○テーマ:地域社会におけるフードバンク活動
○問題意識:近年「フードバンク活動」という新しい取り組みが始まった。消費者庁によると日本の年間食品廃棄量は約1700万トンとされている。これは国内及び海外から供給される農林水産物のうち食用に向けた約8400万トンの20%に相当する。このうち食品ロスと言われるものは年間約500万~800万トンと試算されている。日本各地に活動団体はあるものの、知名度は上がっていないとされている。「もったいない」という言葉を生んだ日本が、食品ロスの問題と向き合う上でこの活動がどのような役割を担っているのか現状を知る。そして今後フードバンク活動が地域社会に根付いていくためにはどうすべきか考察していく。
○基礎概念
1.「食品ロス」
食品廃棄物のうち可食部のこと。発生段階別に
①流通段階での減耗・期限切れ
②食材や売れ残りの直接廃棄
③食べ残し
④過剰除去…調理くずのうちの可食部 の4つに分類できる。(小林.2015)
日本の食用仕向量は8424万トンであり食品廃棄物は1713万トン。そのうち食品製造業・食品卸売業・食品小売業・外食産業など事業系食品ロスは300~400万トン、家庭系食品ロスは200~400万トンと推計されている。(農林水産省のデータに基づく消費者庁の資料 http://www.caa.go.jp/adjustments/pdf_data/131028_sanko2-5.pdf)
2.「食品リサイクル法」
2001年に制定。食品廃棄物を年間100万トン以上出す製造・小売・飲食業者を「多量発生事業者」と位置づけ、2006年度までに既存排出量の20%を減量または肥料・飼料などにリサイクルするよう義務付けた。また、重要な施策の1つに「登録再生利用事業者制度」がある。再生利用システムの構築を推進するため、信頼できる収集・運搬業者に限定すると同時に、一般廃棄物の自治体間輸送を規制緩和してスケールメリットの実現を目指した。食品製造業や食品卸売業では大きな成果を上げたが、小売業・外食産業では2004年時点でその6割以上が目標達成できなかった。そこで2007年12月に「改正食品リサイクル法」が施行された。行政の監督指導が強化さ れ、業種別にリサイクル率の目標値を再設定できるようになった。(小林.2015)
食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律の一部を改正する法律案要綱(環境省)
第二 食品廃棄物等多量発生事業者に対する定期報告義務の創設
一 食品関連事業者であって、その事業活動に伴い生ずる食品廃棄物等の発生量が政令で定める要件に該当するものは、毎年度、食品廃棄物等の発生量及び食品循環資源の再生利用等の状況に関し、主務大臣に報告しなければならないものとすること。(第九条第一項関係)
3.「フードバンク活動」
過剰在庫により出荷可能期限を過ぎてしまったり、輸送中の事故で箱が潰れたりして食品ロスになっていたものを福祉施設等へ再配分する活動。(小林.2015)
1967年にアメリカアリゾナ州で生まれた。日本では2002年に「セカンドハーベスト・ジャパン」が活動を始めた。
4.「生活困窮者自立支援制度」
生活に何らかの困難を抱える人を包括的に支援する制度。
①自立相談支援事業…相談員とともに支援プランを作成する。
②住居確保給付金の支給…離職などで住居を失った人や失う恐れの高い人に、就職活動をすることを条件に家賃相当額を支給する。
③就労準備支援事業…コミュニケーションが苦手な人や社会との関わりに不安がある人を支援する。
④家計相談支援事業…家計の立て直しをアドバイスする。必要に応じて貸付のあっせん等を行う。
⑤就労訓練事業…直ちに一般就労することが困難な人に、その人に合った作業機会を提供する。
⑥生活困窮世帯の子供の学習支援…学習支援をはじめとして子供と保護者双方に必要な支援を行う。
⑦ホームレスまたはネットカフェ等不安定な住居形態にある人に衣食住を提供する。この支援事業の一環でフードバンクが紹介されることがある。
5.「3分の1ルール」
「納入期限は製造日から賞味期限までの期間の3分の1時点まで」、「販売期限は賞味期限の3分の2時点まで」というもの。賞味期限が残り1か月の物は販売できない。賞味期限が9か月であった場合、賞味期限まであと3か月あるにも関わらず廃棄することになる。1990年代にある量販店が決め、流通業界に厳然としてあるルール。
○研究者
・井出留美
食品ロス問題専門家、消費生活アドバイザー。博士(栄養学 女子栄養大学大学院)、修士(農学 東京大学大学院)。女子栄養大学・石巻専修大学 非常勤講師。日本ケロッグで広報室長と社会貢献業務を兼任し、東日本大震災の折には食糧支援に従事する。その際、大量の食品廃棄に憤りを覚え、自らの誕生日であり人生の転機ともなった3.11を冠した(株)office 3.11を設立。日本初のフードバンク、セカンドハーベスト・ジャパンの広報を委託され、同団体をPRアワードグランプリのソーシャル・コミュニケーション部門最優秀賞や食品産業もったいない大賞食料産業局長賞受賞へと導く。市会議委員、県庁職員、商店街振興組合理事長らと食品ロス削減検討チーム川口主宰。平成28年度農林水産省食品ロス削減国民運動展開事業フードバンク推進検討会(沖縄)講師。
