初めて出会った時から、京楽は、俺の憧れだった。
俺もあんな男になりたいと、あんな身体を持ちたいと、いつも思っていた。
理想だった。
厚い胸板、逞しい腕、日に焼けた健康そうな浅黒い肌、人を包み込むような深さを持って胸に優しく響く、低い声。
ギリシャ神話に出てくる太陽神アポロンは、きっと京楽のような姿をしていたのだろう。
級友達の中には、あいつのことをいい加減で、女にだらしなくて、それでいて腹の内が読めない奴だ、といって嫌うものもいたけれど、
俺のあいつの印象は全く違うものだった。
一緒にいるだけで、心が温かくなる、安心する。俺にとっての京楽は最初からそんな存在だった。
全てを受け入れ育むような力をもつ、まさしく太陽の光のような人。
なぜかはわからないけど、あいつはそういう奴だって、俺にはわかったんだ。
理由は分からないけれど、道化の振りをしているだけで、本当はいつでも他人の気持ちを第一に考える、とても優しい人なんだって。
憧れは、いつか形を変えて。
気が付くと、俺は京楽のことをもっと知りたいと思っていた。
でも、あいつはいつも、人当たりがいい割に、他人と一線を画しているようなところがあったから、きっと独りでいるのが好きなんだろう、って思っていた。
だから、あいつと友と呼べる関係になったことを、最初は信じられなかった。
どうして俺なんだろう、と。
俺には取り立てて特別な才もない。人を惹きつけるような何かも無い。
強いていえば、この白い髪が人目を引くということぐらいだろうか。でも、それだって俺の肺病の象徴みたいなものだ、自慢できるようなものでもない。
だから、俺にはあいつの傍にいる資格なんて無いと思っていた。
思えば、それまでの俺は無意識の内に自分を卑下してしまうところがあったんだろうな。
やっぱり自分の身体のことがあったから。自分ではそんなつもりはなかったんが、
いつも心のどこかで他人は俺を哀れみの眼で見ているんじゃないか、って恐れていた。
でも、胸のうちで俺が一番恐れていたのは、自分は本当に誰よりも劣っているのではないか、
俺は他人から哀れまれても仕方がない、そんな取るに足らない存在なのではないか、ってことだった。
でも、俺の前でだけみせるあいつの姿が増えていくにつれて、あいつに信頼されている、と言うことを実感するにつれて、
初めて俺は、自分の価値を認めることが出来たんだ。
俺は、京楽の信頼に値する存在なのだ、と。
俺は、京楽の、俺の理想である男の、友に値する存在なのだ、と。
あいつの隣に立てることが、俺の誇りだった。
あいつと共に戦うことが、あいつに背中を預けてもらえる存在であることが、誇りだった。
あいつを友と呼べることが、あいつに友と呼ばれることが。
嬉しかった。
でも―――恋だって?
Qualia
護廷十三隊十三番隊隊長浮竹十四郎は悩んでいた。
勿論、死神などという危険な仕事に千年以上就き、尚且つその死神達を統べる立場である隊長である以上、悩みの種には尽いたためしが無い。
ただ、現在浮竹が悩んでいるのは、幸か不幸か職務に関することではない。
彼の悩みは自分自身に関してである。
いや、自分自身の感情というべきか。
所謂、恋の悩みという奴である。
自身の悩みの種が全くの私事であるため、浮竹はそのことで職務に支障をきたしたり、
同僚や十三番隊隊員達に自分が悩んでいることを知られるような失態を犯したりはしない。
それでも、浮竹のことを良く知るものなら、会話の途中で何気なく空に向けた視線や、彼の漏らす小さな、本当に小さな、溜息から、
彼の様子がおかしいことには気付く筈である。
例えば、浮竹の無二の親友、八番隊隊長京楽春水のように。
「なんかさあ、最近元気ないよね、浮竹。」
湯飲みを口に運ぶ浮竹の手が、ぴたりと止まる。形の良い眉を少し上げ、翡翠の瞳が京楽をじっと見つめた。
「どうしたんだ、突然。」
さも意外だといわんばかりに浮竹は微笑んだ。
京楽と浮竹がいるのは八番隊の隊首室である。
