCDが多く使われて、私が最初に買い入れたデジイチOLYMPUSのCAMEDIA E10もこのサイズでした。

撮像素子はカメラのフィルムに相当する部分で、最も小さい1/2.3型のセンサーは嘗てコンパクトデジカメ全盛期にはほとんどのカメラに使われたセンサーで、現在も多くの普及型のスマホのカメラはこのサイズに近いセンサーを使っているようです。

私は今でもFUJIのFinePix S1と云う1/2.3型の超高倍率ズーム機を登山やマリンスポーツの撮影に携帯していますが、小型軽量、明るいレンズを装着した最高の機動性を持つカメラでレンズ交換式のデジカメと比較しても遜色ありません。

1/1.7型や1型はコンパクトカメラの中でも画質に特化して高級化を謳った機種に用いられ、今も1型は高性能なコンデジに用いられていますし、カメラ性能を強化した各メーカーの高級スマホにも使われています。iPhoneやSamsungなどの高級機のカメラ写真を見ればわかりますがセンサーサイズが小さいからと云ってカメラ性能が劣ることはなく、観賞用には十二分すぎる画質の写真が撮れます。

4/3" マイクロフォーサース機の撮像素子  同じセンサーサイスのカメラは同じ寸法の撮像素子を備えているが、撮像素子に含まれる画素数は新しいカメラ程多い。その分解像度が高いはずだが、画素が増えると1画素分の入光量が低下して画質が劣化するから一概に画素が多ければ良いと言う訳でもない

4/3型はマイクロフォーサース機と呼ばれるもので、OLYMPUSと松下が発売していましたが、OLYMPUSはカメラ部門から撤退したため、その後をOM SYSTEMが引き継いでいます。私の使っているレンズ交換式デジカメのメイン機でレンズ資産が小型化でき携帯や保管に便利です。、手元にはこのタイプの機種が5台ありますが星空の撮影などごく特殊な撮影環境を除けば撮影画質には全く不満がありません。

APS機は普及型デジイチが市販された始めた当初、CANON、NIKON、FUJI、PENTAX、MINORUTA等のほとんどのメーカーのカメラに搭載されたセンサーで、私の手元にはこの機種が3台あります。暗所でなければアマチュアの撮影には十二分の性能がありますが、センサーサイズが大きい分レンズ機材も大きくなって機動性に難があり、高価なレンズ群共に私の手元ではガラパゴスしています。

CANONのCMOSセンサー キャノンではサイズはインチ表記としている。2/3"はスマホ用・・ https://canon.jp/business/solution/indtech/cmos

フルサイズ機はカメラ市場が斜陽化し始めた昨今、各カメラメーカーが利益率の高い機種に生産を特化させて利益を確保しようと躍起になっている機種です。

センサーの大きさに比例するかのようにカメラもレンズも異常とも思えるような高価格に設定され、販売の粗利確保を目指していますが、その値段はますますカメラ所有者の購買欲を削ぎ、市場をスマホに明け渡して行くように思われます。

撮像素子が大きいほど、撮像素子一個あたりの受光量が増えて受光素子の感度が上がり暗い場所でもノイズの少ない写真がとれる訳ですが、しかし感度比較のために単位面積あたりの受光量を等しくするためにはフルサイズ機のレンズはその面積比に応じてレンズ前玉の面積を広げる必要があるので1/2.3型のレンズに比べるとレンズが随分大きなものになります。

上の写真には左端から1/2.3型から4/3型、APS-Cと三種類のセンサーサイズのカメラを並べているが、センサーサイズとカメラ筐体の大きさには相関がない

カメラ本体に関しては、携帯性を重要視するコンパクトカメラ以外、レンズ交換式のカメラではカメラ本体をむやみに小型化しても大型のレンズを装着するとバランスが悪く操作性も低いのでセンサーサイズに関わらずほぼ同じくらいの大きさに作られているようです。

左端1/2.3型の超望遠よりもその右の4/3型 LUMIXの本体の方が小型ですし、右端CANONのAPS-Cよりも中央の4/3 LUMIX G9の方が大きい筐体です。これはカメラの操作性を考えると大型レンズを装着した場合、ある程度サイズのある筐体の方が手振れも抑えやすく使いやすいからです。 

