どうしてこの子はこんなに無防備なのだろう。
組み敷いた浮竹を見下ろしながら京楽は苦々しげに舌打ちした。
惜しみなく愛は奪う
京楽は自身の内にある獣に随分と早くから気付いていた。
そしてその凶暴な獣はこともあろうに浮竹を欲していることも。
純真無垢で穢れというものを知らない浮竹十四郎を欲して、獣は毎夜京楽の身の内で暴れ回る。
飢えた獣は理性と言う名の強固な檻を破り外へ飛び出そうと虎視眈々と狙っている。
自分はいつか浮竹を食い殺してしまう。
京楽はそんな恐怖に常に付き纏われていた。
だから、浮竹を避けていたのだ。
距離を置いたのは浮竹を守るため。
全ては浮竹を傷付けないため。
だがそんな京楽の思いとは裏腹に、浮竹は京楽が必死に作り出した壁をいとも簡単に乗り越えて、まるで食べてくださいと言わんばかりに京楽の前にその身を差し出すのだ。
「僕はね、君みたいなコドモが興味半分で近付いていい男じゃないんだ。迷える子羊を食べようと狙ってる悪い狼なんだよ」
貪るようなキスの後、漸く浮竹を解放すると京楽はそう言い放った。
今にも胸を突き破って浮竹に襲い掛かろうとする獣を、かろうじて残った一かけらの理性で抑え付けながら。
獰猛な衝動が身体中を駆け巡る。
剥き出しの感情を陳腐な台詞で飾り立てる余裕すらない。
追い詰められているくせに、どうしてこんなにまで浮竹を欲しているのだろうかと冷静に観察している自分がいて、自身の内の矛盾に京楽は自嘲せずに入られなかった。
妙に冷めた頭が、身体の中で熱く滾る欲望と対称的だった。
(頼むから僕に君を傷つけさせないでくれ)
それは祈りにも似た思いだった。
「だからこれに懲りてもう僕に関わるのはやめたほうがいい」
震えて掠れた京楽の声に、浮竹の瞳が大きく見開かれた。
心の底から搾り出されたような京楽の言葉に、浮竹は混乱しているようだった。
これで浮竹は自分から逃げていくはずだ。
それでいい、と思いながら京楽は浮竹から身を放そうとした。
しかし―
「俺、お前になら食べられてもいい・・・」
消え入りそうに小さな声だったけれど、それは確かに京楽の耳に届いたのだった。
瞬間、心の中で最後の砦が音を立てて壊れるのが京楽にはわかった。
京楽がどれほど浮竹を傷付けまいとしても、浮竹は自ら蹂躙されることを望むかのように無防備に京楽に近付くのだ。
それならば、もうどうにでもなればいい。
浮竹に嫌われても、傷付けても構わない。
「痛い目を見ないとわからないみたいだね」
無表情に呟かれた言葉は、けれどひどく冷たい響きを含んでいて、浮竹の身体はびくりと震えた。
「きょうら」
「うるさいよ」
何か言おうとする浮竹を無視して、京楽は浮竹の袴を無造作に脱がし始めた。
「京楽!」
驚いて抵抗しようとする浮竹を忌々しそうに一瞥し、片手で浮竹の手を掴み頭上に縫いとめると京楽は残酷に言い放った。
「僕になら食べられてもいいんでしょ。抵抗しないでよ」
「でも・・・!」
「君がいけないんだからね。僕はずっと我慢していたのに。君が僕の中に入ってこようとするからいけないんだ」
下を全て剥ぎ取ると、浮竹の透き通るように白い肌が現れた。
初めて与えられた快楽に感じていたのか、浮竹の下半身は既に濡れそぼっている。
「さっきのキスだけで、もうこんなに?」
「・・・!」
「ぐちゃぐちゃだ」
京楽の揶揄するような言葉に、浮竹はかっと頬を赤くして唇を噛んだ。
怯えて許しを乞うように見上げる浮竹の瞳さえもが京楽の嗜虐心をそそる。
