ワークライフバランス
問題意識
近年少子高齢化による労働力の減少や、女性社会進出による共働き世帯の増加などにより、高齢者や外国人材の受け入れ、育児や介護との両立といった、様々な労働者のニーズに対応した働き方が求められている。こうした現状に対応するためにワーク・ライフ・バランスの推進が重要になっている。ワーク・ライフ・バランスとは誰もがやりがいや充実感を感じながら仕事を行う一方で、子育て・介護や家庭、個人の時間を持つといった仕事と生活の両立であり、ワーク・ライフ・バランスを実現することで、多様な人材の確保や働く人の意力の向上、それによる生産効率の上昇が期待される。現在どのようにしてワークライフバランスを推進しようとしているのか。現状と課題について考える。
WLB推進方法
〇テレワーク
以下のパターンに分類される
雇用型 企業に勤務する被雇用者が行うテレワーク
・在宅勤務:自宅を就業場所とするもの
・モバイルワーク:施設に依存せず、いつでも、どこでも仕事が可能な状態なもの
・施設利用型勤務:サテライトオフィス、テレワークセンター、スポットオフィス等を就業場所とするもの
(注)実施頻度によって、常時テレワークと、テレワーク勤務が週1~2日や月数回、などに限られる随時テレワークがあり、様々な 形態で導入されている。
自営型 個人事業者・小規模事業者等が行うテレワーク
・SOHO(Small Office Home Office):主に専業性が高い仕事を行い、独立自営の度合いが高いもの
・内職副業型勤務:主に他のものが代わって行うことが容易な仕事を行い独立自営の度合いが薄いもの
メリット
労働者(従業員の感じる効果)
使用者(企業の感じる効果)
・業務効率化による生産性の向上
・育児・介護等を理由とした労働者の利殖の防止
・遠隔地の優勝な人材の確保
・オフィスコストの削減 当
・通勤時間の短縮、通勤に伴う精神的・身体的負担の軽減
・業務効率化、時間外労働の削減
・育児や介護と仕事の両立の一助となる
・仕事と生活の調和を図ることが可能
デメリット
(厚生労働省 テレワーク推進における適切な労務管理のためのガイドラインより)
ほかには・・・
安達(2010)では問題点としてコミュニケーション不足により企業に対する忠誠心や帰属意識の低下。日本での個々人がお互いの業務をカバーするなど、連携しながら仕事を遂行するという業務体制により、個人の行う業務が明確化されていなく、それの必要。他にも日本では勤務態度や意欲が評価の対象となっていることも多いが、テレワークでは成果の重視、評価水準の明確化が必要。孤立感・孤独感の増加。といった問題点を述べている。
コミュニケーションの減少
→・チームワーク悪く
・業務上の意思疎通が不十分、不正確に
長時間家に滞在
→・長時間一緒にいすぎて、夫が家事をしないと家庭不和に
・運動不足
・プライベート空間の侵食
・成果を出そうと働きすぎる
・オンオフがしにくい
「テレワークで働いたことがあり、今後もテレワークで働きたい」と回答した方のエピソード
・通勤時間を生産性のある時間に変えられる。(24歳男性)・通勤時の満員電車や天候による遅延などのストレスから開放された。(26歳女性)
・会社にいると、不必要な事務業務などが頻繁に発生し、業務の効率が低下する。テレワークにしてからは自身の業務に集中できるようになった。(26歳男性)
・業務中に関係のない話題で話しかけられ、その度に手を止めていた。テレワークにしてからは黙々と作業ができるので、効率も上がった。(30歳男性)
・苦手な上司や同僚に会わなくて済むので、心穏やかに働ける。(32歳女性)
・確認作業1つとっても、相手の顔色を伺うかがわなければいけないときがある。テレワークなら報告のみで済むので楽。(42歳男性)
→「通勤のストレスがない」71%「生産性向上」45%「人間関係のストレスがない」33%「家事、出産・子育ての時間確保」28%
(1万人が回答!「テレワーク」実態調査 ―『エン転職』ユーザーアンケート―より)
〇モチベーションに関する理論
職務特性理論
ハックマンとオルダムによると仕事に5つの特性(技能多様性、タスク完結性、タスク重要性、自律性、フィードバック)があれば、その仕事に就いている従業員は、仕事に対する内発的なモチベーション、自己成長の機会に対する満足感、仕事に対する全般的な満足感、仕事のパフォーマンスの向上、欠勤や離職の減少などを経験することになると考えられている[34][35]。つまり5つの特性を満たすことにより仕事に対する満足感が上がる。
1.技能多様性 単純作業ではなく、多様なスキルを活かせる(求められる)仕事
2.タスク完結性 一部分だけでなく、仕事の流れについて全体を理解できる・関われる仕事