左の筐体がEOS-M 右のEOS-Kissと比べてもコンパクトカメラ並みに小さいが、100mm以上の望遠では操作性が悪い

CANONは、かつてEOS-Mと云うAPS-Cサイズの小型カメラを販売していましたが、これなど大型レンズを装着するとまことに使いずらい機種で、私は直ぐに手放してしまいました。

撮像素子が大きいほど、撮像素子一個あたりの受光量が増えて受光素子の感度が上がり暗い場所でもノイズの少ない写真がとれる訳ですが、しかし感度比較のために単位面積あたりの受光量を等しくするためにはフルサイズ機のレンズはその面積比に応じてレンズ前玉の面積を広げる必要があるので1/2.3型のレンズに比べるとレンズが随分大きなものになります。

ソニーなどが販売するフルサイズカメラと同程度の価格帯のiPhoneやOPPOの高性能カメラを搭載したスマホとを比べれば、その機動性の差は圧倒的にスマホ側にあることが分かりますし、日常的な撮影では画質に大差がないと分かればばかばかしくてフルサイズ機など買う若者ものも居なくなるかもしれません。

HUAWEI 渾身のスマホ Mate 60 PRO。 かの国の技術開発力は、自由競走によらず半導体規制などと云う姑息な手段で中華製品を排除できると考えている程に甘いものではない。規制を掛ければ、それに対応しうるデバイスを自力開発して更に競争力を高めるだけであろう

HUAWEI Mate 60 PROなどの説明動画を見ていると、そのカメラ性能の高さは誠に魅力的な機種で中国や香港でバカ売れしているとの報道も納得がいきます。私も旅行用の携帯カメラは完全にスマホに変わる時期が遠くないと思われます。

レンズ・焦点距離・絞り

カメラを扱うためには撮影状況に応じていじらなければならない設定があります。現今のカメラやスマホでは、高性能のAIが対象や撮影状況を判断して自動的に最適な設定を選んでくれたりしますが、ある程度は自分の判断でカメラ設定を行う方が楽しいし写真にも味が出ます。

カメラの設定の中でも、レンズによって決まるものと、カメラ本体によって決まるものがあります。レンズ性能によって決まるものは焦点距離と絞り値であり、レンズ交換式のカメラであれば、装着したレンズ性能の範囲で焦点距離と絞り値を選ぶことが出来ます。

PANAの4/3型交換レンズ LEICA DG 100-400mm F4.0-6.3 とLEICA DG 8-18mm F2.8-4.0 交換レンズによって使用できる焦点距離とF値が決まる。焦点距離の長いレンズほど胴長が長い。F値が小さく明るいレンズほど受光量を必要とするため前玉の面積が大きい。

焦点距離は長いほど望遠撮影が効き、短いものほど画角が広く広範囲のものを写し込める広角撮影が出来ます。絞りはレンズに入る光量を調節するためのもので、具体的にはレンズ内部の可変できる円形遮光板で入光を遮りレンズの直径を変化させています。センサーサイズが異なると同じF値でもセンサーに必要な受光量が変わるため、センサーサイズが大きいほどレンズの前玉面積も大きいものになります。

焦点距離と画角  Panasonic デジタルカメラ講座より  https://av.jpn.support.panasonic.com/support/dsc/knowhow/knowhow12.html

絞りはレンズ性能によって定まる開放値( レンズ記載のF値 ) から最大F22辺り迄絞り込めますが、レンズによってF16までのものや、コンパクトカメラではF11やF8或いはそれ以下のものも有ります。スマホなどでは高級機以外、機械機構を必要とする絞りは搭載せず電子シャッターや感度調整の電気的な処理で絞りの代わりとするものが普通です。

