テーマ 共生ケア施設における子どもと高齢者のかかわり
【問題関心】
現代社会では、少子高齢化や核家族化、都市化、晩婚化などが進行し、家庭や地域での子どもと高齢者との関わりが減少している。その中で介護と保育の複合的なサービス(幼老統合ケア)が提供できる幼老複合施設や宅幼老所の取り組みが注目されている。そのような施設では、子どもと高齢者が関わる機会が設けられ、子ども側には教育的効果、高齢者側には介護予防効果や生きがいの創出などといった相乗効果が生まれる事例が確認されている。本調査では、幼老複合施設や宅幼老所での幼老統合ケアの在り方としてどのようなものが求められるのだろうか、また近年幼老複合施設や宅幼老所が増加している背景として、社会では年齢や障害の有無に関わらない共生ケア的なサービスが求められているのだろうかということを明らかにする。
少子高齢化により、高齢者が安心して充実した老後生活を送ることができるように、多様な福祉関連施設や介護サービス基盤を整備することが求められている。一方で、子育て中の親が安心して子育てがでるような社会支援体制の充実や豊かな環境での子育てができるような地域社会づくりも課題となっている。現代社会では、少子高齢化と同時に核家族化、都市化も進行し、家庭や地域で見られる世代間交流の機会が減少していることも対処すべき課題である。
【幼老統合ケア、幼老共生とは】
子ども用の施設と高齢者用の施設を合築するなど、子どもの育成と高齢者のケアを統合して行うことで、費用対効果(経済的効果)に加え、世代間交流に伴う高齢者のいきがいづくりや子どもの社会性や高齢者の理解の促進、文化の継承、教育的効果を目指す取り組み。1つの敷地内に高齢者をケアする施設と、保育や学童事業などの子どものケアをする施設を一体的に建設し、高齢・子ども双方の事業を融合・連携して行う。
【地域共生社会とは】
「ニッポン一億総活躍プラン」において「子ども・高齢者・障がい者などすべての人々が地域、暮らし、生きがいを共に創り、高め合うことができる」社会であるとされている。「地域共生社会」とは、対象者や機能ごとに整備された「縦割り」の公的支援を「丸ごと」へ転換し、地域全体で支え合う社会にしていこうというもの。その実現に向けて、地域住民が世代などを超えてつながり、地域課題の解決力を強化することを求めている。
これまでの公的支援は、高齢者、障がい者、子どもなどの対象者ごと、または生活に必要な機能ごとにサービスが分かれていた。しかし最近は、介護と育児を同時に行う「ダブルケア」や、80代前後の高齢の親が長期的にひきこもりをしている50代前後の子を養うことにより生じる生活の問題「8050問題」など、複合的な課題を抱える世帯が増えている。そして、誰にも相談できず社会から孤立してしまうケースも少なくない。また、高齢化や人口減少が進み、公的な福祉サービスだけで要支援者を支援することは困難になってきている。「地域共生社会」とは、このような社会構造の変化や人々の暮らしの変化を踏まえ、制度・分野ごとの『縦割り』や「支え手」「受け手」という関係を超えて、地域住民や地域の多様な主体が参画し、人と人、人と資源が世代や分野を超えつながることで、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会を目指すものである。
「地域共生社会」の実現に向けて|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
「富山型デイサービス」 …1993年に開設された富山県初の民間デイサービス「このゆびとーまれ」開設当時の介護は、行政による措置制度の時代で、行政からの補助金は「赤ちゃんからお年寄りまで利用可能なデイサービス」という点が問題になり、対象を絞らなければ交付されない状況だったため、施設は公的な制度を利用しない「自主事業」として事業を開始。その後、そうした活動やそれを支持する声に後押しされる形で、行政も縦割りにとらわれない柔軟な補助制度を創設していくようになる。現在では、富山型デイサービスの取り組みは富山県に限らず全国に広まっている。
富山型デイサービスの特徴 小規模…一般住宅をベースとして、利用定員が概ね15人程度であり、家庭的な雰囲気が保たれている。
多機能…高齢者、障害者、子どもなど利用者を限定せず誰でも受け入れ対応する。
地域密着…身近な住宅地の中に立地しており、地域との交流が多い。
【世代間交流】
〇世代間交流とは…子どもと高齢者など多世代の交流のこと。多世代交流とも言う。
〇世代間交流が展開されるようになった背景
現在、昔は地域や家庭の中で見られた世代間交流が減少したため、保育園や学校などの教育施設や高齢者施設で世代間交流プログラムを実施することが注目されている。
・少子高齢化
・三世代同居世帯の現象、核家族世帯の増加
・高度経済成長期の人口移動に伴う地域関係の希薄化
・「多世代が共に生活するのが当たり前の地域の姿である」という理念の浸透(共生型サービスの制度化などから)
〇世代間交流の効果
子ども側の効果
・教育的効果
子ども世代が高齢者世代の持つ様々な知恵や昔遊びといった伝統の文化を学んだり、他世代との対人関係を学ぶことができる。
高齢者側の効果
・生きがい効果
社会への参加を通して生きる意味や価値を見出す。
・介護予防効果
認知症を予防したり、ADLの維持・向上につながる。
※ADLとは「Activities of Daily Living」の略称で、人が日常生活を送るために必要な基本的な活動や動作のことを指す。
地域の効果
・地域活性化効果
〇日本における世代間交流の展開
黒岩(2018)は日本での世代間交流の展開を4つの流れに分けて分析している。
※「世代間交流」は世代間の断絶が著しかった1960年代半ばにアメリカにおいて、研究者らによりその必要性が指摘され、各地でIntergenerational Program(世代間交流プログ ラム)が登場したのがその起源と言われている。1965年には、連邦政府によって Foster Grandparents Program(里親祖父母プログラム)という、子ども世代と高齢者世代の交流を目的とするIntergenerational Programが開始された。
①1960年代・文化継承の活動としての世代間交流の登場
…「教育的効果へ」の着目
日本の世代間交流は、アメリカと同様、1960 年代後半から子ども世代と高齢者世代の交流を目指す活動として始められた。しかし、日本の世代間交流の多くは、プログラムという継続的なものではなく、イベントや行事という単発的なものであった。
②1980年代以降・「幼老統合ケア」の試み
…「教育的効果」「生きがい効果」「空間的効果」「財政的効果」
子ども世代と高齢者世代の交流を、単発的なイベントではなく意図的・継続的にするための仕掛けとして捉えることができるのが、「幼老複合施設」における「幼老統合ケア」の実践である。幼老複合施設が多く登場するようになるのは、1980年代以降である。
③2000年代以降
…「生きがい効果」「介護予防効果」
2000年の介護保険制度施行に伴い財政が圧迫される。そこで、健康な人ができるだけ要介護状態にならないようにすることである「介護予防」を強化する方針がとられることとなった。介護予防を担う機関として地域包括支援センターが創設され、市町村独自に創意工夫した介護予防が出来るように、地域支援事業も開始された。地域支援事業では、地域住民の支え合いが重視され、特に高齢者世代は介護予防事業の「受け手」であると同時に「支え手」でもあることが強調された。例えば、地域で開催される体操教室で、健康な高齢者が体操の指導をする。そこで「支え手」として「役割」を与えられ、さらに活動を通して健康も維持されることから介護予防ともなっている。支え合いの活動は「役割」を与えることができるのが一つの特徴であり、世代間交流もまた、高齢者世代に「役割」を与えるものであるとして注目されていった。
④2010年代以降
…「支え合い」の重視と高齢者の「介護予防効果」
高齢化の進展により「支え手」が減少する中で、高齢者も含めて「支え手」にならなければ、超高齢社会の諸課題(老老介護、認認介護の増加など)を乗り越えられないという危機感が社会全体に共有されているとも言える。地域支援事業においても、2012年から「介護予防・日常生活支援総合事業」が始められたが、この事業は「地域全体で高齢者の生活を支える」ことをコンセプトとしたものである。さらに事業は2015年の改正で再編され、より地域住民の支え合いを強化する内容となった。
〇世代間交流に関わる行政の動き
2000年 介護保険制度施行
2005年 介護保険制度改正→「地域包括支援センター」の創設、地域支援事業の開始
2012年 介護予防・日常生活支援総合事業が開始
2013年~厚生労働省が多世代が利用できる多機能型の福祉拠点として「宅幼老所」を推進
2016年 「『我が事・丸ごと』地域共生社会実現本部」が設置。
2018年 介護保険制度改正による「共生型サービス」誕生
〇幼老複合施設や宅幼老所でみられる世代間交流
北村(2003)は2種類に分けられるとしている。
計画交流…行事やイベント、レクリエーションなど施設側が内容や形態を事前に計画した上での子どもと高齢者の交流。年行事としての交流は多いが、月行事、周行事のように頻繁に交流の機会を持つ施設は少ない。
自然交流…挨拶や会話など日常生活の中で自然発生的に行われる子どもと高齢者の交流。また、自然交流が望ましく、幼老複合施設では、自然交流を行うことはできるが、多くの課題から現状行われている交流は計画交流がほとんどである。
渡辺(2004)は幼老複合施設に交流に関するアンケートを実施し、実際に行われている交流を以下のようにまとめている。
行事での交流
誕生会(毎月1回)、七夕、夏祭り、盆踊り、遊戯会、芋掘り、運動会、敬老会、勤労感謝の日、 クリスマス会、もちつき、子どもの日、ふれあい祭り、節分、ひな祭り、三世代レクリエーション大会、観桜会、菊見会、音楽会、発表会、年末子ども会、作品展、三世代作品展、合同作品展、 シルバーセンター祭りに参加、クロッケー交流会、お茶席交流会、遠足、旅行、バザー、移動動物園、合同震災訓練、観劇
その他の交流
伝承遊びを一緒に楽しむ 、高齢者が紙芝居や和楽器演奏・遊び・フォークダンスをする、 空き缶拾い・さつまいも作り・笹まき作りを一緒にする、 毎週決まった曜日に高齢者・ボランティア・障害者も一緒に手話・手遊び・劇などで交流する、不定期にリトミックをする、毎月1回園児が合奏をする、 週1回遊戯具で遊ぶ など
日常的な交流
日常的に遊びに行く園児が朝の挨拶に行く、 散歩の際に訪れる、 園児が毎日ローテーションを組んで訪問、昼食を同じ食堂で取る、 定期的に訪問し、園児と高齢者がペアを組んで過ごす、 昼食後園児が車椅子を居室まで押す、 週1回園児がデイサービスに行きゲームなどをする、 施設の日常訓練に園児が参加する、 風船バレー・ダンス・リース作り・ちぎり絵・遊戯こいのぼり、ミニねぶた、交通安全マスコット(作り?)などの共同制作をする、毎日園児が施設を訪れてゲームなどをする など
黒岩(2019)は、福祉分野で世代間交流が行われる際には、「それが当たり前の地域の姿である」という前提があるように思われ、そのため、意図的・継続的に何かをプログラムをするというよりも、その場を共有することで自然に交流が生まれることが期待されているのかもしれないとしている。
【幼老複合施設】
