ぼっちが、求められるコミュニケーション・スキルの高度化によって逆にあぶりだされるという見方を、複数の先行研究がとっている。→そのことを地図の中心部分としてまとめる。具体的にだれが、どの本の何ページで述べているか。
問題意識の作成:ぼっちの語られ方? 高度化するコミュニケーション・スキル?
テーマ
ぼっちの増加とコミュニケーション・スキル
問題意識
近年、若者は友人関係が希薄化し、一人で行動する人が増えているということが言われている。「ぼっち飯」という言葉ができ、京都大学や神戸大学、そして富山大学にも「ぼっち席」が導入されたことや、ひとりカラオケに行く人も出てきており、「ヒトカラ」という言葉ができたことからもぼっちが増えているのではないかと考えた。しかし、複数の研究者はコミュニケーション・スキルの高度化という観点からそれを否定している。では、コミュニケーション・スキルの高度化とは具体的にどういうことなのか明らかにしていく。
基礎概念
・ぼっち
「ひとりぼっち」の略。友人がいない、交友関係がない、孤独な身の上、といった意味でインターネット上などで用いられ表現。(実用日本語表現辞典)
・ぼっち飯
昼食時に、友達や仲間と一緒ではなく、独りで食事をとること。学生などが使う俗語(コトバンク)
・ぼっち席
大学の食堂などに、一人で食事(ぼっち飯)をするために設けられた席のこと。一般的に、仕切りが設置されており、周囲の目を気にせずに食事ができる配慮が取られている。(実用日本語表現辞典)
・ヒトカラ
「一人カラオケ」を省略した語で、複数人で行われることの多いカラオケにおいて一人きりで部屋を借り、また歌うことを意味する語。(実用日本語表現辞典)
主な研究者
・浅野智彦
現在 :東京学芸大学教育学部、教授。
専門分野:自己論、物語論、若者文化論。
主著 :『「若者」とは誰か』(河出書房新社、2013)、「ネットワーク社会とぼっち空間」(建築雑誌、2015ー1月号)
・辻大介
現在 :大阪大学大学院人間科学研究科、人間科学専攻准教授
専門分野:コミュニケーション論、メディア研究、社会学
主著 :「若者のコミュニケーションにおける配慮の表れ方」(文学、9巻6号)、『コミュニケーション論をつかむ』(有斐閣、2014、共著)
・辻泉
現在 :中央大学文学部、教授
専門分野:社会学
主著 :『<若者の現在』(日本図書センター、2012、共著)、『ケータイの2000年代:成熟するモバイル社会』(東京大学出版、2014、共著)
・岩田考
現在 :桃山学院大学大学院、社会学研究科、准教授
専門分野:教育社会学
主著 :『若者たちのコミュニケーション・サバイバルー親密さのゆくえ』(恒星社、2006、共編著)
研究者の主張
浅野智彦
「ネットワーク社会とぼっち空間」 :学校(第1部|おひとりさまの空間-諸相,<特集>日本のおひとりさま空間)の20、21ページより
・内閣府の世界青年意識調査(18歳から24歳の男女を対象)によると、友人や仲間といるときに充足感を感じると答えた若者が1970年代から一貫して増大し、2008年には7割強の人がそのように回答している。また、学校に通うことの意義に関して日本において際立って高いのが「友情を育むこと」という回答であり、2008年時点で65%程度と200年代に入って急増している。
・NHK放送文化研究所の「中学生・高校生の生活と意識」の調査によると、学校は楽しいと答える人が近年顕著に増えており、その理由として最も多く挙げられたのは、友達と話したり一緒に何かしたりすることでった。
つまり、、、友人関係はますます良好になっており、若者の友人関係は希薄化しておらず、むしろ高度化している。これは社会全体の成熟化により人間関係が理念・利害の拘束から相対的に自由になったことの帰結。
・濃密化したコミュニティでは必要とされるコミュニケーションの濃度が上がるため、その水準に達しないものがはっきり浮かび上がってきてしまう。
辻大介
『現代若者の幸福』173ページ
・若者の人間関係の希薄化論についてデータをもとに反証したうえで、希薄化ではなく対人関係を部分化し、切り替え(フリッピング)を容易に保ちたい性向が若者を中心に高まってきた。
『若者たちのコミュニケーション・サバイバル』5~7ページ
・若者の対人関係の希薄化論を批判的に検討し、全面的な付き合い志向の減少と部分的付き合いへの志向の増加という質的な変化から若者の対人関係の変化を「フリッパー志向」の強まりとした。
*フリッパー志向・・・その時々の気分に応じてテレビのチャンネルを手軽に切り替えれるように場面場面に合わせて気軽に切り替える対人関係
辻泉
『若者たちのコミュニケーション・サバイバル』23~27ぺージより
・2002年の青少年研究会の調査で「遊ぶ内容によって一緒に遊ぶ友達を使い分けているという回答が6割を超えている。このことから選択的な友人関係が今日の若者において比較的多くみられる。また、選択的友人関係のほうが尊敬・肯定的評価や社会的スキルが高い傾向がある。
つまり、、、選択的友人関係をもった若者はより多くの意味や機能を兼ね備えた友人関係を持つことができている。若者の友人関係は「希薄化」ではなく「選択化」である。
岩田考
『若者たちのコミュニケーション・サバイバル』14、15ページ
・モバイル・コミュニケーション研究会(2002)の調査によると若い世代のほうが他者の視線を気にする。また、選択的友人関係を持つ人は親しくなる際にノリがいいことを重視する。しかし選択的友人関係を持たない人はノリをほとんど重視しない。
・伝統的な共同体が崩壊し制度に支えられない関係が優位になることで、様々な相手との関係を維持するために多様なコミュニケーションをを行う必要が生じている。
つまり、、、若者の他者との関係は単に表層的になっているのというよりも、関係の多元化や流動化に伴い、様々な他者に対してコミュニケーションを高度に使い分けている。もちろん、すべての人間が使い分けのスキルを持っていない。しかし、コミュニケーションに問題を抱える若者が増えているとしても、それは若者のコミュニケーション能力が低くなったというよりも、むしろ、求められるコミュニケーション・スキルのレベルが上昇している。
このように、何人もの研究者は、友人関係の希薄化が起こっていいるということについて否定的である。友人関係の希薄化は起こっておらず、コミュニケーション・スキルの高度化により、選択化、濃密化している。要するに、コミュニケーション・スキルの高度化についてこれない人たちが目立ってしまい、「ぼっち」と言われるような人たちが増えているように錯覚しているということ。
コミュニケーション・スキルの高度化とは?
