浮竹がホテルの自室に戻ると、ベッドの上で背中を丸めた大きな子供がいた。
「ただいま、京楽」
「・・・」
ただいまと声を掛けた浮竹を恨めしそうに見上げるだけで京楽は一言も発しない。
バックに暗雲でも背負っているかのように沈鬱な京楽の様子に、スーツケースからシャンプーを取り出しながら、どこか具合でも悪いのかと浮竹は少し心配になった。
「どうした、腹でも痛いのか?」
「・・・うきたけぇ」
地の底から這い上がってくるような京楽の声に、やはりどこか痛むのかと浮竹は慌ててベッドに腰掛けた。
キングサイズのベッドがぎしりと軋む。
「きょうら」
「ひ~ど~い~よ~~~~!!!自分だけ楽しんじゃってさあ」
「は?」
「僕だって水着の女の子に囲まれて砂遊びやスイカ割りを楽しみたかったよ~~~~!!!!」
京楽の不機嫌の理由に思い至って浮竹は思いっきり脱力した。
「何だ、お前まだ拗ねてたのか?」
心配して損したなあと頭を掻きながら立ち上がると、だってぇぇぇぇと情けない声を上げる京楽を無視して浮竹は着替えを取るためにクローゼットを開ける。
全く仕方の無い奴だと思わず溜息が漏れた。
「そんなに文句を言うならお前も来れば良かったじゃないか。この海辺が貸切だったのはお前が費用を出したからなんだ。お前が来たいって言えば異議を唱える奴なんてきっといなかったんだから」
「僕はさぁ、可愛い女の子達の水着姿が見られるなら海の一つや二つ何時だって喜んで貸し切ってあげるよ。でもさ、海に行くのに僕だけ水着を着ないわけにはいかないじゃない?
でも僕の水着姿なんてとてもあの時間帯に放送できないって山じいと卯ノ花隊長に止められちゃったんだよぉ。仕方が無いから遠くから眺めてたんだよ」
「遠くからって・・・お前、覗いてたのか!?!?」
「覗くっていうか、ちょっと離れたところから皆の楽しんでる様子を見てただけだって!」
「~~~~!!!~~~~~」
こんな馬鹿馬鹿しい会話に付き合っていられないとばかりに浮竹は乱暴に部屋を横切った。
「どこ行くの?」
「シャワーを浴びてくる」
そう言い捨てると、まだ何か言いたそうな京楽を無視して浮竹はバスルームへのドアを開けたのだった。
*****
きゅ、とシャワーのハンドルを回すと、ざああと気持ち良い温度のお湯が降ってくる。
身体に付いた砂を洗い流してくれるシャワーは心地良いもののはずなのに、浮竹の心は苛立っていた。
(全く京楽の奴、本当に女性に関してはだらしがない・・・)
京楽との会話を思い出しながら、浮竹は腹立ち紛れに水に濡れた髪をかき上げた。
確かに昔から女性には弱かったがだからといって折角海に来ているのに文句ばかり言うことは無いではないか。皆と一緒には泳げなかったが後でいくらでも二人で泳ぐことが出来あるのである。
夏の日差しに弱い浮竹はこんな風に特別なことでもない限り滅多に海になど来られないのだ。もっと喜んでくれてもよさそうなものである。
それとも、やっぱりあいつは女性のほうがいいのだろうかとふと浮竹は思った。
元々京楽は無類の女好きなのだ。何かの間違いみたいな感じで男と恋仲になってしまったが、本当はごつごつとした男の身体よりも女性の柔らかい肌を抱きたいのかもしれない。
松本乱菊のような豊満な胸をした美女が恋しいのかもしれない。
色々考えているうちにどんどん暗い方向へと向かっていく浮竹の思考は、不意に背後で聞こえたキイというドアの音に中断された。
驚いて浮竹が振り向くと、そこにはいつの間にかバスルームに入って来た京楽が立っていた。どうやら先程浮竹が聞いた音は京楽がバスルームのドアを開けた音らしい。
シャワー室に充満する蒸気の向こう側で浮竹を見詰める京楽は何も身に着けてはいなかった。
