駐車場の隅にスミレの実が出来ていた。春先4月にはたくさん花が咲いていたが、6月の今は花は咲いてはいない。それでも次々に実ができている。スミレは、開花しないで実を付ける「閉鎖花」を持っていて、今の時期は閉鎖花が実になっている。実は熟すと、3つに裂けて開き、中のタネがあらわになる。しばらくすると裂開した皮が収縮してタネを弾き飛ばす。スミレのタネは、まずスミレ自身が自力で散布(=自動散布)を行う。
弾き飛ばされたタネをよく見ると、タネの尖った方の側面に白っぽい付属物が付いている。この付属物は、エライオソームと呼ばれる構造で、アリを誘引するための脂肪酸や糖などの栄養を含む。
飛ばされて地面に落ちたスミレのタネは、このエライオソームを食料にするアリに運ばれ、アリの巣に持ち帰られる。アリは巣に持ち込んだタネからエライオソームを切り離して、不要になったタネ本体を巣の近くに捨てる(=アリ散布)。このように自動散布+アリ散布の組み合わせで、スミレのタネは親の株から離れた場所に運ばれる。
スミレのように、タネや実にエライオソームを持ち、アリ散布を行う植物は案外多くて、被子植物の4.5%にもなるらしい。教育研究所周辺で見られるものでは、ホトケノザ、ヒメオドリコソウ、エノキグサ、キュウリグサ、オオイヌノフグリ、フラサバソウ、スズメノヤリ、アオスゲ、アケビ、ミツバアケビなど、植栽された植物ではスイセン類(ニホンズイセンは3倍体で不稔)、クリスマスローズ、クロタネソウなどがあるようだ。(蛇足になるが、カタバミ、コニシキソウの種子にはエライオソームは無いみたい)
少し山地に行かないと見つからないが、クサノオウ、ムラサキケマン、ミヤマキケマン、タケニグサ、カンアオイ類、エンレイソウ類、イカリソウ、カタクリなどもアリ散布を行う植物だ。いつ頃にタネを採集できるか調べて、集めてみるのも楽しいだろう。じっくり時間をかけて観察できるなら、どんな種類のアリが種子散布に関わっているのかを調べるのも面白そう。
教育研究所の正門前植え込みの芝地にアオスゲが生えていたので穂を採ってきた。タネ(果実)を見ると、雌しべの名残の花柱の基部が膨らんで残っていて、これがエライオソームにあたるらしい。
クサノオウの種子。ゼリー状のエライオソーム(種枕)がよくわかる。民家の石垣などにも生えていることが多いが、アリが種子を運んでいるようだ。
五條市大塔町の道ばたで見かけたタケニグサ。実がなり始めていたので、少し持ち帰った。実を割ってみると、未熟な種子が出来ていた。エライオソームがあるのが観察できた。