3.タスク重要性 社会的に重要で、人々の生活への影響を感じられる仕事
4.自律性 自分自身の裁量で自律的に考え、判断し、進められる仕事
5.フィードバック 自分の頑張りの成果がどうなったのかを知ることができる仕事
これら5つの職務特性のうち、テレワークは特に対面での仕事と比較して自律性とフィードバックが変化するため、従業員の行動や態度に影響を与える可能性がある。職務特性理論によれば、自律性とフィードバックの変化は、技能多様性、タスク完結性、タスク重要性の変化よりも、仕事の行動や態度に影響を与えるとされている[34]。
自律性
テレワークでは働く場所の決定や、1人で仕事を行うため自律性が高まると考えられる。しかし、従業員が感じるテレワークの自律性のレベルは、スケジュールの柔軟性や家庭の規模など、さまざまな要因に依存している[41]。
フィードバック
テレワークでは、テレワーカーのための手掛かりが少ないため、情報を解釈して得ることが難しく、その後、フィードバックを受け取ることが難しくなる可能性がある[38]。労働者がオフィスにいない場合は、割り当てや期待など、限られた情報とより大きな曖昧さが見られる[42]。役割の曖昧さは、状況に対して労働者が何をすべきか不明確な期待を持っているときに[43]、より大きな競合、フラストレーション、そして疲労につながる可能性がある[38]。
技能多様性
グループで仕事をしているときには、個人の技能多様性や仕事の有意義性が高まる可能性がある。自宅での仕事がチームではなく個人に集中している場合、多様なスキルを使う機会が少なくなる可能性がある[46]。
タスク完結性・タスク重要性
→テレワークによる仕事の変化により変わる可能性があるのでは。
メディアリッチネス理論
Daft&Lengel(1984,1986)のメディアリッチネス理論(英語版)によると、対面でのコミュニケーションは、豊かな情報を処理する能力を備えている。これは、曖昧な問題を明確にすることができ、即時にフィードバックを提供することができ、個人に適したコミュニケーション(ボディランゲージ、声のトーンなど)があるということである[29]。在宅勤務では、電話や電子メールなど、さまざまなタイプのメディアを使用してコミュニケーションをとる必要がある。そして、電子メールにはタイムラグがあり、すぐにフィードバックを得ることができない。また、電話での会話では、電話の相手やチームの感情を推し量ることが難しくなる[30]。このように、典型的な組織のコミュニケーションパターンは、在宅勤務では変化する。例えば、コンピュータ会議を利用したコンピュータ媒介型コミュニケーションを使用しているチームは、対面式のグループよりもグループの意思決定に時間がかかる[31]。
→テレワークによりコミュニケーションがしにくくなる
(テレワーク⁻Wikipediaより)
二要因理論
フレデリックハーズバーグが1959年に発表。モチベーションを決定づけるのは満足にかかわる「動機付け要因」と不満をもたらす「衛生要因」であることを主張。「動機付け要因」は欠けていても職務上の不満を引き起こすわけではない。「衛生要因」は不足していると不満に結びつくが、必要以上に充実させたところでモチベーションがさらに向上するものではない。また、充実させても満足度は高まることはない。
・動機付け要因 仕事内容にかかわるもの、達成、承認、仕事そのもの、責任、昇進など
・衛生要因 職場環境にかかわるもの。監督方法、会社の政策、給与、対人関係、作業条件など
メイヨーのホーソン実験 生産性を決定するのは職場にいる作業同士で自然に作り上げられる仲間意識
マクレガーのX理論・Y理論 人間の本質で考える
(BIZHINT,2017.8.23期待理論より)
テレワークやる気でない
・オンオフの切り替えの欠如(スイッチが入りにくい)
・周囲の目がないことによるプレッシャーの欠如
・相談がなかなかできず悶々とすることによるもの
コミュニケーション不足
孤独感を感じる
町成果主義な働き方
不規則自堕落な生活
オンオフ切り替えの欠如
作業環境悪い
お金へのプレッシャーます
子育てをしながらテレワークという環境
量的基礎データ
(平成30年通信利用動向調査の結果より)
〇ワークシェアリング
従業員1人当たりの仕事量を減らすことで雇用を維持または創出すること、つまり多くの雇用を促すこと
以下の4パターンに分類される
雇用維持型(緊急避難型)
雇用維持型(緊急避難型)とは、何らかの理由で一時的に景況が悪化し、そのままでは人員削減をせざるを得ないという場合に、緊急避難的な措置として従業員1人あたりの所定内労働時間を短縮するというもの。これにより業務に必要な従業員の数が増えるため、社内でより多くの雇用を維持することが可能となる。