「身体洗うの手伝ってあげるよ」
そう言ってにやりと人の悪そうな笑みを浮かべると、京楽はあっと思う間もなく浮竹の唇を奪っていた。
首だけを後ろに向けた無理な体勢のままの突然のキス。京楽の息つく暇も無い激しい舌使いに翻弄され意思に反して甘い声が浮竹の口から漏れた。
大の男が二人も入るには狭すぎるシャワー室で背後から強く抱きしめられながら身動き一つ出来ないで、浮竹は京楽のされるがままになっていた。
「んん・・・お前何する・・・あっ!」
やっと唇を解放されて文句を言おうとした浮竹の声はすぐさま嬌声に変わる。
「あっ、ちょ、お前どこ触って・・・!」
「ん~?何言ってるの?僕はただ洗うの手伝ってあげてるんだよ?」
笑みを含んだ声でそう言いながらも京楽の手は浮竹の胸の突起を摘み上げては指の腹で捏ね回す。石鹸のぬるぬるした感触がいつもとは違う快感を浮竹に与えた。
「ほら、砂が身体に残ってたら気持ち悪いでしょ?」
「ん・・・!そ、んなの自分で」
「いいからいいから」
「あっっっ!!!」
敏感な耳の裏を肉厚の舌でねっとりと舐め上げられて浮竹はびくりと身体を震わせた。耐え切れず上げてしまった嬌声がタイル張りの部屋にひどく大きく響いて聞こえた気がして、浮竹は思わず手で口を覆う。
その間にも不埒な手は胸の飾りを執拗に弄ぶ。
「ふふ、可愛いね。もうこんなに硬くなってる」
京楽の言葉の通り、与えられる刺激に反応して浮竹の乳首はぷっくりと痛いほどに立ち上がっていた。
「おま、え・・・どうしてこん、なに・・・機嫌悪いんだ・・・?」
ともすると漏れそうになる嬌声を必死で堪えながら、浮竹は切れ切れに抗議の声を上げる。
女性死神協会と海で泳げなかったからといってこんな風に無理矢理コトに及ぼうとするなんて八つ当たり以外の何物でもない。
強い快楽に溺れそうになりながらも、こんな形で京楽に抱かれるのは嫌だと一欠片の理性は訴えていた。
「そりゃあ僕の機嫌も悪くなるよ。恋人のあんな姿を他の奴に見られたんだから」
「え・・・?」
絶え間なく降り注ぐお湯の音にかき消されて低く呟かれた言葉はよく聞こえない。
そんな浮竹に構わず京楽は白い首筋に舌を這わせる。日に焼けて敏感になった肌にはそんな行為も十分すぎるほどの快感だった。
「君さ、あんな色っぽい顔で皆の前で倒れるなんて無防備もいいところじゃないか。それに少し休むとか言ってあんなにぐっすり眠って、襲われたらどうするんだい?」
「な、何馬鹿なこと・・・」
「その上起きたと思ったら寝ぼけ眼のあんな可愛い顔をしてさ。君のあんな顔を見ていいのは僕だけなのに・・・」
つまり京楽は女性陣と一緒に泳げなくて拗ねていたのではなく、浮竹と一緒に海に行った奴らに嫉妬していたのだ。
そんなの只の言いがかりだ、八つ当たりじゃないか、お前最悪だ、と悪態を付きたくても、悪戯な手によって次々と与えられる快楽に流されないようにするのが精一杯で言葉にはならなかった。
いつの間にか下りてきた手が既に勃ちはじめている浮竹自身をやんわりと包み込む。その感触に浮竹の喉がひゅっと鳴った。
そもそも浮竹が直射日光にやられて倒れたり、ひどく疲れて休まなければならない羽目になったりしたのは京楽のせいである。
出掛ける前に、君の肌は敏感なんだから日焼け止めを塗らないとダメだよと言う京楽の言葉に素直に従ったのが悪いのだ。
背中に塗ってあげるから横になってねと言った京楽を信じてベッドに身体を横たえたら、初めは大人しく浮竹の背中にクリームを塗っていた京楽の手がいつの間にかあらぬ方向に伸びてきていた。
マッサージをされているような気持ちよい感覚にとろんとしていた浮竹は気が付くと京楽の手の動きに翻弄され、済し崩し的にコトに及んでしまったのである。
