紋白蝶と青虫侍小繭蜂。河川敷の草地や畑などの身近な環境でよく見られるチョウとその幼虫に寄生する小さなハチ。アオムシコマユバチ(Apanteles glomeratus)は、アオムシサムライコマユバチのシノニム(異名)で、同じ種になる。
モンシロチョウの飼育観察は、小学校3年生の理科で扱われる内容で、経験のある方も多いと思う。小さな命の成長(卵⇒幼虫⇒蛹⇒成虫)を観察して、命の不思議さを感じたり、反面として自然界の生存競争の厳しさを感じる意味でも良い観察対象と思う。
成虫は、白い翅に灰黒色の斑点模様があるチョウで、世界の温帯、亜寒帯に広く分布する。幼虫は、アブラナ科植物(アブラナ・大根・キャベツ・白菜・ブロッコリーなど)を食べて育つ。農業では畑の作物を食べてしまうので、害虫とされる。日本には、古く奈良時代に大根の栽培と共に移入したと考えられている。
孵化した幼虫は、卵の殻を食べる。体色は黄色っぽく、まだ青むしとは呼びにくいかな?
キャベツや白菜など、お店で売っている野菜をエサに使う場合、農薬が残存していて、幼虫が死滅することがあるので、要注意だ。
よ~く見ると、幼虫は落ちないように糸を出して、足場を作っているのがわかる。
アブラナ科の植物を食べられる昆虫は、限られていています。アブラナ科の植物には、多くの昆虫にとって毒となるアリルイソチオシアネートが含まれています。この成分はマスタードやワサビなどの辛味成分でもあります。モンシロチョウの幼虫はこの毒を解毒できるため、アブラナ科の植物を独占できるようになりました。
幼虫は、1齢から5齢になるまで4回脱皮する。幼虫の期間は、飼育中の気温やエサなどの条件で変化するが、夏場だと2週間前後で蛹になる。
茎の左側が5齢幼虫。短期間ですごく大きく育つことが分かる。
野外で採ってきた幼虫を飼育すると、高頻度でコマユバチに寄生されている。コマユバチの幼虫はモンシロチョウの幼虫(青むし)の体内で育ち、青むしが大きく育つ頃に、青むしの体内から出てきて、たくさんの小さな繭(まゆ)を作る。当然、寄生された青むしは死に、チョウに羽化することはできない。
コマユバチに寄生されていたら、飼育失敗として処分するのはやめて、タッパなどの密閉容器に移し替えて、コマユバチが羽化してくるのを観察したら良いだろう。
寄生されていない状態で飼育したいなら、孵化する前の卵の時期から隔離して育てる必要がある。
青むしの体内から出てきた繭を放っておくと、こんな小さなコマユバチが羽化してくる。
体長は約3㎜。体は黒くて、足は黄色い。
モンシロチョウの幼虫は、時に大発生するが、鳥に食べられたり、コマユバチに寄生されたりして、成虫まで育つことができるものは少ない。成虫になってからも鳥に食べられたり、クモの巣に捕まったりもするだろう。それは残酷なようだが、自然界の生き物すべてに課された試練でもある。自然界には特定の生き物が増えすぎないようバランスを保つ仕組みが、巧妙にできあがっている。モンシロチョウの飼育を通して、昆虫の成長する様子や体のつくりの学習のみではなく、こんな内容も含めて、生き物や自然の観察をしてほしいなと思う。