左は1/2.3型 超望遠ズーム機のレンズで開放F値は1200mm相当の望遠端でF5.9 。右は4/3型マイクロフォーサースの超望遠レンズで開放F値は800mm相当の望遠端で6.3  画角の狭い望遠端において入光量が最も少なくなるので大きなレンズ径が必要となるが、センサーサイズの小さい1/2.3型は1200mm相当の望遠でも800mm相当のマイクロフォーサースよりもレンズ前玉径が遥かに小さくF値も明るい。当然カメラがコンパクトに仕上がる。

レンズに絞りが必要なのは、その背後にある受光素子には撮影に適した光の範囲が存在するためで、絞りによってレンズ径を調整して受光素子に適した光の範囲に入る様に調整します。

受光素子に入る強すぎるとその部分は素子が飽和してしまって光の強弱を拾うことが出来ません逆に弱すぎると対象の色が正確に再現できず、ノイズも増えて絵が荒れてしまいます。絞りはレンズ径を変えることによって画面内の光全体の強さを調整し素子が飽和しない範囲の光を受光素子に導く働きをします。

絞りが持つもう一つの重要な機能は被写界深度の調整です。被写界深度は焦点が合う範囲のことで、絞りを開きF値を少なくして行くと被写界深度が狭まりフォーカスがシャープになって、少しの遠近差でも合焦している前後の対象がボケるようになります。逆に絞りを絞りF値を上げてゆくと被写界深度が深まり合焦する前後の範囲が広がります。

マニュアルレンズにおける絞りの変化。左からF16、F8、F1.8  でそれぞれレンズの光路が変化しているのがよく分かる

写真において、絞りは光量調整と同時にボケの範囲を変化させる重要な役割を持っており、意図的に絞りを操作する場合は、ボケ範囲の調整のために行うことがほとんどです。携帯性重視のスマホでは機械的絞りの無い機種が殆どで、レンズ径を変えて受光量を調節することが出来ません。このため電気的に目露光時間を制御して絞りの役割を果たしています。

絞りの無いスマホでは基本的にボケ調整は出来ませんが、昨今のスマホカメラは深度調整が可能なように深度センサーを備えてソフト処理でボケ調整を実現していますし、HUAWAIのスマホなど可変絞りまであります。広角、望遠、深度とマルチカメラ搭載の携帯がデジイチを駆逐する日は近いのかもしれません。

シャッター速度と絞り値は、写真撮影におけるもっとも重要な要素で、撮影画像のデジタルデーター・RAW画像の質が決まります。この設定が悪いと、光量不足や白飛びが発生し、カメラの画像処理エンジンが行うRAW画像以降の後処理工程ではどのようにいじっても自然な絵にならないことがあります。

デジカメの画像処理と信号の流れ Panasonic デジタルカメラ講座より https://av.jpn.support.panasonic.com/support/dsc/knowhow/knowhow30.html

意図した画像を撮影するため設定する基本的な要素は、レンズに応じて決める焦点距離と絞りF値及びシャッター速度以外に、カメラの画像処理エンジンがカメラ本体で設定するものとして受光素子の感度を決めるISO、受光素子の発色具合を決めるホワイトバランス、解像感を補正するアンシャープマスクなどがあります。

人間の目は、撮像素子が検出したRGBの色信号をそのままの比率で加算して画像表示しても( RAW画像のニュートラル状態 )自然な絵とは認識しないようで、RAW現像ソフトがRAW画像を表示する際にも、ホワイトバランスや感度調整の補正が行われた形で表示されており、この補正を外したニュートラルの画はとても見られたものではありませんから、画像処理エンジンによる加工は人の目に自然に映る画にするためには不可欠のものです。

外にも撮影画像に様々な効果をつけるアートフィルターなども有りますが、こちらはその効果にあった最適なシャッター速度や絞り値、感度、ホワイトバランスなどを撮影者に変わって自動的に設定してくれるものです。

シャッター速度・F値・ISO

シャッターには、受光素子の前面で機械的に遮光幕を動かして一定時間だけ露光させるメカシャッターと撮像素子の電気的な制御によって一定時間だけ露光させる電子シャッターがあります。互いに優劣があるためデジイチなどでは両方のシャッター方式を備えていますが、スマホなどでは機械的機構の必要なメカシャツターは搭載していません。

