10月初旬、大阪のとある都市公園で風に舞って落ちてくる実を拾いました。シナサワグルミの果実でした。見上げると、ひも状の果序にたくさんの翼のある果実がぶら下がっていました。
シナサワグルミは公園樹や街路樹としてよく植栽される落葉高木で、中国北部を原産とするクルミの仲間。果実には長さ2cmくらいの小苞が発達した翼(よく)があります。
秋は実りの季節です。シナサワグルミの実のように、風に任せてタネを蒔く「風散布型(かぜさんぷがた)」の植物の実やタネを集めてみました。
教育研究所の駐車場北に植えられているカエデの園芸種。翼のある赤い実がなっていました。
タンポポと同じようにタネ(果実)にガクが変化した綿毛(冠毛:かんもう)が付いています。
こちらも、タンポポと同じように・・・(以下略)。
こちらも、タンポポと同じように・・・(以下略)。
こちらも、タンポポと同じように・・・(以下略)。
しかし、冠毛はまばらで、風に乗って運ばれるのかどうかは微妙かな~。小さく軽いので飛ばされることはあるだろうけど。
果実の上にガクが変化した毛(冠毛)があって、風に乗って飛ばされる。
果期の小花柄に白色の長毛があり、風に舞って飛ばされる。
近所の庭先に植えられていました。中が空洞の紙風船のような実をつけるフウセンカズラ(ムクロジ科)。
フウセンカズラの実も風で飛ばされて、コロコロと地面を転がったり、水に浮かんで流されたりして遠くへ運ばれるようです。
あまりに小さいため、栄養を貯蔵するための胚乳がなく、発芽生長するためには共生菌から栄養をもらう必要があるのだそうです。
身近ではありませんが、風散布の例としてよく紹介されるアルソミトラ・マクロカルパ。ウリ科アルソミトラ属(=マクロザノニア属)のつる植物で、タイ、フィリピン、マレーシア、インドネシア、パプアニューギニア、ビスマルク諸島に分布。アルソミトラの種子は、風に乗って数km先まで飛ぶこともあると言われています。
沖縄美ら海水族館のある海洋博公園(熱帯ドリームセンター温室内)でハネフクベの実がなって、タネが飛んでいる様子が紹介されています。
アルソミトラのタネの模型を作るネタは、理科工作の定番で、いろいろな実践例がネットに紹介されていますので、作って飛ばしてみると楽しいですよ。
<参考>
これも身近ではありませんが、風散布の例としてよく紹介される二葉柿・双羽柿の実。
東南アジアの熱帯雨林に生える高木で、多くの種類は高さが40m以上になって、森の最上層を構成します。この科の一部の樹種の木材はラワン材として利用されます。果実には2枚~5枚の翼(よく)が付いていて、羽根突き遊びの羽根に似た形。この翼はガクが翼状に発達して果実を包んだもので、偽翼果(ぎよくか)になります。
翼果(よくか)果皮の一部が翼状に発達した果実
偽翼果(ぎよくか)ガクなどが翼状に発達し果実を包んだもの
▼風散布のメリットとデメリット
風散布のメリットは、広範囲に種子を散布できること。気流にうまく乗ると、驚くほど長距離を飛ぶこともあります。デメリットは、タネを軽くするため、発芽に使う養分を多く蓄えられないこと。
▼風散布の果実・種子の例
翼を持つ実(翼果・翅果、種子や偽翼果を含む)/カエデ科、マツ科、ユリ科、ヤマノイモ科、ユリノキ、フサザクラ、ニワウルシ、シラカンバ、アキニレ、ハンノキ、キリ、イタドリ、ツクバネウツギ、サワグルミ、シナノキ、ツクバネやフタバガキ科の実、ノウゼンカズラ科のオオナタミノキの種子などにも翼がある。
羽根状の毛を持つ実(冠毛)/キク科(タンポポ・アザミなど)、イネ科(ススキ・チガヤなど)、ガマ科(ガマなど)、キンポウゲ科(センニンソウ・ボタンヅルなど)、ヤナギ科(ポプラ)、キョウチクトウ科(ガガイモ・テイカカズラ・キジョランなど )、スイカズラ科(ツルカノコソウ) 、アカバナ科(アカバナ)など
