草の茎や根の断面、葉っぱの断面などを顕微鏡で見るためには、できるだけ薄くスライスする必要があります。光を通すくらいの薄さが必要で、この薄切りの技術がより良い観察に直結します。0.1mm以下の薄さでスライスできれば良いでしょうか。
薄片の作成は専門的には、ミクロトームと呼ばれる器具を使うのですが、試料を固定・脱水して、パラフィンなどの樹脂に埋め込んだりするため、手間も時間もコストもかかります。
小中学校の参考書では、ニワトコの随や発泡スチロールなどの「ピス」と呼ばれる丸棒に試料を挟んで、ピスごとスライスすることで、薄片を切り出す方法(=徒手切片法)が紹介されていたりします。徒手切片法の治具として、簡易ミクロトームや卓上ハンドミクロトーム等の製品もありますが、かなり高価です。
<参考>
徒手切片法<福原のページ<福岡教育大学
https://staff.fukuoka-edu.ac.jp/fukuhara/jikken/toshu.html
徒手切片法による手軽な植物組織観察
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcs/93/1/93_79/_pdf
ここでは、ホームセンターで入手できる材料で作れる簡易なハンドミクロトームを紹介します。この治具はアマチュアのキノコ研究者の方が考案されたものを教えていただいたものです。
長さ5cmの長ナットを本体に使った簡易ミクロトームです。試料の押し出しはボルトで行います。試料がボルトと一緒に回転しないように軽く押さえるネジが側面に付けてあります。カミソリ刃を滑らせる面には、ステンレス製ワッシャを接着してあります。
□ 長ナット(鉄製、M10、長さ50mmくらい)
□ ボルト(M10、長さ70mmくらい)
□ ステンレス製のワッシャ
□ 押さえネジ用ボルト(M4、長さ10mmくらい)
□ 2液性エポキシ接着剤
□ サンドペーパー少々
工具類として、電動ドリルまたは卓上ボール盤、3.3mmくらいの鉄鋼用ドリル刃、ポンチ、M4mmのハンドタップ、タップハンドル、使い捨て木べら、鉄鋼用ヤスリ、切削油
長ナットの側面上部にネジ切りの下穴(φ3.3mm)をあける。
ポンチで位置決めし、切削オイルをつけてからドリル加工するとスムーズです。長ナットはステンレス製もありますが、硬く加工しにくいのがデメリットです。
M4mmのタップ刃で、ねじ切り加工を行う。
ねじ切り加工 <海上技術安全研究所海上技
ネジの先端の角をヤスリで丸めておくと良い。
電動ドリルのチャックにネジを固定し、ヤスリに当てながら回転させるときれいに削ることができます。
長ナットの上面とワッシャの片面はエポキシ樹脂で接着します。接着を強固にするため、接着面をサンドペーパーでこすって、少し荒らしておくとよいです。
2液性エポキシ接着剤は100円ショップなどで入手できます。
使用する直前にA剤とB剤を等量よく混ぜ合わせて、使い捨ての木ベラなどで接着面に塗布します。接着面を合わせて位置を微調整し、硬化するまで静置します。
ワッシャは、カミソリの刃を滑らせるガイドになっています。この部分は、鉄製の物より硬いステンレス製を選んでください。錆びにくい点もメリットです。
試料押さえネジを取り付けて、ワッシャの上面を耐水ペーパーなどでツルツルに磨いて完成です。押し出しボルトの回転をスムーズにするため、シリコンオイルなどの潤滑油をさしておくと良いでしょう。
さっそく使ってみよう
冷蔵庫にあった水煮のタケノコをミクロトームの穴に入るサイズに切り出してセットします。
試料押さえネジで、タケノコが回転しないように軽く押さえます。強く押さえすぎないことがポイントです。
新品のカミソリ刃で切り出します。使用済みの刃では薄く切り出すことはできません。慣れない内は刃の厚い片刃カミソリ(青函片刃 )が良いでしょう。
ミクロトームのワッシャ面にカミソリ刃を当て、滑らせるように引き切りします。刃渡り全体を使って、試料をなでるように、押しつぶさず削ぐように切り出すことがポイントです。
試料の押し出しは、ボルトを回すことで行いますが、ほんの数度程度回しては切り出し、回しては切り出しを何度も行います。一番薄く均一に切り出せた薄片をプレパラートに使います。
タケの維管束が整然と並んでいる
維管束を拡大。なんかドクロ模様みたい
イギリスの自然哲学者、ロバート・フックが1665年に顕微鏡での観察スケッチをまとめた『Micrographia(顕微鏡図譜) 』を出版した。この中にコルクを観察した際の記録があり、小部屋が並んだような構造を見つけ、これにcell(細胞)と名づけたという。
柔らかいコルクを薄片に切り出すのは、かなり難しいが、ぜひチャレンジしてほしい。
ニワトコやキブシの枝の随や発泡スチロール製のピスが無い場合は、ニンジンを切り出してピスの代わりとして使う方法もあります。
透明な試料の場合、ニンジンの色素が色移りする場合があります。
ピスを使った切片作成<きのこ雑記
https://fungi.sakura.ne.jp/ax_kinoko_wadai/pith_toriatsukai.htm