〇幼老複合施設とは…子ども用の施設と高齢者用の施設を合築、併設した共生型施設。2 施設が併設あるいは一体的に整備されていることから日常的な幼老の生活交流が展開できる。 高齢者の施設は特別養護老人ホームやグループホーム、デイサービスセンター、地域で趣味の活動を行う老人センターなどがある。子どもの施設は、保育園や幼稚園、児童館、学童保育施設、育児センターなどがある。
〇事例
(株)global bridge「かいほの家」(東京都)
事業所内、認可外保育所とデイサービス事業所を組み合わせた子なう世代間交流型の介護・保育融合施設を特許出願し、事業を展開。 幼老複合施設がもつ世代間交流の場としての有用性だけでなく、事業性から見た利点を以下のように利用し需要の創出を図る。
・デイサービス事業所と事業所内保育施設を共に建てることで初期投資・ランニングコストを3割削減。
・一定基準を満たすことによって、付加される設置費助成金や運営費助成金を利用。 ・事業所内保育施設の保育単価が他の保育施設に比べ一番安いことを利用。 ・介護施設で働く職員が併設する保育所に安心して子どもを預けることができるなど、産後の仕事復帰(仕事と子育ての両立)がしやすい環境を創出。
・なぜ事業所内保育施設×デイサービスなのか…… (代表取締役貞松氏の語り 貞松成,2012,「介護と保育で日本を変える世代間交流施設「かいほの家」のつくりかた,長崎出版より)
①運営主体規制
…「その事業の運営を行うことができるのは社会福祉法人に限る」という規制→介護老人保健施設、特別養護老人ホーム、認 可保育園は事業運営が社会福祉法人に限られている
②総量規制
…「この地域にはすでに介護施設や保育園があるから、これ以上は作る必要がない」という規制。
その他の障壁…介護事業や保育事業は消費税が免除される非課税事業だが、株式会社の場合は法人税までは免除されない。社会福祉法人は親族経営が一般的であり、新しく設立をするにしても難しい壁がある。
→①、②を考慮して新規参入がしやすい介護事業は「デイサービス」、保育事業は「家庭的保育園(無認可保育園)」「保育ママ」「事業所内保育施設」に限られると主張。また、世代間交流は比較的介護度が低い高齢者が主なデイサービスが適していることや保育の一日の流れとデイサービスの一日の流れが似ていることなども理由に挙げている。
高齢者にとっての効果…①精神衛生の向上②身体機能の向上③人間関係の向上
子どもにとっての効果…①社会力の育成②養護力の育成③人間力の育成
会社にとっての効果…①求人力向上②離職率の低下③特色の確立
従業員にとっての効果…①出産後の職場復帰②子育てと仕事の両立③利用者満足の体感
社会福祉法人あしたねの森(富山県富山市新庄町) 社会福祉法人アルペン会 あしたねの森 (ashitanenomori.jp)
…高齢者施設と保育施設、学童施設が併設されており、高齢者棟(特別養護老人ホーム、ショートステイ、デイサービス)と保育棟(幼保連携型認定こども園「ガンバ村保育園」)、学童棟(学童保育、放課後等デイサービス)に分かれている。高齢者と子どもが日常的に交流し、スタッフも我が子を敷地内の保育園や学童保育に預けて仕事ができるので安心して長く勤められることを特徴としている。多世代交流を通して「笑いあい、学びあい、支えあう」地域づくりを目指している。
【宅幼老所(地域共生型サービス)】
〇宅幼老所とは…小規模で家庭的な雰囲気の中、高齢者、障害者や子どもに対して、1人ひとりの生活リズムに合わせて柔軟なサービスを行う取組。地域共生型サービスの一つ。通い(デイサービス)のみから、泊まり(ショートステイ)や訪問(ホームヘルプ)、住まい(グループホーム)等の提供も行うなどサービス形態は地域のニーズに応じて様々に設定されている。富山型デイサービスなど。
〇事業の理念…「誰もが地域でともに暮らす」(共生)を重視、選択の自由 ・家族のように過ごせる第二の我が家・近所の家に遊びに行く感覚・いつでも誰でも受け入れ可能
〇事業の実施形態
・小規模……例えば、利用定員10~20人程度
・多機能……高齢者、障害者(児)、子どもなどを対象
・地域密着……NPO等多様な主体による参画(住民にとって身近な主体の参入)
〇宅幼老所の活用イメージ
以下のようなサービスを組み合わせて、地域の多世代が交流し、地域住民のさまざまな相談にも応じる福祉拠点として機能することが期待されています。運営に係る費用等については、介護保険法や児童福祉法などに基づいて、利用料や補助金として拠出されます。
・富山型デイサービス
年齢や障害の有無に関わらず、誰もが一緒に身近な地域でデイサービスを受けられることを特色とした富山から全国に発信した福祉サービスのこと。小規模で家庭的な雰囲気・高齢者、障害児(者)、学童、乳幼児の預かりを可能とする多機能性・住み慣れた身近な地域に立地する地域密着性が特徴。2018年時点で、富山県内で125事業所、全国でも約2,000事業所にまで増えている。( 富山型デイサービスとは | とやまの地域共生 (toyama-kyosei.jp) より 富山型デイサービス「このゆびとーまれ」、富山型デイサービス、共生型グループホーム「しおんの家」など
富山型デイサービスと行政
▼主な支援内容
目的
・高齢者、障害児(者)、児童のすべてを対象としたデイサービス、ショートステイ等の日中及び夜間の介護、訓練及びレクリエーション、保護・預かりを行う施設の施設整備に対して市町村が支援を行う場合、または市町村が自ら施設整備する場合に、当該市町村に助成する。
実施主体
・NPO法人、市町村、その他知事が適当と認める法人
補助対象経費(国庫補助等他の助成制度が適用可能な施設整備・設備に要する経費を除く。)
・施設整備のために必要な新築費、既存施設改修費及び初年度備品費
基準額〈国庫補助等他の助成制度が適用可能な施設整備・設備に要する経費を除く。〉
・施設整備
新築の場合 1箇所…1,200万円
住宅活用施設整備 ①住宅等改修 1箇所…600万円②機能向上(改修)1箇所…600万円③機能向上(除雪機、AED等)1箇所…60万円
②、③は平成24年度より、通常の指定通所介護事業所等から富山型への転換を図る際にも利用可能
補助率
・県…1/3 市町村…1/3
その他
・福祉車両の設置 1台…50万円(上限)
富山型デイサービス職員研修会
・富山型デイサービス事業所の職員に対し、高齢者、障害者、児童などの分野を横断する総合的な研修を行い、富山型デイサービスの理念普及や、サービスの質の向上を図る。
富山型デイサービス起業家育成講座
・新たに富山型デイサービスを起業しようとする人のための研修を行う。平成14年から始まった講座は、平成26年で13年目を迎え、毎年多くの方々が受講している。
〈事業所例〉
デイケアハウスにぎやか(富山県富山市)
・活動理念…死ぬまで面倒みます ありのままを受け入れます いいかげんですんません
・開設の経緯…開設者は、理学療法士として施設で勤務していましたが、大規模 施設でのケアの限 界を感じ、地域で老いることへの援助の方 がやりがいがあると考えました。その時に、赤ちゃんからお年寄りま で、障害があってもなくても、誰でも気軽にいつでもいつまでも 利用できる「富山型デイサービス」と出会い、自宅を改装して開設しました。現在は、自宅すぐ近くに新しく建築した建物で活動を行っています。
・対象者…高齢者、障害者・児、子ども(乳幼児、学齢児)
・サービス内容…短期入所生活介護、宿泊サービス通所介護、通所サービス短期入所、宿泊サービ ス、生活介護、自立訓練(機能訓練、生活訓練)、児童発達支援、放課後等デイサービス、通所サービス、一時預かり、放課後児童クラブ
・交流内容…スケジュールは決まっていませんが、お互いを理解し、一緒に笑う、喜ぶ、楽しむ、怒る、哀しむ、遊ぶ、働く、出かける等、 生活の場として過ごしています。
その他 ○○県○○市 宅幼老所○○○○ (mhlw.go.jp)
【幼老複合施設や宅幼老所のメリット】
高齢者のメリット
・子どもと話したり、触れ合ったりすることで、自然な笑顔がうまれる
・見守りなどの役割を見つけ、自信をもつことができる
・脳の活性化
・意欲が高まり、日常生活の改善や会話の促進につながる
子どものメリット
・核家族が増えている中で、大家族のような関係を築ける
・高齢者と日常的に関わることで、挨拶や食事のマナーなどを自然と学べる
・幅広い知識の習得
・他人への思いやりや優しさ、豊かな感性などを身につけることができる(生育面での効果)
障害者(児)のメリット
・安心して過ごせる居場所ができる
・自分なりの役割を見いだし、自立へとつながっていく
スタッフのメリット
・子育て中の職員などが、子どもを連れて通うことができる
・宅幼老所のスタッフとして働きながら、安心して子どもを育てることができる
地域のメリット
・地域住民のさまざまな相談に応じる福祉拠点となる
・地域の特性などに合ったサービスを提供できる
・財政難な地域では少ない費用で要望を叶えられる(既存の建物を使うことで新たに費用をかけなくて済むため。例えば、“既存の保育所にデイサービスセンターを併設する”“既存の養護老人ホームに保育園を併設する”場合等。)
【宅幼老所のデメリット、リスク】
・感染症の蔓延…高齢者も子供も、免疫力が低い状態にあり、特に子供は感染症にかかりながら免疫力を高めていく(感染症の抗体を獲得していく)ような発達をするため、よく感染症にかかる。集団感染等。
・事故のリスク…認知能力や身体能力が低下した高齢者と、判断力の未熟な子どもが一緒に過ごすことで事故のリスクが高まる。例えば走り回る子どもと高齢者がぶつかって転倒する、高齢者の薬を子どもが誤飲するなど。
・職員の負担の増加…子ども、高齢者、障害者(児)の管理の難しさ。スタッフには保育、介護の両方の分野の専門的な知識が必要になる。
【参考webサイト】
誰もがともに暮らす「宅幼老所(地域共生型サービス)」とは | 介護の便利帖|あずみ苑-介護施設・有料老人ホーム レオパレス21グループ (azumien.jp)
育児と介護が重なる「ダブルケア」とは?その実態と対策 | 介護の便利帖|あずみ苑-介護施設・有料老人ホーム レオパレス21グループ (azumien.jp)
「地域共生社会」の実現に向けて|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
【文献リスト】
【社会学文献情報データベース】
介護 保育…21件
少子高齢化…30件 児童福祉 介護…3件 複合 施設…2件 共生 福祉…48件
介護施設…24件 保育施設…3件
世代間交流…17件 世代 交流…41件 多世代 交流…2件
かいほの家…0件 幼老…0件 複合 施設…0件 事業所内保育園…0件
【CiNii】
介護 保育 445件
介護 保育 複合 6件
介護 保育 世代 交流 16件
児童福祉 介護 41件
かいほの家 2件
幼老 複合 19件
保育 介護 融合 6件
多世代 複合 施設 19件
事業所内保育 86件
・石丸信恵・坪井良史,2019-03-31,「共生ケアのプロセスについての一考察 : デイサービス池さんにおけるインタビュー調査から」,松山東雲女子大学人文科学部紀要 (28), 10-21, 松山東雲女子大学人文科学部紀要委員会 ☆☆
共生ケアの効果は子どもからお年寄り,障害者まで様々な利用者にみられるといえる。しかし,それは理論化まで至っていないということがいえる。その理由は,まず(1)子どもに対する教育効果や高齢者に対する安らぎについて主観的な評価しか得られておらず客観的な調査が必要である(上野 2011)との指摘があること,次に(2)日本の現状に関し,多くの場合において共生ケアの取り組みは「経験的な良好性に依存」していることが多く,「感覚的に好ましいという段階の認識が主流」である(角田 2015)との指摘があること,さらに(3)一体型ケア(共生ケア)の普及に向けて,その有効性を実証し,理論化することの必要性を指摘する声があるためである(安留 2006)。
