テーマ:若者の携帯利用と人間関係
問題意識:携帯電話の登場、また、現代ではスマートフォンの登場により、それらはもはや私たちの生活になくてはならないものとなっている。人々はこれらの携帯メディアをどのように利用しているのか、また、それはどのように人間関係に関わっているのだろうか。
基本概念
・移動電話…移動しながら利用することのできる電話機の総称。 (自動車電話、携帯電話、PHSなど)
・番通選択:端末画面にあらわれる発信者番号を見てから、相手と話すかどうかを決めるといった行為
電話
地域に一台→一家に一台→部屋に一台→一人に一台へと変化
主な研究者
・松田美佐:社会心理学者、中央大学教授。 1991年東京大学文学部社会心理学科卒業。
・中村功:社会学部第一部 メディアコミュニケーション学科 教授
・周藤真也:早稲田大学社会科学部准教授(社会科学総合系列)
〇人間関係の選択説
〈松田〉
・若者の携帯電話利用から見出せることは、友人関係が希薄化した(浅く広くなった)というよりは、状況に応じて友人関係を選択するようになった。
・参入・離脱の比較的容易な関係において、生活の文脈を限定的・選択的にのみ共有するような親密性が生まれてきた。
〈中村〉
・携帯でやりとりされる人間関係の特徴
①フルタイム・インティメート・コミュニティー(日常的に会う親しい友人との間で使われ、会って話し、移動中は携帯電話で話し、家では固定電話で話すなど、一日中繋がりあっているような親密な関係性
②コミュニケーションを自由に選択しあう関係性が広がっている
〈周藤〉
・携帯電話の普及は、電話を通して相手とつながることよりも、相手といつでもつながる可能性を選択することへの変化をもたらした。
・携帯電話などの事例では、単純な「繋がり」を求めるありかたから、「繋がらないこと」を含んだ「繋がり」へと、他者とのコミュニケーションにおいて、より複雑になった
・『岡田,朋之 / 松田,美佐 / 羽渕,一代 「移動電話利用におけるメディア特性と対人関係 : 大学生を対象とした調査事例より」
〈調査〉1995/5/28~6/8 関東と関西の二つずつ計四つの私立大学の学生が対象
〈結果・考察〉①移動電話利用者は社交性やイノベーター度が高く、毎月のお小遣いが多い。女性の方が移動電話利用者が多い。
②移動電話は男性にはより「個人専用の連絡手段」として、女性にはより「安心のためのメディア」として利用される傾向がある。
③ポケベルや移動電話の文字機能は男性より女性が頻繁に利用する傾向があり、かつ女性の方が状況に応じてメディアを使い分ける傾向がある。
④ヘビーユーザーは、より社交性が高く、移動電話利用により「人と直接会うことが増えた」と感じてる人が多い。
また、移動電話を用いて「つきあう相手」をより選択する傾向がある。
⑤留守番電話を用いて相手の選別を行う人は、より社会性は高いものの、対人関係一般に関してより選択的である。また「電話を使いこなしている」意識もより高い。
⑥発信者電話番号表示を用いて通話相手の選択を行う人は、より移動電話に依存する傾向があり、機械親和性やイノベーター度が高い
対人関係一般はより選択的であり、家族に対しても心理的距離をより感じる傾向にある。
⑦一般に移動電話利用者にとって「人間関係は大切」であり、移動電話は友人との関係を保つうえで必需品と位置づけられているが、
一方では他人に煩わされたくないという志向も高い
松田論文や中村論文にあったように、携帯電話の発信者番号表示機能によって、気に入らない相手には出ないなど、コミュニケーションを自由に選択しあう関係が広がってきている。
携帯電話は大切にしなければいけない人間に対してはいつでも連絡可能な状態に自身を置いておき、どの程度大切な相手から連絡が来るかについて知ることができる。さらに、大切にしなくても構わない相手を直接話すことなく、拒絶することができる。
また、携帯メールの登場により、携帯電話による直接的な会話は親しい友人間、あまり親しくない友人間だと、手軽で会話をしない携帯メールが便利とされているなど、相手によってコミュニケーションの方法も選択可能となってきている。
携帯電話は友人との関係を保つうえで必需品とされている一方で、他人に煩わされたくないという志向もある。
文献リスト
・中村,功 (Nakamura,Isao),2000「携帯電話を利用した若者の言語行動と仲間意識」,『日本語学』2000: 19(12): 34-43,明治書院. //JPN >富大付属図書館有
・松田,美佐 (Matsuda,Misa),2000「若者の友人関係と携帯電話利用 : 関係希薄化論から選択的関係論へ 」,日本社会情報学会「社会情報学研究」編集委員会(編)『社会情報学研究 (Journal of Socio-Information Studies)』4: 111-122,. //JPN >富大付属図書館 書庫
・周藤,真也 (Suto,Shinya),2010「パーソナル化するメディア (Personalizaion of Media)」,井上,俊 / 長谷,正人(編) (Inoue,Shun / Hase,Masato (ed))『文化社会学入門 (Introduction to Cultural Sociology : Themes and Methods)』: 6-9,ミネルヴァ書房 (Minerva Shobo). //JPN
