アルゴイレレス

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 註:このページで用いられる単位は、全て地球の国際単位系のものである。暦法は特筆無き限り玄歴を用いる。文中に出てくる「現在」は、特筆無き限りは玄歴1646年7月のことである。

「その獣からは数十の鋭利な角が体を突き破って生えていた。目は民どもに対する憎悪と憤激に満ち、口からは彼らを威圧する凄まじい雄叫びが聞こえていた。

 ゾンベックの愚かな民どもが獣を見た少し後に、獣は口から無数の燃える岩を撃ち出した。ゾンベックは瞬きする間に灼熱の地獄と化し、時を同じくして空の雲が赤く光った──」

──『導書』第十五章 『怒神の裁き』より

 アルゴイレレス(麗:Argoireress 紋:激怒之使僕 多:Argoirerst 羅:Arlgoirlerles 瀬:Argoireres)は、太球世界に生息している巨大生物の総称である。アルゴイレレスはルザーユ教における怒りの神、アルゴイル(Argoir)の使者という意味で、生物学者ガーデンにより提案された。

アルゴイレレスの能力・特徴・生態など

 アルゴイレレスは前述の通り、太球に棲む生物である。しかし、その能力は普通の生物とは一線を画しており、その結果、人類社会に多大な被害を与え続けている。この節では、アルゴイレレスの並外れた能力や特徴を解説する。

分類

 太球生物学の分類では、アルゴイレレスは、真核生物ドメイン・動物界・脊索動物門・アルゴイレレス綱・アルゴイレレス科に属する。アルゴイレレスとは、アルゴイレレス科に属する生物の総称であり、性質によって様々な種に分けられる。

外見

 アルゴイレレスの体長は、個体によって変動するが、おおむね10~500メートル程度である。地球で世界一大きい生物と言われるシロナガスクジラであっても、25m程度であることからも、その大きさが窺えるであろう。通常、これほどまでに大きい生物は、自重によって潰れて死に至る(シロナガスクジラが水中で生きるのも、浮力を得て潰れないようにするためである)。しかし、アルゴイレレスは大きさの割には体重がかなり軽いし、骨や皮膚(外骨格としてはたらく)が丈夫であることにより、死ぬことはほとんどない。

 アルゴイレレスの70%は100メートル以下の身長である。体長40クダム(約54.4m)以下のアルゴイレレスは小型、体長40クダム~80クダム(約108.1m)のアルゴイレレスは中型、体長80クダム~150クダム(約202.7m)のアルゴイレレスは大型、150クダム以上のアルゴイレレスは超大型と呼ばれる。

 アルゴイレレスはおおむね四足歩行と遊泳を行う。外見は熊と狼を組み合わせ、さらに角を加えたような独特の形状である。水中で暮らす種は、ひれのような構造を持っていることがある。前脚よりも、後脚の方が筋肉が発達しており、太い。大半のアルゴイレレスはときおり二足歩行も行う。常に二足歩行を行うアルゴイレレスも7%程度の割合で存在する(ほぼ全てが陸上生活を行う種)。また、多脚のアルゴイレレスも存在する。

 稀に尻尾を持っている個体もあり、その長さは1~100メートル程度である。皮膚は赤黒く、所々に妊娠線のような見た目をした裂け目のような構造が見られる。

 アルゴイレレスの手は、5つの短く太い指を持つ。親指とその他の指は半ば向かい合っている。物を持ったり、摑んだりするのには充分であり、獰猛なアルゴイレレスは物体を手摑みにして投げることもある。

 声帯にあたる構造は確認されているが、体系的な言語を発したことはなく、鳴き声を放つ。この鳴き声はアルゴイレレス同士でのコミュニケーションや敵に対する威嚇などに用いられるとみられている。鳴き声は最大で140デシベルに達し、近距離で聞くと聴覚障害を引き起こしかねないほどの大きさである。

皮膚

 皮膚はアルゴイレレスの表面のほぼ全てを覆い尽くしている組織である。身体の防護と呼吸の二つの役割が主である。皮膚は外から、死んだ細胞で構成される角質層、皮膚細胞が幾重にも積み重なった表皮層、著しい再生能力を持つ真皮層の3層で構成され、病原菌や有害物質、その他危険な物体が体内に入ることを防ぐ。

 前述の通り、アルゴイレレスの皮膚は赤黒い。裂け目のような構造からは赤色の組織が確認できる。個体によっては、夜間になると皮膚が弱い緑色に発光するが、これは皮膚に含まれる緑色蛍光タンパク質によるものと考えられる。老いた個体は発光しないか、光が弱くなる。長時間暗い空間に置いておくと、同様に光の強さが落ちる。

 皮膚は他の生物と比べて著しく強く、およそ生物としてはあり得ないほどの強靱さと、その強度に見合わない柔軟さを持つ。刃物は刺さらず折れ、拳銃や機関銃の銃撃は弾かれる。戦車砲の砲撃ほどの威力になると、ようやくダメージを与えられるようになるが、これは人間にとってのかすり傷程度の損傷とみられており、有効打を与えるには艦砲射撃やミサイルなどが必要となる。近年では更に強い皮膚を持つ個体も出現しており、高い装甲貫通力を持つ地中貫通爆弾の使用が必要となる場合もある。過去に出現したアルゴイレレスのAR-40"ハルストジジネス"はあまりにも強固な皮膚を備えていたため、核兵器を用いて殺害することとなった。

 皮膚の強靱さは、皮膚に多く含まれる金属元素と炭素、その他有機物が、好熱菌の構成物質に類似した未解明の物質を形成しているためと考えられている。皮膚は-60℃~900℃ほどの温度に耐えることができる。このことから、皮膚のタンパク質は相当強いイオン結合を保っているとみられる。強塩基にも強く、飽和水酸化ナトリウム水溶液を浴びても表層しか溶けない。いっぽう強酸にはあまり強くなく、濃硫酸や濃硝酸によって表皮が溶ける。厚さについてであるが、一般的なアルゴイレレス(体長100m)では、掌の皮膚が最も厚く26cm、平均すると厚さは8cm程度である。掌の皮膚は装甲として働き、傾斜がつけば電磁加速砲の砲撃を弾くこともある。体長が30mを下回る小型のアルゴイレレスでは、皮膚はそれほど強くなく、120mm戦車砲の徹甲弾くらいの攻撃力があれば貫通される。

 皮膚は再生能力にも優れており、拳銃で追う程度の傷であれば1時間程度で完全に回復する。出血するほどのけがを負ったとしても、半日~2日でおおむね治癒される。これは、著しい再生能力を持つ真皮細胞が、皮膚が傷つくとすぐに増殖して皮膚を覆うためである。

 皮膚は体を護る役割だけではなく、呼吸と光合成をする役割もある。皮膚の表面には多くの気孔があり、肺呼吸を行っている。「皮膚で肺呼吸とは、誤字ではないか」と思うかもしれないが、アルゴイレレスの肺は皮膚の直下に存在するため、この記述は正しい(肺の詳細については後述する)。気孔は危険に遭遇すると閉鎖される。

 皮膚が赤黒いのはクロロフィルD(デー)という光合成色素による。光合成の仕組みは植物と同じ。

骨格

 アルゴイレレスは骨によってその体を支えている。骨は、主に炭素でできた軽くて強靱な繊維部分(共有結合が3つづつ繫がった構造とされる)と鉄などの金属が互いに結びついた特殊な構造でできているとみられ、それゆえ、軽いにもかかわらず強固である。腕や脚などの重要な部分では、複数の骨が螺旋状にまとまり、あたかも一つの骨であるような振る舞いをする。このような骨は螺旋骨(バンペルコーツ, bampelkooq)と呼ばれる。

 骨折はアルゴイレレスでも発生する。主な骨折原因は人間による砲撃やミサイル射撃である。骨折は5日程度の短期間で治癒する。脚の骨を折ると動きが鈍るので、大きなアルゴイレレスに対しては脚を攻撃し、人口密集地への侵入を防ぐ策をとることが多い。

 骨同士は普通の生物と同じく軟骨や関節で繫がっている。関節は脱臼を防ぐために二重構造となっている。

 アルゴイレレスが死ぬと、骨は数日で硬度が低下するが、それでも鋼鉄を凌ぐ強度を持つ。もう一週間ほど経つと、さらに劣化が進み、金槌で叩けば割れるようになる。

筋肉

 筋肉は、アルゴイレレスの体や内臓を動かすはたらきを持つ。筋肉の構造は人間のそれと類似しているが、極めて太い。心筋や骨格筋は横紋筋でありながら高めの持続力を持つ特殊な繊維で構成されている。平滑筋は内臓筋のみに存在する。骨格筋と内臓は螺旋状に絡まった構造の腱(螺旋腱)で繫がれている。筋肉には、また、体温を作る働きもある。アルゴイレレスの平均体温は人間よりもかなり高く、51~60℃程度である。

 骨格筋が持続力を持つのは、筋肉にミトコンドリアのようなATP生成器官が大量に存在しているためであるが、これだけでは筋肉の要求するエネルギーを全てまかなうことはできないと考えられている。しかし、残りのエネルギーはどのようにして供給されているのかは未だ解明されておらず、いくつかの仮説が提唱されるにとどまっている。

 骨格筋は、さらに、瞬発力に優れるが持続力に欠ける速筋と、瞬発力はないが継続して安定して力を出せる遅筋に分類される。アルゴイレレスの遅筋は大量のミオグロビンが含まれているため真っ赤である。速筋はヘモシアニンにかなり類似したタンパク質が多く、青っぽく見える。アルゴイレレスの筋肉は人間と比べて熱に強く、遅筋は72℃以上の、速筋は249℃以上の熱に10秒以上曝されると機能を失う。

 筋肉の多さは個体によって異なる。筋骨隆々の個体もいれば、筋肉がほとんどなく、運動性に欠ける個体もいる。アルゴイレレスでも、人間のように訓練をすれば筋肉が発達し、逆に運動しなければ筋肉がやせることが判明している。

血液

 アルゴイレレスの血液はその性質によって動脈血と静脈血に分けられ、どちらも赤色である。血液のpHは約5.4で、弱酸性である。血液は人間のそれと同じく、栄養や酸素を運んだり、体温を保ったりする機能を備えている。アルゴイレレスの血液の機能は以下の通り。

