Q.過去付き合った人は何人いますか?
「…なんだこの質問。」
思わずそんな言葉が漏れた。
死神代行とその仲間達の特集を組みたいから協力して欲しいと女性死神協会に頼まれ、戦いの後の興奮も冷めやらぬまま深く考えずに了承してしまったことを黒崎一護は今更ながらに後悔した。
ただアンケートに答えるだけでいいという松本乱菊の言葉を素直に信じた自分を責めても後の祭りである。
「だから僕は嫌だったんだ。大体僕は滅却師なんだから、黒崎と違って個人的な質問に答える義務はないはずだろう。」
「それを言うなら、俺も死神ではないから答えなくてもいいのだろうか?」
「何言ってんだ、チャド、石田!お前らだけ逃げようったってそうはいかねえぜ。大体乱菊さんがそんなこと許すわけねーだろ。」
「「う…。」」
乱菊の名が出ると石田もチャドも黙るしかない。なんだかんだいって二人とも乱菊が怖いのである。
三人揃って四番隊の救護室で青くなっている姿はかなり格好悪く、とてもつい先日まで瀞霊廷を騒がせた旅禍とは思えない。
「なーにやってんだおめえら?」
と、そこへやって来たのは恋次、一角、弓親の三人である。
「なんだぁ?過去に付き合った人の数?なんだよこれ、アンケートか?」
「乱菊さんに頼まれたんだけどよお。っていうかこんなこと聞いてどうするんだよ。死神の仕事と何の関係があるんだよ。」
「女性死神協会の考えることはわかんねえからなあ・・・。」
どこか遠い目をしてそう呟く恋次に一護達はなんとなく男性死神協会と女性死神協会の力関係を垣間見た気がして、ますます不安になった。
「僕達、どうしても答えなきゃいけないのかな…。」
「乱菊さんにぼこぼこにされたくなかったら、他に選択肢は無いみてえだ…あ~~~俺の馬鹿!どうして安請け合いしたんだ!」
「なんだあ一護、お前もしかして女と付き合ったことないのかよ?」
「うっせえ一角!大体俺はまだ15歳なんだ!そっちの経験がなくて当たり前だろう!」
「いや、15歳でも恋愛経験が豊富な奴は多いだろう。水色とか。」
「水色は特別なんだよ、チャド。あんな奴が大勢いたらいい迷惑だ。それになぁ、一角。
俺たちのことよりお前はどうなんだよ。お前俺たちの何倍も生きてんだろう。今まで何人と付き合ったんだよ?」
「ああ?俺か?俺は戦いに忙しくて女になんか構ってられねえよ。」
「んなこと言って、はげてるからもてないだけなんじゃねーの?」
「俺ははげじゃねー!スキンヘッドだ!剃ってるんだよ!お前知ってて言ってんだろう!」
「まあまあ、黒埼も斑目くんも落ち着いて。でも確かに黒崎の言うとおり僕たちはまだ若いんだから付き合った女性の数なんて質問は的外れだろうな。
そもそも僕は子供の頃から滅却師の修行に明け暮れていたから女性と付き合うなんて考えたこともなかったしね。勿論、何度か告白はされたけど。」
「ホンとかよそれ…お前カッコつけたくて言ってんじゃないのか?」
「し、失礼だな!本当のことだよ!そういう阿散井くんはどうなんだい?」
「俺か?俺は子供の頃は戌吊で生きてくので精一杯だったし、死神になってからは強くなるのに必死でとてもじゃねぇが恋愛なんてしてる暇なかったぜ。
女といえばルキアくらいしか周りにいなかったしな。」
「ルキアは幼馴染で彼女じゃねえだろ。幼馴染が彼女の範疇に入るんだったらたつきが俺の彼女になっちまう。」
「そ、そうか…。そういえば弓親さんはどうなんですか?」
「僕は自分より美しい女性とじゃなければ付き合えないね。ま、僕より美しい人なんていないけど。」
(ナルシストだから自分以外愛せないだけだろ!!)
