あれえ、先客がいるのかぁ。
珍しいねえ、こんなところで油を売ってるのなんて僕ぐらいだと思ってたのに。日当たりで気持ちがいいからね、昼寝したくなるのも分かるなあ。
「みゃぁお。」
でも僕もちょっとここで考え事したいんだよねえ。悪いけど、横に座らせてよ。
ごろごろごろごろごろ。
お、ぼくの膝の上で良いのかい?まあ、君の好きなようにしていいよ。
かわいいねえ。いくつぐらいなのかなあ。
あ、いたたたたた。
引っ掻かないでよ、痛いなあ。ごめんごめん。女の子に歳を聞いちゃいけないよね。僕としたことが、失礼しました。
真っ白でふわふわだなあ。眼も翡翠みたいで、綺麗だね。
あ・・・・。
「みゃぁ。」
君、浮竹に似てるよ。
あ、浮竹って言うのは、僕の友達のことだよ。君みたいにさらさらの白い髪で深い森を思わせるような緑の瞳をしているんだ。
もう千年以上一緒にいるかなあ。ほんと僕に愛想をつかないでいてくれるのは浮竹と山じいくらいだよね。
もちろん、僕も浮竹のことを大切に思ってるよ。
誰よりも信頼できるし、なんていうのかなあ、僕の背中を預けてもいいって思った初めての人だったんだよねえ。
「に゛ゃ!」
あははは。僕が溜め息なんかついたからくすぐったかったんだね。
ごめんねぇ。
でも、僕が溜め息なんかつくのにもわけがあるんだよ。
まあ、ちょっと聞いてよ。
なんだか最近浮竹がちょっと元気ないなあ、って思ってたんだよね。他の人は気が付いてないみたいだったけど、ほら、やっぱり僕たち付き合い長いからさ、
お互いの微妙な変化とかすぐに分かっちゃうんだよね。
それに、浮竹って体弱いのにすぐ無理しちゃうから、余計に僕が気を付けなきゃいけないんだよー。
ま、それでさ、さりげなく聞いてみたんだけどね。
そしたら、浮竹はなんだかその話をしたくないみたいでさ。無理強いするのは僕の主義じゃないからさ、その時は深く追求しなかったんだ。
でもね。
やっぱり気になって、さっき雨乾堂に行ってみたんだ。
あ、もちろん内緒でだよ。仕事サボってるのがばれたらリサちゃんが怖いからね。
そしたらさ。
浮竹と海燕君が難しそうな顔して向かい合って座ってるのが簾の隙間から見えたわけ。なんだか僕が聞いちゃあいけない話のような気がしてさ、すぐ帰ろうとしたんだよ。
ほら、お仕事の邪魔したら浮竹に怒られちゃうし、海燕君が浮竹に相談してるのだとしたら僕が聞くべき話ではないしね。
僕は立ち聞きするつもりなんてなかったんだよ。
本当だよ?
「みゃーぅ。」
兎に角、僕が帰ろうと思って踵を返した時にさ、海燕君がなんていったと思う?
一瞬自分の耳を疑ったね。
だって海燕君「浮竹隊長、好きな人が出来たんですね?」なんて言うんだよ?
僕、頭が真っ白になっちゃってさ。
思わず瞬歩で逃げ出してしまって、そのままここまで来たら君に会ったって訳さ。
・・・本当にびっくりしたんだよね。
あ。
そう言えば浮竹の返事聞き逃しちゃったよ。
浮竹何て答えたのかな。
・・・。
浮竹、好きな人なんているのかな。
考えてみたこともなかったなあ。そう言えば、こんなに長く友達やってるのに、浮竹とそういう話したことなかったなあ。
僕の方がいつもどの子が可愛い、とかまた振られちゃったよ、とか浮竹に言ってるばかりで、浮竹は全然そういう方面の話をしないんだよ。
正直、興味がないんだろう、って思ってたんだよね。
浮竹ってさ、誰にでも優しいから特別に好きな人はいないんだろうな、って思ってたんだ。
それに、何となくだけど、浮竹は自分の病気のことがあるから特別な人を作らないようにしてるんじゃないか、って。いつか、後に残すことになるんじゃないか、って怯えてるんだ、って。
まあ、そんなこと言いながら結構長生きしてるんだけどねぇ、僕も浮竹も。
あの浮竹がねえ・・・。
あれ、でもよく考えてみるとひどくない?
どうして浮竹は僕じゃなくて海燕君にそんな話をしてるのさ?浮竹の様子がおかしかったのはきっとそのせいなのに僕が聞いた時は話したくなさそうだったのに!
傷つくなあ・・・。僕ってそんなに頼りないかなあ?