食品ロスの発生原因の一つとして「3分の1ルール」を指摘している。フードバンク活動を推進することは食糧問題、環境問題、社会福祉問題を解決する一助になると主張している。
office3.11のミッションとしては、食品ロス問題についての理解を促進し、食品ロスを減少させ、食品ロス問題を解決することをあげている。ビジョンとしては、食品ロスが今より少なくなれば、今よりいい未来が待っているということを述べている。
・米山けい子
NPO法人フードバンク山梨理事長。2008年8月に「コープ山梨(現・パルシステム山梨)」の理事長を退任。人生のセカンドステージにどのような社会貢献ができるかを考え、2008年10月、62歳の時からフードバンク活動を始めた。行政と連携した地域密着型のフードバンクが全国各地に生まれて根付くことを大きな目標として掲げている。次世代以降が継続できるようなシステムを作り、困ったときには誰もが支援を受けられる世の中に早くしたいと考えている。
支援開始以来、順調に進んできたフードバンク山梨の活動でだが、2015年、大きな危機に直面した。それまで山梨県から一括して受託していた事業が2015年3月で廃止され、「食のセーフティネット事業」を県下全域で続けるには、2015年4月に施行された「生活困窮者自立支援法」に基づいて山梨県や各市町村と新たな提携を結びなおす必要があった。 しかし、予算不足などを理由に2015年3月現在で連携を結べているのは8市のみ。連携を結べない自治体に住んでいる支援者に対してこれまで通りの支援を続けることが難しくなった。 支援する食品はすべて寄付・寄贈でまかなっているが、宅配料や倉庫代、人件費などは事業の受託料から捻出した。活動継続のために寄付を募っているが、2015年は厳しい状況が続いた。 ボランティアで運営することは難しく、継続性を考えるのであればボランティアだけでやってはいけないとも思っている。(2015年4月発行「通販生活」 日本の貧困処方箋 より)
・原田佳子
1952年生まれ。広島大学大学院社会科学研究科マネジメント専攻博士前期課程修了。広島県学校栄養職員、医療法人社団恵正会二宮内科医療事業部栄養部門 部門長を経て、2014年より美作大学生活科学部食物学科教授。2007年特定非営利活動法人あいあいねっと設立、代表理事に就任(HMV&BOOKS online 著者紹介より)
限られた資源を偏在させない社会を次世代に残せるよう、食の無駄自体を減らすための食育の必要性も強く感じる」と語っている。(2017年12月5日付 掲載面不詳 中国新聞より)
・日詰一幸
「フードバンクふじのくに」理事長。1989年名古屋大学法学修士を取得。1991年同大学博士後期課程中途退学。1996年静岡大学人文学部法学科 助教授となる。2000年に同大学教授となり、ニューヨーク市立大学年調査センターの客員研究員も務める。2004年に静岡県男女共同参画会議委員となった。2006年からはライフサポートセンターしずおかの会長、2007年からは特定非営利法人活き生きネットワークの副理事長も務める。現在は静岡大学で日本における市民参加システムの構築や非営利組織の役割と機能をテーマに研究を行っている。(国立大学法人 静岡大学教員データベース、さくや姫プロジェクトより)
食料を無駄にせず、食を分かち合い、命や人権を守るために「フードバンクふじのくに」を設立した。フードバンクを地域の仕組みとして定着させ、食を通じて人の縁を結び、お互いが助け合う「困ったときはお互い様」な社会づくりを目指している。フードバンクの設立が社会の在り方を改めて見直すきっかけとなり、「もったいない」を「ありがとう」に変えることが当たり前の社会になることを強く望んでいる。(フードバンクふじのくにHPより)
○量的データ
・平成28年度(平成27年度推計) 食品廃棄物等の年間発生量及び食品循環資源の再生利用等実施率について(農林水産省)
○質的データ
・平成28年度 食品産業リサイクル状況等調査委託事業(国内フードバンクの活動実態把握調査及びフードバンク活用推進情報交換会)報告書(農林水産省)
・「セカンド・ハーベスト ジャパン」
日本初のフードバンク。2000年1月炊き出しのために食材を集める連帯活動から始まる。2002年7月に特定非営利活動法人となり本格的に活動を始める。
