梅雨明け時期は、野山でキノコが観察しやすい季節だ。キノコの仲間は、種類がとても多くて、似た種類も多く、同定はなかなか難しいが、顕微鏡で観察する対象としては、面白い。ナヨタケ科のキノコを見つけたので、観察してみた。
ナヨタケ科のキノコ
倒木などの木材から発生していた。木材を腐らせるタイプのキノコで、木材腐朽菌(もくざいふきゅうきん)の1種である。
キノコは何から発生していたかも重要な観察ポイント。根元を丁寧に掘って確かめる必要がある。
キノコは、真菌類の仲間が胞子を散布するためにつくる器官で、植物で喩えると「花」に相当する器官だ。花は実を付け、種子を散布する。キノコの場合は「胞子」を散布する。キノコのことは、専門用語では子実体(しじつたい)と呼ぶが、英語では Fruiting body という。
キノコは根元まで丁寧に掘り取ることも大切だ。壊れやすく、傷みやすいので、タッパなどの容器に入れて、そっと持ち帰る。持ち帰ったら、できるだけ早めに観察したい。
写真撮影する場合は、全体の形や大きさ、傘の裏側のヒダの様子などが映るようにしたい。方眼紙や定規を置いて撮ると良いかもしれない。
今回は、キノコのヒダの胞子ができる部分(子実層という)を観察した。
ナヨタケ科のキノコの胞子は、成熟すると濃い褐色に色づくため、特に薬品で染色しなくても見やすい点がメリットだ。
あまり成熟していない胞子が出来かけたくらいのキノコのヒダを1枚、ピンセットでそっと採り、スライドグラスに載せる。ヒダの組織を押しつぶさないように、カバーグラスをそーっとかぶせる。この時点では水などの封入液は入れないこと。このまま、顕微鏡のステージに載せて観察する。
100倍程度の倍率で、ヒダのつぶれていない場所を探して、400倍以上で観察する。
うまくプレパラートができていれば、写真のように4つずつ並んだ担子胞子の様子が観察できる。
どうして、4つずつ集まって胞子が見えるのか?
左のイラストを見て考えてほしい。
再度、顕微鏡で観察すると、横から見た胞子の形状や、子実層にあるシスチジアと呼ばれる細胞、胞子を作る担子器と呼ばれる細胞などを観察できる。
次に、ヒダの組織をバラして観察する。水をカバーグラスの隙間に注いで、押しつぶす。
ナヨタケ科のキノコは脆く、組織を押しつぶしやすいが、なかなか押しつぶせないキノコもある。キノコの組織をほぐす際に、3% KOH(水酸化カリウム)溶液を用いることも多い。
キノコの種類調べでは、胞子や各部の組織の顕微鏡観察は欠かせないので、いろいろなグループのキノコを集めて、顕微鏡でも観察してみよう。
胞子が角張った多角形に見える。
顕微鏡でヒダの表面を拡大。ピンク色は染色しているため。
子実層から突き出た嚢状体(シスチジア)と呼ばれる細胞が多数観察できた。
まだ、未熟なキノコだったようで、担子胞子はできていなかった。
ベニタケ属のキノコの柄の細胞。丸い細胞がたくさん見える。
上のベニタケ属とはかなり異なり、糸状の菌糸が束になっている様子が観察できた。