カメラ側のメカシャッターや電子シャッターは撮影条件によっては画像に歪みが出るため、シャッターをレンズ部に設けたレンズシャッターもあります。撮像素子各部の入光時間を同時に制御できる優れものなのですが、交換レンズすべてにシャッターが必要になるため今日のデジカメでは使われていません。

シャッターを早くすると、受光素子の入光時間と入光量がシャッター速度に反比例して少なくなりますから、撮影対象は暗くなりますが、入光時間が短くなる分、動きのある対象でも動きの一瞬の光を固定しますから対象がボケずに静止して写ります。

人通りのある街を1/10秒で写せば、歩いている人は大抵ぼやけますが、1/1000秒であれば静止してはっきりと写ります。ただし1/1000では1/10の百分の一の光量しかないので、その分絞りを開いて入光量を上げるか、ISO感度を上げなければ絵が暗くなってしまいます。

撮影時に撮像素子に入る光の量・露光量はEV値( Exposure Value )によって評価され、EV値が大きいほど撮影対象が明るく、シャッター速度や絞り値が高くなります。銀塩カメラの時代は、露出計で明るさを測り、表示されたEV値に合わせてシャッター速度や絞りを決めていました。

ISO 100におけるEV値とシャッター速度・絞り値の表。EV値が同じであれば露光量は同じになる。ISOが上がるとEV値も高くなる

しかし今日のデジカメではカメラ内部に高性能の露出計を備え、撮影画面のピンポイントの露光量から画面多数の場所における最適なり露光量まで、設定次第でカメラが自動的に被写体を測光して露光量を決定します。

カメラモードがプログラムAE:P、絞り優先AE・A、シャッター速度優先AE・Sのどれかの設定で撮影すれば、測量に応じてカメラが撮像素子に適した絞りとシャッター速度の組み合わせを自動的に選んでくれるのでEV値を気にすることはほとんどなくなり露出計などまるで不要の時代になりました。

明るさを読み取り、露光量からISO・シャッター速度・絞り値を決めていた露出計。昔は露出計で光量を測りカメラ設定しているといかにも玄人ぽく見えたものだが、いまやほぼ無用の物となったカメラ用露出計

ISOは電気的に受光素子に入った光の増幅度を調整してメモリーに送るもので、TVが小さな音で聞こえにくいからとボリュームを調整するのと同じことです。音が小さすぎるとボリュームを上げても雑音ばかり大きくなってしまうのと同じで、暗所の場合はむやみにISO感度を上げると輝度や明るさの情報よりもノイズが勝ってしまい輪郭のぼやけた色再現性の低い汚い絵になってしまいます。

シャッター速度・絞り値・ISO感度は相互に関連していてシャッター速度を上げれば、絞りを開いて光量を増やすなりISOを上げて感度を上げる必要があります。デジカメもAUTOで写せばこの辺りの設定はカメラが最適値になる様に勝手に設定してくれますが、撮影条件によってはマニュアル設定に頼る方が良いこともあります。

通常ISOはその最大値と基準値のみ設定しておき、後はカメラの自動設定にまかすことが多いです。例えばOlympus OM-D E-M1Mark2の場合、ISO LOW( ISO100 )~25600まで設定できますが、3200以上にあげると暗所ノイズが目立ち始めるのでカメラ設定で普段使う基準値をISO200iに、ISO AUTO時の上限値を3200と定めてその範囲でカメラ任せでISOを決めることが普通です。

しかし夜間撮影で星や街の明かりを写し込みたい場合などは更に高い設定にすることもあります。また高速で飛ぶ鳥の群れを写したい場合などは、シャッター速度を高速に設定し、絞り値も鳥の群れ全体にフォーカスできる被写界深度にするためかなり絞り込むことが多いので、光量の低下分ノイズの増加には目をつむりISOを増加させて明るさを確保したりします。

このようなISO感度を出来るだけ上げて撮影したい場合には、一画素辺りの面積が多いフルサイズ機が有利です。CANONのEOS-RではISO40000まで、更に新しい機種ではISO102400まで上げることが可能で星夜の撮影などもノイズを抑えた絵が撮れます。