人や小規模な建物だけでなく,想いやこだわりを徹底 して貫くことにより多様な効果が生まれると考える。その想いやこだわりは「池さん」において大 きく分けて次の 3 つにみられる。それは,
(1)普通の暮らし
認知症の人だけでもなく,障害者だけでもなく,子どもだけでもなく, 近所の方や知人が自然に出入りしたりお客様を迎えたり,福祉を学ぶ授業で中学生を受け入れたりと,様々な人がいる雑多な空間のなかで,スケジュールのない普通の暮らし・当たり前の暮らしを徹底していることである。こういった特別ではない毎日・日常から離れてしまったら介護の目的はないのではないか。当たり前の生活ができてこその介護だとスタッフは語る。森田(2017b)も,様々な主体がごちゃ混ぜに交わる場における「日常性」が鍵となっており,この「日常性」こそが子どもや高齢者に対する直接的な効果を生み出すと指摘している。
(2)共に生きる
する側・される側という上下関係を作らず対等な関係を築いて,仕事という枠をはるかに超えて一緒に人生を生き,各々の生き方を考える場でありたいという想いがあ る。極端に言えば,幼老一緒にすることが共生なのではない。一緒に生きるという意味を共に生きることであると考える。「このゆびとーまれ」のスタッフも利用者との関係を,「支え合う」「助け合う」「教え合う」と語っている(平野 2005)。さらに森田(2017a)も,「共生ケアの環境は,職員と利用者である高齢者が個々の主体として相互に関わり合い,相互作用を生み出すプロセスが展開していくことを促す。」と指摘している。
(3)スタッフの能力
スタッフの能力であるその場の利用者の空気を整える力(調整力)や 感じる・察する力である。具体的には,表情や状況を見て次の支援を考えたり,心地よく過ごせる ように対応したり配置を考えることなどである。平野(2005)も,共生ケアの営みには,また来たくなる居場所となるような関係性を保障することが極めて重要だと指摘する。また,スタフの 能力には利用者にどうあってほしいのか,どう生きてほしいのかをしっかり思い描ける力も重要であると考えられる。これらの想いやこだわりにより,高齢者の効果として「役割が生まれる」「能力を引き出す」だ けにとどまらず,「生きていくことをあきらめない」「生きていることを喜んでいる」という希望を 生み出す効果が現れているといえるだろう。障害者にとっては普通に居れるような「無理なくいられる場」であったり,スタッフにとっては自分がもっと「成長したくなる」要素ともなっていると 考えられる。
共生ケアのプロセスについての一考察
以上により,多様な人間関係の中で普通の暮らし・当たり前の暮らしをし,心地よく過ごせるようにスタッフが調整したり感じ・察したりしながら,対等な関係を築いて共に生きることが,池さ んでの共生ケアのプロセスにおいて,多様な効果を生むプロセスにつながると考えられる。
・伊藤 達彦 , 伊藤 朱子 , 山崎 敏 , 勝又 英明 , 2015-03 ,「幼老複合施設の建築複合方法における世代間交流の実態に関する研究 : 関東圏の幼老複合施設を対象として(建築計画) 」, 日本建築学会関東支部研究報告集 (85), 297-300, 日本建築学会 複写依頼済み 未整理 ☆☆☆
【調査】幼老複合施設200件の施設を対象として、交流場所、頻度、交流内容など交流の実態の把握、施設計画に関わる内容についてアンケート調査を実施。
【結果】
幼老交流を行うスペース…デイルーム、ホール、園庭、テラス、屋外空間が多い。
幼老交流の内容…屋内空間で音楽、屋外空間で菜園作業と散歩が多い。
建築複合方法による幼老交流…上下階型の複合方法では運動場や中庭、屋外庭園での幼老交流が難しい。
・王姿月、中野いく子,2016,「世代間交流が幼児の高齢者観に及ぼす影響」, 日本福祉教育・ボランティア学習学会研究紀要 27(0), 86-96, 日本福祉教育・ボランティア学習学会
日本の世代間交流変遷
①1960年代頃から日本の伝統や文化の次世代への伝承や、高齢者の社会的孤立の防止などを主な目的とした自然発生的な世代間交流が生まれてきた。(草野2004)当初は老人クラブと子ども会や保育園児を主体とし、ふれあいや遊びの伝承、季節的な行事に関連したものが中心であったが、その後、小・中学校を主体とする高齢者施設訪問や学校行事への招待などの取り組みも広がっていく。
②1987年には保育所措置費の中に 世代間交流事業が組み込まれ、国による子育て支援策の一環として開始された。
③1990年代に入 ると、旧総務庁による実態調査(「高齢者の地域社会への参加に関する調査」1993)が行われ、 地方自治体担当者向けの世代間交流マニュアルが作成されるなど、国や地方自治体による子育て支援策や高齢者の生きがい・社会参加対策と して推進されていく。
④新たな動きとして、 高齢者施設と保育園・幼稚園などを合築あるいは併設して、「統合ケア」を行うところも出現した。今日、世代間交流の実践は、保育園や幼稚園での取り組みを主流としつつも、多様な主体と内容を含む活動として広く展開されている (林谷ら2012;渡辺2004)。
關戸(2002) 幼児の体験として、①存在が認められる、②ありのままに受容される、③大人との接触により自己認知ができる、④知識や知恵の伝承を受ける、が抽出されたという。 複合型施設での世代間交流は、祖父母との接触に近い体験ができ、 文化の伝承や社会生活のミニ体験、障害を特別視しない態度を育むなどの教育的意義があると している。
北村(2003,2005) ハード面・ソフト面の実態 幼児は、高齢者から喜ばれることが自信になり、老いや体の不自由さへの理解や配慮が自然に身に付く、高齢者は、表情が豊かになるなどの両世代に効果がみられると報告している。
上村(2007) 保護者は、交流を肯定的に受け止めており、思いやりの気持ちが育つという意見が多かったと報告している。
主藤ら(2011)は、黄な粉づくりや豆腐づくり(労働的遊びの実践的実験)のプロセスを通して、保育園児( 5 歳児)と高齢者の変容を観察する研究を行っている。幼児は、最初の「工程・物・道具」への関心から、加工の質を求めるようになると、知識や技術をもつ高齢者に目を向けるようになり、敬意を持ち始めたことが観察された。
・角間 陽子 , 菅原 愛美 , 草野 篤子 , 2007 ,「複合施設における世代間交流の現状と課題」,一般社団法人日本家政学会研究発表要旨集 59(0), 339-339,一般社団法人日本家政学会 富大図書館あり RIS
目的…世代間交流は次世代の育成や高齢者の役割を位置づけるコミュニティの再構築など、超少子高齢社会における諸課題を解決する可能性を有している。「互酬性」の重視。子育てと高齢者福祉をつなぐケアの実践と相乗的効果を期待した「幼老統合ケア」。全国にある複合施設の把握を試みるとともに、世代間交流活動の内容や頻度及び効果測定や研修の現状を明らかにすることを目的とした。
方法…子ども・高齢者が主な利用者である全国の203ヶ所の複合施設を対象として、郵送による質問紙調査を実施。
結果
(1)複合施設の建築類型は「同一敷地・分棟型・連絡通路あり」「同一敷地・分棟型・連絡通路なし」「同一建物・混在型」が同程度。
境界の有無に関わらず、66.5%で利用者の異なる施設間の自由通行が可能。
(2)日常交流が可能と回答した複合施設は82.8%で、交流活動を実施しているのは96.6%。
活動の効果については、客観的に測定されていない。
(3)世代間交流に関する研修を必要とする意識や研修に対する参加意欲は高いが(81.0%,70.7%)、研修の機会は少ない(10.3%)。
自助努力に依拠している。質の高い世代間交流を継続的に実施するために、プログラム評価と研修の充実に対する強い要望がある。
・金森由華「高齢者と子どもの世代間交流 : 交流内容を中心に」,2012 ,愛知淑徳大学論集. 福祉貢献学部篇(2), 69-77, 愛知淑徳大学福祉貢献学部
1)要介護高齢者と子どもの世代間交流
子どもと要介護高齢者の世代間交流は、幼稚園や保育所などが園の年間行事の一環として行っている交流が主流である。交流内容としては、子どもが高齢者を保育施設に招待し共に過ごすもの、 子どもが高齢者施設に訪問するものなどがある。このような交流内容の高齢者側の利点としては、 高齢者は車いすに座ったままでも参加することができる点である。また、高齢者への負担は少なく 行事後に体調を崩すなどの不安は少ない。課題として、高齢者にとっては参加意義を感じにくいこ とである。遊戯の内容などをどの様に工夫していくのかによって高齢者の参加意義もより有意義な ものへと変化していくであろう。 一方で、子ども側の利点としては子どもの教育的意義を中心に計画できることである。 このような交流は日常的に行われるのではなく特別な機会を設けて行われることが多い。イベント的に関わることにより、高齢者が身近な存在ではない現代の子どもは、高齢者が日常的ではなく特別な場において存在することになり、高齢者をより特別視してしまう可能性を否定できない。幼児はピアジェ(J.Piaget)の言うように、その発達段階から自己中心的である。そのため高齢者と関わることが自分とは違う存在と認識することが予測できる。いずれ自分自身も高齢者になっていくことを自ら理解するのは困難である。そのため、幼稚園・保育所で高齢者と交流するにあたり保育者などから、いずれ全員が高齢者になっていくことを意図的に伝 えていくことを考える必要がある。そのことが、高齢者のために何かをするという視点だけではな く、高齢者から何かを学ぶという気持ちを育む一因になる。
2)健常高齢者と子どもの世代間交流
健常高齢者と子どもが行う世代間交流は、主に高齢者が伝統文化や生活の知恵を伝承することが 多い。竹トンボやお手玉を教える、昔の話をするなどである。この場合は、高齢者が教育者、保育者として子どもに接することになる。高齢者にとって自身の存在価値を確認できる機会になる。現代において、高齢者は自立し生きがいを持つことが求められている。生きがいを持ち健康でいる とが優れているかのような意識があるからである。
このような交流も要介護高齢者と同じく、日常的に行われるのではなく特別な機会を設けて行われることが多い。そのため、同様に高齢者をより 特別視してしまう可能性を否定できない。 保育所などで施設整備などのボランティアを通して子どもと関わりあう交流がある。 高齢者が中心となって関わる世代間交流の場合、参加する高齢者は健康であり、社会でも十分に働いていくことができる年齢や健康状態である。そのため介助を必要とする高齢者などは対象外と なる。その他の特徴として高齢者が主体的にかかわる世代間交流においても、幼稚園・保育所などが計画している場合が多い。そのため、高齢者と子どもとかかわる保育者など双方から行事を企画 することにより効果的に交流できることが期待される。
考察
①幼老複合施設における世代間交流の取り組み
