「志波副隊長!ご覧になりましたか!」
虎徹清音第五席が勢いこんで聞いてきたとき
海燕は実に嫌な予感に襲われた。
「・・・・なんだ?」
それでもそう返してしまったのは、
生来の面倒見のよさが災いしているとしか思いようがない。
そして
「浮竹隊長ですよ!
さっきお茶をお持ちしたら、ですね・・・
なんと!
レースのベールを被って仕事をしてらしたんです!」
嫌な予感ほど当たるものである。
「レースのベール・・・」
「はい。どうも仕事に熱中するあまりに
ご自分がそれをつけてらっしゃる事を失念されていらしたそうです」
とりあえず、ヨカッタと胸を撫で下ろす。
アレが気に入っていて始終つけていたいと隊長がいうのなら
それを止めることは難しい。
一旦決めたことには案外頑固な人なのだ。
すると、
そこから連想される事柄が海燕の脳裏に浮かぶ機会はうなぎのぼりに・・・
あ、まずい、想像するな、俺!
「もう! なんていうか!
あれに似てらっしゃいますよね、えーと・・」
「・・・・」
「そう! 花嫁さん!じゃなかったら聖母マリア様!」
「・・・・」
そうだった、神の子の御母堂はマリアという名前だ。
ああ、やっぱりそう見えるのか。
自分だけじゃなかった、よかった、とはたして喜んでいいものか。
「『どうしたんですか?』とお聞きしたら、慌てて外されて。
京楽隊長のプレゼントだとおっしゃってました。
さすが京楽隊長。
浮竹隊長に似合うものを見繕われるのがお上手です!
あれ、高そうですよね?」
ここで海燕は目を瞠った。
そうか、清音は賢明にも「まさか手作りじゃ・・」なんて聞かなかったのだ。
すると。
抑えられない衝動が。海燕を襲った。
・・・は、話したい!
アレは京楽隊長自ら編んだものであることを。
あの身長190超の大男が。
レース編み。
そもそもひとりで抱え込んでるからいけないのだ。
さらっと口にして「えぇ!」と相手に驚いてもらえば
たいした事じゃなくなるんじゃないのか。
「清音。実はな、」
「はい?」
ここでまたマズイことに気がついた。
もしもだ、
清音が
「うわぁ、すごいですね、あんな緻密なレース編みを?
浮竹隊長のために? ・・・愛の力って偉大ですね!」
なんてリアクションだったらどうだろう?
・・・間違いなく自分は余計なダメージをくらうだろう。
そしてそれは杞憂だとは思われなかった。
その光景がリアルに浮かんでくる。
「・・・いや、何でもねぇ。行ってよし」
「・・・? はい」
その背中を見送って海燕はひとつため息をついた。
怖いものを怖いままにしておくのは性にあわない。
想像だけだからかえって膨らんでいっているだけで
実物を見たら案外拍子ぬけすることだって。
八番隊隊舎に向かった海燕が
浅はかな考えだったと後悔の意味をかみ締めたのは
このすぐ後のことだった。