雇用維持型(中高年対応型)
雇用維持型(中高年対応型)とは、中高年層の雇用を確保することを目的として、中高年層の従業員を対象として従業員1人当たりの所定内労働時間を短縮するというもの。緊急避難型の雇用維持型と同様、こうすることで社内の雇用をより多く維持することができる。国内の企業では、定年の延長や定年後の再雇用などによる60歳以上の従業員の雇用延長対策としての取り組みが中心となってる。
雇用創出型
雇用創出型は、失業者に新たな就業機会を提供することを目的として、労働時間の短縮を行うことでより多くの雇用機会を創出しようとするもの。労働時間を短縮することによって労働者1人当たりの給与が低下したり、企業側の負担が増加したりすることが想定されるため、ヨーロッパ諸国ではワークシェアリングを行う企業に対して政府が助成金を与える制度も設けられている。
多様就業対応型
多様就業対応型は、正社員に対して短時間勤務を導入するなどして勤務の形態を多様化することで、より多くの労働者に雇用機会を与えるというもの。具体的な例として、均等待遇を実現してパートタイム労働へのシフトを推進し、女性や高齢者などの雇用機会を生みだしたオランダの事例などが挙げられる。
(「働き方改革の鍵、「ワークシェアリング」とは?」somu-lier(ソムリエ)より)
問題点
業務の引継等の問題から労働生産性が低下
ワークシェアリング導入の結果、生み出されるパートタイム労働者とフルタイム労働者との処遇格差
アンケート調査でみたワークシェアリング類型別導入・検討状況
(1) 雇用維持型(緊急避難型)
・ 現在実施している企業は2.1%であり、また、「現在検討している」また は「今後検討したい」とするものは合わせて19.5%となっている。
・ 一方、「実施するつもりはない」と回答する企業は77.3%を占め、企業の姿勢は極めて慎重である。
(2) 雇用維持型(中高年対策型)
現在実施している企業は1.7%であるが、「現在検討している」 または「今後検討したい」とするものは合わせて41.5%と多く、企業の取組意向は高 い。
(3) 多様就業対応型
・ 現在実施している企業は4.8%であるが、「現在検討している」または 「今後検討したい」と回答するものは合わせて36.7%と多く、企業の取組意向は高い。
(ワークシェアリングに関する調査研究報告書より)
文献リスト
・安達房子(2010)「テレワークの現状と課題ー在宅勤務及び在宅ワークの考察」京都学園大学経営学部論集 第20巻 第1号49~70頁
→問題点としてコミュニケーション不足になること。それにより人間関係が希薄となり個人と企業の結び付けを弱め、企業に対する忠誠心や帰属意識の低下。日本での個々人がお互いの業務をカバーするなど、連携しながら仕事を遂行するという業務体制により、個人の行う業務が明確化されていなく、それの必要。他にも日本では勤務態度や意欲が評価の対象となっていることも多いが、テレワークでは成果の重視、評価水準の明確化が必要。孤立感・孤独感の増加。といった問題点を述べている。
・井原雄人、湯淺墾道、神力潔司、2019「テレワークによる「女性活躍」についての研究」(公益財団法人 アジア女性交流・研究フォーラム、KFAW調査研究報告書)
→まず、テレワークの歴史として発祥や時代とともにオフィスコスト削減など経営側の視点からWLBなど労働者の視点が加わるようになった。次に女性の半数以上が非正規雇用、出産・育児で働きたくとも働けない女性315万人存在、女性が活躍できない背景として男性の働き方も課題など女性活躍の現状と課題があり、就業を希望しながらも時間的に制約のある女性にとってテレワークは有効であると考えられる。次にテレワークの説明と社会効果を述べている。次に先行研究でWLBを可能にするという評価やセキュリティ、設備投資、過剰労働、セキュリティ労働者管理等導入時課題がある。導入目的、テレワークを導入しない理由も載っている。このようなテレワークの背景をもとに本研究は北九州市内企業のテレワークの導入実態、阻害要因と、今後の導入促進策の検討をする。テレワーク導入率、電子化の影響など北九州市内企業にアンケートを行い結果、テレワークが導入さていない理由として「ルールが整備されていない」ことだとわかる。次にヒアリング調査をおこない、導入している企業では優秀な人材の雇用を継続したいことが共通点だった。また、バスガイド会社の事例としてアナログな方法でテレワークできることもわかった。テレワーク導入の課題は就業規則上のルールその他が整備されていないことやテレワークの認識不足である。そのため、テレワーク導入のガイドラインや地域に与える効果など示していく必要がある。また、会社全体にテレワークの全体像や目的を共有する必要がある。支援としては企業が求める安全性とコストを明示した支援やセキュリティ支援が必要などテレワーク促進のための提言をした。
