え?ヴァレンタインにまつわる思い出?どうしたんだい突然。
ああ成る程ね。僕は女の子からもらえるものはなんだって嬉しいよ。甘いものはあまり得意じゃないけど、気持ちがこもっているものは何だって嬉しいさ。
市丸隊長だって、松本くんからなら何だって喜んで受け取ると思うよ。
え、違うの?
ああ、浮竹とのことかい。
ううん、チョコのやり取りみたいなのはないけど、確かに2月14日は特別な日だねえ。
ええ、聞いても面白くない話だよ。
それにヴァレンタインとは何の関係もないし。
うぅん、そこまで言うなら仕方ないなあ。
後で文句を言っても知らないよ。
松本くんは知らないかもしれないけれど、そもそもヴァレンタインデーって現世でもソウルソサエティでも、ついここ200年ぐらいのイベントなんだよね。
現世で流行りだしたのを、女の子達が聞きつけてね。折角だからソウルソサエティでも同じことをしようってことになったらしいよ。
もともとはイギリスが発祥の地だったかなあ。
2月14日がローマ時代は愛の神様の祭日だったのが、キリスト教の聖ヴァレンタインっていう人の死んだ人同じだってことで・・・
あれ、聖ヴァレンタインって何した人だっけ?
いや、実は僕もよく知らないんだよ。
現世の流行り廃りは移り変わりが速いからねえ、勉強するのが大変さ。
ひどいなあ、親父臭いだなんて言わないでよ。
傷つくなあ…。
ええと、なんだっけ。
ああ、そうそう。だからね、ヴァレンタインデーって今とは少し趣が違っていてね。
その頃はチョコレートを贈る習慣が無くて、その代わりに恋文や花を好きな人に贈るのが主流だったかな。
勿論、女の子達の間で流行り始めたことだから、僕は何にも知らなくてね。
2月14日の意味なんて全然気にも留めてなかったんだよね。
なんだかその日はいつもより女性からの手紙が多いなあ位にしか思っていなかったんだよ。
まあそんな時かな。
その日―2月14日に―浮竹が僕の隊首室を訪ねてきたんだ。
散歩から帰って来たら浮竹が待ってる、って言われたからさ、急いで部屋に向かったんだよ。
その頃僕は浮竹に片思いしててね。
随分と前から好きだったんだけどなかなか告白できなくて、友達のままずるずる来ちゃってたんだ。
だから、恥ずかしい話だけど、浮竹が僕に会いに来てくれたって聞いてちょっと舞い上がっちゃってたんだよね。
でも僕が廊下を歩いてたらさ、突然僕の部屋の戸ががらって開いて、浮竹がものすごい速さで出ていっちゃったんだよね。
びっくりしたねえ、あの時は。
何か僕の部屋で起こったのかと思って急いで部屋に入ったんだけど、火鉢に火が入っていただけで、そこは出掛けた時と何も変わってないんだよ。
うん、僕もそう思ったんだけど、浮竹なら急用を思い出したことを誰かに告げてから出て行くでしょ。
だから僕も訳が分からなくてさ。
どうしようかと思案しながら火鉢をかき回してたらさ、不意に紙切れみたいなのが燃えてるのが目に入ったんだよね。
よく見てみると千切られた紙が火鉢の中で燃えているのさ。
もう殆どが灰になってたんだけどね、ひとつだけまだ何とか形が残っているのがあったから何気なく取り出してみたんだ。
…もったいぶってなんかないよ、ちょっとその時を思い出してただけで。
別にすごいことが書かれてたわけじゃないよ。
ただ「好きです」って。
うん、偶然にしてはすごいよね、その部分だけは焼け残ってるなんてさ。
すぐに浮竹の字だって分かったよ。
それからこれが浮竹が誰かに宛てた恋文だってことも。
頭の中がかあっとなってね。
嫉妬で目の前が真っ赤になっちゃってね。
え、らしくないって?
いやあ、浮竹のことになると感情的になっちゃうんだよね、僕。
だからさ、そのまま後先考えずに雨乾堂に飛んでいっちゃったんだよね。
うん、それでね。
恥ずかしいんだけどさぁ。
突然入ってきた僕に驚いている浮竹に向かって、僕なら絶対に浮竹を幸せにしてみせる、君の気持ちを受け入れない奴のことなんて忘れてしまえ、って叫んじゃったんだよ。
…笑わないでよ、松本くん。
熱烈な愛の告白だって?
うん、わかってるよ。
ああもう、恥ずかしいなあ。
それでどうなったのかって?
そりゃあ今の僕と浮竹があるのはそのおかげだからねえ、皆まで言わなくてもわかるでしょ。
うん、あの恋文は僕に宛てたものだったんだって。
じゃあどうして燃やしたのかって?
なんでもね、浮竹はあの日僕に手紙を渡すために部屋で待っている間に、文机の横で山を作っている僕宛の恋文を、悪いとは思いながら読んじゃったんだって。
それで、そこに込められている沢山の女の子の思いを目の当たりにして、とても自分は敵わない、って悲観したんだってさ。
手紙と一緒に自分の思いも燃やしてしまうつもりだったらしい。
うん、そうだね。
本当にあの偶然がなかったら、僕たちの恋は始まる前に終わってたかもしれないね。
え?
はは、それはいいねえ。
愛の神様か聖ヴァレンタインの起こしてくれた奇跡か。
じゃあ浮竹との仲を取り持ってくれたお礼にチョコレートでも供えないとね。
14.02.09
Happy St. Valentine's Day!ってことで。
ひそかにギンx乱菊だったりもします。どうして私の書く京浮はメルヘンなのでしょうか。
思いつきだけで書いたので、なんだか意味がわからないところもありますがそこは目をつぶって下さい(泣)
2月14日は家庭と結婚の女神ユノの祭日だったそうです。聖ヴァレンタインはローマ兵士の結婚を執り行ったとか。