とても小さなタネ(微小種子・埃種子)/ラン科(シランなど)、ツツジ科(イチヤクソウなど)、ハマウツボ科(ナンバンギセル)、アジサイ科(ガクアジサイなど)、ペチュニア、ベゴニア、ジギタリス など
その他の風散布/ケヤキ(果実がついている枝)、アオギリ 、イヌシデなど、ワタスゲ、フウセンカズラ、オオモクゲンジなど
さらに秋の街中や野山で見つかる風散布型の実を探してみました。
山の芋。山野の林縁に生える日本原産のヤマノイモ科のつる植物。ジネンジョ(自然薯)とも呼ばれる。雌雄異株で、秋に雌株に3枚の陵がある変わった形の実ができる。実は熟すと中から扁平な薄い円形の翼がついた種子を飛ばします。
種子は片側にだけ翼が伸びる
島十練子、別名タイワンシオジ。モクセイ科の常緑樹で、近年、庭木として植えられることが多い。夏から秋に広披針形でへら状の翼果がなる。
種子は舟形の裂片(心皮)と一緒に風散布される。
最近広がっている百合の仲間。たくさんの種子を作る。種子は扁平で周囲に薄い膜状の翼を持つ。
姥百合。花が咲く夏には葉が枯れ始めていることが多いため、葉がない(→歯がない)百合という意味でこの名があるそうだ。秋に果実がなるが、ぎっしりと薄い種子が整列して詰まっている。種子には広い膜状の翼(よく)があり、風の強い日に飛ばされて散布される。
黒松。別名オマツ(雄松)。マツ科の日本固有種で、海岸近くに多いが、庭木や公園樹としても植えられる。秋に実った松ぼっくり(=球果:きゅうか)は、湿度によって開いたり閉じたりし、乾燥時に開いて翼がある種子を飛ばす。
ススキとオギ
薄と荻。ススキは乾燥した場所に株立ちになって生えるのに対し、オギは河川敷や休耕田などの水辺に生えます。オギはススキより穂が白く見えます。穂は小穂がたくさん集まったものです。ススキの小穂は基部に小穂とほぼ同じ長さのやや黄色い毛があり、小穂の先端にはノギ(芒)が伸びています。オギの小穂は、基部に小穂の2~3倍の長さの白い毛があり、ノギはありません。タネが熟すと小穂ごと風に飛ばされて散布されます。
桐。中国から日本に自生するキリ科の落葉樹。日当たりの良い場所にいち早く定着するパイオニアツリー(先駆樹種)。若木の葉は大きく成長が早いです。初夏に枝先に淡紫色の大きな花を多数つけ、秋に先の尖った卵形の実がなる。実は熟すと二つに割れて、翼(よく)のある種子をたくさん飛ばします。
赤花・赤葉菜。山野の湿った場所に生育するアカバナ科の多年草で、夏から秋に細長い実をつける。実は熟すと縦に裂けて、長い毛(種髪)のある種子を飛ばす。
亀甲白熊。日本と朝鮮半島南部に自生するキク科の多年草。秋に白色の花を咲かせる。実は長さ4.5mmで長さ7mmになる冠毛がある。
欅。ニレ科の落葉樹。秋に5mm程の果実が付いた枝(=着果短枝、ちゃっかたんし)が、小枝についた葉が翼となって風に乗って遠く運ばれる。
仙人草。中国から韓国、日本に分布する。里山の林縁などに生えるキンポウゲ科の蔓性植物。実に白い毛が生えていて、これを仙人の髭に見立てた名前。8~9月に4枚の花びら(萼片)の白い花を咲かせ、11月頃に実が熟す。長さ7mmくらいの実の先に2~3cmくらいの花柱が残っていて、白い毛が生えている。
牡丹蔓。中国から韓国、日本に分布する。里山の林縁などに生えるキンポウゲ科の蔓性植物。実に白い毛が生えている。葉は1回3出複葉で鋸歯があり、ボタンの葉に似ていることからこの名前がある。花は8~9月に咲き、実は11月頃に熟す。長さ4mmくらいの実の先に1cmくらいの花柱が残っていて、白い毛が生えている。