 血液には神経毒のテトロドトキシンが入っており、ほとんどの生物にとって猛毒である。kg当たりの半数致死量は1.67gであり、成人男性では100g程度の摂取で死亡する。血噴種(学名brodibus skrampoas)といわれるアルゴイレレスはこの毒性を利用して他の生物を殺す。アルゴイレレス自身はテトロドトキシンに耐性がある。このテトロドトキシンは、8割以上が食物の摂取による。そのため、陸上で生活するアルゴイレレスは、血液の毒性が弱い(ほかの毒を持つ種もいる)。

 血液は以下の成分により構成される。

 血圧は最低でも数十気圧はあると推測されているが、皮膚が分厚いために正確な計測はできていない。静脈については、血液を送り出すポンプ状の構造があることがわかっている。

 アルゴイレレスは、閉鎖血管系である。

臓器

 異常な大きさであるとはいえ、アルゴイレレスは生物であるから、当然臓器を持つ。全ての臓器は高度な自己再生能力を持つ。ただし、脳は例外。

脳(神経)

 アルゴイレレスは、管状神経系である。

 脳はアルゴイレレスの神経系の中枢である。アルゴイレレスは脳を3つ持つ。一つは頭部にある主脳(raizlaen)であり、こちらでアルゴイレレスの大部分を司っている。思考能力などの高度な能力の大部分はこの主脳に帰属している。主脳は、厚さが20cmにも達する分厚い頭蓋骨で覆われているため、破壊は難しい。もう二つの脳は腹部にある副脳(anvafeitlaen)である。副脳は主脳の補助を行う。人間の中脳、小脳のような働きがあると考えられているが、いかんせん未解明な部分が多い。

 現在は、副脳が傷ついてもアルゴイレレスは問題なく活動できるが、主脳を破壊されると、たとえ副脳が無事でも一気に衰弱するため、やはり主脳に生命維持機能が集まっているとする見方が有力である。

 アルゴイレレスの脳は人間のものより高機能で、特に運動能力に優れる。しかし、理性を司る部分は小さく、知能はイルカ並みと一般には解説される。アルゴイレレスが人間を無差別に襲来するのはこのためであろう。特に知能に優れる種は賢明種(学名:pfontaro argoirerst)と呼ばれ、ジェスチャーや合図を使ったコミュニケーションをとることができるほか、数百語と簡易な文法を理解できる。

 脳に次ぐ中枢神経は脊髄である。脊髄は反射行動などに関わり、それ単体だけでもドブネズミの脳ほどの能力を持つ。脊髄は40の節で構成されており、脳に近い節ほど生命維持の機能を備えている。脊髄は厚さ10cm程度の脊椎で保護されている。特有の反応として、150℃くらいの熱を与えると筋肉を収縮させる反射があり、屈筋反射と呼ばれる。そのほか、尾骨付近を殴打すると腕を上げる反射もある。

 末梢神経系を構成する基本単位は、人間と同じくニューロンである。ニューロンは人間のものよりも大きく、軸索の大きさは最大で3mに達する。イカの巨大軸索が1m程度の長さを持つが、これの3倍の長さである。

心臓

 心臓は循環系の中枢である。個体によって異なるが、アルゴイレレスは2つの心臓を胸部に持つ。心臓が1つだけだと全身に血液を回せないからであろう。心臓の大きさは人一人分~人十人分である。

 心臓の構造は人間と同じく二心房ニ心室で、静脈血と動脈血が混ざることはない。人間と異なり、左心室が肺臓に繫がっており、全身に血液を送り出すのは右心室の役割である。

 心拍数は16回/分程度で、遅い。心臓を動かしているのは心筋だが、心筋はアルゴイレレスの筋肉の中で最も強く、かつ持続性を持つ。心臓は薄い皮膚のような膜(心外膜)で覆われており、心筋やそこに酸素を運ぶ冠状動脈などはこれで保護される。心外膜は小銃弾を通さないくらいの強度を持つ。

 なお、心臓は循環器としてだけではなく、神経系の臓器でもあることが研究で明らかになっている。心臓移植を受けた人間が移植元の人間の記憶を思い出せたり、人格が変わることがあるが、アルゴイレレスでも同じことが起こりうる。

・肺臓

 肺臓は呼吸器である。他の生物の肺(dank)と区別するため、アルゴシュピセス(argoxpisess)ということが多い。

 アルゴイレレスの肺は二種類ある。一つが皮膚の直下に無数に存在する主肺(raizargoxpisess, raizdank)で、主肺内にある大量の肺胞で呼吸を行う。一つの主肺は薄桃色で、3mm~1cmほどの大きさの球体である。アルゴイレレスの皮膚をめくるとこれが大量にあるので、一般の人間は強い嫌悪感を催す。アルゴイレレスの呼吸の約60%が主肺によって行われている。

 もう一つの肺は心臓の左右に一対の副肺(anvafeitargoxpisess, anvafeitdank)である。副肺は白色で、人一、二人分ほどの大きさである。副肺での呼吸は口から直接取り入れた空気を用いて行われる。水中ではエラ呼吸を行うが、効率は低下する。

 この二つの肺によって、アルゴイレレスは生きるのに必要なエネルギーを得ている。

・同化臓(アルフィンヴェンターネフテス)

 同化臓(alfinventaaneftess)は、炭酸同化を行う臓器である。副肺にへばりつくようにして存在している。同化臓の内部は植物の葉緑体と同じ構造をしており、副肺から送られる二酸化炭素でエネルギー源となる有機物を合成する。合成のためのエネルギーは、主に呼吸で得られるATPでまかなわれている。同化臓は、呼吸で発生する老廃物である二酸化炭素を、有効活用するための臓器である。

・胃腸

 アルゴイレレスの胃と腸は機能が似ているので、ここではひとくくりにして扱う。アルゴイレレスは生物であるから、当然食事を行う。体内に入った食物はこの胃腸で消化吸収される。胃腸は胃と前腸、後腸の3つの部位に分けられる。なお、アルゴイレレスは雑食生物である。食べられるものの範囲は広く、ヒトが食べられる野菜や肉類はもちろんのこと、毒を持つフグやキノコ類、ひいては樹木すらも食べることができる。後述する阿石投射のため、岩石やコンクリートなどを食することもある。質量が大きく、一頭で多くの栄養を得られるので、アルゴイレレスは、異種のアルゴイレレスを好んで食べる。

 は強酸と消化酵素を含む胃酸によって食物を殺菌、分解するはたらきを持つ。胃酸中の酸の割合は塩酸:硝酸:その他=10:1:1くらいであり、消化酵素はペプシンとアネフテセルターゼ(炭水化物を消化)の2つである。蠕動運動によって食物を押し潰す役割もある。アルゴイレレスの歯は咬み合わせが悪く、食物を嚙みくだくには不充分であるから、胃で食物を細かくするのである。胃では糖分とタンパク質の大部分が消化される。反芻は行わない。

 前腸は腸液によって胃で分解しきれなかったセルロースなどの炭水化物や、脂やタンパク質などを消化し、吸収する。水分の吸収もここで行われる。腸は、阿石を作るのに必要なケイ素類も吸収できる。海水中では、余計な塩分は吸収されずに後腸に送られる。腸液は人間にとって有害な神経毒であるバトラコトキシンを少量含む。前腸の周りには膵臓がへばりついており、消化に必要な酵素を供給している。

 後腸は主に水分の吸収を行う。消化されなかった残りカスは便となって体外へ排出される。消化吸収の能率が良いため、便は少ない。海中で生活するアルゴイレレスの便は、かなり塩分が多い。便には腸液由来の神経毒が含まれているので、生物が摂取すると身体に異常をきたすか、死ぬ。アルゴイレレスはこの性質を利用し、便を罠にして獲物を食らうこともある。

・肝臓

 肝臓は毒物の無毒化や血球の造成・破壊、栄養分の貯蓄や皮膚再生などの多様な機能を持つ臓器であり、前腸の周りに位置する。肝臓は、心外膜と同様の物質で構成される、肝臓膜という膜で覆われている。肝臓はアルゴイレレスの臓器の中でも再生能力が群を抜いて高く、半分を欠損しても5日で元通りになる。肝細胞の核は3個あることが研究によって明らかになっており、これが再生能力の高さに寄与しているとみられている。

・石臓(カファーネフテス)

 石臓(せきぞう, kafaaneftess)はアルゴイレレス特有の臓器であり、そしてアルゴイレレスを人類の脅威たらしめている最大の要因でもある。石臓は上腹部の大部分を占める臓器であり、阿石(あせき)(アルゴカフ、argokaf)とよばれる石状の物体を生成、貯蔵するはたらきがある。阿石は、石臓から伸びるホース状の器官(石管, せきかん)を通して射出される。阿石投射は、同種のアルゴイレレスを殺すための進化であるという説が有力。

 阿石投射の威力は、被害状況からGスケール(ガラヴィルムスケール)という区分により6段階に分けられる。

 なぜ生物であるアルゴイレレスがここまで大きな速さで阿石を撃てるのかは、未だ判明していない。一種の機械的構造を体内に持っているという説もある。一回の阿石投射で、平均して32個/秒の阿石が投射される。阿石投射が終わると、アルゴイレレスはしばらく動きが鈍くなり、次の阿石投射まで1時間~2時間のインターバルが必要になる。

 前述の通り、阿石投射はアルゴイレレスの放尿にあたるとされるが、アルゴイレレスは、高い知能によって、これを単なる排泄と攻撃との用途で使い分けている。具体的には、G1、G2の阿石投射は排泄も兼ねており、G3以上は攻撃目的で用いられる阿石であるとされる。このように推察できる理由は、G3以上の阿石投射の威力が急激に高くなるため、また、G2以下の阿石には比較的多くの老廃物が含まれているためである。石臓は、アルゴイレレスの強靭な皮膚を貫くために発達したという説が有力である。

 阿石投射の精度は高く、大抵のアルゴイレレスは、阿石を1km離れたところを走っている自動車に命中させることができるが、上空を飛ぶ飛行機に当てることは難しいようである。

 石臓はそれ自身が膜で護られている上に、骨でも防護されているため、武力によって石臓を傷つけることは難しい。石管も丈夫であり、戦車砲程度の火力では損傷しないこともある。石管が損傷すると、阿石投射の精度が落ちる。