と全員が心の中で突っ込みを入れたのは言うまでもない。
「さ、茶渡くんはどうなんだい?」
「俺は子供の頃から引越してばかりだったから、そう言う方面には縁がない。それにこの図体だから大抵の女は怖がって逃げる。」
「っんだよー!どいつもこいつもモテねえ奴ばっかじゃねえか。」
わかってはいたことだがいざ目の前に突きつけられるとなかなか寂しい現実である。
次の言葉が見つからず、皆が黙ってしまうと、なんとなく重い空気が6人の間に流れた。それが余計に皆の気分を暗いものにする。
「おやあ、お揃いで何してるんだい?」
そんな重苦しい空気の中にふらりとやってきたのは八番隊隊長京楽春水である。
「「「「「「京楽隊長(さん)!!!!」」」」」」
「京楽隊長どうしてここへ?具合でも悪いんですか?!」
「そんなに驚かなくてもいいでしょ、阿散井くん。僕は浮竹の薬をもらいに来ただけだよ。」
「え?浮竹さん具合悪いの?」
「浮竹は幼い頃から肺を患ってるんだよ。ルキアちゃんから聞いてないのかい、一護くん?」
「ええ!?聞いてないですよ。知らなかったぜ。あれ、でもどうして京楽さんが浮竹さんの薬を取りに来るんですか?」
「馬鹿野郎、京楽隊長と浮竹隊長は二千年来の親友なんだぞ!」
「に、二千年!?」
「そうだよー。」
「浮竹さん真面目で固そうなのに…」
「何を言うんだい、僕だっていつも真面目だよー。」
「いやそんなことはないだろう。初対面の敵であるはずの俺に飲もうと誘ったくらいだから。」
「いやああの時は戦いたくなかっただけだよぉ。」
普段は真面目だよぉと言ってへらへらしている京楽に全員が「嘘だ!!!」と心の中で叫んだ。
「それで皆揃って何してるんだい?」
「え、あ、いやあ、俺たち女にもてないなって話です。」
「黒崎、僕を君達と一緒にしないでくれ!」
「一人だけいいかっこしようとすんじゃねーよ石田!」
言い争う一護と石田を無視してチャドは京楽に尋ねた。
「京楽さんはどうなんだ?」
「僕かい?うーん、どうだろうねえ。確かに若い頃は気が付けばいつも誰かと付き合ってけどねえ。」
やっぱりもてる男は何もしなくてももてるのか!なんてこの世は不公平なんだ!
やっぱり顔か!?それとも金なのか!?どうしてこんなだらしのない男がもてるんだ!女ってのは分けわかんねえ生き物だな、おい!
という一護達の心の叫びを綺麗さっぱり無視して京楽は言葉を続ける。
「まあ僕は女の子好きだから、告白されれば断らなかったし、まあでも今はそんなにもてるわけではないよ。どちらかというと浮竹の方がもてるんじゃないかなあ。
十三番隊は浮竹のファンクラブみたいなものだし、老若男女問わず人気があるからね、浮竹は。」
「確かに十三番隊隊士の浮竹隊長への心酔ぶりは有名ですね。うちの隊長も浮竹隊長みたいに気さくだったら俺もやりやすいんですけど。」
「白哉は無理だろう…。」
「あれ、でも京楽さんも浮竹さんも結婚されてないんですよね?」
石田がふと思いついて訪ねた問いに、恋次、一角、弓親の三人の動きが止まった。
京楽と浮竹に恋人がいないようだというのは護廷十三隊の中でも知れ渡っている。
だが、死神たちが本当に知りたいのは果たして京楽と浮竹が本当にただの親友なのかと言うことなのだ。京楽の女好きは有名だがそれにしては決まった人がいるという噂はない。
浮竹は誰にでも人当たりがよく皆に敬愛されてはいるが、それでも友人と呼べるような関係なのは京楽しかいないようだ。
それに何より二人の仲が良過ぎるのだ。いつでもどこでも一緒にいる上に、一緒にいなくても同じような行動をとるのである(バウントや天貝編の時は特にそうだった・・・)。以心伝心かよ!つーかーの仲なのか!と思わず突っ込みを入れたくなるほど仲がよいのである。
しかし直接本当のところを問い質す勇気のあるものがいないため、京楽と浮竹の関係については未だに謎のままなのである。
「そうだよ。僕も浮竹も結婚してないよ。」
「でもそれだけもててるのに二人とも恋人はいないんですか?」
(((えらい!一護!よくぞ聞いてくれた!!!!!!!!!)))