まあ、確かに普段の僕の様子を見てれば、真剣な恋の相談は出来ないっておもったのかもしれないね。
浮竹が恋をしたってことは、きっと浮竹は真剣だってことなんだろうし。
ちょっと、そんな眼で僕を見ないでよ。
それはねぇ、僕は女の子大好きだよ。だってさ、女の子って綺麗で可愛くて、見てるだけでほんわりと幸せな気持ちになるじゃない。それに柔らかいから抱いてるとすごく気持ちいいしね。
うーん、それに僕自分で言うのもなんだけど性欲がありあまってるから、その捌け口みたいなのが必要なんだよ。だから、ちょっと来るもの拒まず、みたいなところはあるけどさ。
・・・なんだか、こうしてみると僕って本当に女性関係にだらしない男のように聞こえるなあ。
これでも、今まで情を交わした女性とは一人一人真剣に付き合ってきたつもりだよ。
でもさ、なんか、どの子も違うんだよね。
皆いい子だったけど、誰も僕の中にある渇きを癒してはくれなかったんだ。だから、一時の欲求のままに抱いても、やっぱりいつかむなしくなっちゃうんだよね。
だから、愛想を尽かして僕から去っていこうとする女の子達を、止める気にはなれないんだよね。
僕って、誰かに恋することなんて出来ないのかもしれないね。
執着心に欠けるからねえ。
どんなことをしても欲しいものってないんだよなあ。
あれ?
寝ちゃったの?
君まで僕に愛想尽かさないでよ。
「みゃぅみゃぅ。」
浮竹の好きな子か・・・。
どんな子なんだろうね。きっと清楚で可憐な子なんだろうなあ。浮竹の隣に立っても釣り合うような、美人じゃないと困るよね。ほら、浮竹ってやっぱり目立つからさ。
まあ、あの髪もそうだけど、なんていうかさ、浮竹ってそこにいるだけで人を惹きつけるんだよね。やっぱり心が綺麗だからかな、輝いて見えるんだよね。
思えば初めて会った時からそうだったなあ。
浮竹と出会ったのは死神統学院に入ってからだったんだ。同じ組でね。
最初は珍しい髪の子がいるなあ、ぐらいにしか思ってなかったんだ。
浮竹は昔から真面目で素直で人気者だったから、僕みたいないい加減な男とは関わりにならない方がいいだろう、って思ってたんだよね。
でも、浮竹は僕と会うたびに、真っ直ぐ僕の眼を見て、本当に嬉しそうに笑ってくれるんだよ。
なんだかさ、それがひどく心地よくて。
気が付くと浮竹と過ごす時間が増えていた。
浮竹と一緒に居るのはすごく楽なんだ。僕は僕のままでいられるんだよ。何の虚飾もいらないんだ。浮竹は素のままの僕を受け入れてくれたから。
それが、本当に嬉しかったんだ。
ああ、でも浮竹に恋人が出来たら、一緒に酒を飲んだり、夜通し語り合ったりすることも出来なくなっちゃうんだろうな。
ああ、それに、浮竹のことだから結婚を前提に付き合うだろうし。ってことは、家とか持ったりするのかなあ。
今までみたいに雨乾堂に寝泊りするんじゃなくて、夜は奥さんのところに帰っていくのだろうな。
それで、子供なんて出来ちゃったらもう僕に構ってる暇なんてないんだろうな。
なんだか、色々考えてたら悲しくなってきた。
浮竹に恋人が出来たら僕、寂しくなるんだろうなあ・・・・
あれ?
なんだか僕、親に置いていかれるのを嫌がる子供みたいじゃない、浮竹に恋人が出来ることを嫌がるなんて。
友達なんだから、ここは喜んで応援するべきでしょ。
でもねぇ・・・。
「みゃー。」
慰めてくれるのかい?優しいね、君は。
よく考えたら浮竹が好きなのは女の子って決まったわけでもないんだよね。僕はどちらかといえば女の子が好きだけど、浮竹はもしかしたら男の方がいいのかもしれないし。
・・・僕、本当に浮竹とこういうこと話したことないんだなあ。なんだか、今まで浮竹の何を見ていたんだろう。自信なくしちゃうなあ。
もし、浮竹の好きな人が男だとしたら、どんな男かねえ。山じいだったりして。
・・・いや、それはないな。自分の冗談で気持ち悪くなってどうするのよ、僕。
ああ、でも浮竹男同士の性交の仕方なんて知ってるのかなあ。そういう方面には無知だからなあ、浮竹は。教えてくれ!なんて僕のところに押しかけてきたらどうし・・・
「み゛ぎゃぁっっっ」
ああっ、ごめんよ。いきなり起き上がったりしてびっくりさせたかい?
でも、僕、今ちょっと、いや、かなり動揺してるんだ。
だって。
今、浮竹を抱くところを想像したら。
すごく興奮した。
・・・。
どうしよう。僕、今、浮竹を抱きたいって思った。
浮竹の好きな人が自分だったらいいって思った。
浮竹のこと、欲しいって思った。
これって。
もしかして。
友達失格だ、僕。
02.02.09
友達失格な京楽さんです。京楽さんは色事に関しては百戦錬磨そうだから意外と観念的なところから入ってみないと自分の気持ちには気付かないのでは、と思って書きました。
猫にはいい迷惑だ。