 全てのアルゴイレレスが石臓を持っているわけではない。およそ26%のアルゴイレレスは石臓を持たない。ただし、石臓を持たないアルゴイレレスは、その分肉弾戦に強く、挌闘種(学名:anevas bulmundoas)と呼ばれる種に属することが多い。挌闘種は肉体が強靭なため、違う意味で厄介である。飛行できるアルゴイレレス(飛行種, 学名:argo sanumis bahsoas)は、体を軽くするため、石臓を持たない。

 なお、アルゴイレレスは阿石投射をする代わりに、地面(水底)にある石やコンクリートといった物体を手で投げて攻撃することも多い。少数の例外を除き、阿石投射はあくまで自己防衛の最終手段であるというのが、現在の学者たちの基本的な認識である。

・脾臓

 脾臓は血液に関わるはたらきを持つ臓器である。脾臓は肝臓の逆側に存在する。

 脾臓は血液および血球を造成し、また、古くなった血球を破壊する役割を持つ。人と同じく、骨髄でも血液は作られるが、アルゴイレレスでは脾臓に血液の4割を頼っている。破壊された血球の残骸は大部分が体内で再利用される。

 脾臓にはもう一つのはたらきがある。それは、血液の貯蔵である。ヒトの脾臓は血液を貯蔵する機能があまり発達していないが、アルゴイレレスでは全血液の8%が常に脾臓にある。大量に出血したときや、急激な運動を行った際には、脾臓から血液が放出され、酸素不足を解消する。

・生殖器

 アルゴイレレスは生殖器を持つ。生殖の方法は体外受精に近い体内受精である。アルゴイレレスにはメスとオスがあり、生殖器は両性で違うため、別々に解説する。なお、雌雄の判別は外見ではかなり難しく、アルゴイレレスを長年研究している者でなければ分からない。

 アルゴイレレスの男性器は多くの生物と同じく棒状である。長さは個体により異なるが、勃起時で40cm~5m、平常時で20cm~2mほどである。生殖行為を行わないときは体内にしまわれており、外からは見えない。生殖行為を行う際は体外へと出てきて、同時に勃起する。連続した刺激(ほとんどの場合、性的刺激)が加えられると放精し、その後は急速にしぼみ、速やかに体内へ格納される。精液の量は最大100mLにも達する。

 男性器はアルゴイレレスの中でも特に弱く、岩にぶつけた程度で出血する。

 アルゴイレレスの女性器は、男性器を挿入される阿膣(argoireresdieanefdirrat)と、その外部の陰唇、そして内側の子宮より成る。陰唇は、生殖行為時以外は常に膜で覆われている。この膜は拳銃の銃撃に耐える程度の強度を備えており、陰唇を保護する。

 阿膣は男性器を刺激するヒダのような構造が大部分である。このヒダはヒトの皮膚と性質が似ている。阿膣の長さは個体により異なるが、40cm~6m程度である。ヒダは子が体外へ出る前になくなる。

 子宮はアルゴイレレスの胎児が育つ臓器である。アルゴイレレスは胎生に近い卵胎生であり、子は子宮内で数か月過ごしたのちに体外へ放出される。子の数は多くても四匹に満たない。生まれたばかりの子は拳銃で殺害することができるくらいに弱い。子に刷り込みは存在せず、1年程度親と過ごしていくうちに愛着を持つようになる。

運動能力

 アルゴイレレスの運動能力は高い。もともと体が大きいためでもあるが、歩くだけでも時速12kmほど、走れば時速30kmほどは出る。最も速い記録はKKH-01"ハステルルンゲン"の時速120kmである。アルゴイレレスの骨格筋は持続性の高い横紋筋であるため、5分間ほどは速度を保ったまま走り続けることができる。あまりにも長く走り続けるとアルゴイレレスといっても さすがに疲れ、酸素不足を起こして途端に動きが遅くなる。

 気候によっても運動能力は変化する。アルゴイレレスにとって最も運動に適している温度は23℃である。-20℃を下回ったり、40℃を超える環境では動きが鈍る。ただし、水分不足に陥ることはあまりないようだ。これらの理由により、アルゴイレレスが最も多く出現するのは温帯地域である。

 尻尾を持つアルゴイレレスは、それを存分に活用して攻撃する。尻尾の速さは最大で時速100kmにも達し、衝突した物体を粉砕する。近づいたものには容赦なく尻尾を当ててくるので、尻尾を振っているアルゴイレレスには近づかないのが原則である。

 アルゴイレレスは跳ぶこともある。跳躍高は最大10メートル。飛翔できるアルゴイレレスは現在のところ、確認されていない。1646年5月、ラシェント南部の都市、タシュドレから東方に30kmほど離れた草原で、飛翔できるアルゴイレレスが発見された。この種は現在、暫定的に飛行種(学名:argo sanumis bahsoas)と呼ばれている。性格は、おおむね穏健。

感覚器

 アルゴイレレスの感覚器は視覚器・聴覚器・触覚器・回転覚器・平衡覚器などがある。

 アルゴイレレスの視覚器は目である。目の構造はヒトと同じ。視力は個体によって異なるが、おおむね3~10である。顔に占める面積の割合は個体差があるが、たいていは矮小である。虹彩の色は、緑がかった黒が最も多く、次いで橙赤色が多い。

 目の表面には爆発などから目を護る瞬膜があり、目が危険にさらされたときに作動する。瞼の皮膚も目を守る役割を持つ。瞼と瞬膜を両方作動させていれば、電磁加速砲の攻撃にも耐えうるほどの強度を発揮する。

 色覚は人間のそれと異なっていると推測される。具体的には、UVA~赤外線までを見ることができ、人間よりも多くの色を識別できる。視力は人間より遙かに良く、平均して5.2である。飼育されるアルゴイレレスは近視になりやすいが、近視のアルゴイレレスでも視力が2を超えることはざらにある。人間と同じく、遠視や近視、乱視や弱視のアルゴイレレスがいることが判明している。

 眼球はアルゴイレレスの部位の中でも最も美味とされ、たとえばレイトガイジェンでは30円/g(レートは2020年11月(玄歴1646年7月)現在のもの)という高値で取引される。芳醇な白身魚のような味がすると評判である。

 アルゴイレレスの聴覚器は耳であり、角の傍にある。耳の構造はヒトと類似するが、蝸牛が大きい。聴覚は人間よりも圧倒的に優れており、1km先の人間の叫び声をも聞き取ることができる。耳の外側には耳介のような構造があり、聴覚を補助する。この耳介は、攻撃されたときに耳を護る役割もある。

 アルゴイレレスは、50Hz~100000Hzほどの周波数の音を聞き取ることができる(人は20Hz~20000Hzほど)。人と同じく、老化により聴力が落ちる。

アルゴイレレスの回転覚器・平衡覚器は同じ器官であり、エフタンヴォーシュ(eftanvoox)あるいは阿斜転耳(あしゃてんじ)と呼ばれる。体液の流れにより、傾斜や回転を感知する仕組みである。アルゴイレレスも、回りすぎると目が回ったり気分を悪くしたりするといわれる。

 アルゴイレレスは舌だけでなく、歯でも味を感じ取ることができる。舌は筋肉の塊であり、細長く、どちらかというとヘビの舌に近い形をしている。舌の表面には大量の味蕾のような器官があり、ここで味を感じ取る。味蕾は人間のものよりも多くの味を感じ取れ、現在、甘味・苦味・塩味・酸味・旨味・石味・カルシウム味の7つの判別ができることがわかっている。

 舌の強度は比較的弱く、機関砲の攻撃で出血しうる。

 アルゴイレレスの歯は骨と同等の物質で構成されているが、さらに硬く、電磁加速砲の砲弾を弾いたこともある。多くのアルゴイレレスでは、歯は口の中に生えており、はたらきによって牙歯(がし)・犬歯・切歯・臼歯の4種類に区分される。牙歯は、食物の咀嚼というよりは攻撃に用いられる。牙歯以外の歯は、食物を嚙みくだくのに用いられる。ただし、大半のアルゴイレレスは歯の嚙み合わせが良くないので、胃で食物を潰し、砕く。

寿命

 アルゴイレレスの寿命は、種にかかわらずおおむね20年ほどである。鎮静種の寿命は、他の種に比べて若干長い。一般に小さい種ほど長命であるとされるが、アルゴイレレスの研究はまだまだ発展途上であるため、詳しいことは分かっていない。人間によって育てられたアルゴイレレスの寿命は太球時間で20年に達するが、これが自然界での寿命と同一とは考えがたい。

 死亡した個体は、約5か月で分解されつくし、消失する。体内の有毒物質は、死後1週間程度でなくなるが、この仕組みは明らかでない。

生息地・行動・性格など

 アルゴイレレスはほとんど世界中に生息している。両極付近と砂漠気候などの極めて厳しい気候でなければ、どこにでも生息している。どちらかといえば昼行性であり、夜間は水深の深いところで緩慢に動くことが多い。普段は海を時速15km程度の速さで回遊している。地上に棲むアルゴイレレスは、木やその実などを食べて暮らす。夜間はその場で眠る。脳波を計測したところ、ノンレム睡眠が3割であった。

 アルゴイレレスは頭数が非常に少なく、確認されている分では7000頭程度、高々見積もっても6万頭に満たないとされるが、絶滅危惧種とは認識されていない。ほかの生物よりもあまりにも強すぎて絶滅する要素がないためである(レッドデータブックには一応登録されている)。

 アルゴイレレスは二酸化炭素の削減に貢献している生物である。炭酸同化の過程で二酸化炭素を吸収し、酸素を排出しているためである。

 一部の種を除いて性格は獰猛であり、餌となる生物を見つけるとすぐに襲いに掛かる。アルゴイレレスは、死亡したアルゴイレレス(体組織が著しく劣化する)を好んで共食いする。生きた個体を殺して食べることもよくある。艦船を獲物と見間違えることもあり、年に数度はアルゴイレレスによる船の沈没事故が発生している。いくつかのアルゴイレレスは、生物や物体を好奇心あるいは悪意から破壊する。アルゴイレレスは、また、人間にも強い敵意を向ける。これは、人間が人口密集地を襲うアルゴイレレスを殺害あるいは撃退しているためとみられる。全てのアルゴイレレスがこのような性格をしているわけではなく、おとなしいアルゴイレレスも2割程度いる。特に鎮静種(学名:aktisoas argoirerst)と呼ばれる種は、この傾向が強い。