高齢者と子どもが、相互にケアされる立場として行われる交流として、幼老統合ケアがある。子どもと高齢者が共に参加する交流は、地域コミュニティーにおいてイベントとして催される場合も あるが、主に子どもの施設と高齢者施設が併設されている幼老複合施設において行われている場合 が多い。しかし、現実には高齢者と子どもの世代間交流を目的に進められてきたのではなく、厳しい財政状況にある国や自治体が、土地や既存施設の有効活用を はかり、効率的な施設設備をめざして複合化してきた背景がある。大型の幼老複合施設のほかに宅老所や地域共生ホームなどの小規模多機能ホームと呼ばれる施設も幼老統合ケアを取り入れやすい 施設として注目されている。小規模多機能ホームでは、高齢者・子ども・障害児(者)など、様々 なニーズに柔軟に対応しやすいという利点があるからである。 幼老複合施設では、空間の利用や設備の配置によって高齢者と子どものかかわりの頻度が異なっ てくる。例えば、高齢者のリハビリ室や食堂を保育所の遊戯室や園庭がみえる配置にしたり、幼老 両施設の境界部に設置される扉を格子にすることがある。このようにすると、お互いの気配を感じられるようになり直接的に交流するだけでなく間接的に交流することができるのである。つまり、 意図的な交流だけでなく、意識することのない交流が生まれるのである。 その他の利点として、日常的な関わりができる点があげられる。子どもは高齢者に対し「つえをついている」「よぼよぼしている」などのステレオタイプ的なイメージではなく、高齢者の現実的な心身の特徴などを学ぶ要因になると考えられる。日常的に接していた高齢者の死などを経験することや、子どもや仲介世代よりは死に直面している高齢者と日常的に接することにより、死に生と死の教育(デスエデュケーション)の効果も期待することができる。 統合ケアの課題としては、子どもが苦手な高齢者への精神的負担と、保育者の高齢者理解、介護 者の子ども理解の必要性があげられる。子どもが苦手な高齢者が、長時間子どもと接することで、心身に負担を感じることが考えられる。保育者が高齢者の身体的・心理的特徴に関する知識がなか ったり、逆に介護者が子どもの身体的・心理的特徴に関する知識がないため、危険予測が十分にで きず戸惑ってしまい、介護者・保育者が幼老統合ケアに対し負担を感じてしまうことも考えられる。
②高齢者と子どもの世代間交流の援助者の役割
高齢者と子どもの交流を企画する保育者や介護者など援助者の企画が必要になることがわかる。つまり、世代間交流を意図的に行うとき、二世代間の交流ではなく三世代間交流になるのである。たとえば保育場面において世代間交流を企画した場合に、子どもと高齢者の関わり以外に保育者と高齢者、子どもと保育者の三世代方向の交流になる。 金子真由子は老人と子どもの関係を、「両者がいれば自然と会話や交歓が生じ、子どもの成長や高 齢者の積極性を促す効果があるといった関係ではない」としている(金子 2006)。むしろ「食い違いが生じ、会話や応答も生まれず、お互いが別々の方向を向いてしまう」ことを指摘している。しかし、実際には高齢者は子どもとの世代間交流場面において、援助者である保育者や介護者とのかかわりにお いても様々な刺激を受けるのである。そのことを念頭におき論じる必要がある。世代間交流を企画 する高齢者と子どもの援助者も、すでに核家族で成長している場合が多いそのため、援助者である 保育者も子どもと同様に高齢者をステレオタイプ的に捉えている可能性がある。どの様な形態の交流であっても、保育者が高齢者を介護し援助すべき対象、生きがいを与えるべき対象として接する のと、自分達の生活している社会を築いてきた先人として捉えるのとでは子どもに与える影響は異なる。課題としては、幼稚 園・保育所の保育は、世代間交流以外にも行うべきカリキュラムがある場合が多い。そのため、高 齢者と関わる行事をカリキュラムの中心として組み立てることは難しい。昨今の保育問題として、 さまざまなことが保育施設にもとめられ保育者の労働過重が取り上げられている。
今後の世代間交流の研究に必要となってくることとして、主に三点を挙げることができる。
①子どもと高齢者の交流を考えたときに、多くの時間を過ごす幼稚園・保育所での交流が主である。しかし、保育に関する世代間交流の研究は少ない。
②子どもと高齢者との交流はその対象者によって内容が異なる。高齢者を祖父母と祖父母以外の 高齢者をはっきりとさせ世代間交流活動をする必要があり、祖父母以外の高齢者では健常である場 合と要介護である場合も区別する必要がある。世代間交流活動には高齢者の状況によって交流内容が異なるためである。対象となる子どもと高齢者をはっきりと区別し、それぞれの状況を考慮しつつ世代間交流の内容を構築していく必要がある。
③世代間交流の研究をすすめるにあたって、高齢者と子どもの交流であっても二世代間交流として捉えるのではなく、高齢者、子ども、保育者、介護者など援助者との三世代方向の世代間交流と して捉えるべきである。それにあたり、世代間交流に携わる保育者の高齢者観についても研究していく必要がある。子どもは保育において保育者の影響を強く受けるためである。また、 介護者も子どもの特徴などを理解することも世代間交流が効果的に行うことができる一因となる。
・金子真由子、山口恒夫,2007-03,『「老人と子ども統合ケア」における「老人」と「子ども」の交流--N県K福祉総合施設への参与観察を通して』,信州大学教育学部紀要 (119), 67-78, 信州大学教育学部
問題の所在
老人と子ども統合ケア→異世代間の交流の場を意図的にに設定しようという試み
土地や建物の有効利用という観点から高齢者施設と保育園や小学校などの教育施設を合併させた側面あるが、近年は「活力ある高齢者像と世代間の新たな関係の構築」(厚生労働省2003)を目指して高齢者の生きがいづくりや子どもの社会性や高齢者の理解を促進しようという施策が目立つ。
広井2000.増山2003
統合ケアや世代間交流によって、老人の側に自らの経験や知恵を次世代に伝達していく活動に積極的に関わる機会が開かれ、そのことによって生きがいや社会参加意欲が高まり、子どもの側では、高齢者との交流により社会性や豊かな人間関係が育まれ、「生きる力」が形成されることへとつながると論じている。
→統合ケアが高齢者に「歓び」や「心身の状態の活性化」をもたらし、子どもの成長に不可欠な異世代との交流の機会を用意するということは自明であるかのよう
草野2004.多胡2005
統合ケアを実践する立場からの報告
老人と子どもの交流を、単に「ほほえましさ」や「好ましさ」といった表層的な次元で捉える姿勢にとどまる。
「やさしく、かわいく、知恵のあるおじいちゃん、おばあちゃん」といったステレオタイプな老人像に基づく形式的な交流にとどまっている場合が多い。
統合ケアや世代間交流においても、同一空間に老人と子どもがいれば自然に会話や交歓が生じ、それが子どもの成長や老人の積極性を促す効果があるはずだという前提に立っている。しかし、それは(昔は老人と子どもは一緒に暮らしていた)というある種のノスタルジックな思いに基づいて両者の関係を人工的に作り出そうという試みに過ぎないとも言える。
観察
子どもと老人間及び老人同士の言語的相互作用
身体的接触
感情や情緒的な交流
介護士と保育士ら職員の指導による活動の設定の仕方やそこでの、活動が子どもと老人にどのように共有されたのか
老人と子どもの交流の四つの次元
①第1次元・仕組まれた交流(共有)
交流時に必ず行う活動として握手。子どもたちは一列に並び、順番に老人たちと握手をしていく。ここには身体的接触がある。老人は子ども1人1人に「はい、こんにちは」などと声をかけながら握手をし、両者のあいだには言語的な相互作用の可能性よも生じるが、子どもの側では挨拶を返す子どもと黙ったままの子どもがいる。
いつもと違い水着の子どもたちと握手。老人「泳げるの?」3人の老人「しっかり泳いでおいで」笑いが起きる→子ども問いに答えず「おはよう」というか、無言のまま握手。
子どもは「おはよう」などの決まりきった挨拶はできるが、とっさの応答はできない。子どもたちにとって相互作用の可能性があったにもかかわらず、それは閉ざされてしまった。握手は仕組まれた交流の域からはみ出すことのない形式的なものである。
貼り絵に参加しない老人
参加しない老人、隣にいた子供を越えて「目が見えなくてね」と話しかけてかた。何度か「目が見えなくてね」と言う。
「子どもが帰った後、自分の障害のことを口にする老人もいます」という介護士の言葉にもあるように自立的な大人へ向かって成長・発達していくことが混ざられる子どもと日々老いていく老人がともに作業を行う場面で、老人自らが老いを突きつけられたのである。
お店屋さんごっこ
子ども「ひゃくごえん」
老人「5円なんかないよ。500円?」
子ども「ひゃくごえん」と500円を指差しながら言う
老人「ごひゃくえん?」
子ども「ひゃくごえん」
老人「ごひゃくえん?5円なんかないよねえ」と参与観察者に言う
やり取り繰り返し
結局老人500円を子どもに渡す。黙って受け取り逆側を向いて「いらっしゃいませー、いらっしゃいませー」と言い始める。老人「おもしろいねえ」と少し笑って言う。「これ、もらっていいんだよねえ」と言って袋に入れる。
→老人は子どもに合わせることなく、老人特有の、頑固さで子どもに接して子どもも機嫌を損ねた。わだかまり。両者のやりとりは途絶え、お互いが別の方向を向くことになった。
②第2次元・仕組まれた交流(共在)
子どもの遊戯を老人が見学
仕組まれた交流により、両者はお互いを意識しているが、両者の間には物理的な距離があるため、身体的・言語的接触はなされない。しかし、同一の空間は共有しているので、子どもの行為の変化によって老人もそれに対応している。第1次元のように「求められる(期待される)活動」や「役割」はあるが、距離がある分応答がなく、食い違いが生じる両なかに者が無理に身体的・言語的接触をしなくてすむ。つまり、第1次元より「役割」度は低くなり、多少「肩の力を抜く」ことができる。
③第3次元・日常的・偶発的出会い(非交流)
子どもが保育園の庭で泥んこ遊びを行っている最中に老人が急に見学に来た場面。
介護者の提案で老人が子どもの泥んこ遊びを見に来たが、行くかどうかは老人に委ねられている。子どもに来ることを伝えてはいない。
子どもたち参与観察者にはジュースを持っていくものの、老人へは持っていかず、老人の方へ振り返る様子もない。
大人によって仕組まれた交流でなければ、子どもは老人との関係に乗ってこない。仕組まれた交流のように、事前に老人と何を行うかが子どもたちに伝わっており、「役割」や「求められる(期待される)活動」が子どもに理解されていないから。お互いが自然に歩み寄り、相互作用が起こることもない。「役割」や「求められる(期待される)活動」がない分、第2次元以上に両者は「肩の力を抜いて」目の前の遊びに集中したり、気の向くままに好きな風景を眺めている。
④第4次元・日常・偶発的出会い
遊戯の練習の後
老人が帰る時、ホールに残っている子どもたちの中に入っていき、「かわいいね」「よくやったね」「上手やったよ」と声をかけ、頭を撫でる。子どもはされるがままになっていて、突然の老人との接触にどのように接すればいいか分からないでいる。
考察
老人と子どもの別様の交流
参与観察により老人と子どもの関係は、老人と子どもがいれば自然と会話や交歓が生じ、子どもの成長や老人の積極性を促す効果があるといった関係ではなく、むしろ両者の間に食い違いが生じたり、会話や応答も生まれず、お互いが別々の方向を向くような関係性であった。
特に、「仕組まれた交流」の分析から、企画化された活動や期待されている役割はこなすが不意の出来事が生じた場合にはやりとりは途絶え、別々の方向を向いてしまう結果とやることが示された。このような「仕組まれた交流」は、同一の活動は行っているものの、人為的で形式的な身体的・言語的交流である。
