『守貞謾稿への索引』は、その校訂本『近世風俗志』岩波文庫5巻を参考に作成途上に有りますが、この『風俗志』にも、勿論原本『守貞謾稿』にも、図表索引が有りません。守貞謾稿の魅力の一つである、多数の図・表の索引が無いのを、残念に思っていました。「無ければ作ればよい!」と挑戦する事にしたのですが。
さてどうなった事でしょう。
図、表の数などしれている。と思ったのは大間違いで。結果から言いますと1,800件以上、しかも名前が付いているものが少ない。
一応完成したので、「守貞謾稿、図表の索引」として公開したが、ここでは裏話を少し挙げる事にします。
先ず、図と表の区別ですが、図については特に説明もいらないかと思います。文字とは別に描かれた「絵」の事です。実写風に書かれたものは、濃淡などが綺麗に見え、『風俗志』にある挿絵とは一味違います。又、劇場の座席配置図の様に平面図的なものもあります。
では、表とは何かですが、例えば「価諸分(あたいしょわけ)」等には、天保14年刊本からとして、太夫、天神、芸子等の多分料金を書き写しています。これ等は当然『謾稿』本文ではなく、かといって図でもない。よって「表」として索引に含めることにした。
さて、基本構想であるが、他の人にも使って頂こうと、ホームページで公開する事にしました。
「・・・の図」を見たいとした時に「・・・」が的確に出てくるかである。例えば子供の遊びの図で「ベーゴマ」(私なら「バイ」)が有るだろうかとした時、どの様な検索をするでしょうか。当然その名称を検索するが、本ならば「へ」の行、或いは「ハ」の項を探すが、ホームページでは頁繰りが大変です。よく見る索引では「あいうえお」毎に頁を分けたりしている様ですが、これは使う側からすると愚の骨頂だと思っています。
そこで、全項目1ページ、検索の主は、ブラウザ(ホームページ閲覧プログラム)の「頁内検索」機能に頼る事にします。これに依り頁繰り(画面の移動)が楽になると思います。逆に五十音順に並べる意味もあまり無いように思う。
上記の例で「ベーゴマ」はヒットしません。「バイ」もダメです。もっとも、ふりがなに「カタカナ」は使用していません。では「べーごま」はどうでしょう、これもありません。「ばい」とすると51件もあります。最初に「えどおででこしばいばんづけのきれ」の「しばい」の「ばい」が出てきます。「次候補」の↓を押すと延々とハズレばかりでてきますが、51件目に「貝独楽の図」が出てきます。
取敢えずこれで良しとしています。
でも見たい絵図ではなく、コマ単独の絵です。遊ぶ姿は無いのでしょうか。「独楽」と入れて検索しても他のコマの絵は出て来るが、遊んでいる絵は出てきません。「正月」「小児」も該当はなさそうです。どうも、「ぶりぶりで遊ぶ」の絵と誤解していたようです。独楽回しでは無かった。
次に、作り始める手順であるが、「守貞謾稿への索引」と同じ手法とします。少し違うのは、『風俗志』に図索引が無いので、国会図書館デジタルアーカイブの最初のコマから順次、図表を探さなければならない点です。数は索引項目よりは大幅に少ないと思われるが、何処に有るか分からないので、目視で見つけなければなりません。文章を読むのではないので、気軽に始める事にしました。
尚、図表名などの情報は、マイクロソフト社の表計算ツールである、エクセルに登録し、後日これをVBA(ビジュアルベーシックアプリケ-ション)によりhtmlテキストとして出力する手法を採ります。前の「守貞謾稿への索引」を作った時のものが流用出来るでしょう。
図表を見つけると、その名称を探します。運よく「・・・の図」と書いてあるものはそれを用いますが、無い時が多い。こうなると本文中から相応しい語句を見つけ、図表名とします。が、往々横着を決め込み『近世風俗志』を読み、そこから図表名として抽出し、同時に巻と頁を記録します。デジタルアーカイブのURLもエクセルにコピー&ペースト(複写)し、該当コマ上での存在位置を、左右で付けます。
次に、ひらがなで「よみ」を入力し、必要なら「注」を付けます。注には、別名や、出典元、表の場合はその中の代表的な文字を読み下して付加します。いずれも、ページ内検索に引っかかる機会を増やすためです。
厄介なものが二点ありました。一つ目は、本文中にあたかも文字の様に出て来る図です。例を挙げると、上図の「合印、座敷待」です。本文中にいきなり「□八人、・・・」(□には山が二つ重なった下に「・」)と出てきます。これは記号なのですが、どう名前を付けたらよいのでしょう。「記号1.」等とするのは簡単ですが、検索の役に立ちません。前後を読み込んで適当に「合印、座敷待」と付けました。