 詳しくは後述するが、穏健な性格のアルゴイレレスを捕獲し、生物兵器として戦わせる計画を立てている国家も存在する。

主なアルゴイレレスの種

・通常種(つうじょうしゅ, 学名:argoir argoirerst):通常のアルゴイレレス。大型肉食獣のキメラのような見た目をした個体が多い。通常、体長10~180m程度。石臓保有率82%。

・挌闘種(かくとうしゅ, 学名:anevas bulmundoas):筋肉が発達したアルゴイレレス。ほとんどが陸上に住む。小型の個体が多く、大きい個体でも150mほど。石臓保有率1.2%。運動能力に優れる。獰猛。

・石豪種(せきごうしゅ, 学名:taetaus argoirerst):石臓が発達したアルゴイレレス。大型の個体が多く、小さい個体でも40m以上、大きければ1kmにも達する。阿石の威力が高く、また持続性に優れ、しかも阿石の生産力も高く、そのうえ皮膚が頑丈であるから脅威的である。過去には地中貫通爆弾ですら有効打を与えられなかった個体もある。石臓保有率99%(遺伝子異常でまれに石臓を持たない石豪種が生まれることがある)。性格は獰猛。

・血噴種(けっぷんしゅ, 学名:brodibus skrampoas):造血能力に富むアルゴイレレス。血液の毒性および酸性が高い。吐血管という管から pH3 程度の酸性の毒性の血を吐き、獲物を弱らせて食べる。小型の個体が多く、石臓は持たない。

・賢明種(けんめいしゅ, 学名:pfontaro argoirerst):知的能力に優れるアルゴイレレス。研究によれば、知能は平均して4歳9ヵ月の人間並みであるという。その性質上、獰猛な個体は少ない。人間と簡便なコミュニケーションが可能である。石臓保有率18%。小さい個体が多い。

・鎮静種(ちんせいしゅ, 学名:aktisoas argoirerst):おとなしいアルゴイレレス。市街地を襲撃することは極めて少なく、無害な種といえる。自己防衛か食事のため以外で、他の生物を襲うことはほとんどない。小型の個体はときおりペットになる。研究飼育されているのも主にこの種である。石臓保有率43%(小型の石臓)。

・飛行種(ひこうしゅ, 学名:argo sanumis bahsoas):飛行能力を持つアルゴイレレス。普段は地上を緩慢に歩くが、身に危険が迫ったときや狩りをするときなどには翼長50m以上の極めて大きな翼を展開して空を飛ぶ。軽量化のため石臓を持たず、骨は中空である。翼の耐久力は弱く、機関砲弾が貫通する。性格はそれほど獰猛でない。

・多脚種(たきゃくしゅ, 学名:argo sunsham dozzix):大量の足を持つアルゴイレレス。ほぼすべて、陸上生活をする個体。その見た目の割には比較的温厚な個体が多い。

人間との関わり

 アルゴイレレスと人間は、初めて彼らが邂逅した1604年以来、ずっと敵対し続けている。これはひとえにアルゴイレレスが人間を襲撃し、人間社会に多くの損害をもたらしてきたからに他ならない。アルゴイレレスは言葉を話せないため、意思疎通は不可能であるから、今後も敵対関係は続いていくであろう。

アルゴイレレス愛護

 動物愛護の一環で、アルゴイレレスの愛護を主張する人々が存在する。ただし、一般にはアルゴイレレスは熊などとは比べ物にならないほどの被害をもたらす害獣であるため、保護を求める声は極めて少ない。

アルゴイレレスの研究

 カンゲルヤーク中央大学(レイトガイジェン)、慧京大学(紋令大帝國)、トダス大学(セケシヤムス)などいくつかの大学では、生物学科の派生としてアルゴイレレス学専攻がある。アルゴイレレスの生態は研究によって徐々に解明されているが、いかんせん不明な部分はまだまだ多い。

アルゴイレレス災害への対策

 アルゴイレレスによって人間社会が崩潰しないように、人類は今までに様々な方策をとってきた。

対アルゴイレレス防御壁

 これはアルゴイレレスが越えられないほど高く、阿石投射を防げるほど強固な壁である。大きなアルゴレレスがあまり生息していない冷帯・寒帯気候の地域でよく採用されている。原子炉の炉心溶融を防ぐため、海に面した原子力発電所に設置することもある。建設費がかかるので、大規模に利用されることはほとんどない。

 対アルゴイレレス防御壁が初めて設置されたのは1610年であり、ラシェント軍国のガシャムライツに、総延長10km、高さ30mという形で置かれた。ガシャムライツは軍事都市であり、ラシェント軍国の軍における重要拠点であったためである。

兵器開発

 人類の脅威であるアルゴイレレスに対抗するため、人類は新たな兵器の開発に追われた。

 アルゴイレレスが初めて出現したのは1603年であると書いたが、この頃は資本主義国と社会主義国同士の冷戦が始まってから10年が経過していた。そのため、アルゴイレレスが出現する前から、核兵器を始めとする新兵器の開発は猛烈な勢いで進んでいた。アルゴイレレスの出現は、皮肉にも「人類を保護するための兵器開発」という口実を資本主義国と社会主義国の両方に与えたのである。

 アルゴイレレスの対策のために(あるいは、それを口実として)開発された兵器には、以下のようなものがある。

 核兵器が開発されたのは、第二次世界大戦も終わりに近い1589年のことである。このときの核兵器はA-00"フォンヴァード"というコードネームのついた原子爆弾(出力16キロトン)であり、コルツレンで実験された。核兵器は大戦中に5回実戦で投下され、その威力の大きさのために一度は条約で開発・使用が禁止された。しかし、アルゴイレレスが出現するとこの条約はすぐに破られ(次々と条約を離脱する国家が出て、効力を失った)、再び核兵器開発の競争が始まった。

 多くの国はアルゴイレレス対策を謳っていたが、実情は敵国への牽制であった。競争は過熱し、1612年にレイトガイジェンにより出力10メガトンの湿式水爆"アイニス・ブード(Ainis Buud)"が実験され、翌々年には紋令により出力16メガトンの乾式水爆"煌焔爆(Gaen-Fuo-Bau)"が開発され、水爆は世界中を緊張の渦へと巻き込んでいった。軍拡競争はさらに過熱していき、挙げ句の果てに、ラシェント軍国によって出力60メガトンの多段階水爆"ジャルセンツァス・ドーム(Djarlsenqas Doom, 「皇帝爆弾」の意)"という途轍もない威力の水爆も開発されたが、ここで核兵器の開発競争は対人類核兵器開発実験全面禁止条約(麗:Istempaldikirdkeilnnoesqoixolbilzavkenxonertivaforeankenxdeqenulistxiitistdinsisowas, 通称IIDI条約)が1620年に締結されたことで終息を迎えた。

 現在では、各国が戦術核を所持し、いつでもアルゴイレレスを核爆撃できる態勢を整えている。ただし、核兵器を使わなければ殺せないほど強いアルゴイレレスはほとんどいないので、やはり他国への威嚇のための所持ではないかという声もある。

 1640年時点で、レイトガイジェンには、14キロトン級戦術核が約2000発あり、アルゴイレレスが襲来した時には国中で、要請があれば国外でも使用できるようになっている。

 太球世界では、海中から出現するアルゴイレレス対策のため、軍艦の発展が大きい。アルゴイレレスの出現前は、軍艦の発展はほとんど地球と同じであった。簡潔に説明する。

 戦列艦同士の撃ち合いから、少数の強力な砲を備えた軍艦が発達し、そこから、多様な用途に用いられる駆逐艦や、装甲と速度の均衡を取って遠洋航海に耐える能力を持つ巡洋艦、そして重厚な装甲と強力な主砲を備えた戦艦などに分岐した。第二次世界大戦までは、戦艦が最も強い海上の兵器であると考えられていたが、航空機の発達によってその考えは覆された。航空機の汎用性と利便性の前に、戦艦はもはや無用の長物と化した。アルゴイレレスの出現からも、この意見が変わることはなかった。

 しかし、電磁加速砲の出現は、戦艦復活の契機となった。火薬いらずで莫大な初速を得られる電磁加速砲は、航空機を発進させて爆弾を落とすよりも容易な方法であると考えられた(機銃や機関砲ではアルゴイレレスにダメージをほとんど与えられないため、航空機による攻撃に用いられる兵器は必然的にロケットか爆弾となる)。

 現代では、ミサイルが最も安全かつ確実な殺害方法であるが、アルゴイレレスの襲来のたび(1630~1640年の平均襲来回数48.7回/年)にミサイルを発射していると費用が馬鹿にならない。よって、太球では未だに戦艦が現役の兵器である。艦砲射撃の費用は、ミサイルに比べると圧倒的に安いためである。

 現代の戦艦は、速度を犠牲にしてとにかく装甲を厚くし、アルゴイレレスの攻撃を耐え抜く「重戦艦」と、装甲はやや薄めにして、高出力のエンジンを搭載することによって30ノット以上の高速で運用できるようにした「軽戦艦」の二種類に大別される。どちらの戦艦も、ほぼすべての艦が艦砲だけでなくミサイルも搭載している。なお、現代の戦艦のほとんどは、「艦砲を多く載せたイージス艦」と形容できる造形であり、近代の戦艦のような複雑な形状の艦はほとんどない。

航空機は空を飛べる都合上、アルゴイレレスの攻撃を受けにくい(阿石投射は除く)。

 航空機が開発されたのは、第一次世界大戦の2年前の1553年である。タゴマスの技術者であるシュカニライトが自動車用のエンジンを転用して空を飛んだのが始まりである。第一次世界大戦中は主に偵察目的で用いられたが、戦間期を経て第二次世界大戦になると空対空戦闘や爆撃、雷撃など、戦いがメインで用いられるようになった。

 アルゴイレレスの出現後、航空機はさらに発展した。阿石は上空にはほとんど届かないためである。航空機による爆撃でのアルゴイレレス殺害が本格的に行われるようになったのは冷戦開始後である。

 磁力を用いて弾丸を加速させ、撃ち出すという電磁加速砲の構想は、第二次世界大戦中には既に存在していたが、技術不足により実現しなかった。電磁加速砲が再び日の目を見たのは、冷戦後期の1621年のことである。対人類核兵器開発実験全面禁止条約が締結され、核兵器の開発が制限されたため、新たな兵器の存在を国家とその国民が望んだのである。

