【富山県におけるアライグマの生息状況と出現予測】
★この研究の一部は,以下の論文として発表されています.以下の図の一部は,これら論文を基に作成されています.
伊藤 隼・佐藤 真・山崎裕治. 2022. 痕跡調査とカメラトラップ調査に基づく富山県における外来生物アライグマ(Procyon lotor)の生息状況. 哺乳類科学, 62 (2): 247-255
山崎裕治・伊藤隼. 2022. 富山県における特定外来生物アライグマの出現予測. 富山の生物, 61: 95-100.
【背景・目的】
外来種アライグマにおいて、逸出導入に端を発する自然界への定着や個体数増加が、日本各地で報告されている。
富山県では、2010年ころから出現情報が増え始めてきたが、その実態は明らかにされていない。
そこで本研究では、富山県におけるアライグマの生息状況の把握と、出現予測を目的とした。
【調査方法】
富山県内広域において、2019年に、主に神社仏閣の木造部に残された爪痕に基づき、出現場所を調査した(図1)。
確認された爪痕のうち、全体の幅が3.5cm以上で、明確な5本の爪痕が確認されたものを、アライグマの痕跡として認定した(図2)。
図1.寺院の門柱に残された無数の爪痕。
図2.鐘つき堂の柱に残されたアライグマと判断される爪痕。(黄色い点線は、爪痕の位置を示すために加筆した)
【結果】
調査の結果、主に東西の県境付近において、多くのアライグマ痕跡が確認された(図3)。
そして、アライグマ痕跡確認地点を在データとして、様々な景観情報を用いてMaxEnt分析を行い、富山県におけるアライグマ出現確率を調べた(図4)。その結果、富山県の東西の県境付近を中心に、中山間地における高い出現確率が予測された。同時に、氷見市などでは、市街地においても高い確率での出現が予測された。一方、富山市や高岡市の中心市街地、あるいは山岳部における出現確率は低かった。
図3.富山県におけるアライグマの出現地点。2019年に行なった爪痕に基づく調査記録。
図4.MaxEntに基づくアライグマの出現確率。図は、3次メッシュ(1㎞四方)単位の出現確率を示し、暖色ほど高い確率であることを意味する。
【まとめ・今後】
今回の結果は、富山県の広い範囲において、アライグマの出現を予測するものである。当研究室では、2019年以降も調査を継続しているが、その中には、2019年の調査時には生息が確認されていなかったが、高い出現確率が予測された地点において、新たなアライグマ痕跡を確認した事例もある。さらに、出現確率が低い、と予想された地点における爪痕確認の事例もある。
今後は、高い出現確率が示された地点を中心に、アライグマ対策を講じる必要がある。それと同時に、分布拡大の傾向にあることが強く示唆されることから、現在は出現確率が低い場所でも、今後は出現する可能性は否めない。継続的な情報の蓄積を行い、出現確率の更新を常に行っていく必要が考えられる。
(2024年3月31日作成)