来週行われる八番隊と十三番隊による合同虚討伐についての最終確認を行うため、浮竹が八番隊隊舎まで出向いてきたのだ。
隊の陣形や、集合場所などの打ち合わせも済み、ほっと一息ついたところで、京楽がふと思い出したように言ったのが先ほどの言葉だった。
「だからさあ、最近浮竹の様子がおかしいって言ってるのさ。」
そう言って京楽はぐいと茶を飲み干すと、浮竹を見つめ返した。まるで冗談を言っているかのような口調ではあったが、浮竹を捕らえる眼は笑っていない。
「そんなことはない。最近は体調も良いし、むしろ元気が有り余っているくらいだぞ。」
体調が良いと言うのは嘘ではない、と心の中で浮竹は思った。嘘ではない、が京楽の言うことも間違ってはいない。
だが、それ以上追求されたくなくて、浮竹は無理に笑ってみせた。京楽が自分のそんな下手なごまかしを見抜くのは分かっていたけれど、詮索されたくないことを無理に問いただすような男ではないから、京楽は何も言わないだろう、と判断してのことだ。
「ふ―ん・・・ならいいけどさ。」
浮竹の予想通り、京楽はそう言うと、ごろりと横になると、ああ、そういえば、と別の話をし始めた。京楽の話に相槌を打ちながらも、自分のことを心配してくれる京楽を無言のうちに拒んだという罪悪感で浮竹の胸は痛んだ。
普段の浮竹なら、悩み事があればまず一番に京楽に相談する。
しかし、今回のことはどうしても京楽には話すことが出来なかった。
なぜなら、浮竹の悩みの種は京楽自身だからである。
そう、浮竹の恋する相手とは、京楽春水だったのだ。
******
十三番隊隊舎に帰ってきた浮竹を出迎えた副隊長の志波海燕に、浮竹は今すぐ雨乾堂に来てくれと告げた。
自分の隊長のいつにない深刻な表情に海燕は来週の合同虚討伐における作戦に重大な問題でも発生したのかと思い、すぐさま浮竹のあとを追った。しかし。
「海燕、お前、恋をしたことがあるか?」
雨乾堂に着いて海燕と向き合うように座った浮竹の第一声は、海燕の予想を全く裏切るものだった。
「・・・・は?」
一瞬、海燕は自分の隊長が何を言っているのか分からなかった。というか、虚についてばかり考えていたので、いきなり恋などと言う華やかな話を切り出されて思考が着いていかなかったのだ。呆けた顔をしている海燕に何を勘違いしたのか、浮竹は慌てて自身の問いの説明をし始めた。
「いや、これは愚問だったな。お前には都がいるんだから、恋をしたことがあるに決まっている。
そうじゃなくて、俺が知りたいのはだな、お前、自分が恋をしてるって、どうやって気付いたかってことなんだが・・・」
そこまで言って、自分が何を言っているのか分からなくなったのか、浮竹はいったん言葉を切った。
まさか、と海燕は思った。いや、この話の流れからして疑問の余地はないのだがそれでも海燕は確かめずにはいられなかった。
「浮竹隊長、好きな人ができたんですね?」
みるみるうちに赤くなった浮竹の顔が、肯定を物語っていた。海燕のあまりにも直接的な問いに言葉を失ったのか、浮竹は口をぱくぱくさせるだけで、何も言ってこない。
ああ、とうとうこの人にも春が来たんだな、と海燕は素直に喜びを覚えた。千年以上も生きているくせにそういったことには全く初心なこの人にもついに恋が訪れたのか、と海燕は感動すら覚えた。娘を嫁に出す父親の心境である。
しかし同時に少し意外にも思えた。海燕の知っている浮竹は色恋沙汰には興味がない、というか、そういった感情を持っていないのではないかとすら思わせる人だった。公明正大で、誰にでも平等に優しい、博愛主義者だと思っていたのだ。
(だからこの人が京楽隊長と親友、ってのが未だに信じられないんだよなあ。)
浮竹と京楽は全く正反対で、二人が親友だなんて何かの間違いではないか、と初めて八番隊隊長と会ったときに海燕は思った。なんと言うか、清廉潔白な感じのする浮竹と、京楽はあまりにも違いすぎたのだ。