 それからは、世界中の国々が技術者・科学者を集めて開発に打ち込んだが、最も早く電磁加速砲の実用化に漕ぎつけたのは紋令であった。冷戦終結直前の1624年に開発され、「迅電炮」と名付けられたこの電磁加速砲は、当時の皇帝である然陽榮の計らいで世界中に配備された。加速砲は莫大な電力を要求するため、はじめは大口径の固定砲という形で各国に設置された。冷戦が終結した1630年代に入ると、艦船搭載型の電磁加速砲も登場し始め、アルゴイレレス撃退の一翼を担うこととなった。

 現在、電磁加速砲は世界に普及する段階に入っている。厖大な電力が要求されるので、主に都市の防衛用の固定砲、あるいは艦砲として用いられる。紋令の大都市、安衛の山地に配備されている巨獣対策用80cm電磁加速砲(塔岳砲)は有名である。

 レーザー砲と聞くと、SFの世界を思い浮かべる方も多いであろうが、太球世界ではレーザー兵器は既に実用化のめどが立ちつつある。レーザー兵器は、収束・増幅させた光束(レーザー)を対象へ照射し、対象を破壊する兵器である。一発あたりの費用が安いのが特徴である。

 課題は、発射時に発生する熱と、大気の膨張によるレーザー光の屈折である。今後の技術発展が待たれるところである。

 地中貫通爆弾は、地下にある目標を殲滅するための、貫通力の高い爆弾である。英語ではバンカーバスター(bunker buster)という。太球では第二次世界大戦中に、テリエーレの軍事中枢を破壊するために開発された「要塞貫徹弾(Voltzannanpitess)」という爆弾が地中貫通爆弾のはじまりとされる。

 テロ組織の「ワノモズ」が地下要塞を多く築くと、貫通力のある兵器が求められるようになったが、このヴォルザナンピテスが注目されることとなった。太球で地中貫通爆弾の名目で作られた初めての爆弾は、YAB-22であり、鉄筋コンクリートを5m貫通した。YAB-22は、はじめワノモズの要塞を破壊するために使われていたが、アルゴイレレスの堅く分厚い皮膚を貫くのに役立つであろうと考えられるようになった。その考えは的中し、初めてYAB-22の攻撃を受けたアルゴイレレス"カイロアス"は一発で内側から爆散し死亡した。

 現代では、地中貫通爆弾は強力なアルゴイレレスに対する切り札的な扱いである。たいていのアルゴイレレスは地中貫通爆弾など使わなくても死に至る。

 硫酸や硝酸などの強酸が皮膚にかかると、水分が奪われるとともに発熱し、化学熱傷を引き起こす。また、水酸化ナトリウムなどの強塩基が皮膚にかかると、タンパク質が加水分解され、化学熱傷を起こす。であれば、アルゴイレレスの皮膚でも同様の現象が起きるはずである、と軍は考えた。

 この考えのもと、1628年に、レイトガイジェン空軍によって初めて超酸爆弾が開発された。このときの超酸爆弾は内部に約153Lの濃硫酸(92%)を詰め込んでおり、「硫酸箱(ponzinrazadvat)」と呼ばれた。硫酸箱は1629年3月23日に初めて実戦使用され、AA-99"シャーヘン"の皮膚を溶かしたが、重傷を負うまでには至らなかった。レイトガイジェンは数年間研究を続けた後で超酸爆弾の使用を人道的見地から放棄したが、ラシェント軍国やセケシヤムス社会主義国では今でもしばしば超酸爆弾による攻撃が行われる。現在、ラシェントは39Lのトリフルオロメタンスルホン酸を内蔵したSB-1という超酸爆弾を100発以上所持している。

 超塩基爆弾はアルゴイレレスの皮膚に対してあまり効果が見られなかったため、現在では使われない。

 例えばコンビニには、深夜における若者の屯(たむろ)を防ぐためにモスキート音を出している店舗がある。モスキート音は人間にとって不愉快な高音であるためである。これと同様に、アルゴイレレスが嫌う周波数が存在する。

 たいていのアルゴイレレスは5~50Hzと10000~20000HZあたりの低周波と超音波を嫌う。これを利用して、沿岸や街中に拡声機を設置し、アルゴイレレスを追い払う計画が立てられた。

 はじめの実験はセケシヤムスのカヤソムで行われた。このときの周波数は15000Hzの高周波で、沿岸に上陸しようとしていた体長約85mのアルゴイレレス(カルウィン, Karwin)に対して放たれた。高周波を聞いたカルウィンは怒り狂い、スピーカーを破壊するために暴れまわった。市街地にも多少の被害が出たが、上陸から15分程度で軍の攻撃によって死亡した。死者は10名、負傷者は320名であった。

 音波兵器はアルゴイレレスに有効であり、平和的な撃退方法ではあるが、アルゴイレレスを刺激して事態をより悪化させることもあり得る。この事実が明らかとなったため、多くの国は音波兵器を使っていない。現在、拡声機によるアルゴイレレス撃退を採用しているのは北灘やマーリカ共和国など一部の国家に限られる。

 これはいわゆる「神の杖」である。神の杖とは、軌道上の人工衛星から金属塊(主にタングステン)を投下し、その運動エネルギーを用いて対象を破壊(殺害)する兵器である。地球ではアメリカ合衆国がこれを検討していたという噂があるが、真相は不明。

 ラシェントやレイトガイジェンなどの国家では、このいわゆる神の杖を「宙弾計画(sraingolgimpasvaixkenx)」と呼び、何年も実現に向けた検討を重ねたが、最終的には破棄された。理由は以下の通りである。

 まず、精度が悪いという点がある。軍の試算によれば、宙弾の誤差は最大で5kmに達する。これでは、アルゴイレレスに当たらず、金属塊が都市を破壊する可能性を捨てきれない。人類を護るための兵器が人間を殺してしまっては、本末転倒である。

 第二に、発射の際の反動が挙げられる。人工衛星は一定の速度で太球上を回っているため、そこから発射した金属塊もその速度で動くことになるが、ただ単に塊を出すだけでは塊は落下せず、宇宙ゴミに成り果てる。地上に落とすためにはかなりの速度で撃ち出すか、塊を減速させる必要があるが、前者であれば反作用により人工衛星が逆方向へ移動してしまい再度の発射ができなくなり、後者であれば発射の度に大量の減速材が必要となるため、費用対効果が余りにも見合わない。

 第三に、断熱圧縮による金属塊の融解である。地上に着弾する前に融解してしまっては、兵器としての活躍は見込めない。

軍事・経済協定

 アルゴイレレスは強大な存在であるため、一国だけではなく国際的な協調が不可欠である。そのため、世界中の国が国際的な枠組みにおいて、経済的・軍事的な協力関係を結んで、アルゴイレレス対策に臨んでいる。以下に代表的なものを挙げる。

・RLVW(Rlaxentt-Loitenq Vanunweshetzink)(ラシェント・ロイテンツ軍事協定)

 1616年に発効した軍事協定。アルゴイレレス対策の国際活動としては初期のものである。これは、ラシェント軍国とロイテンツ州の国家との協定であり、アルゴイレレスによって当該国家が壊滅的な被害を被った際に、ラシェント軍国が助力するというものである。逆に、強力なアルゴイレレスによりラシェントが被害を被った際は、他国はラシェントを助ける義務もある。

 現在までにラシェントの助力が入ったことは4回しかないが、この協定はロイテンツ州の結束の象徴として大きな役割を果たしている。

・紋北上東麟經濟網(Miandau-Keinyaa-Keique-Xunqoi-Lietoedebaunvesxer)(MKKXLD)(紋北上東麟経済網)(もん ほく じょう とう りん けいざいもう)

 1628年に発効した経済協定。紋令大帝國・北灘・上裁民國・東侯王國・麟巖連邦の5国間での自由貿易協定であり、関税引き下げ・金融市場の開放などを定めている。アルゴイレレスからの防衛の義務も定められているため、軍事協定的意味合いもある。近年、上裁が関税引き下げ率の変更を提案している。

・国際連合(jeebralsjembasaxousolaxfinventkenx)

 国際連合(国際統一組織, JOF)は、国際平和・国際的な協調を目的とし、1560年に設立された組織である。国際連合は、加盟国の請願により、加盟国の軍を徴発し、国連軍を組織できる。この国連軍はアルゴイレレスにも適用されるので、国際連合は世界中をアルゴイレレスから守る組織ともいえる。なお、実際にアルゴイレレス殺害のために国連軍が組織された回数は10回である。

参考:国際連合規則第49条「国際連合は、加盟国のいずれか一国以上が、他国あるいは軍事組織による軍事攻撃または有害な生物による攻撃を受けている際に、加盟国のうちの10か国以上の賛成を得て、加盟国の軍事力により構成される、安全保持理事会管轄の国連軍を組織することができる。なお、軍事攻撃を行っている国家が、国際連合の加盟国であった場合は、その国家は安全保持理事会に関与することができない。」

アルゴイレレスに関する都市伝説

 アルゴイレレスには、以下のような都市伝説がある。これらはいずれも科学的実証が得られていない。

・アルゴイレレスを食べるとウイルスの働きで死に至る。このウイルスは180℃の熱にさらしても壊れない。(事実:アルゴイレレスにはアルゴイレルスウイルスというウイルスがあるが、100℃で2分ほど加熱することで死滅する。)

・アルゴイレレスは、セケシヤムスを滅ぼすためにラシェントが作った生物兵器である。増えすぎてラシェントの手に負えなくなってしまった。(事実:アルゴイレレスは恐竜の末裔であると推測されている。)

・アルゴイレレスは宇宙生物である。(事実:アルゴイレレスには不明な部分が多いが、太球の生物である。ただし宇宙から到来した生物であるとする根拠がないわけではない。)

芸術作品/娯楽作品

 アルゴイレレスをテーマとしたさまざまな作品が存在する。以下では世界的に有名なものを紹介する。

その日(セケシヤムス語:Gso Trok, 1604年)……セケシヤムスの詩人、セクァジョック=ネイェルウィにより書かれた詩。人類史上初めて襲来したアルゴイレレスによる大災害を描く。