また、エピソード2の老人Bさんの「目が見えなくてね」というつぶやきに示されているように、目の前の「生の躍動にあふれた」子どもによって老人が自分の老いを否応なく自覚させられる事態が生じる。こうした事態の背景には、「成長」や「生産」に価値が置かれ、「衰え」「退行」に象徴される「老い」が否定的に捉えられる時代や社会の趨勢(栗原1997)が見え隠れしている。現在多様に試みられている「老人と子ども統合ケア」や「世代間交流」は、美しき能動的な老人像を強調しているが、このような老人像を抱くことによって、現実の「老い」を否定的、逸脱的にみることにもなりかねない。その瞬間、老人が身にまとう老いや死の影や闇に包まれた部分は切り取られてしまい、そこに潜む「世界」の奥行きや豊かさが失われてしまう。
統合ケア→理念としては豊かな人間関係を求めることを旨とするものでありながら、実践の中では老人と子どもの関係を疎遠で形式的なものにしていくことにほかならない。交流の機会や場を人工的に設定することによって積極的な効果を求める「老人と子ども統合ケア」には、生活実感や他者との関係を作っていくプロセスがないため、子どもは大人によって期待された行動様式のみを身につけていく。
老人と子どもの関係について、「円環としての人生」のイメージに重ねて論じられることがある。人生を直線ではなく円環でとらえると、老人と子どもはともに「死」の近くの場所に立つため、「隣り合わせの関係」であるという点で両者は共通したものを持っている(広井2000a)という。
しかしむしろ、円環のイメージで捉えた両者の関係は、子どもはまだ出発点にいるが、老人は子ども期や大人期を通り過ぎて円を一周しており、最も距離が離れているという意味において「背中合わせの関係」である。この「背中合わせの関係」が老人と子どもの関係の特徴である。「背中合わせの関係」では、お互いのことが分からないため、自然と会話や交歓が生じることはない。両者をなんとか向かい合わせようとして大人が交流を企画しても、その「仕組まれた交流」が終わったとたんに背中を向けてしまう。
自然に老人と子どもが出会っていたような、かつての三世代同居の家族やムラの共同体がすでに失われてしまっているいま、両者が出会うには、「老人と子ども統合ケア」のように、意図的に両者の出会いの場を創設するしかないのかもしれない。そのなかで、第4次元に示されるような老人と子どもの相互作用の可能性があるとすれば、職員による企画から外れた出来事、第1次元、第2次元、第3次元からこぼれ落ちるような出来事である。われわれにできることは、「背中合わせの関係」をそれとして認めることなのである。
・北村 安樹子, 2003-08 ,「幼老複合施設における異世代交流の取り組み--福祉社会における幼老共生ケアの可能性 」,ライフデザインレポート (153), 4-15, 第一生命経済研究所ライフデザイン研究本部
要旨
① 近年の公共施設整備においては、複数の施設を合築・併設したり、既存施設の一部を他施設に転用する事例が増加している。こうした複合施設のうち、保育園とデイサービスセンター、児童館 と特別養護老人ホームなど、子ども用の施設と高齢者用の施設が合築・併設されたものを「幼老複合施設」と呼ぶ。
②幼老施設の複合化では、経済的効果とともに、ノーマライゼーションの理念に基づく異世代交流 が期待されているが、建物の特徴や交流の実態に関する情報は乏しい。本研究では全国の幼老複 合施設15事例に対する訪問調査を行い、ハード・ソフト両面に関する複合の実態を探った。
③ハード面については、ホール、食堂、機能回復訓練室、入り口・通路などの空間配置に、高齢者 と子どもの直接交流を促したり、視覚を通じた間接交流を促す工夫がみられる。
④ソフト面については、自然な交流を目指してさまざまな取り組みを行う施設がある一方で、ほとんど交流がみられない事例もある。先進的な事例では、施設内での高齢者と子どもの交流が、利用者の精神面や身体面に直接効果を与えているほか、利用者から家族・地域住民へ、施設内から 施設外へと交流の範囲が広がっている。ただし、交流の促進やサポートに熱心な施設ほど、職員の負担が大きいという問題がある。
⑤近年では幼老共生型施設の新しい形として「富山方式」「宅幼老所」などと呼ばれる小規模日帰りデイケア施設の存在も注目されている。財政状況からみても、公共施設等の整備に関する複合 施設化の動きは今後も続くと思われる。今後の幼老複合施設の整備計画に、既存施設の取り組みや試行錯誤の経験が生かされるよう、これらの幼老共生型施設における交流の実態や発展プロセ スについて施設横断的に把握することが求められる
1999年に策定された「ゴールドプラン21」
高齢者施設の複合化→この背景には、土地や既存施設の有効活用といった財政的な事情がある。都市部では施設整備のための用地確保が難しく、既存施設に他の施設を合築・併設したり、複数の施設を同時に整備することで、単独整備では難しい計画を実現する場合も少なくない。また、複数の施設機能を複合して設置する方が、設置・運営コストを抑えられる点も複合化の動きを後押ししている。 厳しい財政事情の中で高齢者のための介護サービス基盤を整備することが喫緊の政策課題であったことに加え、ノーマライゼーションの理念に基づく異世代交流の促進という副次的効果が期待されてきたからでもある。
(1)幼老複合施設の分類
幼老複合施設には、施設の組み合わせや建物の構造、運営・設置の形態などによっ てさまざまな分類が考えられる。
1998年12月に(財)国際長寿センターが全国1,000の地方自治体を対象に行った調査によると、もっとも多い幼老施設の組み合わせは「保育所とデイサービスセンター」であり、「児童館と高齢者福祉センター」、「保育所と高齢者福祉センター」、「保育所と特別養護老人ホーム」など がこれに続くという(広井他、2000:p.91)。 近年では社会福祉施設同士の複合事例に加え、小中学校の余裕教室をデイサービス センターに転用するなど、学校教育施設と高齢者福祉施設の複合事例も増加している *1。また、シルバーハウジングなどの高齢者向け住宅に保育園を併設する事例や、3 つ以上の幼老施設を合築する事例などもみられ、幼老複合施設のかたちはますます多様化している。
複合施設は、建物の構造によって図表1のような分類もできる。複合を合築・併設 の上位概念とすると、双方の施設が同一建物内にある(a)の場合、「並列型」や「積層型」、「混在型」、「一体型」などのタイプが考えられる。一方、双方の施設が隣接する敷地内に併設される(b)の場合には、連絡通路の有無によって「①分棟型Ⅰ(連絡通路あり)」と「②分棟型Ⅱ(連絡通路なし)」の2つに大きく分類できる。(浅沼由紀他(2002)『高齢者複合施設』(市ケ谷出版社)p.5を参考に筆者作成 ) また、複合施設は、設置及び運営主体の種類(公営/民営)、数(単独/複数)など による分類も可能である。
【調査】全国の幼老複合施設15か所を対象にヒアリング調査。
3.幼老複合施設の実態と今後の展望
(1)幼老複合施設における異世代交流の実態
1)利用者への直接効果とタテ・ヨコに広がる地域社会への間接効果
調査事例の中には、施設を通じて培われた関係が利用者から家族や地域住民へ、施設内から施設外へと広がっているケースや、子どもが成長して施設を離れた後にも続いているケースからは、幼老複合施設を通じた異世代交流の取り組みが、長期的には地域福祉の向上につながっていく可能性も感じられる。すな わち、幼老複合施設を通じた異世代交流がうまく機能すれば、施設利用者へのケアや 教育という面での質的向上という直接効果とともに、「人」「場所」というヨコ軸と「時 間」というタテ軸への広がりを通じて地域社会への間接効果をもたらすといえよう。
2)計画交流の重要性
幼老複合施設における異世代交流の実態調査からは、施設側が企画するソフト面での「しかけ(=計画交流)」の役割の重要性が浮かび上がってくる。 調査では、空間配置の工夫がソフト面の融合を促している事例もみられた。例えば、 高齢者施設の入り口や通路と子ども施設の空間が接していることで、自然な交流が生まれている事例などである。ただし、これらの場合にも計画交流の役割は大きく、ハ ードの融合が生かされるにはソフトの融合が前提になると考える方が適当であろう。
3)交流促進と負担増のジレンマ
施設の種類や利用者の健康度にもよるが、幼老複合施設でハード面やソフト面の融 合を進めることは、管理の面からみれば、運営主体や職員の負担増につながる場合が 多い。複合化整備は、土地や既存施設の有効活用といった経済的な理由から始まった動きであるが、幼老複合施設の場合には異世代交流というソフト面での相乗効果が期待されてもいる。しかし、整備後の各施設における交流の実態にはばらつきが大きく、 現場にゆだねられている側面が大きい。その結果、交流促進に向けて熱心に取り組ん でいる施設ほど、職員の負担は重くなっているのが現実である。 先進施設が取り組む多様な計画交流メニューの内容や自然発生交流につなげるため の工夫、その発展プロセスなどに関する情報は、新しく整備される施設だけでなく、 交流の形や方法に課題を感じている他の既存施設にとって貴重な情報である。行政の 管轄セクションが各施設で異なる複合施設の実態は、基本的な情報すらほとんど把握されていない。
(2)幼老複合施設の展望 ―幼老複合から幼老共生へ ―
幼老共生型の施設には、本稿で紹介したような幼老複合施設のほか、地域の民家な どを利用し、高齢者や子ども、障害者などさまざまな人々が少人数単位で支え合う「富山方式」「宅幼老所」などと呼ばれる小規模デイケア施設の存在もあげられる。こうし た施設のあり方は、大規模な施設に比べて、整備に必要なコストが小さいだけでなく、 年齢や障害を超えた新しい共生のかたちとしても注目されている。 これらの幼老共生型施設では、いずれも従来は年齢によって一律に分けられてきた 子どもと高齢者という存在を統合し、両世代の相互作用を重視した取り組みが実践さ れている。こうした取り組みは、今後の高齢者福祉や児童福祉、子どもの教育などの あり方に、「幼老共生」という視点を模索する試みとしても位置づけられよう。間近に迫る超高齢社会に向けて、高齢者が豊かな高齢期を過ごすための社会環境の 整備が急がれている。財政的な事情を考えると、大規模施設を単独で整備するのでは なく、できるだけ多くの機能を盛りこみ、有効活用しようという複合型の施設整備の 方向性は当面維持されると思われる。施設形態の多様化が進む中で、幼老共生型施設 における施設運営やケアのあり方など、ソフト面に関する方向性はいまだ確立されていない部分が大きい。今後の整備計画に、既存施設の取り組みや試行錯誤の経験が生 かされるよう、これらの幼老共生施設におけるケアの実態やその有効性、発展プロセ スなどについて施設横断的に把握することが求められる。
・北村 安樹子,2005-01,「MONTHLY REPORT 幼老複合施設における異世代交流の取り組み(2)通所介護施設と保育園の複合事例を中心に 」,ライフデザインレポート (165), 4-15, 第一生命経済研究所ライフデザイン研究本部
要旨
① 公共施設の複合化は、施設整備コストの削減という財政事情を背景とする流れであるが、幼老複合施設では世代間交流の促進というソフト面での副次効果も期待されている。本研究では、高齢 者の通所介護施設と保育園の複合事例に対し、幼老交流の実態と利用者への影響を探るためのヒ アリング調査を実施した。
②計画交流には、行事交流のほか、レクリエーションや創作・芸術活動、食事、スキンシップ・会話 などのメニューがある。通所介護施設では、利用者の顔ぶれが日によって異なるため、個と個の 継続的な関係につながるようにとの配慮から交流相手の組み合わせに配慮したり、交流時の子どもの人数を5~8人程度の少人数単位にしている事例もある。