・萩原牧子、久米功一、2017「テレワークは長時間労働を招くのか-雇用型テレワークの実態と効果-」(リクルートワークス研究所研究紀要)12,58-67
→テレワークは労働管理の困難さから長時間労働を招くと懸念する声がある。実際海外の先行研究によりテレワークは長時間労働を助長する一方、WLBを実現しやすいという性格があるとわかる。そこで、日本ではどうなのか調べると長時間労働になっていることはなかった。また、とくに男性の家事育児時間が長くなっており男性の家事育児促進にはテレワークが有効であると言える。ほかには配偶者がいる場合、営業職、自分で仕事のやり方を決めることができることがテレワーク実施の確率を上げる。つまり仕事を明確にして、中段階で報告や相談をうけなくとも自律的に仕事を行えることがテレワーク実施を促進する。テレワーク制度が適用されている人に注目したため制度により管理体制が整っていたため長時間労働に繋がらなかったという考えもできる。最後に賃金や生産性の観点、在宅型と非在宅型のテレワークといった働く場所の違いという観点からも今後研究したい。
・厚生労働省 「テレワーク推進における適切な労務管理のためのガイドライン」
https://www.mhlw.go.jp/content/000553510.pdf
・佐藤彰男、2012「テレワークと「職場」の変容 (特集 職場の今)」日本労働研究雑誌 54(10), 58-66,
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2012/10/pdf/058-066.pdf#search=%27%E3%83%86%E3%83%AC%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%82%AF+%E9%95%B7%E6%99%82%E9%96%93%E5%8A%B4%E5%83%8D+%E8%AB%96%E6%96%87%27
・総務省、2010「テレワークの動向と生産性に関する調査研究」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/linkdata/h22_06_houkoku.pdf#search=%27%E3%83%86%E3%83%AC%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%
82%AF+%E9%95%B7%E6%99%82%E9%96%93%E5%8A%B4%E5%83%8D+%E8%AB%96%E6%96%87%27
・中村雅章、2001「メディアリッチネス理論の展開と個人の情報メディア利用」中京経営研究、第10巻第2号
参考URL
・厚生労働省 「テレワーク推進における適切な労務管理のためのガイドライン」
https://www.mhlw.go.jp/content/000553510.pdf
・総務省 テレワーク推進の意義、効果
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/telework/18028_01.html
・「働き方改革の鍵、「ワークシェアリング」とは?」somu-lier(ソムリエ) 2018.1.9
https://www.somu-lier.jp/closeup/work-sharing/
・ワークシェアリングに関する調査研究報告書 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/houdou/0104/h0426-4.html
・平成 30 年通信利用動向調査の結果 総務省 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/data/190531_1.pdf
・1万人が回答!「テレワーク」実態調査 ―『エン転職』ユーザーアンケート―https://corp.en-japan.com/newsrelease/2019/17284.html
・テレワーク(リモートワーク)のメリットとデメリットとは!?https://news.nicovideo.jp/watch/nw7301592
・テレワーク⁻Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/テレワーク
・BIZHINT,2017.8.23「モチベーション理論とは?10の理論の概要から人事戦略への応用まで徹底解説」2020年6月18日閲覧
https://bizhint.jp/report/99165