(いっつも女の尻を追い掛け回しているイメージしかないしなあ。)
と、そこまで考えて、海燕はあることに思いついた。
「隊長、そういうことなら俺より京楽隊長に聞いた方がいいんじゃないですか?」
あの人のほうが、俺より絶対色事には長けてますよ、女遊び激しそうですし、と言う言葉は一応飲み込んだ。なんだかんだいっても他の隊の隊長である。不敬な言動は慎むべきだと思った。それに、何より京楽は浮竹の親友なのだ。こういうときにこそ親友に助けを求めるべきではないだろうか。どうして浮竹が京楽ではなく自分に相談を持ちかけてきたのか、海燕にはどうしてもわからなかった。
「・・・京楽はだめだ。」
しばらくして浮竹が呟いた。あまりにも小さな声だったので、海燕は危うく聞き逃すところだった。
「どうしてだめなんですか。」
「どうしてもだ。」
そういって浮竹は俯いてしまった。海燕はどうしたものか、とでも言うように溜め息をついた。折角の敬愛する隊長の恋だ、出来ることなら手助けしたいが、自分より適任の人物がいるのだ、浮竹のためにも京楽に相談する方がいいのではないか。しかし、浮竹は京楽には相談できないという。理由も教えてくれない。明らかに普段の浮竹とはかけ離れた行動に、海燕は色々と考えを巡らせる。
「まさか、京楽隊長の恋人に懸想してるとか?」
「そんなわけあるか!」
とりあえず頭に浮かんだ可能性を言ってみたがそれも即座に否定された。まあ、よく考えてみれば、京楽隊長に決まった人がいるとは聞いたこともない。馴染みの遊女はいるだろうが、隊長が遊女と会う機会なんてあるはずもないしなあ、と海燕は納得した。しかし、こうなるとますます訳が分からない。どうして浮竹隊長が恋をしていることを京楽隊長に言えないのか。海燕はどうしたらいいのかわからなくなって黙り込んでしまった。浮竹も黙っている。居心地の悪い静寂が雨乾堂を満たした。池の鯉の立てる水音すら聞こえてこない。
「その・・・俺もよく分からないんだ。」
この場を支配する静寂に耐え切れなくなったのか、浮竹がぽつりと呟いた。海燕はまだ黙っている。
「ずっと親友だと思っていたんだが・・・突然全く別の感情が生まれていて・・・でも、恋したからって言って俺達の関係の何が変わるんだって気もするし、だったら、友情と恋情の違いはあるのか、って混乱し始めて・・・」
そこまで一気にまくしたてると浮竹はまた俯いてしまった。言葉通り混乱しているのだろう、普段は白い首がほんのりと赤く染まっている。浮竹の言葉を黙って聞いていた海燕は、そんな浮竹の様子を見て突然悟った。
「隊長、隊長の好きな人って京楽隊長ですか?」
浮竹は俯いたまま何も言わなかったけれどわずかに縦に首を動かしたのが海燕にははっきりと見えた。
最初に海燕が思ったことは、何を今更、であった。千年以上も付き合いのある親友に今更恋をするなんて、と半ば呆れもした。だが、よく考えると海燕には浮竹の混乱の原因が分かる気がした。ずっと友情を抱いていた相手に対して突然友情以外の感情を抱いていることに気付いて、浮竹は混乱しているのであろう。おそらく自身の感情の変化に戸惑っているのだ。そこまで考えて、海燕はふと疑問に思ったことがある。
「隊長、一応確認しておきたいんですが、隊長の京楽隊長に対する思いって本当に恋愛としての『好き』なんですか?親友として好きだったのが、もっと好きになった、ってだけかもしれないじゃないですか。」
「そ、それがよくわからないからお前に聞いてるんじゃないか。恋愛における好意と、友情における好意との違いなんてどうすればわかるんだよ。俺がわかっているのは、只、あいつに恋をしているっていうことだけなんだ。」
海燕の言葉に勢いを得たのか、浮竹ははっきりと自分が京楽に恋をしていることを認めた。一旦認めてしまうと肩の荷が下りたのか、浮竹は矢継ぎ早に言葉を続けた。