逆にISOを最低値LOW 若しくは200に設定する場合も有ります。川の流れに流線を付けたい場合や、人物の動きを流線で表現したい場合などは 1~1/8 程にシャッター速度を落とします。

こうやると入光量が増えるためそれに見合うよう絞りを絞り込みますが、絞りは被写界深度とも関係するのでむやみに下げたくない場合もありISOは目いっぱい低くして写します。それでも光量が多い場合には、レンズにNDフィルターを噛ませて入光量を絞りますが、よほど特殊な条件で写さない限りカメラ設定でカバーできることが殆どです。

この手の撮影はAUTOでカメラ任せにしてもあまり上手くゆかないことが多いので、どうしても手動で設定する方が確実なのですが、更にAIが進化するとこの辺りも自動で判断して設定できるようになるかもしれません。

ホワイトバランスと光源のスペクトル

ホワイトバランスは色再現性に関わる重要な要素で、光源の違いによって光のスペクトルが異なるため、撮像素子が検出した対象各部のRGB( 赤・緑・青 )信号値は光源のスペクトルの最も強い部分に強く反応します。この信号をそのまま再現するとスペクトル強度の強い色、例えば日の出であれば赤に、青空の下では青に反応して見た目の感じとは異なった色表現となる場合があります。

上は米国、照明器具メーカーSunlight inside のサイトにある各種光源のスペクトル分布図。昼(noon)  夕(evening) 夜(night) の自然光のスペクトル分布と同社の照明のスペクトル分布、およびLED照明、蛍光灯( Fluorescent )、白熱灯( Incandescent ) の発光スペクトル分布の違いが良く分かる

このためホワイトバランス調整は撮影環境に応じてR・G・Bの強度を変化させ、光源の色が見た目に自然な白色にとなる様にしています。具体的には撮像素子が検出した対象各部のR・G・Bの信号の混合比率を光源の違いによって変化させるだけですからマニュアルでも自由に設定可能ですが、通常はAUTOでカメラが自動的に判断して設定を選んでくれますAUTOでは見た目と違う印象の画になる場合にはマニュアルで設定替えする必要があります。

ホワイトバランスは多少おかしな値に設定して写してしまっても、後からソフトで色信号の比率を調整して変更することが出来ますが、時にはどのように弄っても自然な状態に戻せない場合があります。これは特定の色信号が飽和したり、小さすぎたりする以外に、RGBで近似している色空間が現実の光源のスペクトルを完全には再現できないことにも由来します。

ホワイトバランスや明るさや輝きなどのRGB色信号の感度調整は、撮像素子で検出したアナログ信号( 光の強弱に応じて電気量が変わる )をデジタル信号に変換したのちに、カメラ内の画像処理回路を通して加工され画像データーとしてメモリーに記録されます。

しかし、後から色の配合を弄りたい場合には、カメラの画像処理回路を通してしまうより、撮像素子から出たばかりのデジタル信号を画像処理ソフトで加工する方がより再現性が高くなるため、このデーターをRAW( Raw Image format )として記録できるカメラが多くあります。

RAWは画像の原データーであるため、そのままでは画像になりません。これを画像として見るには、カメラ内の加増処理エンジンと同等の画像変換処理を行うソフトが必要になり、これをRAW現像ソフトと呼んでいます。

FreeのRAW現像ソフト RawTherapee。 RAW現像ソフトはRAWデーターの処理だけではなくJPGなどの一般的な画像ファイルの編集も出来る

画像の加工には、RAW現像ソフトやPhotoShopのように専用のPCソフトで行う場合と、カメラ内蔵のアートフィルターを用いてカメラ内で好みのトーンの画像に仕上げてファイル出力する場合とがありますが、手っ取り早く撮影結果を確認したい場合はカメラのアートフィルターを用い、腰を据えてゆっくり画像のトーンを弄りたい場合にはPCの画像加工ソフトで行うのが良いようです。

