「隊長ォ」と声をかけてから気がついた。
かの人は文机に突っ伏して眠っているらしい。
初めてではないその光景にギョッとしたのは、見慣れないものを羽織っているからだ。
レース編みのショールだった。
緻密な模様のいかにも値段の張りそうなそれが、問題なのはとんでもなく似合っているという点だ。
(ご、護廷の頂点に君臨する十三人がいち人なんだろ?!
…なんで似合うんだ?
そもそも性別、男なのに~…)
一瞬とはいえかの人が、現世で信仰の対象になっている、…なんといっただろうか、例の神の子のご母堂は…に見えてしまった事に、海燕は深く恥入った。
「…ああ、海燕、来てたのか」
手で目をこするという妙に幼い仕草をしながら、まだ半身を夢の世界に置いてきたような口調である。
「隊長、アンタ、どういう格好してんですか」
どぎまぎした自分を誤魔化すようにそういうと、本人もあれっ?という顔をした。
「…京楽の奴、来たのなら起こせばいいのに」
それは想定の範囲内ではあった。
(いくらなんでも、さして防寒には役にたたないだろうレース編みのショールなぞ着せてみようと考える人物がそうそういるとは思えない)
が、その後の。
「もう出来上がったのか。早いな」
という言葉に目を剥いた。
まさか…
「まさかとは思いますが、それ。
そのショール、手作りとか言いませんよね?」
「うん、手作りだよ。最近、凝っているらしいんだ」
「…………」
ああ、そうなんだ、まさか素人の手によるとは思わなかった。流石だな。
…じゃなくて。
「俺、後で書類とりにきますから」
「あ?あぁ」
払っても払っても頭に浮んでくる想像図にダメージを受けつつ、海燕はその場から逃げ出したのだった。