富士登山で植物観察
~森林限界を超えて、登山道沿いの植物を観察~
~森林限界を超えて、登山道沿いの植物を観察~
富士山は、日本で一番高い山で、標高は3776mあります。では、ここで問題です。日本で二番目に高い山は?
二番目に高い山は、山梨県にある北岳で標高は3193m。富士山との標高差は583mあって、富士山はダントツで一番なんですね。(ちなみに三番目は長野県の奥穂高岳で3190m)
さて、そんな富士山に登ってみたい方は多くて、最近は外国からの観光客も多く、開山期の7月上旬~9月上旬には、登山者でいっぱいになります(いわゆる観光公害、オーバーツーリズムな状況)。
富士山は、身近ではありませんが、多くの方が訪れる山の一つです。そんな富士山で登山道沿いの植物を観察しながら登山してみたので、ご紹介します。富士登山に行かれる際は、本ページで予習していくと、植物観察も楽しめると思います。
<参考>富士登山オフィシャルサイト
標高2500m以上の高山帯は、富士山の森林限界(しんりんげんかい)になっていて、登り始めて6合目あたりを過ぎると、背の高い樹木は見られなくなり、限られた草木のみが生育する環境になります。
登山道沿いの土壌は、多孔質の火山礫(=スコリアと言う)の砂礫地で、保水力は低く、冬期は-20℃以下の寒さになる厳しい環境です。
富士山は活火山で、噴火を繰り返しているため、山腹の森林は破壊と再生が繰り返されてきています。約2000年前までは今の山頂からも噴火していたそうです。富士山の東側面にできた寄生火山である宝永山の大噴火は、1707年と比較的最近のことです。
<参考>富士山の噴火史について<富士市
さて、富士山のウンチクはこのくらいにして、登山道沿いで見かけた植物の紹介をしていこう。吉田ルート(2024年8月末)、富士宮ルート(2025年7月中旬)での観察によるものです。
まず、木本から見ていきましょう。
森林限界近辺では低木状になり、雪や風の影響で、ねじ曲がったような樹形のものもある。
【ツツジ科】
苔桃 。ツツジ科の常緑小低木で、樹高は10から20cm。亜高山から高山の針葉樹林下、岩礫地などに自生。
ここからは草本です。
【アカバナ科】
柳蘭。花期は、7月下旬から8月中旬。
和名は、葉が柳(ヤナギ)に似て、花が蘭(ラン)に似ているところから。
【アカバナ科】
岩赤花。花期は、7月から9月。
淡紅色から白色の花を咲かせる。やや湿った場所で見られる。
【アブラナ科】
富士旗竿。花期は、5月下旬から6月上旬(お中道)。
富士山固有の植物の一つ。火山荒原、砂礫地に生える。
【オオバコ科】
大葉子。高地から平地まで、道端などによく生える野草で、富士登山道にも生えていた。おそらく登山者の靴底に種子が付着し、持ち込まれたものと思われる。
【キキョウ科】
山蛍袋。花期は、7~8月。山地に多いホタルブクロの変種。ホタルブクロとよく似ているが、がくの切れこみの間に反り返った部分がなく、花色が紅紫色で区別できる。
【キク科】
深山秋の麒麟草。亜高山帯から高山帯の草地、砂礫地に生育する。
花期は、7月から9月頃。アキノキリンソウの高山型で、頭花は頂部に固まって付く。
【キク科】
深山男蓬。花期は、7~8月。日本の固有種で、富士山の高山帯では普通に見られ、岩場や砂礫地の乾性の草地に群生する。頭花は茎の中部から上端の葉腋に1-2個ずつつき、10数個が総状または複総状につき、下向きに咲く。両性花と雌花がある。
【キク科】
矢筈平江帯。花期は、8~10月。山地帯から高山まで、岩礫地から草地、林内まで姿を変えて対応しているトウヒレン。地域差も大きくいくつかの変種に分けられるが、近年はヤハズヒゴタイは、富士周辺のものに限るとされているらしい。
【キク科】
黄苑。花期は、8~9月。山地から亜高山帯にかけてのやや日当たりのよい草地に生育。
シオン(紫苑)の仲間で、黄色の花であることからキオン(黄苑)。
【キク科】
富士薊。花期は8月から10月。
富士山の固有種で、日本のアザミの中で最も大きな花を咲かせる。
砂礫地や崩壊地などに多く、紅紫色の大きな頭花が目立つ。
【キク科】
大蓬。別名ヤマヨモギ。花期は8月から9月頃。