二番目、『近世風俗志』に載っていない絵があります。『謾稿』の概略の初めに断り書きがあるように、損紙を無駄なく使う為か、思わぬところに突如絵が出てきたり、裏写りの様に見えたりするものが有ります。『風俗志』では削除されていますが、『謾稿』を原本としているので、削除しません。注を付け採録しています。下記、その他を参照下さい。
後は、根気と『風俗志』図書館貸出期限との勝負です。『風俗志』の絵はとても、原本デジタルアーカイブにかないません。原本に見入る事も多く、又原文を読み込むことも多く、遅々として作業は進みません。が気にもなりません。やはり面白いのです。
一つ気になるのは、「今世」です。本人が書いている時は違和感のない表現だと思いますが、「後世」(私も使わせて頂きます)読む者にとっては一番難儀します。何しろ本の成立まで30年は掛かったと思われるので、「今」が何時か確定できません。今世の後ろに年号だけでも入れて置いて欲しかった。もし私が「今時の若い者はスマホばかり・・・」と書き残し、100年後に読む人がいれば、どう受け取るか楽しみではあるのですが。
作者も気になった様でこれも概略中に、「事体に拠ってこれを察せよ」とあります。
使われている漢字について一言。
とにかく、当用漢字世代の私にとっては、書けない、難しい、等は良い方で、読めない・見た事も無い、漢字がいっぱい出てきます。これをどう対処すればよいのでしょう。
例えば、「籧篨蓋売り〔網代蓋〕」、「網代」と書かれているので、「あじろふたうり」と読めはするが、「籧篨」をどうやってエクセルに入力すればよいのでしょう。私のIME(文字入力支援ツール)では、「ajiro(あじろ)」と入力しても出てきません。「籧」を大修館『現代漢和辞典』で探すが載っていない。三省堂『新明解漢和辞典』の竹カンムリから画数を手掛かりに探すと見つかり、「キョ」「ゴ」と読む事が分かり、IMEから「キョ」を入力し、最初の一覧中に見えないので、単漢字を選択し、探しまくれば見つかる様です。何とかならんもんでしょうか。
私はクローム(インターネットブラウザ)に、「竹かんむりの漢字」等と入れ、検索にかかった中にその字があれば、それから。無ければ「漢字辞典オンライン」「部首:竹部(たけ・たけかんむり)の漢字一覧」等を選び、別タブで表示される、一覧の中から、「籧」を見つけ、コピー&ペースト(複写)で貼り付けるやり方をします。
これに関連して、後に分るのですが、この難しい漢字が往々にして、文字化け(?となる)を起こすのです。後に述べます。
漢字入力の問題は一応解決として、次に五十音順にも影響する「よみ」を入れなければなりません。『謾稿』中、或いは『風俗志』中によみが記されている場合はそれを用いますが、数は少ない。辞書なら必ずよみを書いて然るべきなのでしょうが、『謾稿』ですので「ふりがな」はあまりありません。時々本文中に「・・・と訓ず」「俗に・・・のこと」等とある場合があるので、図以外も目を通します。
さて、無い時はどうするか。
私が勝手に読みます。「アーアー」
例を挙げてみましょう。「揚昆布売り」、「あげこんぶうり」としました。が本文中に売り歩くときの声で「コブヤ、アゲコブ」とあり「あげこぶうり」が正しいのかも知れません。
例2.「い組印半天図」は江戸の火消しが着ていた半纏の図です。昔の東映時代劇にはよく出てきていました。美空ひばりや、大川橋蔵等が思い出され嬉しくなります。これの読みは「いぐみしるしはんてんず」としました。『風俗志』本文中には「いぐみしるしばんてん」と音便で書かれている様ですが、御免なさいです。
例3.「鋳鉄師」「いてつし」と読んでいますが、これは私としては納得がいっていませんが『風俗志』の索引の中でこの様に読まなければ50音順を満足出来ない位置に配置されている為、それに合わせた。大坂の人にとっては「いかけや」としか読まないと思うのですが。私は三代目桂春団治の「いかけや」しか知りませんが、子供の頃に「ふいご」こそ持っていはいなかったが、鍋の底を直してもらった記憶があります。溶かして塞ぐのではなく、リベットの様なものでカシメて修繕していましたが「いかけやさん」でした。
「よみ」のほうは、皆さんで直してください。
次に、「注」の部分になりますが、これこそ私の勝手気ままな注です。例えば上記の「鋳鉄師」に「いかけし、いがねし、ふいご」なぜ「ふいご」が入っているか、落語の所作にもあるよう、この商売には付物と思われるからです。検索に引っかかるようにした。
他に、「天神置屋天神妓名」としたものは、天保十四年刊本の「妻しるし」からの写しであり、『謾稿』の本文ではないでしょう。そこで「表」として、図と共に取り上げており、注に「天保十四年刊本、妻しるし所載」としている。
