【水田生態系におけるタナゴ類の保全研究】
★この研究の一部は,以下の論文として発表されています.
Tamura, M., Ikeda, S., Nishio, M., Kawakami, R., Yamazaki, Y. 2019. Age-dependent changes in the growth and reproductive patterns of the southern red tabira bitterling, Acheilognathus tabira jordani. Ichthyological Research, 66: 385-392
馬場幸大・西尾正輝・山崎裕治. 2016. 小規模水槽におけるイタセンパラの成長および生残に影響を及ぼす環境要因. 保全生態学研究, 21: 61-66
Nishio, M., Kawamoto, T., Kawakami, R., Edo, K., Yamazaki, Y. 2015. Life history and reproductive ecology of the endangered Itasenpara bitterling Acheilognathus longipinnis (Cyprinidae) in the Himi region, central Japan. Journal of Fish Biology, 87: 616-633.
Yamazaki, Y., Nakamura, T., Sasaki, M., Nakano, S., Nishio, M. 2014. Decreasing genetic diversity in wild and captive populations of endangered Itasenpara bittering (Acheilognathus longipinnis) in the Himi region, central Japan, and recommendations for conservation. Conservation Genetics, 15: 921-932.
西尾正輝・タハ ソリマン・山崎裕治. 2012. 富山県氷見市万尾川に生息するイタセンパラの出現パタンと産卵場所. 魚類学雑誌, 59(2): 147-153
富山県に生息するタナゴ類として,在来種のイタセンパラ,ミナミアカヒレタビラ,そしてヤリタナゴ,国内外来種と考えられているイチモンジタナゴ,そして国外外来種のタイリクバラタナゴが生息しています.
在来3種は,水田周囲の小河川や水路を主な生息場所としており,幼魚期には水田から共有されるミジンコなどの動物プランクトンを食べ,成魚期には藻類を利用します.また,二枚貝に産卵をするなど,水田生態系を象徴する生物です.しかし,いずれの種においても,富山県内における生息場所や個体数が減少しており,絶滅が危惧されています.その原因としては,圃場整備などによる生息環境の劣悪化や,それに伴う産卵母貝の減少,外来種オオクチバスによる捕食,そして外来種タイリクバラタナゴとの競合などが考えられています.
そこで山崎研究室では,氷見市と連携し,ひみラボを拠点として,水田生態系におけるタナゴ類の保全研究を展開しています.
【イタセンパラ】
在来タナゴのうち,イタセンパラは国の天然記念物,国内希少野生動植物種に指定されており,日本国内のすべての生息地域において,生息範囲の縮小や個体数減少が指摘されています.このうち富山県においては,現在では氷見市の河川においてのみ生息が確認されており,万尾川においては,毎年安定した繁殖が行われています.
富山県におけるイタセンパラの保護については,これまで氷見市が中心となって,生息や繁殖に関する状況調査,保護池における生息域外保全,そして普及啓発活動が行われています.そして最近では,山崎研究室が遺伝子解析を担当し,イタセンパラ野生集団および保護池集団の遺伝的多様性を評価しています.
また集団存続可能性解析を行い,氷見市が造成した保護池の集団における遺伝的多様性の変動予測や,それに多様性維持のための方策の提言および検証研究を実施しています.
【ミナミアカヒレタビラとヤリタナゴ】
在来種であるミナミアカヒレタビラとヤリタナゴについても,富山県内における減少傾向は否めません.そのため,富山県レッドデータブックにおいて絶滅危惧種に指定されていると共に,ミナミアカヒレタビラについては,2015年4月に富山県の指定希少野生動植物に指定されました.
そこで山崎研究室では,氷見市および魚津水族館と連携して,これら2種について,保全のための基礎情報の収集を目指した研究を展開しています.
その第一歩として,氷見市内の河川において,定期的な捕獲・計測・放流調査を行い,成長パタンの解明や繁殖期の把握を目指している.これらの情報の収集・蓄積については,他地域の個体群を対象に,断片的な研究がおこなわれてきました.しかし,富山県の個体群については,ほとんど研究がされておらず,地域変異の可能性を考えると,早急に取り組むべき課題です.これら調査は現在も継続中です.
また,富山県内の別のミナミアカヒレタビラ生息地において,およそ2年間にわたり,毎週調査を行い,本種の成長パタンや繁殖期を調査しました.その結果,若齢個体は,春から夏にかけて成長するのに対して,高齢個体においてはほとんど成長がみられないことが明らかになりました.一方,繁殖に参加する個体は,高齢個体が多いことも示されました.これらのことから,本種は若齢のころは成長に,高齢になると繁殖に,それぞれエネルギーを費やすことが推察されました.詳しくは,Tamura et al. (2019)をご覧ください.
【タイリクバラタナゴ】
タイリクバラタナゴは,国外外来生物です.富山県に,いつ頃入ってきたかは,正確には分かっていません.そして本種の生息河川においては,その個体数が増加しています.特に,在来タナゴ類との共存河川においては,在来種の存続に対する影響が懸念されています.
しかし,実際にどのような影響をもたらしているのかについては,必ずしも明らかにされていまん.さらに,タイリクバラタナゴは,全国で「やっかいもの」として扱われている一方で,その生態的特徴については,必ずしも明らかにされていないのが現状です.このような情報がないと,実践的な対策を講じることはできません.
そこで山崎研究室では,在来タナゴ類を保護するために,タイリクバラタナゴの生態調査を実施しています.
イタセンパラ以外のタナゴ類に関する調査は,まだ始まったばかりです.一部成果については学会発表等をしていますが,現在も調査は継続しています.研究成果については,順次発表していきたいと考えています.
(2019年6月27日更新)