③施設の経過年数とともに、デイサービス利用者の自立度が低下し、痴呆症状をともなう人が増える傾向にある。こうした変化は、高齢者が施設内を移動する際に体力的な負担を強いたり、間接的 には職員の負担につながっている。高齢者の自立度の変化に応じて計画交流のメニューを変化さ せたり、安全管理などの面から施設の開放性を見直している事例もある。
④保育士と介護専門職は養成課程が独立であり、多くの幼老複合施設には双方のケアに通ずる専門の 職員がいない。世代間交流の促進を目的とする施設を整備する際には、交流のメニューに関する情報提供や幼老統合ケアに関する職員の研修制度などについても考えていく必要がある。
⑤既存の幼老複合施設や関係者をつなぐネットワークはなく、それぞれの施設は独自の試行錯誤を重ねて交流の形や効果を模索している。幼老各施設のケアスタッフや施設管理者、管轄の行政担当 者などを含めて、他施設がどのような交流を行い、どのような課題を抱えているかについて互いに情報を共有するための仕組みを整えていくことが重要であろう。
幼老複合施設にはさまざまな種類があるため、全国的な状況をトータルに把握できるような統計はない。
都市部など施設整備のための用地確保が難しい地域では、既存施設に他の施設を合 築・併設したり、新規整備の際に複数の施設機能を盛りこむことで、施設を単独で整 備する場合に比べて整備コストを大幅に抑えることができる。このため公共施設の複合化整備に関しては、政策面でもさまざまな後押しがある。例えば厚生労働省では、 2002年度の中心市街地活性化促進施策の一環として、都市部において既存施設を老人福祉施設など緊急度の高い施設と複合化する場合には、優先的採択や補助面積加算な どの優遇措置を実施している 。
(1)計画交流のメニュー
メニューは、園児の年齢や高齢者の健康状態などによって異な っている。
園児の年齢については、
・行事交流…乳児を除くほとんどの年齢
・簡単な創作・芸術活動…3~5歳児
・レクリエーションや高度な創作・芸術活動など…5歳児 が中心となるケースが多い。
・スキンシップのうち、抱っこ等…乳児が中心
・手遊びや肩もみ、握手、会話など…乳児年齢以上の園児を対象としている例が多い。
一方、高齢者については、
同じ創作活動でも、自立度が高い場合には高齢者の側が作品等をつくって園児に贈ったり、つくり方を教えたりしている。こうした傾向は、 芸術活動やレクリエーションなどにも共通する。また、スキンシップでは、痴呆高齢者や車椅子利用者も、職員の支援のもとで参加しているところが多い。
通所介護施設と保育園の複合施設における計画交流のメニュー 分類 内容
行事交流 季節の行事(クリスマス、ひなまつり、敬老会など)、誕生日会、運動会など
レクリエーション 伝統遊び(あやとり、お手玉など)、はさみ将棋、坊主めくり、かるた、クイズ、バルーンなど
創作活動 ビーズ手芸、作品づくり、折り紙、料理・おやつづくりなど
芸術活動 合唱、歌遊び、楽器演奏など スキンシップ・会話 乳児の抱っこ、手遊び、肩もみ、握手など
(2)交流方法に関する工夫
1)できるだけ同じ相手と
通所介護施設の場合、施設利用者が各曜日で異なっている場合が多い。このため、 計画交流を行う際に、子どもの側の参加者を曜日ごとに替え、高齢者と子どもができ るだけ同じ組み合わせになるよう配慮している例が多い。こうした事 例では、高齢者と子どもが個人を認識し、継続的な関係を結べるようにとの狙いから、 このような工夫を行っている。
2)子どもは少人数単位で
行事交流を除くほとんどのメニューで、園児側 を5~8人程度の少人数単位にしている例が多い。理由としては、 子どもの人数が多すぎると対応が難しくなること、子どもが興奮したり騒がしくなりすぎること、個別交流につながりにくいこと、などがあげられる。一方、高齢者の側 は、その日来ている人のほとんどが参加している場合が多く高齢者に対して子どもの人数を少なくしている。
3)子どもの苦手な高齢者への配慮
高齢者の中には、子どもが苦手であったり、かかわりたくないという人もいる。こ うした利用者には個別の対応をしている事例が多い。交流活動への参加を強制的にしないことはもちろんのこと、施設利用の曜日に配慮したり、テーブルを囲んでゲームなどを行う場合に、高齢者と子どもの混合メンバーで囲むテーブルと高齢者だけのテ ーブルを用意するなどして対応している事例があげられる
(3)幼老複合施設における世代間交流の効果
世代間交流の効果は、両世代それぞれに観察されている。自立度の高い高齢者では 子どもとの双方向的なコミュニケーションを通じて、子どもに教えたり、子どもから 慕われることが自信や生きがいにつながっている。また、痴呆症状のある高齢者が子 どもとの接触により普段みせない反応を示す、などの例もみられる。一方、子どもの側も、自分の存在が高齢者から喜ばれることが自信となり、年老いた世代や体の不自由な人に対する理解が深まっている様子が保育士や保護者を通じて観察されている。 これらの効果は、必ずしも複合施設でしか得られないものではない。空間が離れていても、訪問交流などの形で機会を設ければ、同様の効果を得られる可能性はある。 ただし、できるだけ日常的に、自然な形で互いの存在を感じ合うという距離感は、幼老複合施設ならではといえる面もあるだろう。 また、複合施設という施設のかたちは、幼老両世代への直接効果に加えて、地域社会への間接効果をもたらしている面もある。
4.おわりに
(1)幼老統合ケアに関する支援
調査結果にみられるように、計画交流のメニューには園児の年齢や高齢者の自立度 によってさまざまな例があげられるが、交流を実施する際に重要なポイントとなって いた点は、職員の対応能力や支援の姿勢である。 現在、高齢者と子どものケアにかかわる人材は、それぞれ独立の専門課程で養成されている。このため、高齢者施設の職員は子どもへの、保育士は高齢者への対応に関 するスキルや知識に乏しい。世代間交流促進を目的とする施設を整備する際には、幼老統合ケア(広井編 2000)のメニューやサポート方法に関する職員の研修制度などについても考えていく必要があるだろう。
(2)複合化へのニーズ
すなわち、幼老複合施設の利用者ニーズ という点では、支持の方向にあると考えてよいと思われる。 ただし、中高年や高齢者のなかには、子どもが苦手という人もいる。幼老複合という施設の形や、幼老交流というソフト面での複合は、施設やケアの選択肢の1つとし て位置づけられるべきものであることはいうまでもないだろう。
(3)高齢者の自立度低下への対応
通所介護施設に限らず、現在、多くの介護関連施設では、施設の経過年数とともに利用者の自立度が低下し、痴呆症状をともなう利用者が増える傾向にあり高齢者が施設内を移動する際に体力的な負担を強いたり、間接的には職員の負担につながっている。幼老複合施設の場合、開設当初に想定していた交流の方法や形が、高齢者の健康状態や施設利用者層の変化にともなって困難になり、交流のメニ ューを変更したり、安全管理などの面から施設の開放性を見直している事例もみられる
(4)関係者のネットワークづくり
高齢者の介護関連施設に関しては、これまでのいわゆる大規模な施設整備という方 向性には財政面からも限界が指摘されており、地域密着型の小規模多機能ホームがこ れに代わる新しい役割を期待されている。このうち、高齢者や障害者、子どもなど 多様な人々が利用する共生型の小規模施設は、「富山型」「宅幼老所」「地域共生ホーム」など、多様な形ですでにいくつかの地域に根づきはじめている。これらの共生型 の小規模施設と、幼老複合施設では、施設の規模や提供されるケアの形も異なるが、 ノーマライゼーションの理念に基づき、子どもと高齢者の世代間交流から生まれる相 乗効果を重視する姿勢については共通している。 事例3でも聞かれたように、既存の幼老複合施設の関係者をつなぐネットワークはなく、それぞれの施設は独自の試行錯誤を重ねて交流の形や効果を模索している。今後は、施設の規模や種類にかかわらず、幼老統合ケアにかかわるさまざまな施設・行 政の関係者が、幼老統合ケアの実態や課題、あるいは発展可能性などについて互いに 率直に議論し合えるようなネットワークづくりが求められよう。
・嶽山 洋志 , 佐野 友梨恵 , 美濃 伸之 , 2015 、「幼老複合施設におけるみどりを素材とした幼児と高齢者の交流について」,日本都市計画学会関西支部研究発表会講演概要集 13(0), 93-96, 公益社団法人日本都市計画学会
近年、核家族化や地域コミュニティの希薄化が進み、幼児らと高齢者の世代を越えた交流が減少している。その影響として、幼児らの社会性を育む機会が損なわれること、 また高齢者の社会的な役割を果たす場が減少することなどが挙げられる 。
このような動きに対し、多くの幼稚園や保育所は高齢者との交流を積極的に取り入れているが、交流の内容をみると幼児の歌や遊技を高齢者が鑑賞するという形態が最も多く、双方向による交流は少ないのが現状である。また交流の頻度も年に数回に留まっており日常的な交流でないことも課題とされる。
立松…幼老複合施設 生活交流日常生活のなかでの自然な関わりが、お互いの存在を認め合い、気遣い、一緒にいることに違和感のない関係を構築させていく。
本研究では、幼老複合施設を対象に、屋外でのみどりを素材とした幼児と高齢者の交流実態について明らかにするとともに、場面に応じた「高齢者」「幼児」「スタッ フ」の3 者の関係について考察することとした。
研究方法
認可外保育園と認知症対応型通所介護施設が同一空間にある幼老複合施設を対象とする。
幼児、高齢者、スタッフの三者の交流のやりとり 発語・行動を記録。
結果
「高齢者×幼児」の2者と「スタッフ× 高齢者×幼児」の3 者という幼老の交流と、それ以外のタイプの交流に分けたところ、幼老の交流は活動によって大きなばらつきはなく,どれも40~45%であった。すなわち屋外でも屋内(55%)同様に幼老の交流が行われていたと いえる。一方、公園遊びの交流のタイプをみてみると、スタッフを介する交流が他の活動より12%と最も少なく、逆に幼老の2者による交流が29%と4つの活動の中で最も割合が高いことが明らかとなった。遊具があることに加え、公園内は見通しが良く車などからの安全が確保されていることなどから、スタッフは見守り役を果たしていることが伺える。
・高齢者の果たす役割と幼児への効果
本節では幼老の交流に関する詳細のやり取りから高齢者の果たす役割と幼児への効果について、各活動での事例をもとに考察する。
①見守り→
普段は保育士が行っている見守り行動を、高齢者も同じように果たすことが可能であることがわかる。さらに上記の散歩の場面で「アメンボだ!」とそれに注目する言葉掛けを行うなど、動植物に目を向ける促しをスタッフは行うことが多い。その際、高齢者は危険がないか目を配るなど、スタッフの手助けの役割を果たしていることも伺えた。
②教える・褒める→学習効果・褒められることで自信を得る
このように当初はスタッフが指導を行っていたもの の、栽培活動がはじまると高齢者は自身が持つ豊富な知恵や知識を幼児に教える役割を果たすことができることがわかった。また野菜を自分で植えた幼児に高齢者が「上手だね」と褒める場面もあり、幼児にとっては学習効果だけでなく褒められることで自信を得るといった利点もあると言えるだろう。
公園遊び …屋内に比べて屋外の交流の種類が多い・公園内は見通しがいいこと・車などからの安全が確保されていることから
→スタッフは高齢者と幼児から少し離れた場所で見守ることができ、両者の自発的な「遊びを通じた交流」が生み出される