2002年の食品取扱高は30トンだったが、2010年に813トン、2011年には東日本大震災の影響があって1689トンに及んだ。この数字を福祉貢献度(=これらの食品を無償でなく購入した場合の金額換算)に置き換えると10.1億円となり、巨額の出費をフードバンクで防いだことになる。(2010年は4.9億円)2012年にも勢いは続き食品取扱高は3152トンだった。個人・団体支援者数も増加している。2010年において、寄贈者415名、寄贈団体43企業、ボランティア動員数3000名以上だった。2011年においては寄贈者2600名、寄贈団体100企業、ボランティア動員数5000名以上だった。
また、日本におけるフードバンク発展のため、様々な場所で活動に関する啓発活動や講演を行っている。2008年~2012年まで毎年全国各地でフードバンクに関する説明会を行うフードバンクキャラバンを実施して、各地のフードバンクやフードバンク設立を目指すグループ・福祉団体との連携を図ってきた。
今後の目標は、「フードライフライン」と「フードセーフティーネット」の構築。フードライフラインとは食品を提供する企業と、受け取る施設・団体がフードバンクをより利用しやすくなるよう様々な取り組みを行うこと。特に重要視しているのは、流通企業や食品企業などの協力を得ながら、フードバンクの基幹流通をつくることだ。地域流通は、主に地方のフードバンク団体や流通企業に担ってもらい、全国的な供給システムの構築を計画している。フードセーフティーネット活動とは社会の誰からも助けを得られず、食べ物に困る状態になってしまった人に直接食料を届けるハーベストパントリー活動を拡大し、2HJは食料に関するセーフティーネット=フードセーフティーネットの構築を目指す。日本の貧困線以下で生活する約2千万の人々、特に母子家庭や高齢者を応援するために、教会、寺院、福祉施設、学校関係者など様々な分野の方に意見をもらうことから始めている。
新たな取り組みは「セカンドハーベスト・ジャパン・アライアンス」と「フード ドナー アライアンス」だ。前者は今後日本のフードバンク団体のマネジメント機能を果たしていくことを視野に入れ、公益財団法人格取得を目指すもので、すでにFAB(食品諮問委員会)での検討が始まっている。後者は、企業が製品の売上やサービスによって得た利益の一部を社会に貢献する事業を行っているNGOなどの組織に寄付する活動を通して、
売上の増加を目指すマーケティング手法をCRM(コーズリレーテッド マーケティング)と言い、協力を仰げる企業をフードドナーと位置付けて、連携を模索していくというもの。
SECOND HARVEST(セカンドハーベスト・ジャパン)より
・フードバンクとやま
フードバンクとやまは上記の表にもある通り、地方にある比較的規模の小さいフードバンクである。フードバンク活動を地方都市に広めていく工夫を知る上で、最も身近で参考になる団体だと考えられる。
フードバンクとやまの活動内容は主にfacebookを利用して発信されている。誰からどのような食品を提供してもらい、誰に届けたのかを写真付きで載せている。大規模小売業者から福祉施設への提供などがある。また、職員が参加したフォーラムの様子やイベント参加の告知も行っている。 (フードバンクとやま【foodbank-toyama】より)
取扱い食品の内容としては、お米、乾麺、野菜、レトルト食品、お茶、ジュース、お菓子、缶詰が挙げられている。取り扱う際の条件としては、賞味期限が1ヶ月以上あること、未開封であること、農産物の場合は事前に打ち合わせが必要であり、冷蔵・冷凍は要相談だという。寄付先は、ホームレス(失業者)支援団体・ホームレス(失業者)支援個人・母子父子支援団体・デイサービス・福祉作業所・被災地。(農林水産省フードバンクとやまより)
・NPO法人フードバンクいしかわ
フードバンクいしかわもとやまと同じく地方にあるフードバンクだ。しかし、食品取扱量を見てみると50倍もの差がある。これほど近い距離にある2つのフードバンクになぜこのような違いがあるのか。フードバンクいしかわの工夫がその他の地方都市にも適用できるかを考察するために取り上げた。フードバンクいしかわも団体のHPは存在するが、最新の情報はfacebookにより発信されている。フードバンクとやまのfacebookページに比べ、ほかのフードバンク団体の記事をシェアしているものや、メディアへの露出を報告する記事が多い。 (NPO法人フードバンクいしかわより)
取扱い食品の内容としては、未開封の乾物、レトルト食品、缶詰、飲料、パスタ、お菓子など、規格外の野菜、余った野菜、食べきれない食品(余剰品)、お米(古米)、もち米等が挙げられている。取り扱う際の条件として、常温保存ができること、賞味期限が1カ月以上ある未開封の食品であること、 その他品質保証の主体がある商品が挙げられている。寄付先は、ホームレス支援団体、生活保護支援団体、老人福祉施設、児童養護福祉施設、独居老人、母子家庭(一人親家庭)、生活困窮者等。(農林水産省フードバンクいしかわより)
・海外のフードバンク
アメリカ最大「Feeding America」…全米に200の会員をもつ最大のフードバンク。日本との違いは主に2つある。