「だいたい、どうすれば自分が誰かに恋をしているかなんてわかるんだ?色んな文献を読んでみても分かりやすい言葉で説明してるものなんてないし、でも俺の持つこの感情を恋って呼ぶのが感覚的に一番しっくり来るんだよ。おかしいだろう?恋をするってどういうことなのかもよく分からないのに、京楽に恋をしているって言う事実だけは分かるんだ。」
そういって眼にうっすらと涙を浮かべながら浮竹は縋るように海燕を見つめた。余程思い詰めているのか両手は膝の上で固く握り締められている。
この人は、本当に純粋なんだなあ、と改めて海燕は思った。
好きなら好きと、深く考えないでその感情に身を任せてしまえばいいのに、こんな風になるまで真剣に考えるなんて、本当に、生真面目なうちの隊長らしい、と思わず笑みがこぼれた。
「隊長。恋をするって言うのがどういうことなのか、なんて誰にも言葉で説明することは出来ませんよ。経験して、初めて分かるものなんです。だから、もし隊長の心がこれは恋だ、って言うのなら、それでいいじゃないですか。難しく考えないで、自分の心に従えばいいんです。」
千年以上も生きているのに、未だに無垢な心を持つ浮竹を隊長に持つことを海燕は心の底から喜んだ。死神なんていう殺伐とした仕事をしながらも純粋でい続けることが出来る浮竹の下でなら、俺達はきっと道を誤ったりしない、そう海燕は思った。
そして、自分の敬愛する隊長の恋を応援しようと、海燕は決意した。やっと浮竹に訪れた春である、相手が例え(海燕から見れば)不真面目の権化である京楽であろうと、浮竹の幸せのために一肌でも二肌でも脱ごうと言う気分だった。そう決めると、善は急げとばかり、海燕はまだ彼の言葉を反芻している浮竹に向かって(彼にとっては)至極当然の疑問を口にした。
「それで、何時京楽隊長に告白するんですか?」
恋をしたら次は告白というのは、海燕にとっては常識だった。恋をしたら相手に告白して、上手くいけば恋人同士になる。それが普通ではないのか。というか、自分と妻の場合はそういった手順を踏んだ。しかし、浮竹は海燕の言葉に放心している。
「・・・こ、告白?」
「そうです、告白ですよ。恋人同士になりたいんでしょ、京楽隊長と。」
「こ、恋人!?」
顔を真っ赤にして浮竹は叫んだ。まさかそんな話になるなんて思わなかったからだ。そもそも、海燕を呼んだのは自分の京楽に対する気持ちが、本当に恋なのかを確かめるためであって、そこから先のことなんて全く考えていなかった。ただ、これ以上京楽に気付かれる前に、このもやもやとした胸の内をなんとか晴らしたいと思っただけだったのだ。
「お、俺はただ、自分の気持ちを確かめたかっただけであって、恋人だなんて、そんな・・・」
「じゃあ、隊長は京楽隊長との関係はこのままでいいんですか?」
そう追い討ちを掛けるように聞いてくる海燕に、ますます浮竹の頭は混乱した。自分の京楽に対する思いが恋に変わったからといって、どうして自分たちの関係が変わらなければいけないのか。今まで通り、京楽の隣にいることは出来ないのだろうか。京楽に友情以外の思いを抱いてしまった自分は、京楽の友でいる資格はないのだろうか。
「俺はただ、あいつの傍にいられればそれでいいんだ。恋人になんてならなくなって、今のままで満足してるんだ。」
そう、京楽の傍で、今までのようにあいつの笑顔を見ていられれば、幸せなはずだ、と浮竹は思った。浮竹にとって恋とは、好きな人を見守るだけで、好きな人の傍にいるだけて幸せになれる、そういうものであった。恋とは、与えることに喜びを感じる、そんな穏やかな感情なのだ。俺は、京楽のことを好きだけれど、京楽から何も求めはしない、そう浮竹は思った。それだけで幸せだ、と。
「嘘ですね。」
しかしそんな浮竹の言葉などお構い無しに海燕は言い切った。
「嘘って、何を言い出すんだ、海燕。」