死神達は心の中で喝采をあげた。
今こそ長年の疑問に答えが与えられる時が来たのだ!
耳を皿のようにして恋次達は京楽の答えを待った。
「うーん、いることはいるけど、一応内緒なんだよね。でも一護くん達にはお世話になったから教えてもいいかなあ。」
(((もったいぶってないで早く教えてくれ!!!!)))
「実はね、僕と浮竹って恋人同士でもあるんだ。」
やっぱり!!!
と心の中でガッツポーズをしている死神三人とは対照的なのが現世組である。
同性同士でそういう関係になることがあるのは知っていたし、今更それに対しての偏見もない。しかし三人が思ったことは一つ。
(((浮竹さん、あんたどんだけ趣味悪いんだ!!!!!)))
そもそも京楽と浮竹が親友だというのでも意外だったのに、実は恋人同士でもあるという。
清廉潔白を絵に描いたような浮竹がどうしてこの派手な格好をしたやる気のなさそうな不真面目な男を好いているのか、一護達にはさっぱりわからなかった。
「あ、でもこのことは内緒にしておいてね。僕は別に知られてもいいんだけど、浮竹は恥ずかしいから隠しておきたいって言うんだ。」
(((あれで隠してるつもりだったのか!?二人が恋人同士だってことよりもそっちの方がびっくりだ!!)))
「いやあ、まあ阿散井君達も知っての通り、あんまり隠せてはないんだけどね。」
「は、はあ…。まあ、確かにお二人の仲が良いのは有名ですからね。今更特に驚きはしませんが。」
「はは、そうだろうねえ。ま、でも一応浮竹のために知らない振りしてやってよ。」
「はあ、わかりました…。それにしても二千年以上も親友で恋人同士って言うのはすごいですね。」
「いやあ、恋人同士になったのはずっと後のことだよ。何百年もかけて口説き落としたからね。」
「「「「「「何百年…桁が違うんですね…。」」」」」」
「でもね、これだけ長い付き合いだと親友とか恋人っていう名前は関係ない気がするんだよね。もうお互いの良いところも悪いところも隅からすみまで知り尽くしてるわけだし、今更喧嘩して絶交とかもありえないしね。親友でも恋人でも大した違いないんじゃないかなあ、なんて思ってるんだよね。」
じゃ、浮竹が待っているから僕は行くね、と言って去っていく京楽の後姿を6人は見送った。
「しっかし、京楽さんと浮竹さんが付き合ってるなんて意外だったぜ。二千年も友達でいるなんてどういうことなのか人間の俺にはわからないけど、それだけ長く誰かと付き合ってたら別に名前なんかどーでもよくなるものなのかもしれないな。」
「って、何騙されてるんだ、黒崎!友達と恋人の違いがどうでも言い分けないだろう!!!恋人には恋人にしかしないことってものがあるだろう!?」
「な、何言ってんだ、石田?」
「~~~ああもう本当に鈍いなあ君は!」
「何だよ!?何言ってんだかわかんねえよ!」
普通、友達とはセックスしないだろう、
とは、一護と石田のやり取りを見ながら4人が思ったことである。
「もしかしたら浮竹さんはああやって京楽さんに言い包められたんだろうか。」
そんなチャドの問いに、まさかとは思う3人の死神達だったが、やっぱり本人達に問い質す勇気のあるものはいないのだった。
21.03.09
お笑いを書くのは難しいですね(泣)
多分浮竹は京楽にほだされちゃったんだろうな。この話の京楽は策士のようだし。
京浮以外のキャラを書きたかったのに、なんだか話し方がわからなかったので皆微妙に性格が違うかも…。
それにしても一護達ってまだ15,6なんですよね。若いのに大変だ…。