・立松麻衣子 2008 「高齢者の役割作りとインタージェネレーションケアを行うための施設側の方策 : 高齢者と地域の相互関係の構築に関する研究」,日本家政学会誌 59(7) , 日本家政学会
高齢者にとっては、生活の中に「役割」を見出し、自分は必要とされていると感じることが生きがいにつながる。さらに高齢者は要介護状態になっても、生活の場を自宅から施設へ 移したとしても「役割」を見出し、生きがいを感じながら生活することが非常に重要。
外山は、地域で暮らしていた高齢者が生活の場を施設に移した時には様々な落差があり、そのなかでも最大の落差が「役割の喪失」であると指摘しており、施設高齢者が社会的な役割を持つことは難しいといえる。外山は、施設高齢者が遭遇する様々な落差に対して 施設計画からその解決策を探ってきた。施設におけるユニットケアやprivate ・semi − private ・ semi − public ・public の空間概念、グループホーム等がその例である。一方で、施設高齢者の「役割の喪失」を解決するためのソフト面の取り組みの一つとして世代間交流がある。これは、特に子どもとの交流を取り入れることによって、施設高齢者に自分の「役割」を子どもたちとの間で見出してもらおうとする取り組みである。
野村は、高齢期に新たな生きがいの源泉・対象を見出すことで、高齢者は生きがいを再獲得できる力をもつことができるとしている。したがって、世代間交流を高齢者ケアにいかす取り組みでは、身体障がいや認知症状が重度であっても、異世代間の関わりの楽しさが生きている実感や人とつながることへの関心、さらに高齢者の持っている力を引き出し、自分を必要としてくれる子どもたちの存在が「役割」感や生きがいになると捉えることができる。
要介護高齢者と子どもの世代間交流をケアにいかす取り組みは、幼老統合ケアや共生ケア等、様々な名称で呼ばれているが、本論では「インタージェネレーションケア」と称することとする。また、「役割」は社会参加を通して見出すことができる側面があることを考えると、施設高齢者が「役割」を見出し生きがいを感じる生活を送るためには、社会参加への支援も重要となる。そこで本研究では 、個人レベルでは困難な世代間交流を社会レベルで実現している例として、高齢者施設と子ども施設が合築または併設している幼老複合・併設施設における世代間交流に着目する。
幼老複合施設における世代間交流については、北村が、交流を促すためにはソフト面でのしかけが重要であることを述べ、さらに交流促進のために職員の負担が重くなっている問題を指摘している。北村は、高齢者デイサービス施設と保育所の幼老複合施設に焦点を絞り、世代間交流の実態も把握している。そして幼老施設の複合化という施設整備の方向性への課題として、職員への研修制度の必要性、高齢者の自立度が低下した場合の交流メニューの対応、幼老ケア関係者のネットワーク作り、を挙げている。
★複数の複合施設を調査→分析↓
①サービス形態
高齢者通所系サービスは日によって高齢者が入れ替わるため、高齢者と子どもの関係性の構築には長い時間を要する。一方、居住系サービスを利用している高齢者は、施設の滞在時間に制限がないので、就学前児童・就学児童 ともに交流を行いやすく、放課後の学童保育時間でも 交流が可能である。 実際に居住系施設と学童保育が合築している例では、学童保育に訪れた子どもに対して 「おかえり」 と言い、子どもが「ただいま」 と返すような、お互いが自分の居場所とそこにいるべきメンバーを認識している会話がかわされていた。
②交流内容
高齢者と子どもの関係性が構築されやすく、 双方に効果的な交流は、日常的な生活交流が良いと考えられる。片方の姿を観察するだけの間接交流や行事交流、定期交流よりも、日常生活のなかでの自然な関わりがお互いの存在を認め合い、気づかい合い、一緒にいることに違和感のない関係性を構築させていく。また、その交流では、すべての時間・行動を共有するのではなく、生活の一部分をともにすることによって、 高齢者と子どもの良好で持続的な関係性が構築される。
③施設空間
幼老複合・併設施設では、 併設よりも合築の方が日常生活交流を行いやすく、合築のなかでも小規模施設にみられる一体型は、高齢者と子どもが行き来しやすく、自然な交流が促される。日常生活のなかでの自然な交流を行っている施設は、生活感の創出を意識している小規模施設で高齢者の役割を重要視している施設に多い。さらに、子どもが高齢者の居場所に移動することによって、生活の一部をともにする交流が行えているケースが多いが 交流に参加したくない高齢者に対して配慮する必要がある。高齢者リビ ング等を交流場所とする場合、居住系施設では居室が逃げ場になるが、居室を持たないデイでは高齢者が交 流を回避できる場所を作る必要がある。高齢者と子どもの持続性のある関係を構築するためには、交流場所とは別のそれぞれの居場所、または交流を回避できる逃げ場所を作る必要がある。
④交流メンバー
高齢者より子どもの人数が多い交流では 子どものための活動内容が主流になり、その交流場面では高齢者は招待客の状態になってしまうことが多い。そのため、世代間交流のなかでも高齢者の持っている力を引き出して、役割作りや心身のケ アにつなげるインタージェネレーションケアに限定すると、交流の人数は子どもが少ない方が良い。また、インタージェネレーションケアでは高齢者が主導者、または双方が対等な関係であることが望ましい。 認知症高齢者のその人らしい生活の実現を可能にする定員設定がされている GH を参考にすると、インタージェネレーションケアも高齢者と子どもを合わせて 10 名前後が適当ではないだろうか。また、 交流メンバーの顔ぶれは固定化されている方が良 い。交流集団が小規模で固定化したメンバーは、交流を重ねるごとに持続的な関係性を構築することができる。
⑤ 施設側の配慮
施設側は子どもと過ごすことが苦手な高齢者に配慮する必要がある。これへの対応としては, 交流のための専用ルームを設けるなど 高齢者と子どもの交流場所に気を遣うことが必要である。また施設側は、高齢者や子どもの心身状態にも配慮する必要がある。様々な心身状況の高齢者・子どもを参加させるためには、交流場面においてスタッフのケアや見守りが必要であり、ケア・見守りのできる人数規模・空間規模への配慮も必要になってくる。さらに、年々自立度が低下していく高齢者に対して交流内容を対応させる必要がある。高齢者と子どもの交流が浅い段階では、スタッフは高齢者と子どもの仲介役としての重要な役割を果たす。スタッフは子どもへの声かけをして交流しやすい雰囲気を作るなど交流を促す配慮が必要である。またスタッフは、高齢者と子どもの交流のきっかけ・しかけを作る必要がある。例えば、昔の生活道 具や昔遊びの道具を用いて双方に興味を抱かせたり一緒に調理や工作、学習をする機会や食事や掃除、散歩をする機会を設けたりする など 生活の中の日常的なことがきっかけ・しかけになる。
まとめ
「インタージェネレーションケア」 では、高齢者と子どもの関係性が重要である。
・高齢者と子どもの小規模で固定化したメンバーの日常生活における関わりが、 自然な関係性やお互いを理解して思いやるような関係性、さらに持続的な関係性を構築させていく。
・また、施設において持続的な関係性を構築させるためには、交流場所とは別に高齢者と子どものそれぞれに居場所があり、交流を回避できる逃げ場がある方が良い。
高齢者と子どもの関係性が構築されるような交流によって、高齢者は子どもを受け入れ、関わりのなかで自らの持っている力が引き出され 「役割」 を持つことができる。さらに生きがい感や自信を抱くこと、心身のケアにつながる。子どもは高齢者を理解し、受け入れ、さらに尊敬の心や思いやりの心が育まれる。このような世代間交流が、高齢者・子どもの両者にとって有効な双方向のケアになる 「インタージェネレーションケア」 であると考える.
・土永 典明 , 岡崎 利治 ,2005-03,「世代間交流に関する調査研究--高齢者福祉関係施設を併設している保育所の側面から」,九州保健福祉大学研究紀要 (6), 27-34, 九州保健福祉大学 機関リポジトリ
併設している施設
高齢者福祉関係施設 51.4% このうち(デイサービスセンター88.9%、特別養護老人ホーム55.6%)
保育所以外の児童福祉関係施設 28.6%
交流の内容
高齢者を保育所の行事に招待して交流する 72.2% 相手先の行事等に訪問して交流する 72.2%
双方が日常的に接触して交流する 33.3%
交流活動の場所
保育所 77.8% 老人ホーム、デイサービスセンター 55.6%
交流活動を推進していく上での問題点
職員間の理解・協力、担当職員の負担、活動費、担当職員の教育・訓練など
交流活動を実施する上での協力期間・団体
「自治会・町内会・老人クラブ・婦人会等」「行政機関(福祉課・福祉事務所)」
協力内容
「企画についての相談・助言」「実施過程における相談・助言」「連絡調整」など
交流実施による変化
年輩者への尊敬
しつけや礼儀をわきまえる
家事などの生活技術を身につける×
ものを大切にする×
世代の考え方や文化を学ぶ
甘やかされてわがままになる×
社会福祉(弱者へのいたわり、思いやり)への関心
高齢者への関心・理解が深まる
まとめ
今後、この世代間交流が本調査研究の結果にみられたような一部の保育所での一過性のイベント的なあるいは補助金目的のようなものではなく、いわば自然体の日常的な活動として行われる必要があろう。
・徳田多佳子,請川滋大,2020,「保育における幼児と高齢者の世代間交流 -幼稚園の保護者・保育者に対する調査から- 」, 日本女子大学大学院紀要.家政学研究科・人間生活学研究科 (26), 149-157, 日本女子大学
考察
・世代間交流についての保護者の認識回答の記述をしていたほとんどの保護者から,【良 い取り組み】としての評価が上げられた。良い面としては,〈新しい知識の獲得〉にまとまる子どもの学びや視野の広がりと,〈子どもの精神面での発達に良い経験〉にまとまる情緒面を含む精神面での発達が 述べられており,それらはそれぞれ知育と徳育として有効な取り組みとして認識されていたことが考られる。内容については「昔遊び」,「折り紙」とい った伝統的な遊びを体験できることを多くの保護者があげており,文化や伝統の維持に関する世代間交 流の役割を認知しているものと考えられた。また世代間交流に期待する内容については,相手に対する 優しさや思いやり,敬う心の育成など,徳育の側面 が期待されていることが明らかになった。
・保育者は世代間交流について【感情】,【体験】,【知識】に関して評価しており,特に高齢者への思いやりや優しさ,いたわりの気持ち等,徳育に関して世代間交流の意義を認めていることが明らかになった。 また世代間交流に期待する内容については,過半数が〈スキンシップ〉や〈おしゃべり〉などのふれあいを通した【楽しい時間】と答え,保護者の期待とは若干の乖離が見られたことが特徴的であった。一方で,時間的な【保育への影響】や,高齢者に対する礼儀や接し方など【交流することでの心配】,子ど もの【心理的な負担】を危惧する声があったものの, 視点を変えればこれは交流を考える際に留意すべき点として考えられ,十分な事前の準備や対策が必要なことを示唆している。交流の準備について道具や題材を答える保育者がほとんどであったが,本質的な準備や対策についても留意することが重要と考えられる。
・渡辺優子,2004-05 「幼児と高齢者の世代間交流の現状と問題点」,新潟青陵大学短期大学部研究報告 (34), 15-24, 新潟青陵大学短期大
