テーマ 片耳難聴
問題意識
現在、身体障害や知的障害など多くの障害についての研究が行われているが、その障害による特性や、障害によって障害者たちが体験する社会的不利は人によって実に様々である。障害の種類によって、当事者の身体的・心理的ストレスを簡単にはかることはできない。
しかし、一見して健常者に見える障害は他者からの理解が得られにくくなることがある。「一側性難聴(片耳難聴)」もそのような障害の一つである。一側性難聴は、見た目は健常者と同じであり、日常生活においても騒音のない場所であれば問題なく聞き取りができる一方で、騒音のある環境においての聞き取り能力が健常者と比べて低い。周囲の環境によって困難度が変わる障害であることに加え、可視的ではなく見た目では判断できないため、障害について社会的理解が得られにくいことがある。
このような一側性難聴者たちはどのように障害を受け止めているのか、当事者へのインタヴューをもとに調査していきたい。
基本概念
一側性難聴(片耳難聴)
一側に明らかな聴力障害があり、反対側の聴力障害を伴わないものを指す。1987年に行われた調査によると、一側性難聴の出現率は約0.2%とされている。2005年に厚生労働省が行った患者調査によると、国内の一側性難聴者は約8000人と推定されているが、本人の自覚がない場合や受診後、放置してしまう場合もあるため、8000人よりも圧倒的に多いのではないかと考えられる。(岡野他,2009)
難聴耳側からや、騒音時の聞き取る能力の低下、音源の方向を特定する能力の低下などが主な症状である。片耳難聴とも呼ばれる。
調査
きこいろ
2019年1月に活動を始め、同年の夏に任意団体化した日本で初めての一側性難聴の当事者団体。一側性難聴への理解促進のための記事の掲載や、「片耳難聴レクチャー」「片耳難聴cafe」という一側性難聴者およびその家族向けの、悩みや孤独感の解消を目的としたイベントの開催、一側性難聴者の自己表明および他者への理解促進のためのオリジナルマークの作成など、様々な活動を行っている。
【きこいろの活動ビジョン(きこいろHPより)】
近年「片耳難聴だからこそ」の悩みがあることが分かってきましたが、これまでは片耳難聴者へのサポートはほとんどなく、多くの片耳難聴者はそれぞれに難聴に関連する悩みや問題に対応してきました。
そこで、片耳難聴を持つ人がふと困ったときに立ち寄る場となり、より豊かな暮らしを送れるよう、きこいろは発足しました。
また、当事者のニーズと専門的エビデンスに基づく活動により、一般社会と難聴者をつなぐハブとしての役割を果たしたいと考えています。
調査対象者:麻野 美和さん
きこいろ事務局担当。きこいろ発足にあたっての最初の発案者であり、一側性難聴の当事者でもある。障害による人間関係のストレスに悩んだことをきっかけに、一側性難聴者にとって悩みを共有できる相手がいないことや必要な情報が得られない現状を変えられないのか?という思いを抱えた。のち、きこいろの代表であり言語聴覚士の岡野由実さんと共にきこいろの活動を開始。以下、HPより抜粋した、麻野さんの簡単なプロフィール。
精神保健福祉士。1991年生まれ。千葉県出身、宮城県在住。立教大学コミュニティ福祉学部福祉学科卒。障害福祉事業所での生活相談支援、学校での特別支援、高齢者福祉施設での現場経験などを経て、現在は、地域支援員として働く。10歳の頃にムンプス難聴の疑いで片耳失聴。
参考(きこいろ系)
・きこいろHP
きこいろ - 片耳難聴の情報・コミュニティサイト (kikoiro.com)
・第三回活動報告会資料(6/18) きこいろについて詳細いろいろ
活動報告会事前配布用_きこいろ2021年度.pptx - Google スライド
・NHKインタヴュー
ろうを生きる 難聴を生きる▽“片耳難聴”当事者グループ「きこいろ」※字幕 | NHK ろうを生きる難聴を生きる
・フォナック インタヴュー
第一回 岡野さん・きこいろについて
フォナック × きこいろ コラボ企画「知ってください片耳難聴」第1回 | きこえのブログ by フォナック (kikoeblog.jp)
第二回 プロジェクトメンバーについて・きこいろの今後
フォナック × きこいろ コラボ企画「知ってください片耳難聴」第2回 | きこえのブログ by フォナック (kikoeblog.jp)