日の高いうちから普段と違う場所で行う情事に浮竹も京楽も興奮してしまい、後先も考えず激しく抱き合ってしまった。
その結果、体力を回復するために海辺で昼寝をする羽目になったのだ。楽しみにしていたスイカ割りまでにはどうしても元気になっておきたかったである。
だから全て京楽のせいなのだ。
それなのに、どうして自分がこんな目に合っているのか。
「おま、え、サイアクだ・・・!」
京楽の節くれ立った長い指で後ろを刺激されながらでは、なじる言葉ですら艶めいて京楽をますます煽るだけだった。
先程の情事の名残か、まだほんの少ししか触れていないというのに浮竹のそこは熱く蕩けきっていて京楽の指を難なく飲み込んでいく。
主の意に反して、京楽に快楽を教え込まれた身体は貪欲に京楽の指をきつく締め付ける。浮竹の淫らな姿態に京楽の喉がごくりと鳴った。
「恋する男は、理屈じゃないんだよ、十四郎」
大きな手で目の前の細腰を掴むと、京楽はすっかり昂ぶりきった自分自身を浮竹の後孔に宛がい、あ、と小さく驚きの声をあげる浮竹に構わず一息に突き入れた。
「ゃぁああ!!」
突然の挿入に、脳髄まで焼き切られそうな快感が浮竹の身体を駆け巡る。容赦なく腰を打ち付け揺さぶられ浮竹は掠れた嬌声をあげた。
引き抜いては激しく突き上げ、京楽は浮竹の感じるところを正確に攻め立てる。
「声、我慢しなくてもいいのに」
シャワー室に響く己の声に羞恥心を煽られるのか、声を抑えるために浮竹は自らの指に歯を立てていた。
快楽に揺れて甘く響く声を聞きたくて、京楽はわざと浮竹の耳に口を近付けると、艶めいた声で、低くゆっくり
「知ってるかい、声を我慢すると余計に感じるんだ、って」
と囁いた。京楽の声にすら快感を感じるのか、浮竹の中がぎゅぅと締め付ける。
京楽の甘い吐息に痺れるような刺激が背中を駆け上がるのを感じて浮竹はぶるりと身体を震わせた。
そんな浮竹を見て薄く笑うと、京楽は一層激しく腰を動かし始めた。
「ひあっ!・・・あぁ―――・・・!」
奥の奥まで貫かれて、おかしくなりそうなほどの強烈な快感に浮竹の口からあられもない嬌声が止め処なく零れ落ちる。
頭の芯まで蕩けてしまいそうな快楽に、浮竹は我を忘れて溺れていった。
*****
「大丈夫、浮竹?」
ベッドに横たわる浮竹の額に水で濡らしたタオルを乗せると、京楽は心配そうに浮竹の瞳を覗き込んだ。湿ったタオルの冷たい感触が火照った浮竹の身体に気持ち良い。
シャワーでの無体を反省しているのか、叱られた子犬のような表情で京楽はかいがいしく浮竹の世話をする。
「・・・ちょっと逆上せただけだ」
「意地悪してごめんよ」
「全くだ」
むすっとした浮竹の声に京楽はますますしゅんとしてしまう。しょんぼりとした様子の京楽をじっと見詰めると、やれやれとでもいうように浮竹は大きく溜息をついた。
強引にコトを進められてしまったが、結局浮竹も京楽にやきもちを焼かれて嬉しかったのである。
「俺も大概甘すぎるよな」
「え?」
額のタオルを取り去ってベッドサイドテーブルに置くと、浮竹は京楽の瞳を真っ直ぐ見据えた。
「浮竹・・・」
「まだ、身体が熱いんだ」
だから責任取ってくれよと、浮竹は妖艶に微笑んだ。
その笑顔の壮絶な色香に京楽はごくりと唾を飲み込むと、「仰せのままに」と囁いて紅く濡れる唇に口付けたのだった。
13.08.09
アニメでの浮竹さんの可愛らしさに魔が差して思わず書いてしまったシャワーえちです(^^;)
夏だから弾けてえろに挑戦してみましたが見事玉砕してしまいました・・・
この話の浮竹さんは流されやすすぎますね(汗)京楽さんも盛りすぎだし(滝汗)