5、併設施設での世代間交流
少子高齢化時代の地域福祉の課題として、高齢者と幼児・児童の世代間交流を地域の生活の中で進めるため、又、施設運営上の理由(子どもが減った施設を建て替え、高齢者施設と併設する。土地が高いので高齢者施設と児童施設を併設する。)等で児童施設と高齢者施設の併設が進められている。 国際長寿センターのアンケート調査[「老人と子ども」統合ケアに関する自治体の取り組み状況調査] 1 9 9 8年(平成9年)では、全国の自治体1 , 0 0 0へ調査を行い、3 7%から回答を得た。 調査の結果より、特に保育園・幼稚園と高齢者施設の併設状況、併設施設での世代間交流にポイン トを絞って見て行きたい。
①回答のあった市区町村で施設の合併があるものは2 1 . 9%、合併がないものは7 8 . 1%であった。
②併設されている児童施設 保育園(7 2)、幼稚園(7)、学童保育所(5)、児童館(3 2)、乳児院・養護施設(3)心 身障害児施設(3)、その他(1 3)、不明(1)
③合併施設全体での交流については、日常的、定期的な交流有りが7 9 . 7%、交流はないが1 8 . 1%、 2 . 2%は無回答であった。
④ 保育園・幼稚園と施設の併設 7 9施設
内訳 保育園・幼稚園と養護老人ホーム・特別養護老人ホーム→2 3施設
保育園・幼稚園とデイサービスセンター →2 9施設
保育園・幼稚園と高齢者福祉センター →2 1施設
保育園と老人保健センター・デイケアセンター →1施設 保育園と高齢者用住宅 →1施設
保育園とその他→3施設 保育園と施設不明→1施設
⑤保育園・幼稚園と併設施設の交流内容
*行事での交流
誕生会(毎月1回)、七夕、夏祭り、盆踊り、遊戯会、芋掘り、運動会、敬老会、勤労感謝の日、 クリスマス会、もちつき、子どもの日、ふれあい祭り、節分、ひな祭り、三世代レクリエーショ ン大会、観桜会、菊見会、音楽会、発表会、年末子ども会、作品展、三世代作品展、合同作品展、 シルバーセンター祭りに参加、クロッケー交流会、お茶席交流会、遠足、旅行、バザー、移動動 物園、合同震災訓練、観劇
*その他の交流
・伝承遊びを一緒に楽しむ ・伝承遊び、お手玉作り ・高齢者が紙芝居や和楽器演奏、遊び、フォークダンスをする。 ・空き缶拾い、さつまいも作り、笹まき作りを一緒にする。 ・ 毎週決まった曜日に、高齢者、ボランティア、障害者も一緒に手話・手遊び、劇などで交流 する。 ・ 不定期にリトミックをする。 ・ 毎月1回園児が合奏をする。 ・ 週1回遊戯具で遊ぶ。 ・ 毎月1回交流会
*日常的な交流
・ 日常的に遊びに行く。・ 園児が朝の挨拶に行く。・ 散歩の際に訪れる。 ・ 園児が毎日ローテーションを組んで訪問。 ・ 昼食を同じ食堂で取る。 ・ 定期的に訪問し、園児と高齢者がペアを組んで過ごす。 ・ 昼食後園児が車椅子を居室まで押す。 ・ 週1回園児がデイサービスに行きゲームなどをする。 ・ 施設の日常訓練に園児が参加する。 風船バレー、ダンス、リース作り、ちぎり絵、遊戯 ・ 共同制作をする。 こいのぼり、ミニねぶた、交通安全マスコット ・ 毎日園児が施設を訪れ、ゲームなどをする。
*交流をしない施設とその理由
特別養護老人ホームと保育園の併設施設 風邪などの病気がうつる。敬老の日、勤労感謝の日は子どもが作品を渡す。
→併設施設での交流はそうでない場合と比べて、交流行事の回数が多く、行事を合同で行っている場合も多く見られる。又、日常的な交流も多く、生活の中での体験を通した幼児の成長という意味で効果的であり、施設の高齢者からも好評であった。併設施設全体の評価で、交流がある場合には、「高齢者に好評」は90%になっている。
世代間交流について先行事例を見てきた。幼児と高齢者の世代間交流は保育園などで取り組まれ、 地域の実態や園の独自性も発揮し、多様な行事が組まれている。ただ、行事はともする片方からの一 方的な関わりになることも考えられる。双方が交流できる方法を工夫をして行かなければならない。
又、現在保育園や幼稚園の行事には、保護者のみならず、 母方、父方の祖父母も多く参加している。家族形態の変化から、三世代同居世帯が減少している現在 (2 0 0 2年厚生労働省国民生活基礎調査では、単独世帯2 3 . 5%、核家族世帯6 0 . 2%、三世代世帯1 0 . 0%、そ の他6 . 3%)、核家族で育つ多くの幼児にとって、又、普段孫に合う機会の少ない祖父母にとって、園の行事は互いの交流の良いきっかけになっている。しかし、祖父母の関心が自分の孫にのみ注がれているのでは交流の目的は果たせないのではないだろうか。祖父母が孫を通して子ども達の育ちに関心を持ち、行事に参加した祖父母世代間で交流を持つことや、孫の方も自分の祖父母以外にもいろいろな高齢者がいることに気付くことも大切ではないかと思われる。
「子どもにとっての祖父母の意味」調査(深谷昌志 小学校5年生への調査1 9 9 1)によれば好きな祖父母は
①母方の祖父母>父方の祖父母 ②別居>同居 ③祖母>祖父であった。同居より別居の 方が好かれている。しかし、祖父母の生活を良く知っているのは祖父母と同居している子ども達であ り、「両親が寝たきりになったらどうするか」の質問には、同居の子ども達(6 4 . 5%)、別居の子ども達 (5 4 . 8%)で、同居の子ども達の方が「同居して面倒をみる」という回答が多かった。又、「近くのお年 寄りと話す」のも同居(3 3 . 3%)、別居(2 7 . 5%)で同居の方が多かった。 祖父母と別居している子ども達は、祖父母に対して良いイメー ジを持っているが、祖父母の実態はよく分かっていないし、面倒を看ることについても、イメージが 少ないということである。
三世代同居が減るのは時代の趨勢であるので、祖父母と別居の子ども達の良いイメージを大切にして、なおかつ多様な高齢者とのふれあいの場を幼い頃から作って行くことが 大切ではないだろうか。園の祖父母対象行事でもそのような観点で内容を考えることが必要となって 来る。 地域の高齢者との交流も地域の特色、高齢者の特長、地域のニーズなどを生かしたものが望まれる。
山崎高哉は、高齢者教育について、三つの類型に分類している。
①高齢者のための教育―高齢者を 教育の対象として、彼らの学習ニーズにこたえようとするもの
②高齢者についての教育―高齢者を教材として若年者に高齢者理解を促進しようとするもの
③高齢者による教育―高齢者が若年者との 交流において教育者的役割を果たし、長い人生のなかで培った豊かな経験と英知を若い世代に伝承するとともに、「生きがい」を持って社会活動に積極的に参加できるようにしようとするもの
→このなか の②と③が世代間交流に関係してくるものとしている。その中で「②高齢者についての教育―高齢者 を教材とする」については幅広い解釈ができるのではないだろうか。たとえば、高齢者が子ども達になんらかの自己表現活動(会話、仕事、遊びなど)をして見せること、子ども達が高齢者の世話などをすること、高齢者と子ども達が一緒に何かをやること、挨拶などの日常的な関わり、又、特別にな にもしないでも一緒にいることを通して見えてくるものもある。この「教育」は相互的な作用を持ったものである。現在の保育園の世代間交流活動では「③高齢者による教育としての世代間交流活動」 や「高齢者と子どもが一緒になにかをやること」は多く取り上げられている。しかしその他の試みは 多くはない。特に幼児と高齢者間の交流においては、「特別になにもしないでも一緒にいること」を通し互いに影響しあうものがあるのではないだろうか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
未整理論文
・金谷 知恵 , 細谷 まり , 中野 明 , 2006-07-31 ,「幼老複合施設における相互交流の分類と特性 : 幼老複合施設における建築計画に関する研究 : その1(異世代交流, 建築計画I)」 ,学術講演梗概集. E-1, 建築計画I, 各種建物・地域施設, 設計方法, 構法計画, 人間工学, 計画基礎 (2006), 151-152, 日本建築会学会
・桃季恵 , 2017-03 ,「幼児と高齢者の交流活動に関する研究(1)A幼老複合施設での歌を用いた事例から 」,金沢星稜大学人間科学研究 = Kanazawa Seiryo University human sciences 10(2), 55-60, 金沢星稜大学人間科学会
世代間交流 多い活動形態 幼児たちの歌や遊戯を高齢者が鑑賞する形態
多くの交流活動は、イベント的な行事でありあまり触れ合いをもたない幼児からの一方向的な披露型交流である。
世代間交流は、日常生活の中での自然なかかわりが良いとされている。歌の披露交流活動でも自然な相互作用は生じるのではないか。
【調査方法】敬老会での交流活動をビデオカメラで記録。その後、敬老会を振り返る質問紙調査を実施。
【結果】歌を披露される高齢者は受け身の状態でその場にいるだけでなく、幼児の歌を盛り上げるために手拍子や歌を歌うなど
能動的に関わっていた。手合わせによる交流活動は、前後に高齢者が幼児の頭をなでたり、手を握ったり、呼び掛けたりなど
積極的に関わっていた。しかし、幼児は表情が硬くなり戸惑い積極的に高齢者と関われなかった様子であった。
歌を用いての交流活動は幅広い対象高齢者に可能。共に活動できる環境が必要。場合によっては、スタッフの介助が効果的に働く。
〇隼田 尚彦 , 福田 奈々 , 2014-11,「 世代間交流拠点としての幼老複合施設の可能性と施設運営の在り方 -社会福祉法人兼光円による昭和の路地裏策」,日本建築学会計画系論文集 (705), 2395, 日本建築学会
高齢者福祉に対する子どもの感性を育むコミュニティ
・研究方法 インターネット検索、施設運営者・卒業者にヒアリング、施設内共有スペースにて観察
・結果 交流イベントや生活場面で高齢者の言動や老い、死を知る機会がある。住民にとってのボランティア活動拠点になっている。子どもたちが様々な大人と 関わることができるケアコミュニティ環境である。狭い空間では子どもの自由な活動を許容できない場面もあり。
・細谷 まり , 金谷 知恵 , 中野 明 , 2006-07-31,「相互交流からみた保育園と特別養護老人ホームの複合化 : 幼老複合施設の建築計画に関する研究 : その2(異世代交流, 建築計画I) 」,学術講演梗概集. E-1, 建築計画I, 各種建物・地域施設, 設計方法, 構法計画, 人間工学, 計画基礎 (2006), 153-154, 日本建築会学会
・村山 陽 , 竹内 瑠美 , 山口 淳 , 山上 徹也 , 金田 利子 , 多湖 光宗 , 藤原 佳典 , 2017,「幼老複合施設における世代間交流の可能性と課題 (特集 世代間の葛藤と多世代共生) 」,老年社会科学 38(4), 427-436, 日本老年社会科学会 ; 1979-
・上村 眞生 、岡花 祈一郎 、若林 紀乃 、松井 剛太 、七木田 敦世代間交流が幼児・高齢者に及ぼす影響に関する実証的研究幼年教育研究年報 幼年教育研究年報 29, 65-71, 2007 広島大学大学院教育学研究科附属幼年教育研究施設
・多胡光宗,「幼老統合ケアの理論と実践 : 「高齢者福祉」と「子育て」をつなぐケアの実践と相乗効果」,生活科学研究誌 生活科学研究誌 (8), 1-14, 2010-03
幼老統合ケア 多胡光宗 幼老統合ケア研究会
・世代間交流施設の挑戦 あっぷる出版社
・介護施設や園ですぐできる子どもと高齢者ふれあいのコツ 早稲田大学教育学部本田研究室、学研ココファングループ 学研