岩田考
・友人関係の選択化により、人によって異なるコミュニケーションをとることが求められた結果、コミュニケーションを適切に使い分けることができるようになった。このことを示唆しているのは、近年書店で大量に販売されている「人間関係に関するマニュアル本」。
浅野智彦
・従来の「浅く広い」関係や「深く狭い」関係のほかに、場面場面に応じて友人関係を使い分けるような「深く広い」関係を見出した。つまり、どれも自己の多元化を用いて深い友人関係を選択している。
・スマホやLINE、Twitterなどのソーシャルメディアの普及により、それを用いたコミュニケーションも生活の重要な一部になった。それとともに友人関係の高度化を加速させる。これに対応しようと努力するため、様々な方法でコミュニケーションをとるようになる。
文献リストとメモ
◎『現代若者の幸福』 藤村正之・浅野智彦 他 ①p1~24、②p71~96、③p169~190 恒星社厚生閣 2016
【メモ】
・①友人関係や恋愛関係など身近で親密な関係を維持するためにメディアの利用を含め様々な工夫を行っている。それを維持しようとする努力を「サバイバル・コミュニケーション」と呼ぶ。「サバイバル・コミュニケーション」の諸戦略に対応する形で自己が多元化しつつある。
・①浅野智彦、辻大介、松田美佐らが友人関係や自己を場面に応じて使い分けているという「選択化説」を提起。→自分と似たような人ばかり選択するという選択化の意図せざる結果により、「同質化説」も提起された。
・②友人が増えることは、息苦しさを感じさせ一定の友人の数や満足感を持ちつつも、そこから逃げ出したいという意識を抱えている。
◎『若者たちのコミュニケーション・サバイバルー親密さのゆくえ』 岩田考、辻泉 他 p3~30
【メモ】
・携帯電話の普及はみんなぼっちという関係を築きつつ、他方でその空間には存在しない他者との関係を確保している。これは若者のサバイバルの手段の一つであり、いつでも仲間を携帯したいという表れ。メディア環境が大きく変化する中で若者たちに求められるコミュニケーションスキルは多様化し、その水準は高度化している。
・社会学では流動化・多元化した自己こそが、現代において、適合的な自己のあり方だとする議論も多い。若者の他者との関係は、表層的になっているよりも様々な他者に関してコミュニケーションを高度に使い分けている。しかし、皆が使い分けのスキルを持っているわけではないが、コミュニケーション能力が低くなったというよりも求められるコミュニケーションスキルのレベルが上昇した。
・多元化した自己に映し出されるのは、状況ごとに関係を柔軟に駆使しながら生きざるを得ない若者の姿。これこそ、コミュニケーションサバイバーと呼ぶべき姿。
・今日の社会は対人恐怖社会であり、対人満足社会。→友人関係の選択がうまくいくと満足度が今まで以上に高まる。ただ、失敗に対する不安はなくならないが、望ましい友人関係が持てる可能性があるというハイリスク・ハイリターンな社会。また、友人の選択を繰り返した結果、似たもの同士の友人関係が形成されると、満足感が高まる一方でますます友人以外が異質に感じて不安や恐怖が高まる。
◎ネットワーク社会とぼっち空間 : 学校(第1部|おひとりさまの空間-諸相,<特集>日本のおひとりさま空間)
浅野 智彦
建築雑誌 130(1666), 20-21, 2015-01-20
CiNii PDF - 定額アクセス可能 20160602付属図書館なし、県立図書館あり 請求記号Z52-6
【メモ】
・友人関係は希薄化といわれているがむしろ濃密化している。
・コミュニティの濃密化はそれになじめないもの(一定程度の水準に達しない者)顕在化させる。
・ぼっち、コミュ障、KYはこの局面を言い表すもの。
・デバイス、サービスの創出が友人関係の変化をもたらしたわけではなく、友人関係の変化に適合的なデバイス、サービスが採用されている。→関係性の変化は携帯メディアやインターネットの登場に先立って始まっている。
◎『みんなぼっちの世界 : 若者たちの東京・神戸90's 展開編』恒星社厚生閣 (Kouseisha-Kouseikaku).富田,英典 / 藤村,正之(編) (Tomita,Hidenori / Hujimura,Masayuki(ed)),1999 //JPN
【メモ】
・みんなぼっちは若者のコミュニケーションの状況を象徴的にとらえようとする言葉
・みんなぼっちという行動様式の側面
①コミュニケーションを一定程度とれるまとまりの範囲が狭くなっているがそれを当然のようにとらえている。
②みんなで同じ場所にいても自分らしく振舞おうとする結果それぞれが一人になる