・宮田,加久子 (Miyata,Kakuko),2001「<研究論文 調査・研究> 携帯電話利用と対人関係 : 年齢と性別の視点から (<Articles Field Research> The Usage of Cellular Phones and Personal Relationship : Perspective of Age and Gender)」,『研究所年報 (Report of Sociology and Social Work Institute)』31: 65-80,明治学院大学社会学部附属研究所 (Sociology and Social Work Institute, Meiji Gakuin University). //JPN
・辻,大介 (Tsuji,Daisuke),2006「つながりの不安と携帯メール (<特集> 対人関係の光と影 : 「絆」の形成、拒絶、そして崩壊の社会心理学的研究) (<Sunnyside and darkside of social bond> Connecting with anxiety via text messages)」,『関西大学社会学部紀要』37(2): 43-52,. //JPN >CiiNi オープンアクセスに有り
メモ:携帯メールは音声電話に比べて取り立てて要件を持たないコンサマトリーな利用が多い。つまり、メールの内容よりむしろ、やりとりすること、つながること自体が重要なのであり、携帯メールは音音声通話以上につながりとしてのメディアとしての性格が強いといえる。
確固たるつながりを信じられないがために、携帯メールを介した絶え間なきつながりへの確認へと促され、そのことが絶え間への不安=つながりの不確実感-やりとりが途絶えたら、つながりが途絶えるかもしれない-を高めるという悪循環が生まれる。
携帯メールはかつての電話以上につながりの空白への不安を伴うメディアである。
携帯メール利用はポジティブに親密なつながりを志向するものとは限らず、つながりへのネガティブな依存を伴う面ももつ。
2016.5 「携帯」
・岡田,朋之 / 松田,美佐 / 羽渕,一代 (Okada,Tomoyuki / Matsuda,Misa / Habuchi,Ichiyo),2000「移動電話利用におけるメディア特性と対人関係 : 大学生を対象とした調査事例より」,『情報通信学会年報』2000年: 43-60,情報通信学会. //JPN
CiNii
[SNS 友人関係」2016.6
・女子学生の人間関係構築における諸要因についてA Study on Various Factors of Human Relation Construction among Female Students
尾上恵子 一宮女子短期大学 一宮女子短期大学紀要 46, 15-22, 2007-12 >CiNiiに本文有 入手済み
〈調査〉女子大学生の日常生活における情報伝達ツールの使用と友人関係、自己隠蔽の程度について110名を対象に質問紙法で調査
〈結果・考察〉・多くの女子大生がメールやSNSを積極的に活用し、新たな出会いにもつなげている。
・学校生活における友人関係よりも、学校以外の友人関係の方が人数も多く、友人に対する信頼度も高い
・自己隠蔽傾向の高い人ほどSNS利用時間が高くなり、自己開示に関するリスクを感じる人ほど一緒に過ごす時間を大切だと感じないけいこうがあった。
・大学生にとって、携帯電話は単なる情報伝達手段ではなく、最も身近なコミュニケーションツールである。
特に携帯メールによる文字コミュニケーションは同世代の対人関係の絆や依存意識を高める役割があるとされている。
・情報伝達ツールを必要不可欠であると感じる最近の若者は自分の本音を隠蔽し浅い人間関係を構築しながらも、
孤独を低減させるためにより多くの人と広い人間関係を築こうとしているのではないか。
・SNSは友人関係を悪化させるか : 若者を対象としたSNS利用における既存友人との対人トラブル実態調査(コミュニケーション支援及びヒューマンコミュニケーション一般)
大沼美由紀 木村敦 佐々木寛紀 武川直樹 東京電機大学情報環境学部
電子情報通信学会技術研究報告. HCS, ヒューマンコミュニケーション基礎 112(45), 155-160, 2012-05-15 >CiNiiに本文有 富大付属図書館有
・SNSの使用状況と性格特性との間の関係 Relationships between personality traits and SNS usage
斉藤祐成 野村竜也 研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI) 2012-HCI-146(14), 1-5, 2012-01-12 > 富大付属図書館有
・ユーザのコミュニケーション行動に基づくSNSサイト活性化の要因
山本仁志 他
経営情報学会 全国研究発表大会要旨集 2009s(0), 72-72, 2009
・尾上恵子 「女子学生の人間関係構築における諸要因について」