第三回 コロナで変わったこと・補聴器
フォナック × きこいろ コラボ企画「知ってください片耳難聴」第3回 | きこえのブログ by フォナック (kikoeblog.jp)
・きこいろ初期企画案
外部公開NG、データや企画案など
・座談会内容 メンバー加入(麻野さん、高木さん、岡本さん、永田さん)
きこいろ・座談会内容20220617.docx - Google ドキュメント
▼WEB記事内「きこいろの由来」 麻野さんが執筆したもので大切にしていることです。
https://kikoiro.com/about/origin/
▼「オリジナルマーク」
かなり迷いながら制作し、長期的・複数の視点で考えるといった大切にしている要素が込められる
https://kikoiro.com/result-of-mark1/
<goog_425308835>
https://kikoiro.com/wellbeing-mark/
▼「コラボ交流会」イベントレポ
麻野さんの想いを込めてる
https://kikoiro.com/apd_ssd_cafe/
https://kikoiro.com/report-co-cafe2/
▼「仕事」について話した時の抜粋メモ
https://docs.google.com/document/d/1MmR2sUL4XORdcg24OULOHLTnQCcGYdzciT8CMznKW4E/edit?usp=sharing
人工内耳
【歴史】加茂2018 ja (jst.go.jp)
1957 フランス 世界最初の人工内耳
1980 日本で最初の人工内耳、モールス信号のようなもので読話の助けになる程度
1985 国内初の手術成功
1991 高度先進医療として承認
1994 保険適応
2007 小児2歳~
2014 小児1歳~
文献リスト
【軽度障害・一側性難聴】
・秋風千惠,2013,「軽度障害の社会学―『異化&統合』をめざして―」,ハーベスト社
・岡野由実,原島恒夫,堅田明義,2009,「一側性難聴者の日常生活における聞こえの問題と心理的側面についての調査―ソーシャルネットワーキングサービスを利用して―」, Audiology Japan,52(4),195-203
・岡野由実,廣田栄子,2014,「一側性難聴者における難聴の自覚と障害認識の経緯に関する検討」,Audiology Japan,57(5),373-374
・岡野由実,廣田栄子,2015,「一側性難聴成人の聞こえの障害と心理的機制に関する検討」,Audiology Japan,58(5),449-450
・岡野由実,2018,「一側性難聴児支援と家族への助言: 診断期から青年期を展望して 」,Pediatric Otorhinolaryngology Japan 39 (3),,270-274
・岡野由実他,2021,「一側性難聴者における社会的支援のニーズに関する調査 」,Audiology Japan Vol. 64, No. 5
【障害学・障害者運動】
・石川准,長瀬修,1999,「障害学への招待—社会、文化、ディスアビリティ」,明石書店
・石川准,倉本智明,2002,「障害学の主張」,明石書店
・伊藤智樹,2013,「ピアサポートの社会学—ALS、認知症介護、依存症、自死遺児、犯罪被害者の物語を聴く―」,晃洋書房
・定藤邦子,2011,「関西障害者運動の現代史 大阪青い芝の会を中心に」,生活書院
【人工内耳】
・岡野由実,2018,「一側性難聴における騒音下聴取と補聴支援に関する文献的検討 」,目白大学健康科学研究 = Mejiro Journal of Health Care Sciences 11, 25-33
・加茂君孝,2018,「わが国の人工内耳手術の歴史」,Otol Jpn28(5),643-648 ja (jst.go.jp)
・黒田生子,2022,「聴こえの障がいと補聴器・人工内耳入門—基礎からわかるQ&A」,学苑社
・清水博行,2022,「人工内耳のテクノロジーの進歩と将来展望 」,Bio clinica = バイオクリニカ 37 (2),157-162
・三邉武幸,杉内智子,2014,「聴覚に関わる社会医学的諸問題 『聴覚障害に対するリハビリテーション』」, Audiology Japan 57, 221~229,