先にも書きましたが人の目は、撮像素子が検出したRGBの色信号をそのままの比率で加算して画像表示しても( RAW画像のニュートラル状態 )自然な絵とは認識しないようで、RAW現像ソフトがRAW画像を表示する際にも、ホワイトバランスや感度調整の補正が行われた形で表示されており、この補正を外したニュートラルの画はとても見られたものではありませんから、画像処理エンジンによる加工は人の目に自然に映る画にするためには不可欠のものだと言えす。

レンズの焦点距離・被写界深度・構図

次に撮影の基礎ともいえる、カメラのレンズの焦点距離と構図により、絞り値を変化させた際の被写界深度の変化がどの様に生ずるかをミニチュアの超広角撮影例で見てみました。

下の三枚は、視点を変えてミニチュアモデルをそれぞれマイクロフォーサースLEICA 8-18mm F2.8-4.0 8mm( フルサイズ16mm )f10として撮影したものです。超広角と呼ばれる部類のレンズですから35mm標準レンズの4倍近い視野を持っています。

上は先頭車両の上部前面にフォーカスを据えて120mm程の距離を隔てて撮影したものです。8mmレンズの15倍ほどの距離があるためf10まで絞り込むと、車両の先頭から背後の部屋までほぼ焦点のあった撮影ができます。

上は、ほぼ前面から80mm程の距離で撮影したものです。レンズ距離の10倍ほど近寄って先頭車両にフォーカスしていますが、二両目車両以降は焦点がぼやけ最早背後の室内まで焦点を合わすことができなくなりました。

最後は視点を横にずらせて、さらに少し近寄って撮影したものです。先の例同様先頭車両には焦点が合っていますがそれ以降はボケが発生しています。構図が変わって部屋の水平線がズレたため背後の道具の歪も大きくなりました。

レンズ焦点距離が極端に短いため、視野が広く遠近効果が強くあらわれます。数センチの距離から合焦しますがここまで接近すると絞りを絞り込んでも前後の対象には合焦しずらくなります。接近すると対象は遠近感が極端に誇張され歪みを感じるようになります。

この様な超広角レンズは広範囲な対象を視野に捉えることが出来ますが、同時に距離を隔てると対象が一気に小さくなってしまい、無駄な背景が映り込みますから撮影対象だけを引き立たせて撮影するには対象の大きさや接近距離、構図などを吟味しないと効果的な写真を撮るのは難しくなります。

の三枚は、それぞれ同じ様な視点で焦点距離18mm( フルサイズ36mm )f10( 最後の一枚はf20 )として撮影したものです。ほぼ35mm標準レンズでの撮影に相当します。

画角が狭まった分、背景の映り込みが減り撮影対象のミニチュアの存在が強調されました。標準レンズの焦点距離であっても接写が効けば最後の写真のように遠近感を強調した撮影が可能で超広角の写真よりもこちらの方が実在感が強く出ています。この写真は撮影距離が短いため絞りをf20まで絞っていますが、ここまで絞ってもピンポイントに近い焦点深度で撮影対象が鮮やかに強調されます。

以上の例はどれも車両先頭の機関車を対象にして写したものですが、写す視点の違いによって構図だけでなく被写界深度にも差が生じ、接写に近い撮影では絞りこんでもピンポイントフォーカスに近い写真になります。

上の例は4/3インチの撮像素子を搭載したマイクロフォーサス機による撮影ですが、センサーサイズが変わればどうなるのでしょう。センサーサイズはインチで呼ばれる場合もありますがセンサー対角長に対応する訳でもないのでここでは型を用います。

嘗てコンパクトカメラ全盛の際には1/2.3型センサーを搭載したカメラが世を風靡しましたが、手元にFUJIFILMのFinePix S1と云う素晴らしいレンズを備えたコンパクトカメラがありますのでこれで撮り比べてみました。FinePix S1のレンズ仕様はFUJINON 4.3~215mm F2.8~5.6 の50倍ズーム機、開放絞りでズーム全域に於いて素晴らしい解像感を持つレンズです。

