ステージ上に設置されている大時計をチラチラと横目で見ながら舌打ちをする。
秒針の動きと共に俺の苛立ちが募って行くのが分かるがどうしようもない。
俺がストレスで倒れたら全部お前のせいだからな!と今はここにいない春水に向かって心の中で悪態を付くが、勿論そんなことで気が収まるわけもなく。
一体春水はどこに行ったんだ、と俺はもう何度目になるか分からない問いを繰り返したのだった。
*
そもそも俺がここにいるのは、昨日突然春水が「ねぇ、十四郎~現世の大晦日パーティーってのに行ってみない?」と誘ったからだ。
ちなみに「ここ」とは西洋のある都市にある大広間のことである。
何でも大晦日の夜に仮装パーティを開いて、大勢の人間と一緒に新年を祝うという趣向らしい。
ただ、祝い方が変わっている。
日付が変わる瞬間に照明が落とされ、隣にいる者と新年最初のキスをすることで新しい年の始まり祝うのだ。
それはいい。
それは構わないさ。
どうせいつも春水と年を越すんだ。それに雨乾堂にいればキスよりももっと・・・いやいや、何を考えてるんだ、俺は!
兎に角、たまには違う場所で春水と大晦日を過ごすのも悪くないと思ったんだ。
それに、正直に言えば「仮装パーティー」って奴にも興味があった。
現世の服には変わったものが多いが、このパーティーに集まっている人間の衣服は今まで俺が見たことも無いようなものだ。
(古代ギリシャやローマの服や、中世ヨーロッパの軍服なんかは俺でもかろうじて分かるが、中には全身黒尽くめでしかも変なヘルメットまで被っている者もいる。それにあの赤と青の全身タイツみたいなのは何なんだ?)
それに、おいしい料理やお酒も沢山で、春水も俺も人間達に混じってこの大晦日のパーティーを楽しんでいたんだ。
そう、つい5分前までは。
新年まであと10分という時になって、春水がシャンパンを取りに俺の傍を離れた。
そしてそのままどこかへ行ってしまったのだ!!!
もう後5分で深夜0時だというのに、春水の姿はどこにも見えない。
すぐに戻ってくると言ったのに一体あいつはどこへ行ったんだ!
俺達は今義骸に入っているから霊圧で居場所を探ることも上手くいかない。
それに人込みに一人でいるのはひどく疲れるのだ。
しかも更に俺を苛立たせることに、さっきから(多分)不思議の国のアリスに出てくる女王の格好をした女性が俺に話しかけてくる。
何とか適当に話を終わらせてこの場を立ち去りたいけれど、春水が戻ってきたら困ると思って動くことが出来ない。それに、このまま話の腰を折ったらこの女性に恥をかかせてしまうかもしれないから気が引けるのだ。
一体俺はどうすればいい?
そうこうしている内に、新年まで後1分となる。
ステージに立つ司会らしい男がマイク片手に何か喋り始めた。
広間にいる全員の視線が、一斉に時計に注がれる。
カウントダウンの始まりだ。
――――10、9、8・・・・・・
もう時間が無い。
春水の馬鹿野郎、と呟くと、俺はそっと出口に向かおうとした。
――――5、4・・・・・・
照明が落ちて、辺りは暗闇に包まれる。
不意に誰かが俺の腕を掴んだ。
――――3、2・・・・・・
ふわりと俺の元に漂ってきたのは、春水の香の匂いだった。
――――1・・・・・・
「Happy New Year、十四郎」
春水の唇が触れるのと同時に、12時の鐘が鳴った。
――――Happy New Year!!!!!
再びライトが点いて、天井から沢山の風船が降り注いでくる。
大勢の歓声に紛れて、遠くで花火が上がる音が聞こえた。
長い長いキスの後、やっと唇が離れて春水の笑顔が目に入る。
悪戯が成功した子供のような表情に、俺は呆れて「・・・・・・まさか、これを狙ってわざと遅れたんじゃないだろうな」と思わず尋ねてしまった。
「違うよ~人が多すぎてなかなか戻って来られなかっただけだって」と春水は言うものの、どこまで信用していいものやら。
「それが本当なら、ぎりぎり新年に間に合ったのは褒めてやってもいいか」
「十四郎のためなら、どこにいたって何があったって、絶対に遅刻なんてしやしないさ」
そう言って、にやりと笑う春水が格好よくて、俺の意に反して勝手に顔が熱くなってしまう。
「新しい年になっても相変わらずだな、お前は」
「そうだね。新年になっても相変わらず僕は十四郎に夢中だよ」
「・・・・・・言ってろ」
照れ隠しに春水の首に腕を回すと、「Happy New Year」と囁いた。
「今年もよろしくね」と呟いた春水に、俺はもう一度唇を重ねることで応えたのだった。
19.02.10
テーマは「お正月」でした。むしろ大晦日って感じですね^^;
京浮の二人はどんな仮装をしていったのでしょうか?