・海から来た大羆(レーゲン語:Dovik Mahtgurrugas les xvandesp vem saubinil, 1605年)……レイトガイジェンで描かれたノンフィクション小説。インジェクスを襲撃したアルゴイレレスから逃げ惑った筆者やその他の人々の実体験がもとになっている。

・死が世界を覆うとき(レーゲン語:Is jeiskenx faihjitis solkek, 1639年)……レイトガイジェンと紋令の映画会社が協力して制作したSF映画。ルザーユ教の聖典に記された世界の滅亡に則った巨大な獣が表れ、人類社会を破滅へと追いやろうとするが、そこに一体の超大型アルゴイレレスが現れ、獣と肉弾戦を繰り広げて共倒れする。

アルゴイレレスの利用

 人間はこれまでに多くの動物や生物を利用してきた。アルゴイレレスもその例外とはならず、身体や体組織、あるいは生体そのものの利用など、さまざまな活用案が提案されてきた。

皮膚の利用

 アルゴイレレスの皮膚は、前述の通り高い硬度と柔軟性を持つ。この性質を利用し、装甲として使ったり、建材として利用する考えはアルゴイレレスの出現時から存在したが、とある難点があった。

 それは、皮膚の劣化の速さである。アルゴイレレスの皮膚は、アルゴイレレスが死ぬと約3日で急速に組織が分解され、硬度も弾力性も大きく低下するのである。この現象は迅速皮膚劣化(farrpatulfukfongolkenx)といい、皮膚を利用する上の大きな課題であった。拳銃弾にすら貫かれ、金槌で叩けば砕け散るような皮膚では、何に利用することもできない。

 しかし、1635年、政府と化学工場との数百回にわたる実験により、迅速皮膚劣化を解決できる画期的な方法が見つかった。それは、塩素沈着法というものである。塩素沈着法は、皮膚を、pH12以上の強塩基の液(水酸化ナトリウム水溶液が好ましい)に20時間以上漬け、80℃~90℃で熱し続けるというものであり、沈着法を実行すると皮膚の劣化をその時点で止めることができる。ただし、塩素沈着法を用いても皮膚の劣化を完全に止められるわけではなく、20年程度で分解されつくす。

 現在では、塩素沈着法を適用した皮膚は、軍艦や固定砲の装甲に用いられる。

・骨の利用

 骨はその堅さから、建材に利用される。アルゴイレレスの骨を使った家は高額であり、同じ大きさの家の5倍ほどの値段で売られる。ものによっては、気象庁震度7の地震にも耐える強度を誇る。

食糧としての利用

 アルゴイレレスの体の一部は食べることができる。例えば、眼球、筋肉である。アルゴイレレスの血は猛毒であるため、食べる前にしっかりと血抜きをしなければならないが、味は好評である。ただし、全体的に値段が高く、牛肉の2倍以上の値段がするのは普通である。石臓や腸は悪臭がするので食べられない。                      

 近年では、小さいアルゴイレレスを狩って食肉や建材などとして売る者も登場している。アルゴイレレス牧場も計画されている。

・生体の利用

 軍事利用としては、以下のような計画がある。


 Boud-rrakex-Deirekke とは「彼らを戦わせる」の略で、人類に敵意を持たないアルゴイレレスを訓練し、アルゴイレレス同士で戦闘させる計画である。1639年14月、ジュレーク軍需省大臣により提案された。

 計画は当初機密となっていたが、1644年2月、ヴェクラムダー総統及びユードラス副総統の意向で、BD作戦は国民に公開された。同年8月、BD計画に基づき「サンバルザム作戦」が実行された。これは、レイトガイジェン北西の都市ストライトー(Storaitoo)を襲撃した体長40mの挌闘種(名称:ハルバット, 「被験者」の意)に対し、体長35mのアルゴイレレス、通称「オウセネス(「第一の者」の意)」を戦わせる作戦である。作戦は成功し、ハルバットは阿石によって心臓と液臓を傷つけられ、死亡した。オウセネスは右腕の骨を粉砕骨折する傷害を負ったものの、現在は回復している。

 BD計画は、動物倫理の観点で問題がある。サンバルザム作戦が行われた後は、4つの動物愛護団体から抗議の声明が出された。これに対し、レイトガイジェン政府は「BD計画はアルゴイレレス駆除の被害を軽減するための計画であり、動物倫理への抵触はやむを得ないものであって、今後もアルゴイレレスの負担軽減など方策に努めていく」と返答しており、歩み寄りはしつつも、飽くまでBD計画を中止することはしないという立場を明確にしている。現在、10体のアルゴイレレスがBD計画に利用されている。


 Salesloim-Deirekke は「彼らを研究する」の略で、人類に敵意を持たないか、持っていても充分に制圧可能な弱さのアルゴイレレスを国家所有領内に建設された専用収容所に収容し、研究する計画である。アルゴイレレスの生体を研究するために計画された。

 軍需省は、将来、さらに強力なアルゴイレレスが出現することを考え、できる限りの対策を考えなければならないが、そのためには「敵」の生態を知ることが非常に重要であると考えている。アルゴイレレスには死亡すると数日から1週間で性質が大きく変化するという特性があるため、生態研究の為には生きたアルゴイレレスが不可欠である。アルゴイレレスの体組織・細胞・及びそれらを用いて生産された生物などの全ては微生物安全指標レベルAに指定される。これらの漏洩は懲役刑となる。

 収容においては、人口密集地より離れた場所に出現した個体を対象とする。アルゴイレレスを民間人の目に曝さないようにするためである。


 上記ふたつのほか、小型のアルゴイレレスを飼うという利用法(?)もある。これは富裕層のみに許される道楽である。体長20m程度の小型の種を飼う場合でも、餌代だけで年間約200万円かかる。飼われるアルゴイレレスはほとんどが鎮静種である。

歴史

註:この章は書きかけです。

襲来以前

 1604年までは、アルゴイレレスは陸に上がることはなかった。同年以前、アルゴイレレスは海洋に生息していたと思われる。従来から少数のアルゴイレレスの化石が発見されており、アルゴイレレスは中生代から生息していた可能性が高い。アルゴイレレスは、恐竜が海底に逃げ込んだその末裔であるという説が現在比較的有力である。なぜ、不要な巨大化をしたのか、海底でどう暮らしていたのか、などはまだよくわかっていない。アルゴイレレスが地上へ進出した理由は不明であるが、餌の不足と環境の変化による説が支持されている。

 なお、1604年までにもアルゴイレレスが海上に姿を現したことは幾度となく確認されていたが、見間違いや幻覚、都市伝説の類として扱われていた。

 このページの冒頭で挙げた、ルザーユ教の聖典『導書』に出てくる「獣(アルゴンド)」も、海上に姿を現したアルゴイレレスを模したものという説がある。船舶の不明な失踪・沈没事故は、おおむねアルゴイレレスによるという。

初めての襲来

 アルゴイレレスが初めて出現したのは、冷戦初期の玄暦1604年10月33日午前9時55分のことであった。このアルゴイレレスは体長179mの、海中生活型の石臓種であり、セケシ語で「第一の者」を意味する「ティワジート(Tiwa Ziit)」と名付けられている。性別はメスであった。

 ティワジートは、セケシヤムス社会主義国の北東海岸に位置する人口12万の港街、カヤソム(Kayasfhom)を襲撃した。ティワジートはアルゴイレレスにしては知能が高く、残忍な性格をしていたと推測されている。カヤソム沿岸部の住民はいきなり現れた巨獣に対応できず、遅々として進まなかった警察消防の誘導もあり、自らの肉体による破壊と瓦礫の投擲によって死亡していった。現地の治安隊(セケシヤムスの組織。治安維持を行い、武器の所持が許可されている)の持つ催涙スプレーや放水機、小銃などの武器は、ティワジートに対してほぼ効果がなかった(たかだか陽動程度であった)。

 セケシヤムス社会主義国タイドム(Tayidom)県県長(知事にあたる)であったメニト=ショワゼス(Menito Xowazes)は、カヤソム市長からの報告を受け、対応についての会議を行った。会議は30分程度行われ、カヤソム近郊のジサウォフコ(Zisawohuko)基地から陸軍一個小隊を派遣することが決定された。この時点では、ティワジートはただの害獣であろうという推測が立てられていたため、現代の知見からするとありえないほど小規模な兵力が派遣されることとなった。

 その結果、午後1時半、派遣された小隊は一人残らず全滅した。ティワジートは街の大通りを進み、阿石を撒き散らしながら街灯や建築物を破壊して街の中心部がある西へと進んでいった。午後2時の時点で、約9500人が死亡していた。彼女が西進したのは、大通りの先にある高層建築物群を恐れたか、あるいは興味を示したためと考えられている。彼女が石油貯蔵庫を半壊させた影響で、午後2時29分に大爆発が発生。カヤソムの沿岸は大規模な火災に襲われた。既に消防は機能を失っていたため、火は燃え広がる一方であった。

 ティワジートは道中で人間の死体や植物を手づかみで食べながら進んだ。午後2時35分、カヤソム市役所が投石によってほとんど全壊し、通信が途絶。市役所の周りには住宅街や繁華街が広がっていたが、これらも破壊された。市街の中心部を壊滅させた後、ティワジートは駅前の広場に座り込み、休み始めた。

 この事態にいたり、タイドム県の首脳部は何が起こっているのかをようやく正しく把握し始めた。午後2時57分、メニトはジサウォフコ基地を含む複数の基地に連絡。合計で陸軍の3個大隊を派遣し、ティワジートの駆除を命令した。県庁所在地のモドゼク(Modozek)はティワジートから北方に20ゼドクダム(28.7km)しか離れていないため、カヤソムを蹂躙した後、ティワジートがモドゼクに進撃すればモドゼクの壊滅も近かった。

 午後3時30分、ティワジート駆除を目的とした「K1作戦」が発動された。メニトの命令により、戦車、装甲車といった武装が駆り出され、歩兵は機械化された。中隊がティワジートを臨める場所までたどり着いたのは、午後4時10分ごろであった。午後4時19分に、ティワジートは再び立ち上がり、時速5km程度の低速で北西に歩み始めた。作戦部隊は市道に展開し、ティワジートの進撃を食い止めることとなった。