火山礫地や砂礫地に生育。草丈が高くなり、時として2mを超える。
葉が大きく、茎の中部の葉は長さが15~20cmにもなる。
【キンポウゲ科】
大沢鳥兜。花期は8月から9月頃。
富士山の固有種。富士山の大沢で1936年に見つかった。
【キンポウゲ科】
山苧環。花期は6月から8月。
名前の由来は、花の形が紡いだカラムシ(苧)や麻糸を巻く「苧環(オダマキ)」という道具に似ているため。
【セリ科】
深山川きゅう。花期は8月から9月頃。
葉は2~3回3出羽状複葉で、径6~10cmの複散形花序に直径約2 mmの白色の花を多数つける。小総苞片は糸状で長い。
【タデ科】
御蓼。花期は7月から8月。ウラジロタデの変種で雌雄別株。日本固有種。名前は木曽の御嶽山で発見されたため。標高2300m~3200mに生育する。
葉が卵形~長卵形とやや細く、大きさはフジイタドリよりやや大きい。オンタデの地下部は、日本の草本性高山植物の中では最大級と言われ、深さ2mまで達している。
【タデ科】
富士虎杖。花期は7月~8月。イタドリの高山型。標高2600mあたりまで生育する。オノエイタドリともいう。雌雄異株。花序は円錐形。葉は卵形、長さ5~8cm、基部は切形。花色が黄色味を帯びず、白~赤みがかった色です。茎も赤みを帯びることが多い。
フジイタドリの中で特に赤花をつける個体をベニバナフジイタドリ(メイゲツソウ)と呼ぶ。
【ナデシコ科】
岩爪草、花期は7月から9月。本州中部の高山の礫地に分布。
5弁花であるが、真ん中に深い切れ込みが入っているので花弁が10枚あるように見える。
イワツメクサの花に来ていたハナアブ類。富士宮ルート9合目(3,460m付近)にて。
【ハマウツボ科】
巴塩竈。花期は7月から9月。シオガマギクの変種で、茎の上部に花が集中してつき、上から見ると巴状に見えるのが特徴。
【マメ科】
岩黄蓍。花期は6~8月。亜高山帯から高山帯にかけての草地・砂礫地に分布し、淡い黄色の花を咲かせる。果実のさやに節があることで他種と識別できる。
【マメ科】
紫木綿蔓。花期は7月から8月。山地から高山帯にかけてのかなり狭い範囲の礫地に生育する。ゲンゲ属で、レンゲソウに近縁。
【ユキノシタ科】
【ユリ科】
竹縞蘭。花期は6月。山地帯上部から亜高山帯の針葉樹林内に生育する。
【ユリ科】
車百合。花期は7~8月。オレンジ色の径5から6cmの花を付ける。
和名は輪生する葉の様子から。高山帯から亜高山帯の草原に分布する。
【カヤツリグサ科】小狸蘭。花穂が狸のシッポに見えることからついた名前。
【イネ科】深山糠穂。2024/8/29 吉田ルートにて
岩場の隅にコケ類が見られた。コケのマットの上にイワツメクサなどの小さな草が生えていることもあった。
ここからは菌類。
山頂付近の厳しい環境では、地衣類が岩肌に着いていた。
地衣類が着き、コケ植物が育ち、その上に草本が育っていくような植生遷移(しょくせいせんい)があるんだろう。
【ヘトリゴケ科】地図苔。山地の岩に生育する地衣類。
【イグチ科】山猪口。ダケカンバなどカバノキ科の樹に菌根を形成して発生する。
たった2回の登山で見かけた植物を紹介したが、富士山の森林限界以上の高さで生育している植物は、ほんとに種類が限られているため、このページに載っている種類を覚えれば、ほぼほぼ同定できるのではと思う。
富士登山にチャレンジする際は、体力作り、水分や服装や装備の準備など怠りなく。高山病になりにくい呼吸法、歩行時の重心移動や足運びなども練習しておいたほうが良いだろう。
標高3000m付近で、気圧を見たら、691ヘクトパスカル(hPa)だった。平地の平均気圧は、海面上で約1013ヘクトパスカルとされているので、この7割程度にあたる。袋菓子のパッケージは、パンパンに膨れていた。そりゃ空気も薄いわね。
簡易なパルスオキシメータを持参して、動脈血酸素飽和度を測ってみた。高標高の登山では心拍が上がって低くなった酸素を補おうと体が頑張っていることがわかった。登山中にしんどくなったら、深呼吸(息を吐くときに、ロウソクを吹き消すように体内の空気をしっかりと吐き出す)を続けると酸素飽和度が上がってくるのを数字でも確認できた。高山では呼吸法は大切だ。