【富山で(も)増えているニホンジカ】
★この研究の一部は,以下の論文として発表されています.以下の図の一部は,これら論文を基に作成されています.
Eva, S., Yamazaki, Y. 2019. Population structure, admixture, and migration patterns of Japanese sika deer (Cervus nippon) inhabiting Toyama Prefecture in Japan. Zoological Science, 36: 128-135.
Eva, S., Yamazaki, Y. 2018. Hybridization between native and introduced individuals of sika deer in central part of Toyama Prefecture. Mammal Study, 43: 269-274.
Yamazaki, Y. 2018. Genetic population structure of sika deer, Cervus nippon, derived from multiple origins, around Toyama Prefecture of Japan. Zoological Science, 35(3): 215-221
昨今,日本列島の各地でニホンジカが増えています.その傾向は,富山県でも同様です.ニホンジカの増加に伴い,植生変化や表土流出が懸念されています.特に,固有の高山生態系を有する富山県においては,ニホンジカの影響を注視し,的確な対応を行うことが必要です.そこで,富山県と周辺地域におけるニホンジカの遺伝学的な情報の収集を目的とした研究を行いました.
まず,従来のニホンジカの分類をみてみますと,図1のように,生息地や形態的特徴に基づき,いくつかの亜種に分けられています.これによると,富山県とその周辺には,ホンシュウジカが生息していることになります.
図1.日本列島の「ニホンジカ」の分類と分布
これまで,ニホンジカに関する遺伝学的な研究はいくつか行われています.例えば,Nagata et al. (1999)は,日本列島各地の個体について,ミトコンドリアDNAを調べた結果,ニホンジカは大きく2つの遺伝的グループ(北日本グループと南日本グループ)に分かれることを明らかにしました.そこでまず,同じ遺伝子領域について,富山県と周辺地域から得られたサンプルについて,分析を行いました(図2).なお,サンプルについては,富山県自然保護課を介して,各地域の猟友会からご提供いただきました.
図2.富山県と周辺地域におけるニホンジカの採集地点
サンプルについては,捕獲された県,あるいは富山県内においては,地域ごとにまとめて,解析を行いました.そして,193個体について塩基配列を解読した結果,系統解析の結果,12種類のハプロタイプが検出されました.それらに基づき,Nagata et al. (1999)などで報告された情報も用いて,系統樹を作成しました(図3).
図3.ニホンジカのミトコンドリアDNAハプロタイプの分子系統樹
図3のうち,アルファベット1文字で表示されたハプロタイプが,本研究で検出されたハプロタイプです.富山県において、北日本グループに属するハプロタイプを持つ個体が検出されただけでなく、南日本グループに属するハプロタイプ(GとO)も検出されました。近隣県では、後者のハプロタイプは検出されていないため、屋久島等に生息していたニホンジカが、過去に人為的に富山県に連れてこられ、それらが自然界に導入された可能性が考えられます。つまり、富山県には、国内外来生物のシカが存在することが示唆されました。
また、その後に行われたマイクロサテライトDNA分析により、北日本グループのハプロタイプを持つ個体と、南日本グループのハプロタイプを持つ個体とが交雑していることも示唆されています。これら結果は、2報の論文として発表されています。
(作成・更新:2019年6月14日)