1つめはフードバンクから食品の提供を受ける施設・団体が重さに応じた費用を支払っていることにある。ヒアリング時点(2009 年11 月)では、1パウンド(約450 グラム)につき、19 セントの共有施設維持費(shared maintenance fee)を施設・団体側が運営主体に対して支払うこととなっていた。ただし、資金力のない施設・団体については、フードバンクが集めた寄付金を補助金という形で施設・団体に提供し、それを費用に充てている。この共有施設運営費は、寄付金等に加えてフードバンクの活動資金の一部となっている。2つめは企業等からの寄付が少ない肉や乳製品などの食品を購入し、施設・団体に提供していることだ。
また、収支の規模も日本よりはるかに大きい
○リサーチクエスチョン
フードバンク側の視点から、大都市で活動を行うことと地方都市で行うことの相違点や困難な点を知りたい。
具体的にはフードバンクとやまにおける活動実績や広報活動について、フードバンクとやまの食料調達先にはどのようなものがあるのか(食品製造メーカーの少ないとやまでは大都市のようにはいかないのでは?)、どのような人からフードバンク活動の認識を広げていこうと考えているのか(それにより広報活動の仕方もかわってくるのでは?)など、HPにあるよりも詳しい情報を得るためにインタビューを行いたい。フードバンクとやまでは平成27年度に広報アドバイザーとして井出留美氏を迎えており、そこに至る経緯やどのようなアドバイスを得たのかについても知りたい。
○論文
・佐藤順子 2016「日本におけるフードバンク活動の現在」福祉教育開発センター紀要 13号,201-216
・佐藤みずほほか 2016「わが国におけるフードバンク活動の実態と食育の観点から見た課題」日本食育学会誌 10(1), 31-40
・須藤裕之ほか 2010「わが国の食料自給率と食品ロスの問題について」名古屋文理大学紀要 第10号,127-138
・井出留美 2013「日本の食品ロスを生み出す商習慣「3分の1ルール」の現状および食品ロスを活かしたフードバンク活動について」医と食 Vol.5 No.3
○書籍
・井出留美 2016『賞味期限のウソ : 食品ロスはなぜ生まれるのか』幻冬舎
・小林富雄 2015『食品ロスの経済学』農林統計出版
・大原悦子 2008『フードバンクという挑戦 貧困と飽食のあいだで』岩波書店
○参考HP
・農林水産省:平成28年度(平成27年度推計) 食品廃棄物等の年間発生量及び食品循環資源の再生利用等実施率について
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syokuhin/attach/pdf/kouhyou-9.pdf
:平成28年度 食品産業リサイクル状況等調査委託事業(国内フードバンクの活動実態把握調査及びフードバンク活用推進情報交換会)報告書
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/attach/pdf/161227_8-38.pdf
:フードバンクとやま http://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/foodbank/2014_shokai/fb_toyama2.html
:フードバンクいしかわ http://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/foodbank/2014_shokai/fb_isikawa2.html
・厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/
・環境省:食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律の一部を改正する法律案要綱 http://www.env.go.jp/press/files/jp/9233.pdf
・office3.11 http://www.office311.jp/profile.html
・SECOND HARVEST(セカンドハーベスト・ジャパン)http://2hj.org/
・フードバンクとやま【foodbank-toyama】https://www.facebook.com/foodbank.toyama
・NPO法人フードバンクいしかわ https://www.facebook.com/NPOfood/
・2015年4月発行「通販生活」 日本の貧困処方箋 https://www.cataloghouse.co.jp/yomimono/150811/
・国立大学法人 静岡大学教員データベース https://tdb.shizuoka.ac.jp/RDB/public/Default2.aspx?id=10589&l=0
・フードバンクふじのくにHP http://www.fb-fujinokuni.org/index.html