・濃い人間関係も一人ぼっちも嫌でありのままでいたい気持ちと得体の知らない他人と付き合う際の不安という葛藤を処理しているのが「みんなぼっち」という形式。
・ひとりぼっちのみんなが集まってまとまりを作ることに意味があるため、まとまりの結びつきは強くなく、親しさと希薄さがともに漂う。仲間と行動しながら(同じ空間にいながら)個人の好みを尊重するため、みんなぼっちになる(例)仲間と食事に行っても会話をせずに各自が漫画を読みながら食事をする。カラオケに行っても、歌う人、選曲する人、隣の人と会話する人、飲み物を飲む人など各自がしたいことをしているなど。
・青少年研究会の調査(1993)によると都市の青年の4つの特徴
①自己肯定的 ②個人生活重視 ③家族関係よりも友人関係重視 ④規範の順守
検索語「ぼっち」
③・田村,健二 (Tamura,Kenji),1980「ひとりぼっち : 子どもの孤立化」,田村,健二 / 飯田,芳郎 / 池田,由子 / 高石,昌弘 / 高城,義太郎 / 辰見,敏夫(編)(編) (Tamura,Kenji / Iida,Yoshiro / Ikeda,Yoshiko / Takaishi,Masahiro / / (ed))『現代の児童問題とその指導』: 150-153,同文書院. //JPN 20160602付属図書館なし、県内図書館なし 【メモ】子供の孤立化・・子供が自己と集団・社会との結合を喪失していくこと。原因①家族の育児機能の障害(例)周囲の大人がかまってくれない②集団・社会の基準枠と子供の結合(例)親のしつけが生ぬるいため世の秩序を知らず自己中になる *事例と現状の列挙が中心の文献
検索語「コミュニケーション、孤独感」
・広沢,俊宗 (Hirosawa,Toshimune),1990「<研究ノート> 青年期における対人コミュニケーション(I) : 自己開示、孤独感、および両者の関係に関する発達的研究 (<Research Notes> Personal Communication in Adolescence (I): A Developmental Approach to Self-Disclosure, Loneliness, and Their Relationships)」,『関西学院大学社会学部紀要 (Kwansei Gakuin University School of Sociology Journal)』61: 149-160,関西学院大学社会学部研究会 (Faculty of Sociology, Kwansei Gakuin University). //JPN
・北村,智 (Kitamura,Satoshi),2005「対面および携帯メールの社会的ネットワークと孤独感 : 社交性と社会的ネットワークの交互作用を中心に (FtF and text messages Social networks and Loneliness : Focusing on the Interaction of Sociability and Social networks)」,『社会情報学研究』10(1): 1-13,. //JPN
CiNii Articles
検索語「ぼっち」
②・友人付き合いにおけるグループ志向の構造
田村 未来 , 石井 徹
… 他方女子大学生は男子大学生よりも,独りぼっちだと他者から見られることを気にしていた。 …
社会文化論集 : 島根大学法文学部紀要社会文化学科編 10, 27-41, 2014-03-26
CiNii 外部リンク 機関リポジトリ 20160602付属図書館書庫3層 請求記号なし 書誌ID AA12006101
【メモ】 島根大学生299人に調査。男性のほうが女性よりも、上回生のほうが1回生よりも個人志向が強い。男性は自分と友人が異なる存在であると認識し自立的な付き合い方をあい、女性は友人と理解しあい一つになるという付き合い方をする。学年が上がるにつれ、個人志向が多様化し、グループから離れ一人で行動する機会が植える。男性は複数のグループに所属し、女性は1つのグループに所属する傾向がある。50%の人が自分は周りのひとよりも友人が少ないと回答。統計学の因子の数値が多数用いられており、難解な部分あり
Amazon検索
2016.6.16
検索語「ぼっち コミュニケーション」
・「人間嫌いの理由〜自称・コミュ障とぼっちが自分を理解するためのリスト50」 2013/10/20
MMミリオンセラー
検索語「若者 孤独」
・「生きられる孤独」 2010/9/13
芹沢俊介、須永和宏 東京シューレ出版
検索語「孤独 コミュニケーション」
・「孤独病 寂しい日本人の正体 」(集英社新書)2015/10/16
片田 珠美