実は『守貞謾稿』とのお付き合いは此処から始まったのです。経緯を少し。
西宮市に「甲東園2の供養道標」の道標があります。これに「施主大坂新町・・・折屋甚(蔵)」とあり、道標横の解説板には「大坂新町の折屋甚蔵が使用人であったみつ、やな、などの五人の婦女子の死を悼み、その菩提を弔うため・・・」とあった。
その時、私は、使用人の為にそのような事をするのであろうか、と疑問を持った為である。今となっては何処をどう巡ったかは覚えていないが、『守貞謾稿』に辿り着いた、思い出の頁です。「折屋」に関しては後に、奈良県吉野山まで出かける事にもなりますが、これは「折屋徳兵衛の道標一覧」や、「神南邊(3)の折屋を訪ねて吉野へ」を参照下さい。
話をもとに戻しますが、表の出典元である「妻しるし」を「注」に挙げ、検索の便となるようにしています。
『謾稿』にはあるが、『風俗志』には載っていない図。
例えば「損紙か、江戸芝居看板」、注に「市川團十良」、風俗志の0巻0頁、とした。これは、デジタルアーカイブを見ると薄いながらも厳然として見える。裏写りかと次コマを見ると、裏文字になってしまい、前のコマの絵である。なぜここに有るのでしょう。裏表紙の直前であり、見返しと思われるが、これに損紙を用いたものかも知れない。削除を示す様な線が有ったりしますが、他に掲載されてはいないように思う。
経緯はどうあれ、図ではあるので載せています。
頑張った甲斐もあり、1800件強を拾い出す事に成功しました。(ナニガヤネン、と一人ツッコミ)
次にこれのhtml化が必要です。
意味不明の方のために、「html」をwikiに参照すると「HyperText Markup Languageは、ハイパーテキストを記述するためのマークアップ言語の1つで、プログラミング言語ではない。主にワールドワイドウェブ(www)で、ウェブページを表現するために用いられる。ハイパーリンクや画像等を埋め込むハイパーテキストとしての参照機能、見出しや段落名などの文書の構造、フォントや文字色の指定などの指定、等の機能を持つ。」とある。
余計に分かり難いかと思いますが、平たく言うと、インターネットのホームページをブラウザで見せる為の、元の文字列、の塊り。
エクセル自体を表のまま組み込んでも良いのですが、過去の手法と同様、エクセルマクロを用いて、htmlテキストに展開します。
大雑把に言うと、エクセルのシートの各行を読み込み、テーブル(表)として、該当項目単位に分割して、横に並べる。これを最後の行まで繰り返す。この表の前後に見出しや、後書等を付け加える。事になります。
vbaを使う方であれば左程苦にならないプログラムかと思いますが。・・・
とにかく動かしてみて、問題点が出てきました。前回「守貞謾稿への索引」を作成した時にも発生したのですが、文字化けするものが有ります。苦労して入力した難しい漢字がバケルようです。ブラウザで見た時、?となってしまう。
しばらく、退屈でしょうがお付き合いください。
生成後のhtmlテキストをテキストエディタ(windowsのめも帳や、MSのワード等)で見た時点で既に「?」にバケています。即ちブラウザの表現制限によるものでは無い事が分かります。vbaの問題と思われます。先ず、vbaのエディタで置換対象の文字を入力する事が出来ない。(前述のコピー&ペーストが出来ない。)依ってこれを16進文字列でvba中にコーディングしセル中の文字を置換するロジックを作り込んで実行したのですが、上手く行かなかったので、手作業で対応していましたが、今回は余りにも件数が多くなりました。あきらめずに方策を考えましょう。
エディタ上での16進表現がヒットしないのであれば、エクセルのシート中の項目の値そのもので、比較させれば良いのではと考え、バケル字とそのユニコードを16進表記で登録したシートを作成し、これを配列として取り込み、バケる文字と一致する文字を配列中の16進表現の文字に置換する方式としたところ、上手く行くようになりました。この方式を以前の『守貞謾稿への索引』にフィードバックさせた事も伝えておきます。
以上で。目出度く完成しました。『守貞謾稿、図表の索引』は暫定(予想)URLで無い為、パンチ(貼り付け)ミスが無い限り正しいコマを参照しているはずです。但し検証は済んでいません。追々と考えていますが、何時になるかはわかりません。
参考程度として使ってみて下さい。
御自身で、データを活用したい方は、「守貞謾稿、図表の索引」の最下段からダウンロードして下さい。何かに発表する場合は、出典を明記して下さい。但し営利を目的とする場合は使用不可とします。