広角側の実焦点距離は4.3mmですからレンズ焦点距離から見れば超広角とも言える訳ですが、その分センサーサイズがフルサイズ換算では1/5.55しかないため画像はその中心部分の1/5程度を利用するだけとなり実質はフルサイズ24mmレンズとほぼ同じ視野となります。ただし焦点距離が短い分は被写界深度が極めて深くなりますから、フルサイズ機と比べて遥かに視野全体にフォーカスが合った写真を撮りやすくなります。

被写界深度の比較を行うため1/2.3型のFinePix S1と4/3型のマイクロフォーサース機Olympus OM-D EM1Mark2にM.ZUIKO ED 40-150mm F2.8 PROを装着して被写界深度の影響が強く出る望遠域で比較してみました。

撮影対象は上の写真のミニチュア鉄道模型、往年の国鉄特急「つばめ」です。動力車のEF58電気機関車を含めて10両の車両編成でミニチュアでは全長1350mmの長さがあります。撮影位置は先頭の動力車から30cmほど離れた位置で車両全体が視野に入る焦点距離としました。

上はFinePix S1 24mm( フルサイズ換算133mm ) f11にて撮影。FinePix S1では絞りはf11迄しか絞れないのでf11となった

AUTO WB で撮影しているためカメラによる色調の違いがありますが、2枚の写真を比べると絞りは2段分も明るいのですがFinePix S1の方が明らかに被写界深度が深いことがわかります。マイクロフォーサース機では手持ちの限界に近い1/8秒でシャッターを切っているため若干手ブレ気味ですが、焦点が合っているのはほぼ先頭車両迄で、2両目以降はボケが進み4両目後半以降は窓も確認できない状態です。

上はM.ZUIKO ED 40-150mm F2.8 PROで67mm( フルサイズ換算134mm ) f22にて撮影。ボケを抑えるため絞りは限界まで絞り込んでいる

FinePix S1では6両目辺りまで窓が認識できますから、このカメラ位置から車両全体に焦点の合った写真を撮りたいとすれば、もはやマイクロフォーサース機では不可能、もちろんよりセンサーサイズのでかいAPSやフルサイズでは云うまでもありません。

嘗て昆虫写真家の海野和夫氏はわざと一眼レフを使わずに、被写界深度の深いコンパクトカメラを用いて花に来る蝶の自動撮影を行っていたことがありましたが、撮影目的によっては初心者カメラと見られがちなコンパクトカメラのほうが目的にかなった良い写真が撮れる場合も在るわけです。

この位置からこの構図で先頭車両から最後尾まで焦点の合った写真を撮りたくとも最早手持ちのカメラでは不可能でしょう。12.3センサーのカメラでf22辺り迄絞れる機種があれば出来そうですが、光量が極端に低下するのでノイズの多い絵になりそうです。PANAのDC-FZ85 3.58-215mmという1/2.3型センサーの60倍ズーム機も所持していますがこれなどはf8迄しか絞り込めません。

この程度の被写界深度なら、より広角側で撮影すれば実現できますが、焦点距離を短くした分画角が広がり、対象が小さくなってしまいます。同じ構図にするには中心部分をトリミングして画面を小さくする以外にありません。少し視点を変えOM-D E-M1 Mark2にM.ZUIKO ED 40-150mm F2.8 PROの広角端40mm f22で撮影したのが下の写真です。

OM-D E-M1 Mark2 M.ZUIKO ED 40-150mm F2.8 PRO 40mm f22 1/4 ISO3200で車両先頭に焦点を据えて撮影。30cm程の接写ではここまで絞っても 2両目では焦点がぼやける

上写真は同じ機材の条件で焦点を二両目車両に据えている。先に67mmで写したものと比べるとフォーカス範囲がズレて若干被写体深度が深まった感があるが4両目以下は今ひとつ解像されていない。この位置ではf22まで絞ってもこの程度で、逆に光量足と長露出(1/4秒 )からくる解像度低下が見られる。

更により広角で撮影するためレンズをED 12-40mm F2.8 PRO に変えて20mm( フルサイズ40mm ) f16で撮影すると次のようになります。視野が広がり対象は小さくなるものの全体に解像感も上がって同時に背後の無駄なものまで映り込んできます。