 午後4時29分、作戦開始。攻撃によってティワジートは進路を変え、作戦部隊のある南方へと進んだ。戦車砲や機関砲、対戦車ライフルなどを使った攻撃はティワジートの皮膚を貫くことができず、足止めにしかならなかった。午後4時33分に、ティワジートはG4クラスの阿石投射を実施。作戦部隊の約4割が損害を負い、同時に市街地も破壊された。K1作戦の作戦部隊は攻撃を続けたが、午後4時58分に6割以上の兵士が死亡したため、K1作戦は同時刻に中止された。ティワジートは南方へと進み続けた。死者数は3万人に達した。

 メニトはタイドム県と県境を接するソワンブラー県(Sowambraa)に「体長100クダム(約144m)以上の巨大生物がソワンブラー県に進んでいるので、対策せよ」と警戒の連絡を送った。が、常識外れの内容に、ソワンブラー県県長ノンイヤー(Nonghiyaa)はこれを冗談の類として受け取り、真面目な対応をしようとはしなかった。

 その後もティワジートは市街を破壊しながら侵攻し、午後5時半ごろ、ソワンブラー県カカグロンニ(Kakagronni)市へ足を踏み入れた。ようやく巨大生物の襲来が現実であることを認識したノンイヤーは、カカグロンニ市及び隣接する自治体に避難命令を出すとともに、セケシヤムス社会主義党地方管轄局局長であるシレメヤン=ベクナリ(Siremeyangh Beknari)に連絡した。さらなる被害の拡大を防ぐための措置であった。

 巨大生物出現ゆえの避難命令という現実感のない内容に、市民は疑問を感じたが、大半は「文民は全員避難せよ。避難しなければ処罰する場合もある」という強い語調での放送によってこれに応じた。避難場所は、当初近くの公民館や頑丈な建築物であったが、阿石投射の情報が伝わると、カカグロンニ市外へと変わった。ティワジートは岩石や瓦礫を市街へ投擲し、多くの死傷者を出した。これは、敵が潜んでいることを恐れ、攻撃される前に潰しておこうと考えたためであると推測されている。

 ノンイヤーから連絡を受けたシレメヤンは、最初こそ彼の言を真に受けなかったものの、彼のただならぬ口調と詳細な状況説明から巨大生物の襲来を事実と認めた。大隊3個による攻撃が通用しなかったのを鑑みて、シレメヤンはカカグロンニから約100km離れた軍事都市、ムリンルワス(Murinrwas)に要請を出し、大規模な軍事作戦の準備を行うこととした。作戦は「K2作戦」と名付けられ、最低でも陸軍1個師団、空軍1個大隊を動員することが決定された。

 ティワジートは午後6時25分ごろ、突如東へと向きを変え、そのまま東瀬海へと姿を消した。この時点まででの死者は、推定で約5万人である。これを奇貨として、ムリンルワスでは、K2作戦に関する準備が着々と進められた。一方、セケシヤムスの上層部は、この事態をどう国内外に発表するかの対処に追われた。セケシヤムス社会主義党中央委員会委員長であるカヒティド=ネイワン(Kahitido Neiwangh)は、国内へは「巨大生物が襲来し、相応の被害が発生している」と概ね事実に沿った報道を行うことを命令したが、国外へは何も発表しないこととした。軍によってティワジートの捜索も行われたが、発見されることはなかった。

 10月35日午後1時15分、ティワジートはカカグロンニから南に8kmほど離れたズムウォーザ(Dvhumwooza)に再上陸した。上陸直後にティワジートはG4の阿石投射を2回行い、ズムウォーザ市街を破壊した。ティワジートは地面に落ちている瓦礫や岩石を手摑みで喰らうか投げるかして侵攻を開始した。これに呼応して予めズムウォーザ近郊に展開していた作戦部隊が移動を開始。午後1時35分、K2作戦が発動された。なお、上陸時点でズムウォーザ全域に避難命令が出ており、作戦発動時には市民の避難は半分以上完了していた(政府の公式発表による)。

 K2作戦では、航空機と艦船が主役を務めた。戦車や装甲車の攻撃では、歯が立たないことは事前に判っていたためである。航空機による空爆や、リー級重戦艦をはじめとする艦隊による艦砲射撃などの熾烈な攻撃によって、ティワジートは劣勢に立たされ、出血しながら内陸へと逃げ始めた。しかし部隊は追い打ちをかけ、午後1時48分、作戦発動からわずか20分でティワジートは絶命した。総死者数は6万4233人、総負傷者数は6万8832人であった。

 カヒティドは党幹部との議論の末、この事態を国外へも発表することとした。カヒティドは11月1日、世界中から記者を呼んで会見を開き、「玄暦1604年10月33日午前10時ごろ、カヤソムに体長約130クダムの巨大生物が上陸し、市街地を破壊し一旦海に戻った後、10月34日午後1時15分に再上陸したため、軍による攻撃を実施して殺害した」と発表した。会見の中で、彼は第二の巨大生物の襲来を警告し、各国に救援活動を依頼した。この報道は世界中を驚愕の渦に巻き込んだ。セケシヤムスの詩人、セクァジョック=ネイェルウィ(Sekwajok Neyerwi)はティワジートの襲来を綴った「その日」という詩をしたためた。

 11月2日以降、世界中から資金援助や救助隊がセケシヤムスに送られた。資本主義と社会主義の垣根を超えた人道支援であった。

二度目の襲来、それ以降

 ティワジートの襲来から9ヶ月が経った1605年3月32日、3体のアルゴイレレスが紋令大帝國東岸の都市、濟團(ざいだん, ザンテオ)を襲撃した。3体とも体長が50mに満たない小型のアルゴイレレスであったが、アルゴイレレスの襲来が常識でなかった当時の事情があって、対応が遅れ、3.2万人の死者と8万人の負傷者を出した。紋令は支援を求めた。セケシヤムスは恩返しとして1000人以上の救援隊と多額の援助を送った。

 その後も、漁船や貨物船、フェリーなどが何か巨大なものに押し上げられ、時には沈没する事故が相次ぎ、さらにはまた巨大生物が上陸して街を壊す事態が起ったため、この巨大生物についての調査が始まった。調査の結果、巨大生物は海中に棲んでおり、現在寒帯を除いた世界中に生息しているという事実が明らかとなった。創作の世界でしかありえないはずの巨大生物が現実に存在しているというこの事実はすぐに世界中に伝わり、次いで世界の経済を恐慌状態とすることとなった。海上を移動する限り、いつでもアルゴイレレスに襲われる危険があるためである。今と比べて空運が発達していなかった当時、海運の衰退は、即ち貿易の衰退、ひいては経済の衰退を意味していた。  

 株価は激しく暴落し、世界全体が不況に陥った。株価の暴落が始まった1605年5月30日は、「地獄門の日(Okegsgiilvas, Vas ko Okegsgiilam)」と呼ばれる。第二次世界大戦の遠因となった大暴落よりは軽微であった。

 ここに至り、冷戦は一度緩和の兆しを見せ始めた。1606年、セケシヤムスの最高指導者カヒティド=ネイワン(Kahitid Neyiwangh)とレイトガイジェンの総統シュケネスレイト=タイランド(Xkenesreit Tairrand)、紋令の首相 禮眼廣(らいがんこう)とラシェントの皇帝ツァタイス=ザングレンツァイタック(Qais Nsangrlentsaintak)の4人が会合を行い、資本主義国と社会主義国同士の関係改善と経済面での協力を目標に掲げた。

 1606年7月、レイトガイジェンの生物学者であるガーデン=フォイセナテン=ホードフュド(Gaaden Pfoessenaten Haodpfyud)が、これら巨大生物を総称してアルゴイレレス(Argoireress)と呼称することを提案し、同年8月、レイトガイジェン生物研究学会にて承認された。ルザーユ教における怒りの神、アルゴイル(Argoir)の使者という意味であるこの名は、多くの国で受け入れられた。宗教的理由から受け入れなかった国家は、自国で新たな名称を作ってこれを採用した。

 1608年の2月から4月にかけて、数万体のアルゴイレレスが内陸に進み、そのまま内陸部に棲息するようになった。このアルゴイレレスの大移動を、1608年の大移動という。これによって、「アルゴイレレスは海岸部を襲撃するため、内陸部は安全である」という認識は打ち破られた。阿石は高空には届かないため、飛行機は安全な輸送/交通手段となる。アルゴイレレスによる被害は1608年を境に急上昇し、1609年のアルゴイレレスによる死亡者数は30万人を突破した。

 人類はこの危機に対し、協力を始めた。例えば、1610年にザキューデ軍事協定(社会主義国同士の軍事協定)が発効。各国は協力してアルゴイレレスに対する体制を整えた。新兵器の開発や、避難所の増設などである。

 ところが、次第にアルゴイレレスに対する最終手段として、核兵器が持ち上げられるようになった。核兵器の開発は、冷戦の再過熱に繫がった。一度収まりかけた冷戦は、悪化の兆候を見せた。国際連合や各国の必死の努力によって、なんとか核戦争は回避できたが、紛争はいつ起きてもおかしくないほどに、国際情勢は緊張していた。アルゴイレレスの襲来による貧困の捌け口として、敵国への攻撃的姿勢(あるいは攻撃)が好まれるようになっていった。

 その矢先、分断状態にあったマハティエ(地理のページを参照)で紛争(両麻戦争)が発生した。1613年16月13日のことであった。この紛争は実質、社会主義国と資本主義国の代理戦争であった。マハティエ南部のカリェーア(社会主義国)は南マハティエを支援し、北マハティエは上裁民國や紋令大帝國からの支援を受け、紛争は泥沼の様相を呈し始めた。両麻戦争は開始から2年後の1615年16月19日に終結したが、国際情勢の緊張はほとんど緩まなかった。

AR-40"ハルストジジネス"の襲来

 1616年2月15日午前11時、ラシェント南部の港湾都市、タシュドレ(Taxdorle)を1体のアルゴイレレスが強襲した。後に「ハルストジジネス(Halstjiziness)」と呼称されることとなったこのアルゴイレレスは、体長が600mに達する超大型のアルゴイレレスであり、しかも極めて猟奇的な性格をしていた。

 ハルストジジネスは、上陸するなりG6の阿石投射を実施し、タシュドレの沿岸部を殲滅した。この阿石投射によって市庁舎は潰れ、連絡はできなくなった。その後、上陸したハルストジジネスは、手当たり次第に瓦礫を投げたり叩きつけたりして、人々を殺害していった。傷ついた人の脚だけを踏み潰したり、生きている人間を人のいる方に投げて二人とも殺し、その死体を貪り食ったりするなど、残虐な行動が目立った。人を喰うときの動きがかなり緩慢であることや、咆哮を頻繁に上げていたことなどからも、彼の残虐性は明らかである。