猛る京楽自身を取り出すと、そっと入り口にあてがった。
「力を抜いた方が痛みは少ないから」
「え・・・?や・・・あああああ!!」
慣らされていない浮竹の入り口はやはりきつく、強硬に京楽の侵入を拒む。
痛みに悲鳴を上げる浮竹に構わず京楽は無理矢理浮竹の中に押し入った。
「っ・・・!きついね。やっぱり初めてなんだ」
「京楽!やめ・・・っ!いやあ!」
ひときわ高く声を上げると、あまりの激痛に浮竹は意識を失ってしまった。
それでも京楽は狭い浮竹の中を犯し、力無くぐったりとした身体を揺さぶり続けた。
「・・・くぅっっ・・・!」
浮竹の中に精を吐き出した瞬間京楽を襲ったのは、どうしようもない虚しさだけだった。
****
「・・・ん・・・」
「気が付いた?」
目を覚ました浮竹の視界に最初に入ってきたのは、無表情に浮竹を見下ろす京楽の姿だった。
「京楽・・・!痛っっ!」
思わず身体を起こそうとした浮竹を激痛が襲う。
無理矢理侵された場所だけでなく身体中を走る痛みに、浮竹の身体は崩れ落ちた。
「まだ動かない方がいいよ」
やはり無表情に紡がれた京楽の言葉は、抑揚の無い感情の読み取りにくいものだった。
「怒ってるのか・・・?」
おそるおそるそう呟いた浮竹に、京楽の瞳が驚きに見開かれる。
「・・・どうして君がそんな顔をするのさ。ひどいことしたのは僕の方なんだよ」
謝るべきなのは自分なのに、どうして浮竹が叱られた子供のような表情をしているのか京楽には理解できなかった。
最低な男だと浮竹に罵れられても仕方がないことをしたと京楽は自覚していた。だからこそ全く京楽を責める様子の無い浮竹に困惑を隠せなかった。
「でも・・・俺はお前になら何をされてもいいと思った・・・でもお前にとってそれが迷惑だったんだろう?だから怒っていたんじゃないのか?」
痛みを堪えながらゆっくりと身を起こすと浮竹は真っ直ぐ京楽の目を見てそう言った。
そのどこまでも澄んだ瞳に、京楽は自分が思わず息を飲むのが分かった。
「浮竹・・・君って子は・・・」
どこまでも純粋で、決して穢れることの無い存在。
最初から京楽が浮竹を傷付ける事など出来なかったのだ。
無理矢理その身体を開いても
ひどい言葉を浴びせても
浮竹は真っ白なまま決して変わることはない。
そして、いじらしいほど真っ直ぐに京楽だけを求めるのだ。
これ程までに尊い存在を、どうして手放すことが出来るだろう。
これ程までに自分を想う存在を、どうして拒絶できるだろう。
「浮竹・・・君はもう僕のものだから。他の人とこんなことしちゃ駄目だからね」
そう言って京楽は浮竹をそっと抱き締めた。
胸の獣が浮竹を手に入れた喜びに打ち震える。
檻から解き放たれた獣は、もう誰にも制御できない。
「京楽・・・」
「分かったら言ってごらん」
浮竹を京楽だけのものにするために、ゆっくりと言葉の枷を掛けていく。
「俺は・・・京楽のもの・・・」
「僕のこと、好きって言って」
浮竹が京楽だけを見るように。
京楽無しには生きていけないように。
「・・・京楽が好きだ」
「いい子だね、浮竹」
ようやく獲物を捕らえた獣は、満足げに喉を鳴らしたのだった。
22.05.09
ごめんなさいとしか言いようがありません・・・私にはエロは無理だorz
鬼畜な京楽さんと言うよりも病んでる京楽さんになってしまいました(汗)
浮竹さんがなんだかお花ちゃんというか、京楽さんのことが好きで好きでたまらない人になってしまいました(<いつものことだ)。
浮竹さんのファンの方、ごめんなさいm(_ _)m