上はOM-D E-M5Mark2 に ED 12-40mm F2.8 PRO で20mm( フルサイズ40mm ) f22 1/2秒 ISO800での撮影。焦点距離を短くした分、画角が広がって対象が小さくなる。このためトリミングして車両を画面一杯に入れたのが下の写真。トリミングしても画像全体にE-M1Mark2での写真よりも解像感が高い。

上はOM-D E-M5Mark2 に ED 12-40mm F2.8 PRO で20mm( フルサイズ40mm ) f16 1/2 ISO800 

は先に写したOM-D E-M1 Mark2にM.ZUIKO ED 40-150mm F2.8 PRO 40mm f22 1/4 ISO3200で車両が画面一杯に入るようトリミング

上写真の40mm f22に比べると20mm ではf16と絞りは一段分明るいですが、こちらの方が画質もよく窓も6両目までは確認できます。40mmの写真は絞り込みによる光量不足が災いしてかフォーカスを当てている先頭動力車も解像が悪い。ISOを800から3200まで変え数枚撮ったどれもがこんな感じなのでカメラ性能によるものと見られます。

更に短い焦点距離を選べば被写界深度がさらに深くなり背後の解像感も増すわけですが、同時に対象のサイズが小さくなるので拡大すると車両後部の分解能は下がってしまうのでむやみに下げるにも限界があります。

上はOM-D E-M5Mark2 に ED 12-40mm F2.8 PRO で14mm( フルサイズ28mm ) f22( 最大絞り ) 1/5 ISO800   背景にまでほぼ焦点が合っているが画面が小さくなった分対象の解像感は低下する

上は14mmの画面を1/3近くにトリミングしたもの。背景にまでほぼ焦点が合っているが画面が小さくなった分対象の解像感は低下して使用に堪えない写真になった。OM-D E-M5Mark2 に ED 12-40mm F2.8 PRO で14mm( フルサイズ28mm ) f22( 最大絞り ) 1/5 ISO800 

上の作例より特定の構図において対象全体を鮮やかに捉える被写界深度を得るためには、焦点距離と絞りに最適な組み合わせが存在する事がわかります。この場合には20mm F16辺りが最も実用的で、これより焦点距離を短くすると対象がどんどん小さく写ってしまい、それを避けるために接近しても先頭車両は大きく写りますが後部は一気に小さくなってデフォルメの強い写真になります。

OM-D E-M5Mark2 に LEICA 8-18mm/F2.8-4.0 ASPH 8mm( フルサイズ16mm ) f22( 1/3 ISO800  先頭の連結器が異常に強調されて醜いフォルムになった

OM-D E-M5Mark2 に LEICA 8-18mm/F2.8-4.0 ASPH 12mm( フルサイズ24mm ) f22( 1/5 ISO800 で接写。横視点を強くして動力車の全長を強調したが・・

日本映画の巨匠・黒沢明は望遠レンズで前景から後景まで焦点のあったパンフォーカスを多用した画作りを行いましたが、絵が平面的になりやすいと言われる望遠レンズで、絞りこんでボケを抑えてしまうと、対象を近景から遠景にまで余程意図的に配置しないと、近くから遠くのものまでもが一画面上に鮮明に映り込み、観る者に全体がごてごてした印象を与えてしまいます。

平面的な作画は望遠でも広角でも同様に見ずらい。全体を写す意図がなければこの様な構図は避ける方が良い

黒沢明は見たいものは観客が自由に選ぶべきだとの視点から、画面の全域に合焦したパンフォーカスを用いたのですが、表現したいものを浮き出させるにはやはりその対象にフォーカスを絞るのが最も楽なので、画面全体の対象を隅々まで写したいとの意志がなければ絞りを開いて焦点深度を浅くするのが基本的な撮影技法でありましょう。

優れたレンズと高感度な撮像素子を備えたコンパクトカメラは、その機動性の高さから大げさなデジタル一眼よりも手軽に良い写真が撮れたりする