「京楽隊長の傍にいるだけで幸せだ、なんて嘘に決まってるって言ってるんですよ。いいですか、隊長。単刀直入に聞きますけどね、あなた、京楽隊長が他の人と寝ても平気なんですか?京楽隊長が他の人に口付けをしてもいいんですか。京楽隊長が他の人に愛を囁いても良いっていうんですか。それでも幸せだって言えるんですか?ひとかけらの嫉妬も感じないって言うんですか?申し訳ありませんが、俺はそんなこと信じませんよ。恋って言うのは貴方が思うように綺麗なものじゃないんです。恋する相手に独占欲だって抱くし、その人がほかの誰かに笑いかければ、嫉妬だって感じるものなんです。」
海燕の言葉は鋭いナイフのように浮竹の胸を抉る。
浮竹は知っていた。自分にそんな汚い感情があることを認めたくなくて、京楽からは何もいらないと自分に嘘を付いていたが、本当は、京楽を自分だけのものにしたくて仕方がないことを。京楽に自分だけを見て欲しくて、自分だけに笑いかけて欲しくて、自分のことだけを考えて欲しくて心が張り裂けそうなことを。京楽の全てが欲しくて、狂いそうになる自分がいることを。浮竹は全て知っていたのである。
長い長い沈黙の後、浮竹は呻くように呟いた。
「恋って、もっときらきらしたものだと思っていたんだ。恋をするということは幸せなことなのだと。でも。」
気が付くと浮竹は泣いていた。涙がはらはらと浮竹の白い頬を伝って、握り締められた手に落ちる。
「京楽のことが好きなのに、俺の中は醜い感情でいっぱいなんだ。あいつに俺のことだけを見て欲しくて、俺のことだけを考えて欲しくてたまらない。あいつが他の誰かに優しくしているのを見ると嫉妬でおかしくなってしまいそうだ。それなのに。」
怖くてたまらない。京楽に嫌われるのが怖い。拒絶されるのが怖い。親友としての京楽まで失ってしまうかもしれないのが、恐ろしくてたまらない。だから、綺麗な言葉で自分を誤魔化そうとしたのだ。前に踏み出すことを恐れる弱い自分を隠すために、自分に嘘を付こうとした。傷つくことを恐れて自分の感情から逃げようとした。
「俺の知っている京楽は、俺の気持ちに答えられなくても、俺のことを拒絶するような奴じゃないって、どういう形であれ俺の気持ちを受け止めようと一生懸命考えてくれる、優しい奴だって、知ってた筈なのに。」
自分が何を思い何を考えているのか、分からない。
抑制の効かない、矛盾だらけの感情が胸に渦巻いている。そんな自分が怖くて、胸を焦がすこの想いから目を背けようとしたのだ。
それでも、浮竹の心にあるたった一つの真実は変わることはない。暗闇を照らす一筋の光のように、その真実は浮竹の心の中で鮮やかに輝いているのだ。
「あいつが好きで好きでたまらない。」
俺は、京楽に恋している。そう認めると、まるでばらばらになったジグソーパズルのピースが元通りになったかのように、色々な感情が交錯してぐちゃぐちゃになった浮竹の心が晴れていった。
「俺は京楽が好きなんだ。」
心の底から京楽が好きだと、浮竹はそう思った。そして。
「京楽に俺のことを好きになって欲しい。」
好きな人が自分のことを好きになってくれるのは、奇跡みたいなものかもしれない。それでも、何もしないままこの恋に終止符を打ちたくはない。
「ありがとう、海燕。なんだか吹っ切れた気がする。」
そういって浮竹は柔らかく笑った。そこには、迷いの無い瞳でいつも真っ直ぐと前に進む、海燕の、いや十三番隊全ての隊員の敬愛する、浮竹がいた。
*****
「じゃあ、早速京楽隊長のところに行ってきてください。」
「えっっっ!?」
「善は急げって言うじゃないですか。」
「ええええええええええ!?」
02.02.09
ギャグ落ちになってしまった・・・。タイトルのクオリアっていうのは、「心的生活のうち、内観によって知られうる意識の現象的側面(現象的意識)のこと、またはそれを構成する個々の質感のこと」(Wikipediaより)です。
「恋をするってどういうこと?」(What is it like to be in love?) 「恋をしてみなければわからないよ。」(You know what it's like only when you are in love)という会話から発想を得ました。