 ハルストジジネスを殺害するため、タシュドレから北方に25km離れたダブリム(Dablim)で作戦部隊が構成され、同日午後2時には作戦が実行された。この作戦における部隊は、対生体徹甲弾を備えた戦車や自走砲、焼夷弾や地中貫通爆弾を装備した爆撃機など、かなりの重装備を持って作戦に臨んだが、どの武器もハルストジジネスに全く傷害を与えることができず、部隊は阿石投射や瓦礫・岩石などの投擲によって壊滅の憂き目に遭った。今回用いられた地中貫通爆弾、RSO-2は鉄筋コンクリートを9m貫通することができ、核兵器を除けばラシェント軍国の持つほとんど最大威力の兵器であった。

 タシュドレは僅か2時間で街としての機能を完全に失った。ハルストジジネスはそのままダブリムの方面へ向かった。ダブリムに駐留していた部隊は必死の抵抗を見せたが、陽動にすらならず、午後4時半には10万の人間を失う大敗北を喫した。ハルストジジネスは逃げ惑う人々や瓦礫、木々などを手摑みで喰らいながら、時速20km程度で内陸へと進んだ。

 午後7時20分ごろ、ハルストジジネスが14秒間の長時間にわたってG6の阿石投射を実施。一部は無人地帯に落下したものの、大部分は市街地を直撃し、数万人人の死傷者を出した。午後8時、ラシェント南部第二軍団が、ハルストジジネスの陽動を目的とした作戦、「リファネ作戦」を実行。数百発の弾道ミサイルによる攻撃や絨毯爆撃、綿密な砲撃などを行い、ハルストジジネスを首都ラシェンテルの逆方向である東へ誘導することに成功した。これらの攻撃は、角質層を削るだけでほぼ無効であったが、作戦目的の陽動は成功を収め、市民が避難したり、次の作戦を考えたりする時間を稼ぐことができた。リファネ作戦による軍人の犠牲者は約5000人であった。

 午後11時半ごろ、ハルストジジネスはダブリムから東南東に150km程度離れた平原にて眠りについた。この時間を利用し、ラシェント軍国軍事顧問官のデファツシャフ=ニジュドマン(Defaqxaf Nijudmann)を議長に据えた軍事会議が行われた。ニジュドマンはまず、核兵器の使用を提言した。これは、爆撃機から出力144ktの核爆弾を投下し、目標を殲滅する、という案であった。ラシェント軍国軍事行動委員のテヴォチャンによって、彼の提案はすぐに否定された。いくら相手が強いといっても、自国の領土で核兵器を(実験のためではなく、実戦で)使うのは躊躇されたためであった。代わりにテヴォチャンは、セケシヤムス軍から、鉄筋コンクリートを20m貫ける貫通爆弾、RRSを輸送してもらって投下する案を出した。しかし、軍事大国であるラシェントが、他国に武力を支援するのは面子が立たないし、そもそも今は冷戦中であるから社会主義国に援助を要請するのは禁じ手だとして、これも否定された。

 最終的には、近年開発された「地震爆弾」こと、10ディット(=11.2トン)爆弾の「ニブツィウン」を投下する作戦を行うことが決定された。作戦名は「甲破作戦」とされ、核兵器の使用は最終手段として認められた。

 甲破作戦は2月16日午前5時に開始された。3機の爆撃機によって行われたニブツィウン3個による爆撃は功を奏し、ハルストジジネスの背中の表皮層を損傷させたが、死に至らしめることはできなかった。彼は空を飛ぶ爆撃機に向かってG4~G5の阿石投射を行った。結果として、うち5個が機体を直撃し、1機は墜落した。流れ弾のいくつかは農村に損害を与えた。ハルストジジネスは激昂し、時速40km程度の高速で北へ走り始めた。

 ラシェント軍国第四方面軍は、合計20個のニブツィウンを所持していたが、これらは全てハルストジジネスの撃破に使われた。16日の午後5時から始まった爆撃によって、ハルストジジネスの背中は焼け爛れ、まぶたの皮膚及び瞬膜は傷を負ったが、既に使用可能なニブツィウンはなくなっていた。ラシェント軍国第四方面軍は、もはや核兵器以外にハルストジジネスを殺害できる手段はないと断じた。ここに世界初の、人類以外を対象にした核攻撃が行われることが決定された。

 傷を負ったハルストジジネスは歩みを止め、自己再生を始めた。ハルストジジネスの自己再生能力は他のアルゴイレレスとは一線を画しており、上記の傷は15時間程度でほとんど完治した。17日の午前4時、ラシェント軍国第四方面軍はラシェント軍国軍事委員会に1万ディット(11.2キロトン)級の核爆弾の使用を要請し、すぐに許可された。ハルストジジネスの周囲30km圏内には避難命令が発令されていたため、核爆弾の使用に際して、人道上の理由による妨げはなかった。

 17日の午前7時28分12秒、ゆっくりと歩行を始めたハルストジジネスの東方400m、上空630mで、核爆弾が炸裂。ハルストジジネスは瀕死の重傷を負った。皮膚のほぼすべてが、真皮層を超えて皮下組織まで焼き払われた。ハルストジジネスは座り込みながらわずかに動き、阿石投射の準備を始めたかのように見えたが、そのままの姿勢で絶命した。2月17日の午前7時30分のことであった。彼が死ぬまでに、50万人もの人々が命を落とすこととなった。

 死体を解析した結果、ハルストジジネスの皮膚は、最も分厚いところで70cmもの厚みを持っていることが分かった。石臓は、家を5棟建ててもまだ余るほどの容積を備えており、内部にはまだ未発射の阿石が多数見つかった。

 アルゴイレレスに対して必ず効力が発揮されると考えられていた地中貫通爆弾が効かなかったことは、世界中に衝撃を与え、核武装論の再興、ひいては冷戦の激化へと繫がることとなった。

ハルストジジネスの襲来以降~カーカムの殲滅まで

 1616年、ラシェントはハルストジジネスの惨劇を二度と起こさないようにすべく、ロイテンツ州の全国家とRLVW(ラシェント・ロイテンツ軍事協定)を締結した。この協定は単にアルゴイレレス災害防止を目的としただけでなく、社会主義国への牽制も目的としていた。

 冷戦激化の兆しが見えてきたこのころ、また核武装論の推進につながる恐ろしい事態が発生した。

 KKM-01(通称、カーカム)の発見である。カーカムは1616年10月21日にレチャメン東北部のジャレンダム(Djalendammes)郊外で、体の一部が地上に露出するという形で見つかった。郊外開発の地質調査の最中に起きた出来事であった。

 当初、カーカムが生物であるとは考えられていなかった。現地の地質調査担当者は、巨大な岩が露出したものと考えていたようだが、実際は全く違っていた。カーカムが岩であるという勘違いは、発見から3日後に数メートルも「岩」が移動していたことから打破された。郊外の開発は一旦中断となり、この巨大な「岩」が何なのかを調査することとなった。調査は3日間に渡って行われ、途中で「岩」は30cmほど動いた。

 結果として、この巨大な岩と思われていた物体は、なんとアルゴイレレスであることが判明した。その全長は推定ではあるが1500mを超え、最大2.1kmに達すると見積もられた。振動を用いた調査から、このアルゴイレレスは巨大な石臓を持っている可能性が極めて高いこともわかった。皮膚の厚みは10mを超え、艦砲砲弾やミサイルはもちろんのこと、かのニブツィウンすら全く効かないであろうことが明らかとなった。

 このアルゴイレレスは学会での審議によってKKM-01(Kahkam-01)、通称カーカムと名付けられた。現在は休眠状態に入っているが予断を許さない状況であった。もしカーカムが覚醒状態に戻れば、ハルストジジネスの比ではないほどの被害が出るのは自明のことであり、ゆえにカーカムをどう処分するかに焦点が置かれた。カーカムが温厚な性格である可能性は、カーカムが石豪種であることから否定された。

 当時、レチャメン軍は核兵器を所持していなかった。前述の通り、カーカムには核兵器以外のあらゆる兵器がほぼ無効であると考えられたため、他国から核兵器を運んでくる必要があった。広島原爆程度の低威力の核兵器では、カーカムの皮膚を貫けない可能性もあったので、水素爆弾を用いてカーカムを殲滅することが決定された(10月32日)。紋令から出力約1.2メガトンの水素爆弾を輸送することが決まった。輸送は航空機で実施することになった。

 作戦名が「埋獣殲滅作戦」と決まった11月1日、カーカムが再び移動を開始した。地面の隆起によって国道が破断された。カーカムの口と思われる地点を中心に低周波が時折観測されるようになり、覚醒が近いことが明らかとなった。作戦日時が前倒しされることが決定され、11月2日から住民の避難が開始された。避難は11月5日に終了したが、カーカムの動きはますます激しくなっていき、右手首から上が地上に顕現した。低周波の頻度も高くなっていた。

 11月8日、マメントを経由して核爆弾がジャレンダムから100km離れた都市、クモラー(Tkumolap)に到着した。作戦は翌日に実行されることが決定された。

 しかし、ここで想定外の事態が発生した。11月9日午前7時、なんと、カーカムが一気に動き、体の400mが地上に露出したのである。地上に見えた部分は背中と後脚であったが、あきらかにカーカムの覚醒が迫っていた。その2時間後にはカーカムはほとんど覚醒し、大量の岩石を吹き飛ばしながら遂に全身を地上に晒した。全長は推定におおむね適合した1600m程度であった。

 カーカムは無人と化したジャレンダムを数十分で更地に変え、内陸に向かって進撃し始めた。作戦は午前11時から実施された。その間にもカーカムはG6の阿石投射を行い、ランダン山を破壊した(一部はクモラーなど人口密集地に直撃)。作戦を担当する爆撃機は、幸運にもこの阿石投射を回避した。

 午前11時58分、水爆はカーカムの上空640mで炸裂した。ジャレンダムは今度こそ完全な廃墟となった。カーカムも当然爆発に巻き込まれ、火球の高熱によって体が文字通り蒸発して消えた。作戦は成功し、カーカムの死亡が確認された。午後12時50分のことであった。